2020 Volume 40 Issue 2 Pages 53-64
本研究では,ある選択がその後の選択に及ぼす影響の調整要因について議論した。逐次選択は,複数の選択間における選択行動であるが,既存研究では調整要因として消費者特性などが主に議論されており,各選択の関係については十分な議論がなされてこなかった。そのため,本研究は調整要因として各選択の関連性に着目し,消費者特性である健康意識との交互作用を考慮しながらその働きについて分析した。その結果,健康意識が高い消費者は,健康状態の維持に関する目標と美味しいものを食すことで快楽を得るといった目標の間でコンフリクト状態にあることが想定でき,事前選択でどちらか一方の目標を進展させると,その後の選択では進展がなされていないもう一方の目標に対応した選択を行う傾向が示された。そして,この傾向は各選択の関連性が高い場合に生じる点も確認された。これらは逐次選択の影響が生じる条件に関する新たな知見であると言える。
The current research focuses on the relevance of each choice as a factor that moderates the influence of prior choices on subsequent choices, and discusses the interaction between this relevance and a consumer characteristic, health awareness.
消費者は,複数の選択を逐次的に行うことがよくある。例えば,食品スーパーでの買物場面を思い浮かべてみると,消費者は店内を歩きながら,複数の異なる製品カテゴリーについて逐次的に選択を行っている。また,レストランなどの飲食店においても,異なる料理や飲物について逐次的に選択を行うことは珍しいことではない。つまり,異なる選択を逐次的に行うこと(逐次選択)は,日常的に行われる消費者行動の一つである。
逐次選択に関する既存研究では,事前の選択がその後の選択に及ぼす影響(逐次選択の影響)が確認されており(Dhar & Simonson, 1999),ある一つの選択に焦点を絞った議論だけではなく,逐次的に行われる複数の選択をまとめて議論することは重要であると言える。そのため,今日においては,逐次選択に関する研究は活発に行われており(e.g., Dholakia, Gopinath, & Bagozzi, 2005; Mukhopadhyay & Johar, 2009),逐次選択の影響が生じるメカニズムや調整要因の解明などが進められている。
本研究は,逐次選択研究に位置づけられ,その中でも,逐次選択の影響の新たな調整要因の提示を目的とする。具体的には,事前選択とその後の選択の関連性に着目し,関連性が高い場合と低い場合では,逐次選択の影響が異なる点について検討する。
その際には,消費者特性の一つとして健康意識についても議論し,逐次選択の影響における各選択の関連性と健康意識の交互作用を明らかにする。逐次選択の研究では,食品選択を想定した実験・調査が多く行われているにも関わらず,食品選択と深く関わっている健康意識(Chandon & Wansink, 2007; Moorman & Matulich, 1993)に着目した分析は十分ではない。そのため,本研究では,既存研究で示された逐次選択の影響を健康意識が調整する点を明らかにする。
逐次選択の影響とは,ある選択がその後の選択に及ぼす影響のことであり(Dholakia et al., 2005),この影響のメカニズムや調整要因について活発に研究が行われている。その際,消費者の目標に着目した議論が主に行われており(Sunaga, 2013),特に,複数のコンフリクトする目標の存在を前提とした研究が多く,その先駆的な研究の一つとしてDhar and Simonson(1999)がある。
彼らの研究では,複数のコンフリクトする目標として,快楽の追求と資源の維持・節約の2つに着目し,逐次的に行われる2つの選択の結果について実験を行っている。その結果,各選択において提示される選択肢の類似性が高い場合には(食前の「タバコ」と食後の「タバコ」),各選択はそれぞれに異なる目標に従う傾向があり(食前のタバコは高(低)価格,食後のタバコは低(高)価格),類似性が低い場合には(観戦「座席」と観戦中に飲む「ビール」),各選択はどちらか一方だけの目標に従う傾向(高(低)価格な座席,高(低)価格なビール)を示している。
彼らの研究の貢献は,逐次選択の影響を示した点,選択肢の類似性の高低によってその影響が異なることを示した点,そして,複数のコンフリクトする目標の存在を考慮しながら逐次選択の心理メカニズムについて議論した点である。
Fishbach and Dhar(2005)では,事前選択とその後の選択の2つの選択を想定した場合,事前選択における目標の進展程度に対する知覚によって,その後の選択の結果が異なる点を示している。具体的には,事前選択において,ある目標が十分に進展したと知覚した場合には,その後の選択では,当該目標とは異なる目標に従う選択を行い(バランス傾向),一方で,ある目標の進展が十分でないと知覚した場合には,その後の選択においても当該目標に従った選択が行われる点(強化傾向)が指摘されている(Huber, Goldsmith, & Mogilner, 2008)。その後,多くの研究において彼女らが示した心理メカニズムと整合する分析結果が報告されている(e.g., May & Irmak, 2014)。
逐次選択に関する研究においてコンフリクトする目標の内容は,基本的には,自己制御に関する目標とそれに反する目標が想定されている。例えば,自己制御に関する目標として,体重維持(e.g., Fishbach & Dhar, 2005; Lee, Weaver, & Garcia, 2016),健康維持・向上(e.g., Akamatsu & Fukuda, 2018; Finkelstein & Fishbach, 2013; Laran, 2010a),資源維持(e.g., Dhar & Simonson, 1999),衝動購買や消費の抑制(e.g., Mukhopadhyay & Johar, 2009)などが挙げられる。一方,自己制御に関する目標とコンフリクトする目標とは,自己制御をせずに生じる行動によって得られる状態のことであり,その多くは,快楽的な商品や高価格な商品を選択,消費することで得られる状態などが想定されている。
2. 逐次選択の影響の調整要因と本研究の課題逐次選択の影響の調整要因に関する分析には,消費者特性や選択時における消費者の意識に着目した分析が主に行われている。
消費者特性,例えば,体重維持に対する意識に着目した研究では,体重維持の意識が高い消費者の方が,低い消費者よりも,逐次的な2つの選択において自己制御に対応した選択肢(健康的な食品)と自己制御に反する選択肢(快楽的な食品)をバランスよく選択する傾向が確認されている(Lee et al., 2016)。この結果は,体重維持に対する意識が高い消費者の場合には,自己制御に関する目標とそうでない目標との間にコンフリクトが生じたため,一方の目標に従う選択を行った後,もう一方の目標に従う選択を行っている点を裏付けるものである。このことから,体重維持の意識といった消費者特性が,逐次選択の影響を調整している点が理解できる(Finkelstein & Fishbach, 2013)。
衝動性の高低に着目したMukhopadhyay, Sengupta, and Ramanathan(2008)では,衝動性が高い消費者は,以前の選択で衝動購買を行った経験よりも,それを抑制した経験を思い出すことで,現在の選択において衝動購買が促進される点を確認している。さらに,衝動購買については,一般的な事柄に対する感度の違いによっても,逐次選択の影響が調整されている点が確認されている(Dholakia et al., 2005)。具体的には,日常生活における自身の行動の結果に関して,良い結果に対する感度がより高い消費者と,悪い結果に対する感度がより高い消費者では,後者の方が,事前選択において衝動購買が生じた場合には,その後の選択では衝動購買をより抑制することが示されている。
実験手続きやシナリオによって,選択時における消費者の意識を操作することで,逐次選択の影響の違いを確かめている研究もある。例えば,アンケート調査において逐次的な2つの選択課題を与える際,目標の階層性を考慮し,より抽象的な目標を意識させた場合とそうでない場合では,前者の方が後者よりも,事前選択とその後の選択の両方において同一の抽象的な目標に従った選択を行う傾向が確認されている(Fishbach, Dhar, & Zhang, 2006)。また,事前選択の結果を顕在化させた場合とそうでない場合では,その後の選択の結果が異なる点が確認されている(Mukhopadhyay & Johar, 2009)。
その他にも,近い将来の選択なのか遠い将来の選択なのかといった時間的距離に着目した分析(Laran, 2010a),自分自身に対する選択なのか他者に対する選択なのかといった消費・使用する人に着目した分析(Laran, 2010b)も行われている。
このように,消費者特性や選択時の消費者意識に着目した分析が主に行われていることがわかる。一方で,逐次選択は,事前選択とその後の選択といった複数の選択間における消費者行動であるにも関わらず,各選択の関係については十分な議論がなされていない。その中でも,Dhar and Simonson(1999)では,前項で記述した通り,各選択の関係について,消費場面(消費エピソード)が同じ場合を主に想定した上で,選択肢の類似性の程度によって逐次選択の影響が異なる点を確認している。
この点とは別に,我々の研究では,選択間の関係を捉える視点として各選択の関連性に言及する。その理由は,選択肢の類似性の程度が同じ場合でも,各選択の関連性が高い場合(例:観戦「座席」と観戦中に飲む「ビール」)の方が,低い場合(例:観戦「座席」と帰宅後に飲む「ビール」)よりも,各選択に関わりがある分だけ事前選択の結果をより考慮しながらその後の選択が行われる傾向があると考えられるためである。つまり,選択肢の類似性の程度が同じ場合でも,各選択の関連性の程度が異なれば,逐次選択の影響も異なると考えられる。
以上のことから,本研究では,事前選択とその後の選択の関連性に着目し,既存研究で確認されてきた逐次選択の影響が,関連性の高低によって調整される点を明らかにする。これにより,逐次選択の影響が生じる新たな条件を特定することができるだろう。
また,各選択の関連性に加え,本研究では,逐次選択の影響の調整要因として消費者特性の一つである健康意識についても検討する。逐次選択研究では,食品選択を想定した研究が多くなされているにも関わらず,その選択と深く関わっている健康意識(Chandon & Wansink, 2007; Moorman & Matulich, 1993)について十分に議論できていない。そのため,本研究では,既存研究で示されている逐次選択の影響が,健康意識によって調整される点を明らかにする。
ここでは,食品選択場面を想定した上で逐次選択の影響の調整要因として,消費者特性である健康意識(H1),事前選択とその後の選択の関連性(H2)に着目して仮説を設定する。
1. 消費者特性の検討:健康意識健康状態の維持や向上に関して高い関心を持つ消費者,すなわち,健康意識が高い消費者は,そうでない消費者よりも,食品の選択場面においてカロリーや添加物といった健康に関わる項目に着目する点が示されている(Moorman & Matulich, 1993)。この場合,彼らは健康状態の維持や向上といった健康に関する目標(以下,健康目標)を活性化させていると考えられる。
また,彼らは健康目標といった自己制御に関する目標だけを活性化させているわけではなく,消費者は基本的には快楽的な消費にヨリ動機づけられることが想定できるため(Okada, 2005),逐次選択に関する既存研究でも指摘されているように,彼らは自己制御に関する目標とコンフリクトする目標を同時に有していると考えられる(e.g., Fishbach & Dhar, 2005; Laran & Janiszewski, 2009)。そのため,本研究では,健康目標とコンフリクトする目標として健康状態の維持や向上に寄与しない美味しさを追求した選択肢によって達成できる目標(以下,快楽目標)を想定する。そして,健康目標に対応する選択肢として低カロリーや低糖質の選択肢(以下,健康型製品),快楽目標に対応する選択肢として低カロリーや低糖質ではないがより美味しい選択肢(以下,快楽型製品)を設定する。
健康意識が高い消費者,つまり,健康目標と快楽目標の間でコンフリクト状態にある場合,事前選択として健康型製品を選択した場合には,健康目標が進展するため,その後の選択では,コンフリクトしているもう一方の目標(快楽目標)に対応した快楽型製品を選択することが推測できる(Fishbach & Dhar, 2005)。ここで重要な点は,健康意識が高い消費者であっても,事前選択において健康目標が進展する場合には,その後の選択では快楽目標に従った選択を行う傾向が推測できる点であり(Lee et al., 2016),このことから,逐次的に行われる複数の選択を包括的に議論することの意義を指摘することができる。一方,事前選択として快楽型製品を選択した場合には,この時点では彼らの健康目標は進展していないので,その後の選択では健康型製品を選択すると考えられる(Finkelstein & Fishbach, 2013)。
以上のことから,健康意識が高い消費者は,健康目標と快楽目標の間でコンフリクト状態にあるため,事前選択においてどちらか一方の目標に従う選択を行った場合,もう一方の目標はまだ進展がなされていないので,その後の選択では,もう一方の目標に従う選択を行うことが推測できる。即ち,
H1 複数の目標間でコンフリクト状態にある場合,事前選択において特定の目標に従う選択が行われた場合には,その後の選択では,進展がなされていないもう一方の目標に従う選択を行う
が設定できる。
他方,健康意識が低い消費者は,健康目標に対する動機づけが弱く,健康目標と快楽目標の間でコンフリクト状態にあるとは考えにくい。つまり,食品選択場面ではこの2つの目標のうち快楽目標のみが活性化しているため,事前選択において快楽型製品を選択した場合でも,その後の選択においても快楽型製品を選択することが推測できる。一方,マーケティング刺激などによって,事前選択において健康型製品を選択した場合には,快楽目標が進展していないため,その後の選択では快楽型製品を選択する傾向があると考えられる(Fishbach & Dhar, 2005)。つまり,健康意識が低く,健康目標と快楽目標の間でコンフリクト状態にない消費者の場合は,事前選択の結果によってその後の選択の結果に差は生じないと考えられる。
2. 各選択の関連性の検討:消費場面の同異逐次選択の影響の調整要因として各選択の関連性に着目し,健康意識との交互作用を考慮しながら,その働きについて検討する。その際,各選択の関連性については,各選択の消費場面に着目して捉えることとする(図1)。具体的には,消費場面が同じ場合には関連性は高く(例:事前選択とその後の選択,共に「晩御飯」),異なる場合には関連性が低いと判断する(例:事前選択は「晩御飯」,その後の選択は「夜食」)。消費者の選択の結果やそのプロセスは,選択する製品やサービスの消費・使用場面,状況によって影響を受ける点が確認されているため(Ratneshwar, Pechmann, & Shocker, 1996; Srivastava, Alpert, & Shocker, 1984),消費場面の同異によって,各選択の関連性の程度は異なると考えられる。尚,ここで設定する仮説は,議論を単純化するため,事前選択として快楽型製品を想定する。
事前選択とその後の選択の関連性(仮説2)
事前選択とその後の選択の消費場面が同じ場合(関連性が高い場合)は,消費場面が異なる場合よりも,事前選択の結果をより考慮しながらその後の選択を行うと考えられる(Dhar & Simonson, 1999)。しかしながら,H1の設定の際にも議論した通り,事前選択の結果によって,その後の選択の結果に差が生じるのは,複数の目標間でコンフリクト状態にある消費者,つまり,本研究では健康意識の高い消費者の場合のみであると考えられる。
即ち,健康意識が高い消費者が,事前選択として快楽型製品を選択した場合,健康目標は進展がなされていないため,その後の選択では健康型製品を選択する傾向が推測できるが,ここで重要な点は,このような傾向は,各選択の関連性が高い場合においてより顕著であると考えられる点である。換言すると,健康意識が高い消費者であっても,各選択の関連性が低い場合には,その後の選択において,進展がなされていない目標に従う選択を行う可能性はより低くなることが考えられる。即ち,
H2 複数の目標間でコンフリクト状態にある場合,各選択の関連性が高い場合の方が,低い場合よりも,事前選択の結果を考慮し,その後の選択では,進展がなされていないもう一方の目標に従う選択を行う
が設定できる。
一方,健康意識が低い消費者は,健康目標と快楽目標の間でコンフリクト状態ではないため,事前選択において快楽型製品を選択することによって,健康目標が活性化するわけではない。そのため,各選択の関連性に関わらず,その後の選択の結果に差は生じないと考えられる。
ここでは,H1の検証を行う。実験デザインは,2(事前選択の結果:健康型製品/快楽型製品)×2(健康意識:高/低)で,各要因ともに参加者間計画である。実験はインターネット上で行い,参加者は30代から50代の男女223名であった。そのうち,分析対象として不適切であると判断した参加者を除外した結果,分析対象は201名となった1)。
まず,全ての参加者に「晩御飯を一人で食べることになり,近所の食品スーパーへ買物に出かけた」というシナリオが提示された。続いて,参加者はランダムに二分され,事前選択として健康型製品「豆腐カツ」,もしくは,快楽型製品「トンカツ」のどちらか一方を選択したことが記載された文章が与えられた。
次に,全ての参加者に対して,その後の選択場面として「食後のデザートを選ぶために,アイス売場を訪れた」というシナリオが与えられ,2つの選択肢が同時に提示された。具体的には,健康型製品「低糖質アイス」と快楽型製品「プレミアムアイス」で,それぞれの成分とイラストが記載された文章が提示された2)。その後,参加者は,シナリオ場面でのアイス購買意図とアイスを選択する際に重視する評価項目,そして,健康意識と操作確認のための各選択肢評価(健康評価,快楽評価)について回答するよう求められた。
購買意図は,Mukhopadhyay and Johar(2009, Study2, 3)を参考にし,直接比較によって測定した。具体的には,「低糖質アイス:是非買いたい(1)」「低糖質アイス:買いたい(2)」「低糖質アイス:やや買いたい(3)」「どちらとも言えない(4)」「プレミアムアイス:やや買いたい(5)」「プレミアムアイス:買いたい(6)」「プレミアムアイス:是非買いたい(7)」の7段階で測定した。
アイス選択の際に重視する評価項目は,「今日の晩御飯の食後のデザートを選択する際に,重視する評価項目についてお伺いします」とした上で,「健康面を重視する」「カロリーや糖質を重視する」を設定した。また,健康意識は,Chernev(2011),Lee et al.(2016)の体重管理に対する意識の設問項目を参考にして,「私は,健康管理に対して関心が高い」「私は,健康状態を維持・向上させたいと考えている」「自分の健康管理は自分でしなければならない」を設定した。これらの設問はすべて,「全く当てはまらない(1)」から「非常に当てはまる(7)」のリッカート尺度で測定した。
(2) 分析結果と考察まずは,事前選択とその後の選択において提示した各選択肢について,操作確認を行った。各選択肢の健康と快楽の評価項目を比較した結果,事前選択ではトンカツを快楽型製品,豆腐カツを健康型製品,そして,その後の選択ではプレミアムアイスを快楽型製品,低糖質アイスを健康型製品として設定することは適切である点が確認できた3)。また,健康意識については,上記した3項目の合算平均値を算出し(クロンバックα=.85, M=4.63, SD=1.18)4),平均値の高低によって参加者を2群に分類した(高,n: 110/低,n: 91)。
以下では,仮説検証の結果について記述する。独立変数として事前選択の結果(快楽型製品/健康型製品)と健康意識(高/低),従属変数としてその後の選択の購買意図を設定し,二元配置分散分析を実施した。その結果,主効果については,事前選択の結果は10%水準で有意となったが(F(1,197)=3.22, p<.10, pη2=.02, Power=.56),健康意識は有意な結果が示されなかった(F(1,197)=.98, p=.33)。これらの交互作用は5%水準で有意に示されたため(F(1,197)=4.02, p<.05, pη2=.02, Power=.52),単純主効果の検定を行った(図2)。
購買意図の平均値(実験1)
健康意識が高い消費者の場合,事前選択の結果によってその後の選択の購買意図に有意な差が示された(M事前:快楽=3.74,M事前:健康=4.73,F(1,197)=7.97,p<.01,pη2=.07,Power=.80)。具体的には,事前選択において健康型製品(快楽型製品)を選択した場合の方が,快楽型製品(健康型製品)を選択した場合よりも,その後の選択において快楽型製品(健康型製品)への購買意図が高い傾向が示された。このことから,H1は支持された。一方で,健康意識が低い消費者の場合は,事前選択の結果によって,その後の選択の購買意図に有意な差が示されなかった(M事前:快楽=4.52,M事前:健康=4.47,F(1,197)=.02,p=.89)。
続いて,事前選択において健康型製品を選択した場合には,健康意識の高低によってその後の選択における購買意図に差が見られなかった(M健康意識:低=4.47,M健康意識:高=4.73,F(1,197)=.52,p=.47)。この点は,健康意識が高い消費者の場合は,事前選択において健康目標に従った選択を行うことで,健康目標が進展したため,その後の選択では進展がなされていない快楽目標に対応した選択肢に対して購買意図をより抱いた結果であると理解できる。
また,事前選択が快楽型製品の場合には,健康意識が高い消費者の方が低い消費者よりも,その後の選択において健康型製品への購買意図が高い傾向が確認された(M健康意識:低=4.52,M健康意識:高=3.74,F(1,197)=4.47,p<.05,pη2=.04,Power=.81)。このことは,健康意識の高い消費者が,その後の選択では進展がなされていない健康目標に従う選択を行ったためであると解釈でき,仮説を支持する結果であると言える。
(3) 実験1の追加分析続いて,逐次選択の影響が生じる際の心理メカニズムについて分析を行い,仮説検証の結果をより具体的に考察する。
ここでは調整媒介分析を実施した。媒介変数には,(1)で記述した,その後の選択(アイス)の際に重視する評価項目,「健康面を重視する」「カロリーや糖質を重視する」の合算平均値を設定し(クロンバックα=.95, M=4.00, SD=1.52)5),その後の選択において健康に関してどの程度の意識が向けられているのかを捉えようとした。つまり,健康目標が活性化している場合には当該得点は高くなり,健康目標が活性化していない場合には低くなる。
独立変数は事前選択の結果(快楽型製品/健康型製品),従属変数はアイス購買意図,そして,調整変数は健康意識を設定した。
回帰分析の結果,媒介変数に対する独立変数(事前選択の結果)と調整変数(健康意識)の交互作用が確認されたため(β=−.11, p<.1),健康意識の高低に分けて分析を行った6)。その際,調整媒介分析においては,調整変数の±1SDで参加者を分類した上で分析することが一般的であるため(Preacher, Rucker, & Hayes, 2007),本研究でもそれを踏襲した(図3)。
実験1の追加分析の結果
※数値は標準化係数であり,上段は健康意識の高群,下段(カッコ内)は低群の数値である。その内,下線が引かれている数値は,従属変数に対する独立変数と媒介変数の重回帰分析の数値であり,それ以外は,単回帰分析の数値である。
※***はp<.01,**はp<.05を表している。
健康意識が高い消費者は,事前選択で快楽型製品を選択した場合,その後の選択における快楽型製品への購買意図は低くなる傾向(β=−.27, p<.01),そして,その後の選択時における健康重視得点は高くなる傾向が示された(β=.18, p<.05)。ブートストラップ検定の結果(標本数=2,000),間接効果が認められたことから(B=−.46,β=−.13,p<.05,95%下限=−.93,95%上限=−.06),事前選択の結果として快楽型製品(健康型製品)を選択した場合には,その後の選択において健康に関して意識がより向けられ(向けられなくなり),その結果として,その後の選択では健康型製品(快楽型製品)への購買意図がより高くなる傾向が示された。これは,H1を裏付ける結果である。
一方で,健康意識が低い消費者は,媒介変数や従属変数に対する独立変数の直接効果はいずれも有意ではなく,ブートストラップ検定の結果(標本数=2,000)も,間接効果(B=.06, β=.01, p=.73)は有意ではなかった。このことから,事前選択の結果によってその後の選択時において健康面を意識する程度に差が生じないことから,健康意識が低い消費者の場合には,健康目標と快楽目標の間でコンフリクトが生じていないことが示唆できる。
2. 実験2:各選択の関連性 (1) 概要実験2では,H2の検証を行う。実験デザインは,2(各選択の関連性:高/低)×2(健康意識:高/低)で,各要因ともに参加者間計画である。実験はインターネット上で行い,参加者は30代から50代の男女221名である。そのうち,分析対象として不適切であると判断した参加者を除外した結果,分析対象は190名となった。
参加者には,実験1と同様に「晩御飯を一人で食べることになり,近所の食品スーパーへ買物に出かけた」というシナリオが提示された。その後,事前選択として快楽型製品「トンカツ」を選択したシナリオが全ての参加者に与えられた。
続いて,その後の選択(アイス)のシナリオが与えられた。ここでは,事前選択とその後の選択の関連性を操作することを目的として,その後の選択の消費場面が,事前選択と同じ場合(今日の晩御飯の食後のデザート)と異なる場合(明日の昼食の食後のデザート)を用意し,参加者にはどちらか一方のシナリオが提示された。各選択の消費場面が同じ場合は各選択の関連性は高く,異なる場合は関連性は低くなることを想定している。
従属変数には,その後の選択の購買意図を設定した。選択肢として健康型製品「低糖質アイス」と快楽型製品「プレミアムアイス」の両方を提示し,実験1と同様に直接比較によって測定した。
これに加え,その後の選択の際に考慮した点について,設問項目「晩御飯の献立を意識して選択した」「カロリーや糖質について晩御飯の献立とのバランスを考慮した」に回答してもらった。また,健康意識については実験1と同じ設問,そして,各選択肢の操作確認に用いる設問を設定し,すべて7段階のリッカート尺度で測定した。
(2) 分析結果と考察まずは,その後の選択において提示した各選択肢について操作確認を行った。各選択肢の健康と快楽の評価項目を比較した結果,プレミアムアイスを快楽型製品,低糖質アイスを健康型製品として設定することは適切である点が確認できた7)。
各選択の関連性に関しては,その後の選択の際に考慮した点の設問項目「晩御飯の献立を意識して選択した」について,消費場面の同異で比較した。その結果,消費場面が同じ場合の方が,異なる場合よりも,その後の選択を行う際に晩御飯の献立をより意識していることが示されたため(M消費場面:同=3.97,M消費場面:異=3.15,t(188)=−3.50,p<.001,d=.51,Power=.93),関連性の操作も問題なく行われたと判断した。最後に,健康意識については,実験1と同様に,3項目の合算平均値を算出し(クロンバックα=.80, M=4.57, SD=.91)8),平均値の高低によって参加者を2群に分類した(高,n: 96/低,n: 94)。
各選択の関連性(高/低)と健康意識(高/低)を独立変数,その後の選択の購買意図を従属変数とした二元配置分散分析の結果,主効果について各選択の関連性は有意な差が示されたが(F(1,186)=14.85, p<.001, pη2=.07, Power=.97),健康意識は有意な差は示されなかった(F(1,186)=.96, p=.42)。これらの交互作用が5%水準で有意に示されたため(F(1,186)=4.61, p<.05, pη2=.02, Power=.58),単純主効果の検定を行った(図4)。
購買意図の平均値(実験2)
健康意識が高い消費者の場合,関連性の高低によってその後の選択の購買意図に有意な差が示された(M関連性:高=3.46,M関連性:低=5.00,F(1,186)=18.10,p<.001,pη2=.16,Power=.99)。具体的には,関連性が高い場合の方が,低い場合よりも,その後の選択において健康型製品への購買意図が高い傾向が確認された。このことは,健康目標と快楽目標の間でコンフリクト状態にある場合,その後の選択において進展がなされていない目標(実験2では健康目標)に従う選択を行う傾向は,各選択の関連性が高い場合の方が低い場合よりも顕著であることを示している。このことから,H2は支持された。
一方,健康意識が低い消費者の場合は,関連性の程度によってその後の選択の購買意図に有意な差が示されなかった(M関連性:高=4.21,M関連性:低=4.65,F(1,186)=1.45,p=.23)。
各選択の関連性が高い場合,健康意識が高い消費者の方が,低い消費者よりもその後の選択において健康型製品への購買意図が高いことが確認された(M健康意識:低=4.21,M健康意識:高=3.46,F(1,186)=4.44,p<.05,pη2=.05,Power=.51)。一方で,関連性が低い場合には,健康意識の高低によって差は示されなかった(M健康意識:低=4.65,M健康意識:高=5.00,F(1,186)=.89,p=.35)。このことから,健康意識が高い消費者であっても,各選択の関連性が低い場合には,健康意識が低い消費者と同様に,事前選択の結果をあまり考慮することなくその後の選択を行う傾向が指摘でき,H2を支持する結果であると言える。
(3) 実験2の追加分析実験1と同様に,逐次選択の影響が生じるメカニズムについて調整媒介分析を行う。但し,実験2では,事前選択の結果は快楽型製品のみを設定しているため,独立変数に事前選択の結果を設定することはできなかった。
媒介変数には,その後の選択の際に考慮した点に関する設問項目「カロリーや糖質について晩御飯の献立とのバランスを考慮した」を設定し,選択時において健康にどの程度の意識が向けられているのかを捉えようとした。独立変数には各選択の関連性,従属変数にはその後の選択の購買意図,そして,調整変数には健康意識を設定した。
回帰分析の結果,独立変数(各選択の関連性)と調整変数(健康意識)の交互作用が媒介変数に及ぼす影響(β=−.16, p<.05)が有意であったため,実験1と同様に健康意識の高低(±1SD)で参加者を分類し分析を行った(図5)9)。
実験2の追加分析の結果
※実験2では事前選択として快楽型製品の選択を想定している。
※数値は標準化係数であり,上段は健康意識の高群,下段(カッコ内)は低群の数値である。その内,下線が引かれている数値は,従属変数に対する独立変数と媒介変数の重回帰分析の数値であり,それ以外は,単回帰分析の数値である。
※***はp<.01,**はp<.05を表している。
健康意識が高い消費者は,事前選択で快楽型製品を選択した場合,各選択の関連性が低ければ,その後の選択における快楽型製品への購買意図は高くなる傾向(β=.39, p<.01),そして,その後の選択時における健康バランス考慮得点は低くなる傾向が示された(β=−.36, p<.01)。ブートストラップ検定の結果(標本数=2,000),間接効果が認められ(B=.87,β=.24,p<.001,95%下限=.39,95%上限=1.43),各選択の関連性の高低から購買意図への直接効果は減衰していることが示された。このことから,事前選択として快楽型製品を選択した場合には,各選択の関連性が高い(低い)場合,その後の選択において健康面のバランスに関する情報処理が促進(抑制)され,その結果として,その後の選択における健康型製品(快楽型製品)への購買意図がより高くなる傾向が確認できた。
つまり,健康意識が高い消費者であっても,事前選択において快楽目標が進展した場合に,その後の選択においてコンフリクト目標である健康目標に従い情報処理や選択を行うのは,各選択の関連性が高い場合に限られる点が指摘でき,H2を支持する結果であると言える。
一方,健康意識が低い消費者は,媒介変数や従属変数に対する独立変数の直接効果は有意ではなかった。また,ブートストラップ検定の結果(標本数=2,000),間接効果(B=.12, β=.03, p=.64)も有意ではなかった。
本研究では,逐次選択の影響の調整要因として,各選択の関連性と消費者の健康意識に着目して検討してきた。
実験1では,既存研究で示されている逐次選択の影響が,健康意識によって調整される点を明らかにした。具体的には,健康意識が高い消費者の場合には,事前選択とその後の選択においてコンフリクトする目標間でバランス傾向を示唆する選択の傾向を確認した。
実験2では,逐次選択は複数の選択間における選択行動であるにも関わらず,調整要因として各選択の関係(Dhar & Simonson, 1999)に着目した議論が不十分であることから,事前選択とその後の選択の関連性に着目した上で,この関連性と健康意識の交互作用によって逐次選択の影響が調整される点を明らかにした。具体的には,健康意識が高い消費者の場合,各選択の関連性が高い場合の方が,低い場合よりも,コンフリクトする目標間でバランス傾向を示唆する選択の傾向を確認した。これらの知見は,逐次選択の影響が生じる新たな条件を特定するものであり学術的貢献として提示できる。
実務的貢献としては,消費者の逐次選択の影響を考慮すると,店舗(テナント)ごと,製品カテゴリー(棚)ごとにマーケティングを策定・実行するだけでは十分ではないことが明らかになった点である。企業側は,ターゲットとする消費者が,どのような目標間でコンフリクト状態にあるのかを分析した上で,各目標にバランスよく対応するような,店舗の配置,製品カテゴリーの提示について検討することが重要であろう。
2. 本研究の限界と課題本研究の限界は,逐次選択場面として事前選択とその後の選択の計2つの選択のみに言及している点である。この点は,逐次選択研究における課題としてSunaga(2013)でも指摘されている。また,逐次「選択」について議論してきたが,今回の実験では,購買意図の測定にとどまっており,この点も限界の一つである。これらに加え,本研究では,事前選択がその後の選択に及ぼす影響として逐次選択の影響について議論してきたが,その逆の影響,つまり,将来の選択が現在の選択に及ぼす影響(Fishbach & Dhar, 2005)も考えるべきである。さらに,媒介分析の際に設定した媒介変数(その後の選択時における心理)をより正確に捉えるためには,事前選択前とその後の選択時の2時点で消費者の意識を測定し,その変化を設定するべきである。
今後の課題は,目標の内容に関するより詳細な分析である。自己制御に関する目標の内容によって,調整要因の内容や影響程度が異なる可能性があり,この点について十分な議論が必要である。また,その際には,各選択の関連性についてもより精緻な議論が必要である。本研究では,消費場面の同異によって関連性の高低を判断したが,その他にも関連性に影響を及ぼす要因は存在するであろうし,その議論を通じて関連性概念自体を再吟味する必要もあるだろう。
このような貴重な機会を賜り,石淵順也教授(関西学院大学)には深く感謝申し上げたい。尚,本稿は科学研究費(19K13835)の助成を受けた研究成果の一部である。
赤松 直樹(あかまつ なおき)
明治学院大学経済学部准教授
2015年慶應義塾大学大学院商学研究科博士後期課程単位取得退学。同年千葉商科大学政策情報学部助教,2018年明治学院大学経済学部専任講師。2020年より現職。博士(商学)
福田 怜生(ふくだ れお)
亜細亜大学経営学部専任講師
2016年学習院大学大学院経営学研究科博士後期課程単位取得退学。同年学習院大学経済経営研究所客員所員。2018年より現職。