Japan Marketing Journal
Online ISSN : 2188-1669
Print ISSN : 0389-7265
Peer-Reviewed Article
Exploring the Negative Effects of Creativity of Frontline Employees in Service Organizations on Customer Satisfaction:
Focus on the Context of First-Time Contact
Makoto FujiiTakanori Seki
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2022 Volume 41 Issue 3 Pages 72-84

Details
Abstract

本研究では,(1)どのような状況において現場従業員のクリエイティビティは顧客満足に負の影響を与えるのか。(2)現場従業員のクリエイティビティが顧客満足に与える負の影響はどのような要因によって緩和されるのだろうか,という2つの研究課題を設定した。研究課題を明らかにするために,初回利用の状況に着目し,調査会社のモニターを対象に,ヘアサロンをコンテクストとする場面想定法実験を行った。分析の結果,初回利用の場合,サービス組織の現場従業員のクリエイティビティは顧客満足に負の影響を与えるという仮説は支持された。しかし,類似性は初回利用時におけるサービス組織のFLEsのクリエイティビティとCSの負の関係を緩和するという仮説については支持されなかった。最後に,分析結果を踏まえた実践的示唆と今後の課題について示した。

Translated Abstract

This study had two research questions. First, under what conditions does the creativity of frontline employees (FLEs) have a negative effect on customer satisfaction? Second, what factors mitigate the negative impact of the creativity of FLEs on customer satisfaction? To explore these questions, we conducted an online experiment using a questionnaire in the context of a hypothetical hair salon. Potential respondents were recruited by a research company from their research pool. The study was limited to the context of first-time contact. We investigated whether perceived similarity mitigates a negative relationship between creativity of FLEs and customer satisfaction, using a 2 (creativity: high vs. low) × 2 (perceived similarity: high vs. low) between-participants design. The results indicated that the creativity of FLEs negatively influence customer satisfaction for a first-time customer. However, contrary to our expectations, a hypothesis that perceived similarity mitigate the negative relationship between creativity of FLEs and customer satisfaction was not supported. Finally, based on these findings, we discuss the managerial implications and directions for future research.

I. はじめに

競争の激化や技術の進歩により,画一的なサービスを提供しているだけでは顧客ニーズに十分応えられなくなってきている(Wilder, Collier, & Barnes, 2014)。例えばヘアサロン業界では,中間価格帯のサロンが多数を占め,技術や品質だけでは差別化が困難になっている現状がある(Yano Research Institute Ltd., 2020)。このような市場環境を背景に,従来とは異なるアプローチで顧客満足(以下,CS)を高められる可能性があることから,サービス組織の現場従業員(以下,FLEs)を対象としたクリエイティビティ研究が近年注目されている(Dong, Liao, Chuang, Zhou, & Campbell, 2015)。実際,ヘアサロン業界を対象とした調査によると,スタイリストによるヘアスタイルの変更提案を顧客が受け入れることで満足度が高まることが示されている(National Beauty & Barber Manufacturer’s Association Japan [NBBA], 2020)。

FLEsのクリエイティビティが重要視される一方,我々はクリエイティビティを無条件に良いものであり,常に高めるべきであると暗黙裡に想定してきたが,はたしてこの前提は正しいのかという疑問が提起されている(Anderson, Potočnik, & Zhou, 2014; Shalley, Zhou, & Oldham, 2004)。先行研究では,FLEsのクリエイティビティはCSに正の影響を与えると想定・検証されてきた(Dong et al., 2015; Gilson, Mathieu, Shalley, & Ruddy, 2005; Martinaityte, Sacramento, & Aryee, 2019)。しかし,Gilson et al.(2005)では,仮説は支持されておらず,必ずしも一貫した結果は得られていない1)。また,クリエイティビティには,不確実性を高め,正確性を減少させることで,サービス品質や生産性を低下させる可能性や,顧客からの拒否や批判を受けたり,顧客を失う,などのリスクを伴うことが指摘されている(Madjar & Ortiz-Walters, 2008; Sok, Sok, Danaher, & Danaher, 2018)。このように,先行研究ではFLEsのクリエイティビティのダークサイドが指摘されるものの(Anderson et al., 2014),上述の前提に立って研究が行われてきたことから,FLEsのクリエイティビティがCSに負の影響を与えるのかは必ずしも経験的に明らかにされていない。

そこで本研究では,(1)どのような状況においてFLEsのクリエイティビティはCSに負の影響を与えるのか,という研究課題を設定する。研究課題を明らかにするために,本研究では,顧客との関係性が存在しない初回利用の状況に着目し(Keh & Pang, 2010),調査会社のモニターを対象に,ヘアサロンをコンテクストとする場面想定法実験を行う。また,本研究では,(1)から派生する課題として,(2)FLEsのクリエイティビティがCSに与える負の影響はどのような要因によって緩和されるのだろうか,という研究課題を併せて設定し,知覚された類似性(以下,類似性)概念の影響を試論的に検証する。本研究では,以下の理由から類似性に着目した。類似性は営業やマーケティング研究において主に短期のコンテクストで議論され,受け手の態度変容をもたらす要因として数多く研究されてきた(Crosby, Evans, & Cowles, 1990; Herjanto & Amin, 2020; Lichtenthal & Tellefsen, 2001)。それゆえ,初回利用という顧客との関係性が存在しない状況において(Keh & Pang, 2010),類似性はFLEのクリエイティビティがCSに与える負の影響を緩和することが期待される。

本研究の分析結果から,ヘアサロンは経験サービスであり(Parasuraman, Zeithaml, & Berry, 1985),ヘアスタイルの変更はリスクが伴うにもかかわらず,スタイリストが顧客との関係性を考慮せずに提案を行ってしまうと,かえってCSを低下させてしまうことが示される。

II. 先行研究レビューおよび仮説

1. クリエイティビティ研究のオーバービュー

組織における個人のクリエイティビティは競争優位やイノベーションの源泉であると考えられてきたことから,クリエイティビティ研究は組織行動論において数多く行われてきた(Amabile, 1988; Anderson et al., 2014)。組織行動論では,組織における個人(製造企業におけるR&D部門や研究所の職員など)のクリエイティビティをどのような要因が促進(阻害)するのかという視点から,①パーソナリティや認知スタイルといった個人要因,②職務の複雑性や上司との関係といったコンテクスト要因など,クリエイティビティの先行要因を解明しようとする研究が数多く行われてきた(Coelho, Augusto, & Lages, 2011; Madjar & Ortiz-Walters, 2008; Shalley et al., 20042)。個人のクリエイティビティは特許といった客観的な指標で評価される場合もあるが,多くの研究では直属の上司による評価が採用されてきた(Madjar & Ortiz-Walters, 2008; Shalley et al., 2004)。

近年では,サービス・マーケティング研究において,サービス組織のFLEsを対象としたクリエイティビティ研究が行われるなど,広がりを見せつつある(例えば,Coelho et al., 2011; Wilder et al., 2014)。本研究では,Dong et al.(2015)を踏まえ,FLEsのクリエイティビティを,「サービス・エンカウンターにおけるFLEsによる新しく,有用なアイデアの生成」と定義する。ただし,組織行動論と異なるのは,サービス・エンカウンターにおいて顧客がFLEsと密接に関わるということである(Madjar & Ortiz-Walters, 2008)。それゆえ,FLEsのクリエイティビティを顧客が評価することが可能と考える(Dong et al., 2015; Madjar & Ortiz-Walters, 2008; Stock, de Jong, & Zacharias, 20173)

サービス組織のFLEsを対象としたクリエイティビティ研究には,感情労働を援用した研究(Geng, Liu, Liu, & Feng, 2014),役割コンフリクトや役割曖昧性といった役割理論を援用した研究(Coelho et al., 2011),顧客の無礼な行為というクリエイティビティの阻害要因に着目した研究(Hur, Moon, & Jun, 2016; Shin, Hur, & Oh, 2015),などが挙げられる。これらの研究は,顧客と密接に関わるというFLEsの特性を踏まえて先行要因を特定している点で評価できるが,クリエイティビティの先行要因を探索するか,あるいは従業員個人の成果への影響を検証するに留まっている。FLEsは,サービス・エンカウンターにおいて,顧客の多様なニーズに応えるために革新的なアイデアや解決策を生成することでCSを高めると指摘されてきた(Coelho et al., 2011; Stock et al., 2017)。しかし,一部の研究を除き(Dong et al., 2015; Gilson et al., 2005; Martinaityte et al., 2019),経験的な検証はほとんど行われてこなかった4)。また,上述したように,FLEsのクリエイティビティのダークサイドが指摘されていたにもかかわらず(Anderson et al., 2014),FLEsのクリエイティビティがCSに負の影響を与えるかは必ずしも経験的に明らかにされていない。

2. クリエイティビティの主効果

FLEsのクリエイティビティがCSを高めるパスは,①顧客の特別な要求や期待を満たす,②顧客が予期していなかった解決策を通じて顧客を喜ばせる,の2つがあるという(Dong et al., 2015)。FLEsは,サービス・エンカウンターにおいて新しく,有用なアイデアを生成することで,顧客の期待や欲求により良く応えることができるようになり,顧客に固有のベネフィットをもたらす。その結果,CSが高まる。また,FLEsは,既存のアプローチや過去の経験にとらわれずにアイデアを生成することで,顧客に驚くほど喜んでもらえる機会を提供する。その結果,顧客は期待を超えたサービスを経験し,満足を知覚する(Stock et al., 2017; Westbrook & Oliver, 1991)。以上を踏まえ,クリエイティビティがCSに正の影響を与えるという仮説が検証されている(Dong et al., 20155)

FLEsのクリエイティビティがCSに正の影響を与えるという議論がある一方,FLEsのクリエイティビティには,顧客からの拒否や批判を受けたり,顧客を失うといったリスクを伴うことが知られている(Madjar & Ortiz-Walters, 2008)。サービスには無形性や変動性といった特性があることから,サービス提供には不確実性が伴う(Parasuraman et al., 1985)。また,新規性の高いアイデアは標準的なサービス提供のように確立されていないことから,不確実性や曖昧性が高まるとともに,正確性が低下することが懸念される(Sok et al., 2018)。すなわち,クリエイティビティには,サービス提供に伴う不確実性を助長しかねないというダークサイドがあるのである(Anderson et al., 2014)。

とりわけ,これらのリスクは初回利用の場合に強く影響すると考えられる。なぜなら,顧客から信頼されていると,FLEsは顧客から批判を受ける可能性についてそれほど気にする必要がなくなる(Madjar & Ortiz-Walters, 2008)。さらに,FLEsは,顧客との関係を深耕すべく,既存のサービス提供とは異なる代替案を探索するためにさらなる時間や労力を費やすようになるという(Madjar & Ortiz-Walters, 2008)。しかし,初回利用の場合,FLEsと顧客との間で関係性が形成されていないために,顧客が面識のないFLEsにいきなり権限移譲を行うとは考えにくい(Dong et al., 2015)。そのため,初回利用であるにもかかわらず,顧客の期待を超えるサービスを提供すべくFLEsがクリエイティビティを示そうとすると,顧客は不確実性や負の驚きを知覚することになる(Sok et al., 2018; Westbrook & Oliver, 1991)。特に,FLEsが斬新なアイデアを実現しようとすると,不確実性が高まるだけでなく,正確性が低下することで,顧客ニーズを満たせなくなることがある(Sok et al., 2018)。その結果,CSの低下が生じる。したがって,以下の仮説1が提起される。

仮説1:初回利用の場合,サービス組織のFLEsのクリエイティビティはCSに負の影響を与える。

3. 類似性の調整効果

初回利用の場合,FLEsのクリエイティビティがCSに与える負の影響を与えるとすれば,そこから派生する課題として,どのような要因によって負の影響は緩和されるのだろうかという疑問が生じる。そこで本研究では,以下の理由から,類似性に着目する。類似性は主に短期のコンテクストで議論されてきた概念であることから(Crosby et al., 1990),初回利用の状況に着目している本研究の問題意識と整合的と考えられる。また,顧客は企業の能力を推論する際,FLEsを有形の手がかりとして利用する(Parasuraman et al., 1985)。サービス・エンカウンターにおいてFLEsの第一印象を形成する際,顧客は可視的な手がかり(年齢や性別,人種など)から得られる情報に注目すると言われている(Homburg, Wieseke, & Bornemann, 2009)。例えば,外見の類似性は顧客が銀行員に出会う最初の特徴であることから,顧客が接しやすいと感じるかどうかの決め手になると指摘されている(Herjanto & Amin, 2020)。さらに,類似性は,営業やマーケティング研究において受け手の態度変容をもたらす要因として数多く研究されてきた(Faraji-Rad, Samuelsen, & Warlop, 2015; Lichtenthal & Tellefsen, 2001; Tuk, Verlegh, Smidts, & Wigboldus, 2019)。それゆえ,類似性は,初回利用時におけるFLEsのクリエイティビティとCSの負の関係を緩和することが期待される。

本研究では,Netemeyer, Heilman, and Maxham(2012)を参考に,類似性を,「顧客が相互作用するFLEsとの間で年齢や性別,選好など個々の属性が共通する程度」と定義する。先行研究では数多くの属性について類似性が議論されてきた(Lichtenthal & Tellefsen, 2001)。それらの属性を整理すべく,可視的な属性(年齢,性別,身長など)と,内的属性(教育,社会的地位,選好など)という,可視性に着目した分類軸が提唱されている(Lichtenthal & Tellefsen, 2001)。本研究では,顧客が認識しやすい可視的な属性と,影響が大きいとされる内的属性の両方の属性に着目する(Herjanto & Amin, 2020; Lichtenthal & Tellefsen, 2001)。以下では,初回利用時におけるFLEsのクリエイティビティとCSの負の関係を類似性が緩和する可能性を試論的に検討するにあたり,類似性-魅力理論および説得に関する研究を参照しつつ議論を進める。

類似性-魅力理論によると,まず,FLEsが顧客と近い意見を表明すると,顧客に対して心理的な報酬が提供され,顧客の自尊心が高まる(Lichtenthal & Tellefsen, 2001)。一般に,魅力は報酬を源泉としていると言われることから,顧客は報酬(自尊心の向上)を提供してくれるFLEsに好感を抱き,惹きつけられる(Tuk et al., 2019)。次に,魅力は他者に対して影響を与える源泉であることから,顧客はFLEsに魅力を感じている場合,FLEsの主張や提案に従おうと動機づけられる(Lichtenthal & Tellefsen, 2001)。また,類似性は他者が自分の目標をサポートしてくれることを期待する手がかりとなり,結果として他者への魅力が高まると考え,類似性が関係性の質(満足と信頼を含む高次の概念)を高めるという仮説が検証されている(Crosby et al., 1990)。

説得に関する研究によると,顧客は類似した他者の選好を自分の選好と関係があるとみなすことで,類似他者からのアドバイスを有用と判断し,説得的であると受け止めやすい(Faraji-Rad et al., 2015)。また,人は自己と似た他者に惹かれる傾向があり,自己と似た他者と繋がりたいという欲求を満たすために他者のアドバイスに従うことがあるという(Faraji-Rad et al., 2015)。例えば,顧客と銀行員との間で外見が類似している場合,顧客の銀行員への信頼が高まり,金融情報だけでなく個人情報を共有しようとする(Herjanto & Amin, 2020)。銀行員は,これらの情報に基づき,顧客が感じる金融リスクを低減させるとともに,顧客の状況に適した金融サービスを推奨することでCSを高めると考え,外見の類似性がCSに正の影響を与えるという仮説が検証されている(Herjanto & Amin, 2020)。それゆえ,類似性の高いFLEsが顧客に新規性の高いアイデアを提案した場合,顧客はたとえ不確実性や負の驚きを知覚したとしても(Sok et al., 2018; Westbrook & Oliver, 1991),そのアイデアを有用と判断し,受容しやすくなる。顧客がアイデアを受容した結果,期待の正の不一致が生じ,FLEsのクリエイティビティがCSに与える負の影響は緩和されると考えられる。

一方,態度形成や説得に関する多くの先行研究では,自己が他者に対し非類似性を知覚すると,非類似他者の意見は自分の選好とは関係ないものとみなされ,非類似他者のアドバイスは割り引いて受け止められるか,無視されると想定されてきた(Tuk et al., 2019)。また,サービス組織のFLEsを対象とした研究では,FLEsと顧客との間で年齢・性別が一致していない場合,自己と似ていない外集団であることから,顧客ニーズを正確に知覚する水準が低下してしまうと論じられている(Homburg et al., 2009)。それゆえ,類似性の低いFLEsが顧客に新規性の高いアイデアを提案した場合,顧客は負の驚きを知覚するとともに,自身のニーズとは無関係と捉え,FLEsのアイデアを割り引いて評価するか,無視する可能性がある(Sok et al., 2018; Tuk et al., 2019; Westbrook & Oliver, 1991)。その結果,クリエイティビティがCSに与える負の影響を緩和しない,あるいはかえってCSを低下させると予想される。したがって,以下の仮説2が提起される。

仮説2:知覚された類似性が高い時の方が,知覚された類似性が低い時と比べ,初回利用時におけるサービス組織のFLEsのクリエイティビティとCSの負の関係を緩和する。

III. 研究方法

本研究では,ヘアサロンにおける初回利用時のサービス経験をコンテクストとした質問紙による場面想定法実験を採用した。その理由は,以下の3点である。第一に,初回利用の状況に限定することにより,過去の利用経験やクチコミの影響を統制できるとともに(Parasuraman et al., 1985),実験参加者のヘアサロンについての期待を条件間で一定にすることが容易になるためである(Eisenbeiss, Cornelißen, Backhaus, & Hoyer, 2014)。第二に,サービス・エンカウンターにおいて企業の能力を評価するために顧客が利用できる有形の手がかりは,企業の物理的な施設と従業員に限られる(Parasuraman et al., 1985)。写真を用いずにシナリオのみを提示することで,物的証拠や従業員の身体的魅力・服装などの剰余変数を統制した上で,因果関係を検証できると考えたからである。第三に,スタイリストは,顧客の多様なニーズ(クセ毛/直毛など)に対し,新しく適切なヘアスタイルを生成することが求められることから,一定のクリエイティビティが必要とされる。また,顧客がクリエイティビティや類似性を評価するには一定のサービス提供時間が必要と考えたことから(Dong et al., 2015; Madjar & Ortiz-Walters, 2008),ヘアサロンが適切と判断した。

本研究の実験デザインは,クリエイティビティ(高/低)×類似性(高/低)の2要因参加者間計画である。

1. 刺激の作成

まず,ヘアサロン利用者のCSについてシナリオを用いたオンライン質問紙実験を行っているEisenbeiss et al.(2014)を参考に,4つのシナリオを作成した。クリエイティビティと類似性は,それぞれ以下の文言によって操作を試みた。クリエイティビティ高条件では,以前カットコンテストに応募したときのスタイルをアレンジするという新しく有用性の高いアイデアを提示した。一方,クリエイティビティ低条件では,カタログのイメージになるべく近づけるという新規性の低いアイデアを提示した。類似性高条件では,スタイリストとは性別と年齢,クセ毛という3つの可視的な属性と,髪型の選好という内的属性を含む4つの属性が共通している。一方,類似性低条件では,スタイリストとは性別と年齢が異なり,髪型の選好についての言及はなく,共通する属性はない。4つのシナリオは,クリエイティビティ,類似性の操作に関する文言を除き,(1)従業員数,(2)ヘアサロンの環境や従業員の態度・行動・専門性,(3)個人的なニーズ(クセ毛であり,特に雨の日の朝はスタイリングがまとまらなくて困っている),(4)サービスの結果,などの文言を統一している(Brady & Cronin, 2001; Dong et al., 2015; Eisenbeiss et al., 2014; Parasuraman et al., 1985)。

シナリオを作成した後,スタイリスト歴10年以上のスタイリスト3名に,シナリオに違和感がないかどうかチェックを2回依頼した。また,インターネット調査による実験を複数回実施した経験のある研究者から,クリエイティビティ,類似性の操作に関して複数回コメントを得た。コメントを踏まえ,独立変数を操作するための文言の修正・精緻化を繰り返した。作成したシナリオは,付録に示した。

2. プレテストの目的と手続き

作成した刺激によって意図した通りに操作できるかどうかを確認するため,2020年3月に調査会社のモニターを対象にプレテストを行った。実験参加者は,郡部・諸島部在住者を除く,東京都内在住の20代女性(大学生・大学院生・専門学校生は除く)とし,4条件間でのサンプルサイズを均質化するべく,168票を回収した。回収後にクリーニング作業を行い,149名を分析対象とした。プレテストでは,(1)髪についての悩みの有無,(2)髪質(クセ毛/直毛),(3)直近1年間の美容室の利用頻度を尋ねた。実験参加者は,1年以内にヘアサロンを利用したことのある,髪についての悩みがあり,クセ毛の方という比較的同質なサンプルに限定した。その理由は,個人特性を統制するとともに,シナリオのリアリティを知覚してもらうためである。次に,実験参加者に,4つのシナリオの中から1つのシナリオを無作為に提示した。シナリオを読んだ後に,実験参加者は,クリエイティビティ,類似性,CS,シナリオのリアリティを確認するための設問(Eisenbeiss et al., 2014)にそれぞれ回答した。

プレテストで測定した構成概念は,表1に示す通り,クリエイティビティ,類似性,CSである。クリエイティビティについては,ヘアサロンのコンテクストにおいて顧客が評価するクリエイティビティの尺度を用いているDong et al.(2015)の8つの質問項目を,CSはDong et al.(2015)の3つの質問項目をそれぞれ採用した。類似性については,Netemeyer et al.(2012)の3つの質問項目について,ヘアサロンのコンテクストに合致するようワーディングを修正して利用した。

表1

構成概念と質問項目

注1:すべての質問項目は7ポイントのリッカート尺度(1:全く違う~7:全くその通り)で測定された。

注2:α,CR,AVEの値はプレテスト,本調査の順に記載。

注3:各構成概念(バックトランスレーション実施済み)については,設問間・選択肢ランダマイズを行った。

続いて,構成概念の測定尺度の信頼性と収束妥当性,弁別妥当性を検討した。表1に示すように,尺度の信頼性について,Cronbachのαと合成信頼性(Composite Reliability: CR)を用いて検討したところ,CronbachのαとCRの値はいずれも0.7を超えていた(Bagozzi & Yi, 1988)。次に,収束妥当性を検討するため,平均分散抽出(Average Variance Extracted: AVE)を用いて検討した。全ての構成概念のAVEは0.5以上と推奨される値を超えていたことから,収束妥当性を備えていると判断できる(Bagozzi & Yi, 1988; Fornell & Larcker, 1981)。弁別妥当性を検討するために,構成概念間の相関係数の中で最も高い数値とAVEの平方根の中で最も低い数値を比較したところ,最も高い相関係数を示したクリエイティビティとCSの0.40に対し,最も低いAVEの平方根はクリエイティビティの0.76であった。AVEの平方根が相関係数を上回っていることから,弁別妥当性が確認された(Fornell & Larcker, 1981)。構成概念の信頼性,妥当性が確認できたため,Eisenbeiss et al.(2014)に倣い,各構成概念の質問項目を平均して合成変数を作成した上で以降の分析を行った。

クリエイティビティ,類似性が意図した通りに操作できているかどうかを確認するためにt検定を行った。t検定の結果,クリエイティビティ高条件(M=5.14, SD=1.05)の方が,クリエイティビティ低条件(M=3.92, SD=1.14)と比べ,実験参加者はスタイリストのクリエイティビティの程度を高く評価していた(t(147)=6.79, p<0.001, 95%CI[0.87, 1.58], d=1.12)。類似性についてもt検定を行った結果,類似性高条件(M=4.64, SD=1.26)の方が,類似性低条件(M=3.30, SD=1.15)と比べ,実験参加者はスタイリストとの類似性の程度を高く評価していた(t(147)=6.28, p<0.001, 95%CI[0.85, 1.64], d=1.03)。最後に,シナリオの現実妥当性について検討したところ,平均以上であった(M=4.93, SD=1.48)ことから,シナリオは十分なリアリティを備えていると言える。

以上の結果から,作成したシナリオは,十分に現実妥当性があり,またクリエイティビティ,類似性を意図した通りに操作するための適切な刺激であると判断した。

IV. 本調査

1. 本調査の設計と手続き

プレテストを踏まえ,2020年5月に調査会社のモニターを対象に本調査を実施した。実験参加者は,郡部・諸島部在住者を除く,東京都内在住の20代女性(大学生・大学院生・専門学校生は除く)である。実験参加者は600名(150名×4条件)に達した時点で調査を打ち切った。回答に用いるデバイスはスマートフォンに限定した。なお,プレテストの回答者,理容美容業界の従事者は,スクリーニング調査で除外した。実験参加者は,1年以内にヘアサロンを利用したことのある,髪についての悩みがあり,クセ毛の方という比較的同質なサンプルに限定した。サンプルを限定したのは,独立変数以外に従属変数に影響を与える可能性のある個人特性を統制しつつ,シナリオのリアリティを知覚してもらうためである。データを回収した後にクリーニング作業を行い,操作がうまく行われなかった回答者(美容室を訪れた回数について2回以上にチェックした方)14名,同一の回答が続く回答者28名を除外した。その結果,558名を有効回答として以降の分析を行った。

本調査は以下の手順で実施された。「ヘアサロン利用者の消費者心理に関するアンケート調査」という題目の下,調査の趣旨や回答の際の注意事項,代表者の所属と氏名,連絡先を提示し,納得した方は回答画面に移行した。実験参加者に,「以下のストーリーを読み,あなたがストーリーのお客様であると想像しながらアンケートにお答えください。」と教示した上で,実験参加者のヘアサロンについての期待を条件間で一定にする(初回利用に統一する)ため,Eisenbeiss et al.(2014)を参考に,以下の導入シナリオを提示した。「あなたは新しい市に引っ越してきたばかりで,髪を切ってもらう場所を探しています。先日美容室のチラシが郵便受けに入っていたのを思い出し,手に取ります。チラシの美容室は,平均的な価格(格安サロンでも高級サロンでもない)であることから,あなたは予約することにしました。」次に,実験参加者に,4つのシナリオの中から1つのシナリオを無作為に提示した。シナリオを読んだ後に,実験参加者は,クリエイティビティ,類似性,CSの各質問項目,操作チェックのための設問である,(1)この美容室を訪れたのは何回目か(1回目/2回以上)(Dong et al., 2015)。(2)提示されたシナリオは情景を思い浮かべやすかったか(1:全く違う~7:全くその通り)にそれぞれ回答した(Eisenbeiss et al., 2014)。最後に,代表者の所属と氏名,連絡先を再度提示することで実験参加者からの連絡手段を確保し,実験を終了した。

本研究で用いた構成概念と質問項目は,表1に示す通り,クリエイティビティ,類似性,CSである。プレテストと同様,クリエイティビティ,類似性,CSについて,構成概念の測定尺度の信頼性と収束妥当性,弁別妥当性を検討した。尺度の信頼性についてCronbachのαとCRを用いて検討したところ,CronbachのαとCRはいずれも0.7以上と推奨される値を上回った(Bagozzi & Yi, 1988)。収束妥当性についてはAVEを用いて検討を行い,いずれも0.5以上と推奨される値を超えていたことから,収束妥当性を備えていると判断できる(Bagozzi & Yi, 1988; Fornell & Larcker, 1981)。弁別妥当性について,AVEの平方根と構成概念間の相関係数を比較することで判断した。構成概念間の相関係数の中で最も高い相関係数がCSと類似性の0.47であったのに対し,最も低いAVEの平方根はクリエイティビティの0.82であった。AVEの平方根が相関係数を上回ったことから,弁別妥当性が確認された(Fornell & Larcker, 1981)。構成概念の信頼性,妥当性が確認できたため,Eisenbeiss et al.(2014)に倣い,各構成概念の質問項目を平均して合成変数を作成した上で以降の分析を行った。

2. 本調査の分析結果

まず,クリエイティビティ,類似性が意図した通りに操作できているかどうかを確認するためにt検定を行った。クリエイティビティについてt検定を行ったところ,クリエイティビティ高条件(M=5.03, SD=1.01)の方が,クリエイティビティ低条件(M=3.90, SD=1.28)と比べ,実験参加者はスタイリストのクリエイティビティの程度を高く評価していた(t(556)=11.58, p<0.001, 95%CI[0.94, 1.32], d=0.98)。また,類似性についても同様にt検定を行ったところ,類似性高条件(M=4.21, SD=1.39)の方が,類似性低条件(M=3.51, SD=1.25)と比べ,実験参加者はスタイリストとの類似性の程度を高く評価していた(t(556)=6.26, p<0.001, 95%CI[0.48, 0.92], d=0.53)。さらに,シナリオの現実妥当性について検討したところ,平均以上であった(M=5.43, SD=1.23)。したがって,プレテストと同様,本研究で使用したシナリオは十分に現実妥当性があり,またクリエイティビティ,類似性を意図した通りに操作するための適切な刺激であると判断した。

次に,CSを従属変数とする2(クリエイティビティ:高/低)×2(類似性:高/低)の二元配置分散分析を行った6)。分析の結果,クリエイティビティの主効果は統計的な有意差が確認された(F(1, 554)=5.30, p=0.022, η2p=0.009)。したがって,仮説1は支持された7)。しかしながら,クリエイティビティと類似性の交互作用については,統計的な有意差が確認されなかった(F(1, 554)=1.39, p=0.239, η2p=0.003;図1)。したがって,仮説2は支持されなかった。

図1

二元配置分散分析

注:図中のエラーバーは標準誤差(±1 SE)を表す。

3. 考察

まず,仮説1について検討する。仮説1は予想通り支持された。クリエイティビティ低条件では,カタログのイメージになるべく近づけるという新規性の低いアイデアが提示された。そのため,顧客は驚きといった感情を伴うことなく期待が満たされたと判断し,満足を認知的に評価したと考えられる(Stock et al., 2017; Westbrook & Oliver, 1991)。一方,クリエイティビティ高条件では,以前カットコンテストに応募したときのスタイルをアレンジするという新規性の高いアイデアが提示された。新規性の高いアイデアは既存のアプローチや過去の経験からの逸脱を意味することから(Dong et al., 2015),顧客に不確実性や負の驚きをもたらすことになる(Sok et al., 2018; Westbrook & Oliver, 1991)。それゆえ,驚きは直ちに不満足をもたらす訳ではないとはいえ(Westbrook & Oliver, 1991),負の驚きを知覚した分,CSがやや低下したのではないかと考えられる。

次に,仮説2について検討する。仮説2が支持されなかった解釈として,類似性はFLEsの魅力を高めなかったことから,FLEsのアイデアは割り引いて評価されたために,初回利用時におけるサービス組織のFLEsのクリエイティビティとCSの負の関係を緩和しなかったと考えられる。上述したように,顧客はFLEsに対して類似性を知覚すると,FLEsへの好感や魅力が高まり,類似したFLEsの提案や意見に従おうとするようになると指摘されてきた(Faraji-Rad et al., 2015; Tuk et al., 2019)。類似性低条件では,顧客とスタイリストとの間で共通する属性はなかった。上述の議論に基づけば,顧客はFLEsとの類似性を低いと知覚したために,FLEsへの魅力が高まらなかった。それゆえ,類似性の低いFLEsが新規性の高いアイデアを提示した際,顧客はそのアイデアを割り引いて評価したために,CSに影響を与えなかったと考えられる。一方,類似性高条件では,顧客とスタイリストとの間で性別と年齢,クセ毛,髪型の選好という4つの属性が共通していた。このことから,FLEsへの魅力が高まってもよさそうである。本研究ではシナリオのみを刺激として用いたことから,類似性を操作するために,性別と年齢,クセ毛といった,可視的で認識しやすい属性を重視した(Herjanto & Amin, 2020)。しかし,可視的な属性は認識しやすい一方で,影響は弱いと指摘されてきた(Lichtenthal & Tellefsen, 2001)。そのため,先行研究とは異なり,外見が類似するからといって,必ずしもFLEsへの魅力が高まらなかったのかもしれない。

まとめると,類似性の高いFLEsが新規性の高いアイデアを提示した際,一定の有用性を感じられることから顧客はアイデアを受容するとはいえ,新規性の高いアイデアに伴う不確実性や負の驚きをより強く知覚したことにより,CSを低下させたのではないかと考えられる。

V. おわりに

1. 理論的貢献と実践的示唆

本研究の主たる理論的貢献は,ヘアサロンをコンテクストとする場面想定法実験により,初回利用の場合,FLEsのクリエイティビティがCSに負の影響を与えることを経験的に明らかにしたことである。先行研究では,クリエイティビティは良いものであり,常に高めるべきであると自明視されてきた(Anderson et al., 2014)。この前提に基づき,近年FLEsのクリエイティビティがCSに正の影響を与えることを示す実証研究がいくつか行われてきた(Dong et al., 2015; Gilson et al., 2005; Martinaityte et al., 2019)。しかし,Gilson et al.(2005)では仮説は支持されておらず,上述の前提に反して必ずしも一貫した結果が得られていなかった。また,先行研究では,FLEsが顧客を喜ばせようと新たなアイデアを試そうとすると,標準的なサービス提供のように確立されていないことから,正確性が低下することでサービス品質が低下し,顧客からの批判を受け,顧客を失う,といったクリエイティビティのダークサイドが指摘されてきた(Anderson et al., 2014; Gilson et al., 2005; Madjar & Ortiz-Walters, 2008; Sok et al., 2018)。しかしながら,多くの先行研究では上述の前提に立って研究が行われていたために,FLEsのクリエイティビティがCSに負の影響を与えるかどうかの経験的な検証はほとんど行われてこなかった。それに対し,本研究は,場面想定法実験を行い,初回利用の状況ではFLEsのクリエイティビティはCSに負の影響を与えることを経験的に明らかにした点で,クリエイティビティ研究の進展に寄与したと言える。

次に,本研究から導かれる実践的示唆について述べる。NBBA(2020)によると,若年顧客はスタイリストからヘアスタイルやヘアケアの提案を求めており,提案への満足度が高いことが示されている。この調査結果からも,FLEsのクリエイティビティがCSに正の影響を与えるというのは常に成り立つように見える。しかしながら,仮説1の結果を踏まえると,ヘアスタイルの変更はリスクが伴うにもかかわらず,顧客の期待を超えるサービスを提供すべく,初回利用の若年顧客に対して新規性の高い提案をすると,かえってCSの低下を招きかねないことに注意する必要がある。

2. 本研究の限界と今後の課題

本研究の限界および今後の課題として,以下の3点が指摘される。第一に,継続利用の状況との比較についてである。継続利用の場合,顧客との関係性や信頼が形成されることで,FLEsは顧客の問題に対して創造的な解決策を生成し,CSを高めることができると考えられる(Dong et al., 2015; Keh & Pang, 2010; Madjar & Ortiz-Walters, 2008)。とはいえ,FLEsのクリエイティビティの負の影響が初回利用のみに見られるかどうかは,継続利用の状況との比較分析を待たなければならない。また,本研究では平均的な価格の美容室であると全ての実験参加者に同一の情報を提示したものの,価格を手がかりにCSを評価した可能性がある(Parasuraman et al., 1985)。それゆえ,今後の研究では,価格の影響を考慮し,例えば高級サロンにおいて,初回利用/継続利用の各状況におけるクリエイティビティとCSの関係を検証することが望まれる。

第二に,媒介要因および個人要因についてである。媒介要因に関して,驚きという感情は正負両方の価を取りうるにもかかわらず(Westbrook & Oliver, 1991),先行研究ではクリエイティビティが正の驚きのみを引き起こすと想定されてきたことが考察にて示唆された。それゆえ,今後の研究では,驚きがFLEsのクリエイティビティとCSの関係を媒介するかどうか検証することで,先行研究における一貫しない結果を整合的に説明することが可能となるかもしれない。個人要因に関して,パーソナリティの5因子モデルの中で最も一貫してクリエイティビティと関連すると言われている次元が,経験への開放性である(Shalley et al., 2004)。経験への開放性次元の高い人は好奇心旺盛であり,伝統にとらわれないといった傾向があるのに対し,経験への開放性次元が低い人は保守的で,新しいものをあまり好まない傾向があるとされる(Shalley et al., 2004)。それゆえ,経験への開放性次元が低い人に対してFLEsが新規性の高いアイデアを提示した場合,アイデアの有用性よりも不確実性や負の驚きをより強く知覚し,CSが低下すると考えられる。本研究では比較的同質なサンプルに限定したとはいえ,今後の研究では,個人要因の影響を考慮し,クリエイティビティとCSの関係の境界条件を探索していく必要がある。

第三に,分析結果およびシナリオについてである。分析結果に関して,いずれの条件においてもCSが比較的高水準となっていた。1つの解釈として,仮想的なシナリオを用いたことにより,サービスの結果がCSに大きな影響を与えた可能性が考えられる(Abe, 2004)。場面想定法実験に付随する限界であるとはいえ,類似性の調整効果が支持されなかったのは,CSの値に起因するのかもしれない。また,本研究ではシナリオのみを刺激として用いたことから,類似性を操作するために可視的な属性を重視したものの,類似性の調整効果は支持されなかった。そのため,今後の研究では,可視的な類似性よりも影響が強いとされる内的類似性に焦点を当てて操作を行うとともに(Lichtenthal & Tellefsen, 2001),旅行代理店(Sok et al., 2018)やホテルといったホスピタリティ・サービスなど(Stock et al., 2017),他のコンテクストにおいて類似性の調整効果が確認されるかどうか再検討する必要がある。シナリオに関して,FLEsのクリエイティビティを検証する都合上,顧客はスタイリストの提案を受容するということで一定化した。しかし,顧客が提案を受容したという記述から,実験参加者はFLEsのアイデアの有用性を評価し,それがCSに影響を与えた可能性も考えられる。また,シナリオを実際のヘアサロンと比較して考えると,顧客は必ずしもFLEsの提案を受容するとは限らないことから,現実との乖離が懸念される。シナリオの現実妥当性は平均以上であったとはいえ,今後の研究では,知覚コントロール(Keh & Pang, 2010)を考慮した形でシナリオを精緻化するなど,現実との乖離を縮めるさらなる工夫が求められる。

謝辞

本研究は公益財団法人戸部眞紀財団からの研究助成を受けて実施された。ここに記して感謝申し上げる。本稿を改訂するにあたり,2名のレビューアーから大変有益なコメントを頂戴した。本研究の実験刺激を作成する上で美容師の方々に多くのご協力を賜った。また,調査設計にあたり,栗木契先生(神戸大学),地頭所里紗先生(龍谷大学)の両先生から多くの貴重な助言を頂戴した。

1)  Gilson et al.(2005)では,標準化とチーム成果およびCSの関係,クリエイティビティと標準化の交互作用仮説なども併せて検証されていることに注意されたい。

2)  組織行動論では,個人要因とコンテクスト要因の交互作用を含め,豊富な研究蓄積が存在する。詳細なレビューについては,Anderson et al.(2014)Shalley et al.(2004)を参照のこと。

3)  そのため,FLEsにとっては必ずしも独創的でなくとも,顧客がクリエイティビティを高く評価することがありえる(Dong et al., 2015)。

4)  例えば,Gilson et al.(2005)Martinaityte et al.(2019)では,チーム(あるいは支店)を単位として,クリエイティビティがCSに正の影響を与えるという仮説が検証されている。

5)  クリエイティビティとCSは,それぞれ顧客によって評価された(Dong et al., 2015)。

6)  類似性を操作すべく年齢を属性に含めたことで,類似性低条件の実験参加者は,類似性高条件の実験参加者と比べ,年齢の離れたFLEsの専門性をより高く評価していた可能性がある。そのため,専門性について(Brady & Cronin, 2001),シナリオを因子とする一元配置分散分析を行った。分析の結果,統計的な有意差が得られなかったため(F(3, 554)=0.33, p=0.806),専門性は条件間で一定であったと判断した。

7)  尺度に対する分析結果の頑健性を確認するため,CS(7ポイントのSD法)を従属変数とする二元配置分散分析を行ったところ,先ほどと同様,仮説1のみ支持された(F(1, 554)=5.26, p=0.022, η2p=0.009)。したがって,本研究の分析結果は,尺度に対して頑健であると言える。また,Eisenbeiss et al.(2014)を参考に,平均回答時間6分30秒に対し,回答時間が3分以下の実験参加者17名を除外した上で再度分析を行ったところ,先ほどと変わらず,仮説1のみ支持された(F(1, 537)=4.75, p=0.030, η2p=0.009)。

藤井 誠(ふじい まこと)

神奈川大学経済学部准教授。2011年北海道大学経済学部卒業。2013年神戸大学大学院経営学研究科博士前期課程修了。2016年同大学院経営学研究科博士後期課程退学。神奈川大学経済学部助教を経て,2019年より現職。専攻は,マーケティング論。

関 隆教(せき たかのり)

広島経済大学メディアビジネス学部准教授。2011年小樽商科大学商学部卒業。2013年神戸大学大学院経営学研究科博士前期課程修了。2016年同大学院経営学研究科博士後期課程単位取得後退学。大阪経済法科大学経済学部助教,広島経済大学経済学部助教を経て,2021年より現職。専攻は,マーケティング論。

付録

本研究で用いたシナリオ

References
 
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