Quarterly Journal of Marketing
Online ISSN : 2188-1669
Print ISSN : 0389-7265
Review Article / Invited Peer-Reviewed Article
Understanding Psychological Ownership in the Digital Environment
SoonHo Kwon
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2021 Volume 40 Issue 4 Pages 66-74

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Abstract

インターネット通販をはじめとする電子商取引市場の拡大に伴い,デジタル環境における新しい消費者の行動を理解することに実務的にも学術的にも高い関心が寄せられている。本稿では,このような新しい環境における(1)製品の所有形態の多様化,(2)電子媒体のインターフェースによる触覚経験の相違という2つの変化が消費者の購買行動に及ぼす影響に注目しており,これら2つの変化は製品への心理的所有感(psychological ownership)の醸成に関連していること,また心理的所有感の知覚は製品の評価を高めることが先行研究によって示されている。そして,今後の研究課題として「デジタル環境における心理的所有感理論の再検討」,「製品の所有形態の細分化」,「心理的所有感と製品評価の関係の精緻化」の3つの課題を提示した。

Translated Abstract

With expansion of the e-commerce market, such as online shopping, there is a great deal of practical and academic interest in understanding new consumer behavior in the online environment. This paper focuses on the effects of two changes in this environment on consumer purchasing behavior: (1) product possession type and (2) difference in tactile experience based on usage of digital media involved with haptics (such as the sense of touch when clicking on a mouse). Previous research has shown that these two changes are associated with development of psychological ownership of the product. Moreover, this perception of psychological ownership has been shown to enhance evaluations of products. As future research subjects, this paper will present three issues: re-examination of psychological ownership theory in a digital environment, subdivision of product ownership, and refining the relationship between psychological ownership and product evaluation.

I. はじめに

近年,様々な産業分野においてアクセス・ベース消費(access-based consumption, Bardhi & Eckhardt, 2012)をはじめとする非所有型ビジネス・モデルの普及が進んでおり,所有を前提とした従来の消費様式とは異なるリキッド消費(Bardhi & Eckhardt, 2017)のような新しい消費行動への関心が高まっている(Kubota, 2020)。このような変化には従来の有形財におけるデジタル化の進展との関連が考えられる。例えば,書籍や映画などの場合,既存の有形財(紙の書籍やDVD)に対するデジタル化が急速に進められているが,こういったデジタル化された書籍や映画などはサブスクリプション・サービスをはじめとする有形財を所有しないアクセス・ベースの消費を前提にする製品が多い。つまり,製品のデジタル化とともに製品を所有する形態は単なる所有(ownership)から,一時的所有(temporary ownership, Nissanoff, 2006)や非所有(non-ownership)といった様々な製品の所有形態が見られるようになってきている。

また,製品のデジタル化とともに,リアル店舗に加えてECサイトをはじめとするオンラインでの購買も増えており,日本国内のBtoC-EC(消費者向け電子商取引)市場規模は19.4兆円にまで拡大している(前年度比7.65%増加)(METI, 2020)。このようにインターネット通販が拡大していく一方で,インターネット通販における消費者の製品評価は視覚的情報や聴覚的情報のみに依存するという特徴がある。しかし,従来の先行研究では製品を評価する際に視覚に加えて触覚も重要な情報源の一つとして捉えられているが(Schifferstein, 2006),インターネット通販では製品に関連する触覚情報を与えることができないという課題がある。このような課題に対して,オンライン通販の購買において必要となる電子媒体の操作から得られる触覚情報が製品評価に及ぼす影響が注目されている。電子媒体の操作によって得られた触覚情報は製品の評価に影響を及ぼすと指摘されており(Brasel & Gips, 2014, 2015),今後もさらに拡大していくことが予想される電子商取引市場において電子媒体のインターフェースが製品評価に及ぼす影響を明らかにすることは意義があると考えられる。

このようなデジタル環境における新しい消費行動を説明する理論的枠組みとして,「心理的所有感(psychological ownership)」という概念が注目されている。例えば,2015年に『Journal of Marketing Theory and Practice』の特集号(Special Issue on Psychological Ownership: A Concept of Value to the Marketing Field)が発刊され,2019年には心理的所有感が消費者行動に及ぼす影響をまとめた『Psychological Ownership and Consumer Behavior』(Peck & Shu, 2019)という書籍においてデジタル環境における心理的所有感の影響が取り上げられている。さらには,デジタル環境における新しい消費者行動を理解するうえで注目すべき概念の一つとして心理的所有感が取り上げられていることから(Malter, Holbrook, Kahn, Parker, & Lehmann, 2020),マーケティング研究における心理的所有感への関心の高さが伺える。心理的所有感とは,対象と人間の心理的な結びつきであり(Pierce, Kostova, & Dirks, 2001),対象製品への心理的所有感が高まると製品への購買意図や支払意思額が高まるという(Atasoy & Morewedge, 2018)。

本稿では,デジタル環境における新しい購買行動として製品の所有形態の多様化と電子媒体のインターフェースが製品への心理的所有感に及ぼす影響について注目する。まず,第2章においては心理的所有感という概念の定義とマーケティングにおける心理的所有感の研究潮流を整理する。そして,第3章においては製品の所有形態と心理的所有感,電子媒体のインターフェースと心理的所有感の関係を取り上げている先行研究をレビューする。最後に,第4章では先行研究をまとめるとともに今後の課題について考察する。

II. マーケティング研究における心理的所有感

1. 心理的所有感の定義

心理的所有感(psychological ownership)とは,対象を所有していると知覚する,あるいは対象を自分の一部として知覚する心理的状態であり,法的な所有権(legal ownership)を伴わない状態でも生起される(Pierce et al., 2001; Pierce, Kostova, & Dirks, 2003)。心理的所有感の特徴は,所有感を知覚することによって対象への親密感が高まり,その結果として対象を自分の一部(extended self)として知覚することである(Belk, 1988; Brown, Pierce, & Crossley, 2014)。この心理的所有感という概念は組織論の文脈において研究が始まっており,組織(職場)に対する個人の動機付け要因の一つとして注目されてきた。組織に対する心理的所有感の知覚は,組織へのコミットメント(van Dyne & Pierce, 2004)や職務満足度(Peng & Pierce, 2015)の向上等のポジティブな成果へとつながるという。

心理的所有感は,所有欲を動機付ける4つの基本的欲求と心理的所有感を形成する3つの先行要因よって生起される(図1Jussila, Tarkiainen, Sarstedt, & Hair, 2015; Pierce et al., 2001, 2003)。所有欲を動機づける基本的欲求は,「居場所の獲得(having a place)」,「自己アイデンティティ(self-identity)」,「効力感(efficacy)とエフェクタンス動機づけ(effectance)」,「刺激(stimulation)」という4つの要素によって整理されている(Jussila et al., 2015)。居場所の獲得とは,家のような安全で身近な場所を求める欲求を意味し(Pierce et al., 2001),自己アイデンティティは自分のアイデンティティを形成させ,伝えたい個人の欲求を意味する(van Dyne & Pierce, 2004)。また,自分から周りの環境やモノを制御することで得られる効力感を高めたいという欲求はエフェクタンス動機づけ(White, 1959)と定義されており,エフェクタンス動機づけによって得られた制御感覚は次第に所有欲を生起させるという(Pierce et al., 2003)。最後に,刺激とは個人のニーズの活性化を意味し,外部からニーズが刺激されることで対象を観察することや考えることのきっかけにつながり,結果的に所有欲求の知覚につながる(activation theory; Scott, 1966)。そして,これらの4つの基本的欲求は人の所有欲求を動機づけるものである。

図1

マーケティング研究における心理的所有感の概念モデル

出典:Jussila et al. (2015) p. 122を参考に筆者作成

そして,心理的所有感は対象への「自己投資(investment of self)」,「制御欲求(controlling the target)」,「詳細な知識(intimate knowledge)1)」の3つの先行要因から影響を受ける(Jussila et al., 2015; Pierce et al., 2001, 2003)。自己投資とは,ある対象(objects)に対して個人の労力や注意,時間などの資源を投資することを意味する(Pierce et al., 2001)。そして,自己投資の量が増えれば対象とのつながりが深まり,結果として対象への所有感が芽生えてくる(Lee & Chen, 2011)。また,詳細な知識とは,対象に対する知識の広さと深さを意味している。そして,対象に対する知識が増えることによってその対象をより親密に感じるようになり,結果として自己の一部として所有感を持つようになるという(Beaglehole, 1932)。最後に,制御欲求とは,周りの環境やモノを自分が制御(コントロール)したい潜在的な欲求を意味し,その対象を自分が制御出来ている知覚するほど,自分の一部として知覚する傾向が高まる(Jussila et al., 2015)。そして,Pierceらはこれらの4つの基本的欲求と3つの要因は同時に経験することができるものであり,相互補完的な関係にあると指摘している。

2. マーケティング分野における心理的所有感への注目

マーケティング研究領域には2000年代以降から心理的所有感を取り上げた研究が増えてきており(Kirk, Swain, & Gaskin, 2016),心理的所有感の知覚を高めることによってブランドに対する長期的なロイヤルティの形成(Jussila et al., 2015),無料サービスから有料サービスへの移行意向向上(Danckwerts & Kenning, 2019),新製品開発における顧客への権限委譲戦略と当該製品の需要増加(Fuchs, Prandelli, & Schreier, 2010)などのマーケティング成果につながることが指摘されている。

一方で,インターネットの普及に伴う電子商取引の拡大とともに,デジタル環境における消費者の新しい購買行動の理解が求められるようになっている。例えば,既存の有形製品(紙の書籍,CD)の方が,それらがデジタル化されたデジタル製品よりも,製品に対する金銭的評価(支払意思額)が高くなることが指摘されている。このような製品の形態による支払意思額の相違には,有形財に対する心理的所有感の知覚が媒介しており,さらには心理的所有感の先行要因の中でも制御欲求(controlling the target)が製品評価に影響を及ぼしていることが示されている(Atasoy & Morewedge, 2018)。このように,心理的所有感は新しい消費者行動の理解の一助となる理論的枠組みであるが2),その中でも本稿は心理的所有感とデジタル環境における「製品の所有形態」と「電子媒体のインターフェース」の2つの関係に焦点を当て,関連する先行研究を概観する3)

本稿における「製品の所有形態」とは,サブスクリプション(e.g., Netflix)やシェアリング・エコノミー(e.g., Airbnb)のような非所有形態(non-ownership)サービスやオークションやフリーマーケットでの再販売を前提とした一時的所有(temporary ownership, Nissanoff, 2006; Yamamoto, 2020)などのように製品を所有する形態が多様化されていることを意味する。そして,再販売を意識した製品の一時的な所有や所有権を持たないサブスクリプションのような場合と従来の永続的かつ所有権の維持を前提とする所有形態との比較において,それぞれの所有形態が製品評価にどのような影響を及ぼすかを心理的所有感という理論的枠組みから検討した研究を概観する。

また,オンライン市場の成長によりECサイトにおける購買に必要な電子媒体の使用頻度も増えているが,電子媒体はデバイスによって操作方法が大きく異なる。例えば,スマートフォンやタブレットなどは画面に直接触れるタッチ・スクリーンが多く採用されており,PCでもタッチ・スクリーンに加え,タッチ・パッドやマウスがあるなど,媒体操作のためのインターフェースは多岐にわたる。そして,このような多様なインターフェースはその形状,重さ,硬さが異なることから,オンライン環境で同一製品を購買する場合でも使用する電子媒体のインターフェースによって消費者が得られる触覚情報も変化する。このような電子媒体のインターフェースによる触覚経験の相違が製品評価に及ぼす影響は,接触欲求(need for touch)や心理的所所有感から検討がなされている。以下の第3章において,「製品の所有形態」と「電子媒体のインターフェース」の2つが心理的所有感と製品評価に及ぼす影響に関する研究について整理する。

III. 心理的所有感が消費者に及ぼす影響

1. 製品の所有形態と心理的所有感

製品を所有することが製品評価に及ぼす影響に着目した先行研究においては,製品の法的所有権(legal ownership)を持つことや物理的に所有していることが製品の評価に正の影響を及ぼすと指摘されている(Morewedge, Shu, Gilbert, & Wilson, 2009)。しかし,近年ではビデオ配信サービス(e.g., Netflix, Amazon Prime Video)や音楽配信サービス(e.g., Spotify, Deezer)など様々な業界においてサブスクリプション・サービスやシェアリング・サービスのような所有権を持たない製品が増えてきており(Sinclair & Tinson, 2017),消費者の製品所有形態は多様化されてきている。このような新しい所有形態が製品評価に及ぼす影響については心理的所有感という視点から研究が行われている(Bagga, Bendle, & Cotte, 2019; Danckwerts & Kenning, 2019; Lee, Yang, & Koo, 2019; Sinclair & Tinson, 2017)。

Bagga et al.(2019)は製品の所有形態による支払意思額の変化を心理的所有感から検討している。実験では,製品(ボールペン/マグカップ)を直接所有している(ownership)場合,一時的な所有(rent/borrow)や非所有(non-ownership)の場合よりも製品に対する心理的所有感を強く知覚し,心理的所有感は製品への支払意思額に正の影響を及ぼすことが示された。また,製品を所有している場合,心理的所有感の先行要因である「制御欲求」と「自己投資」の知覚が高まり,これらの2つの要因が心理的所有感の生起に影響を及ぼすことを明らかにした。一方で,製品の所有形態は製品への「詳細な知識」(マグカップの特徴を評価できる,マグカップの品質についての知識があるなど)には影響を及ぼさなかった。また,一時的な所有(rent)の場合,実験の操作によって「制御欲求」と「自己投資」の感覚を意図的に制限されたグループは,制限されなかったグループに比べて,製品へ心理的所有感および支払意思額が低下することが示された。これによって,製品の所有権が譲渡されていても(rent)「制御欲求」や「自己投資」の感覚を十分に与えられない場合,製品の所有することによる心理的所有感および支払意思額への影響は再現されない可能性が示唆された。

Danckwerts and Kenning(2019)は,製品の法的な所有権が提供されない音楽配信サービス(e.g., Apple Music)に対する消費者の心理的所有感の知覚がサービスの利用意向に及ぼす影響について検討している。調査では,音楽配信サービスの利用者(有料版ユーザーと無料版ユーザーを含む)を対象に「音楽配信サービスへの心理的所有感」と「提供された音楽への心理的所有感」を測定し,そして音楽配信サービスに対する「制御欲求」,「詳細な知識」,「自己投資」の3項目(心理的所有感の先行要因)を測定している。調査の結果,音楽配信サービスに対して自分の費やした時間や思い入れなどの「自己投資」が音楽配信サービスそのものへの心理的所有感が高め,「常に雰囲気に合う音楽を選択できる」,「自分の音楽ストリーミングライブラリーにある音楽を自在に扱える」など,音楽に対する制御欲求も心理的所有感を高めることが示された。一方で,音楽配信サービスに対する詳細な知識(この音楽サービスに精通している,この音楽ストリーミング・サービスについて包括的に理解しているなど)は心理的所有感の知覚に繋がらないことが示された。また,Danckwerts and Kenning(2019)は,同サンプルの中で無料版を利用していると回答した実験参加者のみを抽出に,有料サービスへのスイッチング意向を測定している。その結果,現在使用している無料版の音楽配信サービスへの心理的所有感が高い人は,そこで配信される音楽への心理的所有感も高まり,その結果として有料サービスへのスイッチング意向も高くなることが示された。

上述した先行研究においては,製品を所有しない,あるいは一時的に所有権が与えられた場合でも,制御欲求や自己投資の感覚を高めることで心理的所有感をより知覚し,その結果製品への支払意思額が高まることが示唆された。しかし,Bagga et al.(2019)Danckwerts and Kenning(2019)の研究においては心理的所有感の先行要因である「詳細な知識」が心理的所有感の生起につながらなかったことが示され,先行研究との不一致(e.g., Brown et al., 2014)が見られていた。このような結果の不一致の原因として,心理的所有感が提唱された当初(Pierce et al., 2001, 2003)はデジタル環境での購買行動が想定されていなかったことが考えられる。今後,心理的所有感の先行要因について,製品の所有形態をはじめとする新しい消費様式を含むより包括的な考察が必要となるだろう。

2. 電子媒体のインターフェースと心理的所有感

また,近年では電子媒体のインターフェースによる触覚経験と心理的所有感の関係に注目した研究も増えてきている。従来,マーケティング研究領域では製品への物理的な接触(触覚経験)が製品評価に及ぼす影響に焦点が当てられてきた(Schifferstein, 2006)。例えば,Peck and Shu(2009)は製品への接触経験がその製品を所有しない場合でも心理的所有感を高められるかを検討している。実験の結果,製品に接触した場合,接触しなかった場合に比べて,対象製品への心理的所有感をより知覚し,心理的所有感が製品評価を高めることが示された。

このように製品に対する触覚情報を与えることで製品評価を高めることが示唆されている一方で,近年の電子商取引市場の拡大に伴い,製品に直接触れることができない環境,つまり製品への触覚を伴わない購買意思決定が増えてきており,企業側は触覚情報が制限された状況においていかに製品の価値を伝えるのかが一つの課題となっている(Peck & Childers, 2007)。そこで,製品ではなく,オンラインでの購買に必要な電子媒体のインターフェースが提供する触覚経験(画面を触る,マウスをクリックするなど)が製品評価に及ぼす影響が注目されており,電子媒体によって提供される触覚経験が心理的所有感を生起させるメカニズムについて検討されはじめている。

Brasel and Gips(2014)は,電子媒体のインターフェースが心理的所有感に及ぼす影響に注目している。実験では,電子媒体の操作に伴う触覚経験が提供される程度が異なる「タッチ・スクリーン(タブレット)」,「タッチ・パッド(PC)」,「マウス(PC)」の3つの媒体を実験参加者に割り当て,それぞれの電子媒体で買い物のシナリオを読ませてから提示された製品(洋服:high haptic importance/旅行商品:low haptic importance)の情報を自由に閲覧し,最終的に一つの製品を選択させた。その後,心理的所有感および支払い意思額(WTP)と受け入れ意思額(WTA)を測定しその比率から授かり効果4)(endowment effect)を算出している。その結果,最も多くの触覚経験を提供するタッチ・スクリーンが他の2つのインターフェースよりも心理的所有感を高め,心理的所有感は製品への金銭的評価に正の影響を及ぼすことが示された。

また,Brengman, Willems, and Van Kerrebroeck(2019)は3種類の電子媒体のインターフェース(「マウス(pc)」,「タッチ・スクリーン(スマートフォン)」,「AR(拡張現実,スマートフォン)」)と2種類の製品(視覚情報が重要視される(geometric properties)製品:「花瓶」,触覚情報が重要視される(material properties)製品:「ラウンジ・チェア」)が知覚された所有感(perceived ownership, Peck & Shu, 2009)に及ぼす影響に注目している。実験の結果,電子媒体のインターフェースと製品属性に交互作用は見られなかったものの,製品属性の場合には触覚情報が重要視される製品の方がより所有感を知覚し,電子媒体のインターフェースはAR(拡張現実)が他の2つのインターフェースよりも製品への所有感を知覚させることが明らかになった。そして,知覚された所有感は製品評価と購買意図に正の影響を及ぼすことが示された。

他には,電子媒体のインターフェースと製品画像の双方向性5)(object interactivity)が心理的所有感に及ぼす影響に注目している研究もある(de Vries, Jager, Tijssen, & Zandstra, 2018)。de Vries et al.(2018)は,2種類のPCのインターフェース(タッチ・スクリーンvs.マウス)と2種類の製品画像(平面の製品画像vs.立体の製品画像)の4つの条件を設定し,それぞれの条件における接触欲求(NFT)と製品への心理的所有感が製品への金銭的評価に及ぼす影響を検証している。その結果,電子媒体のインターフェースが心理的所有感を高める効果は確認されず,製品画像のインタラクティブ性が高い場合(立体)は,インタラクティブ性が低い場合(平面)より,心理的所有感と製品への金銭的評価(WTP, WTA/WTP比率)を高めることが明らかにされた。

上述のように,電子媒体の操作のインターフェースが直接的な触覚経験を提供してくれる場合(e.g., タッチ・スクリーン)には提示された製品への心理的所有感が高まることが指摘された。しかし,電子媒体のインターフェースによる影響は一貫しておらず,研究結果に不一致も見られている。例えば,Brasel and Gips(2014)ではタッチ・スクリーンとマウスにおいて生起される心理的所有感の差が見られている一方で,Brengman et al.(2019)de Vries et al.(2018)ではタッチ・スクリーンとマウスの間で生起される心理的所有感に有意な差が見られていない。その原因の一つとして,製品の特性による影響が指摘されている(de Vries et al., 2018)。de Vriesらが実験素材として用いた食品はBraselらが取り上げていた洋服や旅行商品に比べ価格が安く,より習慣的な購買プロセスを辿る典型的な低関与製品であることから(Schulte-Mecklenbeck, Sohn, de Bellis, Martin, & Hertwig, 2013),比較的に製品の選択までの時間が短かったため十分な触覚経験を提供されなかった可能性があるという。他方で,製品画像が持つ双方向性の影響についてもさらなる検討が必要であると考えられる。立体的な製品画像によって双方向性を高めることが心理的所有感および製品評価に正の影響を及ぼすことが示されているが(de Vries et al., 2018),このような製品の双方向性の影響は他の先行研究においても確認されている。例えば,Liang and Qiu(2017)は,製品画像の双方向性を触覚の手がかりの知覚(tangibility cue)という視点から議論している。Liangらは,製品画像を立体(3d)で提示した場合,平面(2d)で提示された場合よりも,その画像に対してより有形性を知覚し(perceived tangibility),知覚された有形性は製品への購買意図を高めることを示している。今後,電子媒体のインターフェースの影響に加え,製品の特性や媒体の操作時間,製品画像の双方向性などを含めた多角的な議論が必要であると考えられる。

IV. まとめと今後の研究課題

本稿では,新しい購買環境における「製品の所有形態の多様化」と「電子媒体のインターフェース」が心理的所有感の形成および製品評価に及ぼす影響に関する研究を概観した。前者は,製品のデジタル化の進展によって消費者が製品の所有権を持たない所有形態が普及されたことによる心理的所有感の変化と製品評価への影響を取り上げた研究である。後者の研究は,製品に対する触覚経験が得られないオンラインでの購買において,電子媒体のインターフェースが提供する触覚経験が心理的所有感および製品評価に及ぼす影響を取り上げている。

一方で,先行研究を概観することでいくつかの課題が浮き彫りになった。第一の課題は,心理的所有感の先行要因についての再検討が挙げられる。従来の心理的所有感の研究では,「制御欲求」,「自己投資」,「詳細な知識」の3つの要因が心理的所有感の先行要因であると示されていた(Jussila et al., 2015; Pierce et al., 2001, 2003)。しかし,Bagga et al.(2019)Danckwerts and Kenning(2019)の研究においては,「詳細な知識」が心理的所有感を形成する先行要因であることが再現されなかった。他方では心理的所有感の形成に先行要因の3つが全て作用する必要はないという指摘もあるが(Sinclair & Tinson, 2017),3つの要因がどのような条件において心理的所有感を形成に影響を及ぼすのかについては十分に議論されていない。特に,「詳細な知識」はマーケティング研究においてあまり注目されてこなかったことから(Jussila et al., 2015),製品への知識とそれに伴う親密さの知覚がどのような条件で心理的所有感の形成に影響を及ぼすのかはさらなる検討が必要であろう。

また,第二の課題としては,製品所有の形態と心理的所有感の関係についての再検討である。これまでの先行研究においては製品の所有が製品への評価を高めるということが示されている一方で(Reb & Connolly, 2007),Bagga et al.(2019)の実験では,製品を所有している場合においても,その所有権が有償(ownership/rent)で譲渡された場合にのみ非所有の場合と比べて製品評価に有意な差が見られており,無償(borrow)で所有権が譲渡された場合には非所有の場合と製品評価に有意な差が見られなかった。また,サブスクリプション・サービスのように消費者が製品の所有権を持たない製品が普及されていく一方で,Danckwerts and Kenning(2019)は製品の所有権を持たない場合においても無償(無料版)と有償(有料版)という2つの所有形態があることを指摘し,その所有形態によって製品への心理的所有感の知覚が異なることが示されている。今後,製品を所有するあるいはしないという二元的捉え方から,デジタル環境における様々な製品の所有形態をより細分化された視点から捉えることで製品の所有形態が心理的所有感の形成に及ぼす影響をより明確にしていくことにつながるだろう。

さらに,第三の課題として,心理的所有感と製品評価の関係についてのさらなる検討である。これまでの心理的所有感と製品評価に関する先行研究では,知覚された所有感が製品へのポジティブな評価につながる(Huang, Wang, & Shi, 2009)ことや他人から高く評価されている製品に対して心理的所有感を抱きやすい(Pierce et al., 2003)ことが示されている一方で,心理的所有感が製品の評価を経由せずに製品への支払意思額を高めるという研究結果がある(Fuchs et al., 2010)。このような心理的所有感と製品評価(evaluation),製品への金銭的評価(monetary valutaion)の関係について,Bagga et al.(2019)は心理的所有感が製品評価を高めることで支払意思額が高まるのではなく,心理的所有感と製品評価は独立して作用している可能性を指摘している。今後の研究においては,心理的所有感と製品評価の関係について精緻な検討が必要であると考えられる。

謝辞

本稿の作成にあたって,レビュアーの先生より貴重なコメントを頂戴した。ここに記して謝意を表したい。

1)  intimate knowledgeの和訳は,先行研究の「音楽サービスに精通している,音楽サービスに対する深い知識を持っている等」(Danckwerts & Kenning, 2019),「マグカップの特徴を評価することができる,マグカップに関する品質を評価できる知識を持っている等」(Bagga et al., 2019)という質問項目を参考に「詳細な知識」としている。

2)  マーケティング成果における心理的所有感の影響については,自己概念(Weiss & Johar, 2013),サービスの利用意向(Danckwerts & Kenning, 2019; Sinclair & Tinson, 2017),顧客エンゲージメント(Asatryan & Oh, 2008),ソーシャル・メディアへのロイヤルティ(Zhao, Chen, & Wang, 2016),意思決定と口コミ(Kirk, McSherry, & Swain, 2015),製品の形態と製品評価(Atasoy & Morewedge, 2018)など様々な視点から研究が行われている。

3)  レビュー対象の文献は,電子ジャーナル・データベース「Web of Science」で“psychological ownership”,“digital goods”,“media interface”,“touch interface”,“Endowment effect”,“object interactivity”,“virtual product interaction”というキーワードによって検索された結果のうち,学術論文を抽出した。また,その他レビューに含むべきであると判断した個別の学術論文を加え,第3章における最終的なレビュー対象論文は9編となった。

4)  自分が所有している対象について,それを所有する前の評価よりも高く評価する傾向(Kahneman, Knetsch, & Thaler, 1990)。

5)  デジタル環境において,対象(object)を直接操作するユーザーの能力やその感覚(Schlosser, 2003)。

權 純鎬(くぉん すんほ)

早稲田大学商学学術院助手。青山学院大学経営学部を卒業後,早稲田大学大学院商学研究科修士課程を修了。現在,同大学大学院商学研究科博士後期課程に在籍。修士(商学)。

専門は,マーケティング・コミュニケーション,消費者行動。

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