Quarterly Journal of Marketing
Online ISSN : 2188-1669
Print ISSN : 0389-7265
Marketing Case
Avatar App Pokecolo:
For the Metaverse
Kosuke Mizukoshi
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2022 Volume 41 Issue 4 Pages 116-125

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Abstract

本稿では,アバターアプリ「ポケコロ」のサービス展開について,運営会社であるココネ株式会社の歴史とともに紹介する。インターネットの普及に合わせて注目されてきたアバターは,近年いよいよ充実したサービスを提供するようになっている。利用者からみても,アバターに対して課金し,着せ替えや模様替えを楽しむことはいまや当たり前の行動である。アバターアプリでは,ビジネスの仕組みとしてこうしたアイテムへの課金が重要になる。本稿では,デザイナーのチーム体制によるアイテム開発の仕組みとともに,利用者のコミュニケーションとアイテムの結びつきを確認する。こうしたアバターアプリの発展は,メタバースと呼ばれるようになった仮想空間の今後の可能性と強く結びついている。

Translated Abstract

This paper introduces the service development of the avatar application “Pokecolo,” along with the history of the operating company Cocone Co., Ltd. Avatar has attracted increasing attention with the spread of the Internet, and has begun to provide various services in recent years. From the viewpoint of the user, it is simple to change the avatar skin and enjoy dressing them up. From the company side, it is important to develop a business model to manage the content. This paper examines the connection between user communication and content, as well as the mechanism of content development by teams of designers. The progress of avatar apps is strongly linked to the possibility of virtual space, which has come to be referred to as the Metaverse.

アバターアプリ「ポケコロ」

出典:ココネ株式会社提供

I. アバターアプリ「ポケコロ」

2020年からのコロナ禍では,巣ごもり消費といった言葉に示されるように,人々は自宅で過ごす時間を増やし,自宅でできる消費行動の需要が高まった。ゲームやアプリはその一つであり,任天堂の「あつまれ動物の森」は世界的にも大きなブームともなった。2021年9月に10周年を迎えたココネ社のアバターアプリ「ポケコロ」も同様であり,コロナ禍以前から女性を中心に人気を集めてきた同アプリもまた,多くの利用者が集まることになった。2020年末までに累積登録者は2,000万に達している。

ココネ社自体も,「ポケコロ」を中心的なサービスとしながら後続のサービスとなる「ポケコロツイン」を始め,ディズニーと協業した「ディズニー マイリトルドール」や同様にサンリオと協業する「Hello Sweet Days」などアプリの開発を進め,成長を続けている。図1のとおり,創業当初3名だった社員は,2021年11月時点で本社630名,グループを含めると899名に達した。アプリ開発を中心としながらも,社員の多くはデザイナーであり,全体の約45%を占めるという。このことは,「ポケコロ」をはじめとする今日的なゲームやアプリの特徴を示してもいる。「ポケコロ」にとって重要な要素はイラストであり,アバターの着せ替えを楽しみ,「ポケコロ」での生活を充実させるための「服」や「家具」である。ゲームやアプリは技術開発だけで成り立っているわけではない。

図1

ココネ社の社員数の推移

どのようにして「ポケコロ」は発展し,どのような特徴を持っているのか。そしてこうした特徴は,コロナ禍を経た新しいサービスの可能性としてどのような意味を持っているのか。以下では確認していくことにしたい。

II. 英語学習サービスからのアバターサービス

ココネ株式会社は,2007年,NHN Japan株式会社出身のエンジニアを中心としたメンバーにより,オンライン英語学習における研究開発を主要業務とする「VSC7株式会社」として設立された。2008年5月には,早速オンライン英語学習サービスのプロトタイプ「entoy」を智学館中等教育学校に提供を始めた。

この英語学習の研究開発を手掛けた端緒には,会長である千良鉉(チョン・ヤンヒョン)の慶應義塾大学大学院時代の恩師であった深谷昌弘名誉教授と田中茂範名誉教授の影響がある。千の修士論文タイトルは「認知における助詞の働きに関する日韓比較研究」であった。深谷教授は経済学が専門であったが,その中で財政政策などを研究するうちに,合意形成のコミュニケーションに興味を持つようになった。一方で,田中教授は認知意味論,コミュニケーション論,認知言語学を英語教育に取り入れた学習法を研究していた。その後の智学館中等学校でのサービスのプロトタイプ提供は,田中教授が中学校の英語のカリキュラム策定に参画していたことが影響していた。

2008年7月,英語学習サービス「ココネ」がクローズドベータ版で開始され,12月には一般オープンとなった。合わせて,この間の9月に商号が「ココネ株式会社」に変更された。ココネは,「ココロ,コトバ,ネットワーク」の頭文字をとったものである。

英語の学習サービス「ココネ」では,学習を促進するためのゲーム的要素としてアバターが当初より実装された(図2)。「ココネ」にログインすると,利用者自身のプロフィール部分にアバターが表示される。このアバターは,学習の進展によってアイテムを入手し,カスタマイズすることが可能だった。また,プロフィール画面だけではなく,アバターを用いた学習コンテンツも用意された。代表的なものに「アニメで日常」がある。これは日常的な会話のやりとりを学ぶため,実際に英語がつかわれる状況をアバターによるアニメーションとして再現するものであった。

図2

英語学習サービス「ココネ」(右側に全身が表示されているのが利用者のアバター)

出典:ココネ社

今日ではゲーミフィケーションと呼ばれるように,学習はもとよりさまざまな活動にゲーム的要素を組み込むことで利用者のモチベーションを促進できることが知られている。「ココネ」も同様の仕組みを持ち込んだといえる(Tanaka, 2011)。合わせて,アバターの仕組みも韓国において広まっていた背景があり(Ishii & Mizukoshi, 2006),NHN出身者が多かったココネはアバターの仕組みをより日本の文化に合わせていった。2002年ごろにはすでに,韓国ではゲームを有利に進めるためにアイテムが購入される傾向があったのに対し,日本では自分を着飾ったりコミュニケーションを楽しむために購入される傾向がみられたという。

アバターでは,基本的なシステムとして,パーツの入れ替えを通じて様々な見た目のキャラクター生成が行うことができるとともに,アニメーションの作成も可能であった。このさい,アバターは「アニメで日常」での自然な動きを再現するために,手足の指関節を除いて,ほぼ生身の人間と同じ程度の関節の動きが再現できるよう,パーツの分割がされていた。また,アバターはボタン一つで予め決められたいくつかのアクション「笑う」「あいさつ」等をする機能もあり,言葉以外にも感情表現を視覚的に捉えることのできる機能も用意されていた。

会員登録をした利用者は,基本のアバターと自分でカスタマイズできる「おうち」という部屋を無料で入手できる。その上で,アバターを着せ替えるための服や顔,部屋を飾るためのアイテムなどは,課金アイテムとして販売するものと,英語学習で一定のレベルに到達するなど,なんらかの条件によって付与されるリワードとして提供されるものがあった。

その後,さらにこれらのアバターとは別に,よりかわいく,コミュニケーション用のアバターが考えられた。そして,2010年12月にはユーザー同士のコミュニケーションを充実させる目的で新たなサービスとして「まぁる」が追加された。「まぁる」では,複数の利用者がアバターを通じて同時に集まれる場所として,学校の教室を模した「ココネ学園」も用意された。田中教授がアバターとして参加し,講義が行われたこともあった(Tanaka, 2011)。こうした新しい場所が作られたのは,大きく2つの理由による。一つは,アバターが集う場所として視覚的に様々な場所があるほうが楽しいと考えられたこと,もう一つは,英語を使う場所として「アニメで日常」のようなロールプレイなどができると考えられたことである。

ただし,英語学習サービス「ココネ」は2012年4月にサービスを終了することになり,「まぁる」や「ココネ学園」のようなアバターがコミュニケーションできる場所の実装はこれ以上は行われなかった。一方で,英語学習サービス自体は,現実世界において,2017年にバイリンガルとモンテッソーリ教育を取り入れた幼稚園「インターナショナル モンテッソーリ ミライキンダーガーテン」開園とつながった。現在も100人以上が通園している。

III. ポケコロの開発背景と世界観

「ココネ」のサービス展開が進められる中,2010年ごろからは,PCベースではなくスマートフォンに向けたアプリの開発が始まるようになった。当初リリースしたのは,「ココネ」で提供していた英語学習ゲームをスマートフォン向けにアレンジしたものが中心だったが,それだけではなく,「まぁる」のようなアバターとコミュニティを中心としたサービスの開発も進められた。「まぁる」のアバター制作にあたっては,「アニメで日常」での制作経験がすでに生かされていた。アバターを着飾るためのアイテムデータ作成を容易にするために,「アニメで日常」で使用していたキャラクターからは関節の数が削減されるなど,利用者の満足を損なわずにスマートフォンに合わせていく仕様が様々に検討された。

こうした中,スマートフォン向けに展開するサービスとして「ポケットコロニー」の開発がスタートし,2011年9月26日にiOS版がリリースされた(Android版は2012年5月)。このサービスが「ポケコロ」である。ポケコロは,利用者のポケットの中で暮らしているというコロニアンたちが主人公である(『ポケコロ ときめきファンブック』)。このコロニアンたちは,もともと宇宙にあるドナネットというドーナツがたくさん取れた星に住んでいた。しかし,ドーナツが枯渇してしまったためにコロニーに乗って地球にやってきた小人たちという設定になっている。英語学習サービスであった「ココネ」がより現実的な利用者に即したアバター設定であったのに対し,ポケコロではよりゲームらしく仮想的な世界が設定されることになった。

ポケコロは,スマホで使えるアバターを作ろうとして開発が始まったことから,スマホ自体ポケットに入る手のひらサイズであり,そのまま小さいサイズのポケットに入る星と,そこに住む小人がイメージされた。PCの場合はマウスやキーボードでクリックして遊ぶことになるが,スマホでは小人自身を直接指で触って操作する。その指で触った反応をどうやって見せたらイキイキとしてかわいく見えるか,楽しいかなどを苦労しながら考えたという。

ポケコロでは,ドーナツがゲーム内通貨として利用されている。これは小さな星のかわいい住人たちが欲しいものはなにかということから構想された。お金でもなく,宝石でもないものとして,見た目のかわいさもあってドーナツが選ばれた。5円玉に似ているところもぴったりだとされた。

サービスの提供が始まり,実際に運営する中でコンテンツの種類も増えていった。最初は,利用者が癒されるようなゆるいイメージが追求されてきた。しかし,それだけではだんだんと物足りなくなってきたため,途中からはレベルやクエスト,ガチャといった要素を増やし,遊び要素が盛り込まれるようになった。同時に,例えば創成期にあったスマホを傾け綱渡りするようなミニゲームはなくなり,アイテムの強化が進んだ。海外進出や,アートのようなデザインも増え,アニメーションについても進化している(図3,図4)。

図3

2011年のポケコロ(ポケットコロニー):クリスマスのイメージ画像

出典:ココネ社

図4

2020年のポケコロ:クリスマスのイメージ画像

出典:ココネ社

例えば,アバターが住むコロニーには,わんことにゃんこというペットが用意されている。これらは,もともとはわんこの星・にゃんこの星という別の部屋として用意されていたコンテンツである。世話をもっとしたいという意見や,他の人にも見せたいという意見が多かったため,メインとなるポケコロの星と一緒になった。これにより,自分のわんこやにゃんこを一緒に連れて行けるようにもなった。わんことにゃんこもまた,コロニアンのアバターと同様に着せ替えをさせて遊ぶことができる。

IV. ローンチ後の展開

「ポケットコロニー」のリリース直後の利用者は,英語学習サービス「ココネ」の「まぁる」利用者が多かったかもしれないという。その後,サービス提供1周年となる2012年9月には,「ポケットコロニー」はAppStoreセールス8位になる。同時期,1周年のキャンペーンとして,かなりリワードの条件がよい「友だち招待キャンペーン」を行ったことが影響した可能性がある。

ココネ社では,2013年ごろまでは広告出稿をそこまで強めておらず,自然に利用者数が増えていくのに任せていた。その後,アプリの改修もして大型プロモーションに耐えられる準備をしたことで,テレビCMの実施をすることとなった。クリエイティブにも力を入れ,スマホの中の私だけの星というポケコロの世界を伝えるために,3DCGとポケコロの歌も作った(https://www.youtube.com/watch?v=BFcpqis1hzg)。テレビCMの効果は大きく,成長曲線が一段上がったという。テレビCMをしなければ自然増加ベースでは1年かかるものを,1回のCMキャンペーンで手に入れることができた。この成功体験をもとに,ポケコロでは概ね毎年テレビCMのキャンペーンを2014年から2018年まで実施するようになった。2019年以降は,SNSやソーシャルメディアの普及を受け,テレビよりもYoutubeなどのデジタル・マーケティングを中心に広告を展開している。

2014年には名称をわかりやすく「ポケコロ」に変更した。このころになると,Google社より女性向けのアプリ(非ゲーム)として注目されるようにもなった。Google社のカワイイアプリというキャンペーンCMでも,ポケコロは採用された(https://www.youtube.com/watch?v=O5J-l_KkB14)。これらはマーケティングや広報の結果ではなく,ある日突然「ポケコロ」が選ばれたことがマーケティング部門に伝えられたという。当初より,利用者は若年層が多かったが,アバターアプリとしてはLINE PLAYやピグパよりも先発であることと,女性の利用者に特化して「かわいい」を追求した点が受け入れられたのであった。

2014年後半には,宝島社の編集者より「ポケコロ」の書籍化をしたいとの提案もあった。女性向けのアプリの成功サービスとして注目され,書籍化の第一弾も好評だったため第三弾まで刊行された。同時期,2014年ごろから,サービス拡大を目指して海外展開が開始される。結果的には,韓国語版以外は大きな市場を見いだせずに撤退することとなったが,2021年現在,韓国版ポケコロ「ポケミニ」は運営中であり,このときの経験を元に,サンリオキャラクターを使った「ハロースイートデイズ」は繁体字圏(台湾,香港,マカオ)・韓国・北米でリリースしている。

2015年11月度には,iOSとgoogle非ゲーム部門で売上世界7位となる。ゲーム以外で収益力のあるカテゴリが登場しなかったところで,アバター(仮想世界SNS)は注目を集めはじめた時期でもあったという。最近では,音楽やテレビなどのサブスク,マッチングアプリやマンガが登場しているが,それでもアバターの収益力は顕在である。

2019年には,NHN JAPANよりNHNハンゲームを買収し,完全会社化してcocone fukuokaとするとともに,ハンゲームの名称をハンゲに改めた。ハンゲームは,coconeの会長である千がもともとメンバーだった会社であり,2000年に日本法人を立ち上げ,アバターの課金システムを開始したのはまさに千であった。ハンゲームは,日本で始めてアバターの課金サービスを行っていた(Nojima, 2008)。買収の背景には,アバターの重要性がここにきていよいよ再認識されるようになっていたことが挙げられる。

V. アバターを着せ替えて楽しむ

ポケコロでは,サービスの利用者は自分なりにアバターを着せ替えして楽しむとともに,他の利用者の部屋を気ままに訪問をして,同様に自分なりの組み合わせをしている人の感性を楽しむ。自身の着せ替えが楽しいという利用者もいれば,人に見てもらうことや,あるいは人のアバターを見に行くことが楽しいという利用者もいる。「展示場に作品を飾るよりは行って鑑賞する。」「普段の自分にはできない格好へと七変化する。自分だけの箱庭を育んでいる感じ。」だという。「次に引っ越すときこそは必ずペット飼育可のマンションで本物の猫と一緒に住む。」というように,現実世界への影響も見られる。

「ポケコロ」を始めとするサービスは,ココネではCCP(Character Coordinating Play)と呼ばれている。CCPの特徴は,アバターの着せ替えや部屋の模様替えから始まって,アイテム所持数が増えるにつれ,アイテムの交換,コーディネートの発表などを楽しむ利用者が増えていくことにある。具体的な遊び方としては,掲示板で設定を決めてごっこ遊びをしたり,アイテムのプレゼント会をする利用者もいる。アイテムのプレゼント会の主催者はたくさんの利用者を集めて,抽選会を実施するなどして,イベントの開催運営を楽しんでいるという。運営側も,様々なイベントや施策を用意しているが,基本的にはアイテムの着用・収集と交換,そこから生まれる利用者同士のコミュニケーションのいずれかの部分を強化することが目的となっている。人気のアイテムには,①似たようなアイテムがない,②使いやすい,③かわいさ,そして④付加価値が高いものが挙げられる。

主要な利用者は,20代以上の利用者と,それ以外に小中学生,高校生・大学生程度に分けることができる。これらの区分では,20代以上が主要な課金層であり,それ以下は無課金でアプリを利用する傾向がみられる。

小中学生の場合,サービス開始からしばらくの間は,学校の友だちと一緒に「ポケコロ」を遊んでいる様子もみることができた。しかし,近年ではリアルな友人関係のコミュニケーションはSNSに移行し,「ポケコロ」ではリアルのつながりとは関係のない遊び方が強まっているという。また,未成年者課金の問い合わせでも,小中学生が多く,高校生以上になるに従い少なくなってきているとされる。特に小中学生の場合は,両親のスマホで遊んでいるという場合もあり,勝手に課金してしまうなどした場合に保護者からの問い合わせもある。

高校生以上になると,利用者の遊び方は人それぞれであり,リアルな関係でつながることもあるが,そもそもつながりを求めないこともある。「ポケコロ」を始めたきっかけ(友だちに紹介された,CMや広告を見た)によっても違いがあるとともに,周囲の環境要因もある。アニメ・ゲームなどに親和性の高い周辺環境の場合,そういったグループを元にリアルでのつながりが持ち込まれることもあるが,そう多くはない。SNS等での発信も,リテラシーの獲得とともに抑制されているという。

20代以上の利用者は,中心的な課金者層でもある。起床後,出社途中,帰宅後,子ども対応後などの空き時間に起動する傾向がみられるという。リアルでの知り合いとの繋がりは求めていないことが多く,むしろリアルなつながりとは分けたいという意識が強い。

全体的に,「ポケコロ」では,アバターを自分の分身とみなす利用者が多く,リアルでのつながりはあまり求めない利用者が増えている。しかし,「ポケコロ」の中の世界でのコミュニケーションは活発に行われている。掲示板や1:1チャットで,利用者の7割以上がアプリ内のみのコミュニケーションサービスを利用しているとみられている。

こうしたサービスの利用例として,ある成人利用者(おそらく子供がいる方)は,平日の昼間「ポケコロ」内の掲示板などをみて,あきらかに未成年者と思われる利用者がいた場合には積極的に話しかけているという。なぜならその時間に書き込みをしているということは,何らかの事情で学校に行っていない可能性が高いからである。そこで悩みを聞いたり,学校に行くサポートができればよいと考えている。類似した事例として,不登校経験の高校生は「ポケコロ」内で相談にのってくれる利用者がいたという。そういった利用者と話したり,愚痴をきいてもらったり,慰められたりすることによって,学校に戻ることができた。親や学校からの働きかけではなく,匿名で本当は誰なのかもわからないが,それでも親身に自分のことを心配してくれる人が世の中にはいることがわかって心強くなったとされる。

VI. コミュニケーションと課金

利用者間のコミュニケーションとして興味深いサービスの一つに,なぐさめの星がある。なぐさめの星は,匿名で手紙を書きボトルに入れて流したり,他の人から流れてくるボトルを読んでメッセージを送ったり,手紙で交流するコンテンツである。「海岸に漂着したところを発見されるメッセージボトル」に擬したインターフェースを元に,相談者はメッセージボトル(流れてきたときに目立つ有料ボトルもある)を流し,回答者は流れてきたメッセージボトルを開封して読むことはもちろん,そのメッセージにコメントをつけることができる。さらにそのコメントに対し,相談者は回答者に対して感謝の花を送ることができ(感謝の気持ちによっては有料の花もある),送られた花は回答者の「なぐさめの星」に咲き誇るように画面を飾る。

なぐさめの星は,他の星とは少しテンションが異なる。少し大人っぽい雰囲気で,癒しのポイントがあるデザインになっている。手紙を入れて流すボトルと,メッセージが来た時に返す花が重要になる。ボトルは興味を引く見た目とともに,サプライズ感も工夫している。花は,「ありがとう」という気持ちがより伝わるデザインにすることが大切になる。

「なぐさめの星」の元となるサービスは,韓国法人が単独のアプリ「토닥토닥(トダトダ:なでなで,よしよし,のような意味)」としてリリースしていた。登録した利用者は,愚痴や不安,悩みを匿名で投稿することができ,それを目にした別の利用者が慰めの言葉をかけることができる,というサービスであった。このアプリの基本的な構造を元にして,ビジュアルを変更したアプリ「だいじょ部」が日本でも2012年2月29日にリリースされ,さらに「ポケコロ」では2014年の7月に「なぐさめの星」が新規コンテンツとして実装された。

設立の際に掲げていたように,ココネは言語によるコミュニケーションを大切にしてきた。また,「召命」という呼び名で掲げている社是のような言葉として「感性をカタチに。感性を身近に。」もあった。「なぐさめの星」は,設立以来ココネが大切にしている言語によるコミュニケーションと,共同体の中での言葉の使い方に気を配ろうという社内文化や,感謝の度合いを視覚的な花として表現するという,「感性をカタチに。」の部分を具現化したサービスであると捉えられている。

2015年の3月11日から16日までに行われたイベントでは,東日本大震災を思いメッセージを流そうと無料でボトルを配布した。普段の手紙は自分の悩みが主流だが,このときは思いやりある手紙が多く流された。この際のボトルは灯篭のような光るデザインで,5万通以上流れたら100万円を寄付することにしていたところ,3日間で達成されたという。

VII. アイテムの製作

コミュニケーションを考える上でも,そしてアバターアプリをビジネスとして捉えた場合にも,重要になるのはアイテムの存在である。ポケコロのアイテムは,その当初から「商品企画」として多くのクリエイターが関わって作られている。その工程は大きく4つであり,①アイデア考察,②ラフの作成,③PCでデザインを清書,④アニメーションを作成する。個々のクリエイターがそれぞれの担当アイテムを制作することになるが,全体の作業としてはチームで進められる。

まずアイデア考察では,資料などをもとに全体のイメージ,方向性,カラーなど制作するアイテムを会議で決定する。例えば,人気テーマとなった「魔法とお菓子の森」は,童話「ヘンゼルとグレーテル」をアレンジしており,同様に,「マーメードシンフォニー」は「人魚姫」をアレンジしたコンテンツとなっている。アイデアが決まると,アートディレクターとデザイナーが話し合い内容を詰める。続いて,下絵のラフを作成する。紙に手書きしたり,最初からPCで書くなど,手法はデザイナーによって様々である。その上でPCでデザイン画を清書する。色付けを行い,飾りをつけるまでの工程となる。最後にアニメーションを作成する。デザイナーが作ったイラストを見ながら,アニメーション担当が動きをつけていく。

用意されたアイテムは,イベントで配布されることもあればガチャを通じて販売されることもある。ガチャはスーパーレア,レア,ノーマルに分かれており,一回につきおおよそ10種類から30種類程度で構成される。これらは,ICF(インテリア,コロニー,ファッション)からなる。それぞれ別々にカテゴライズして販売する形式の方が人気は高くなりやすく,売上なども期待できるという。提供確率は数にもよるが,スーパーレアが全体の4%程度,レアは18%程度,残りの72%程度がノーマルである。

特にファッションを考える場合には,ゲームというよりはアパレルの側面が強くなる。ただ人気を出すというだけであれば,定番となるピンクの色使いやフリルの設定,かわいくて使いまわせるものが良い。しかしながら,こうした定番だけでは飽きも生じ,面白さにも欠けるようになりかねない。このため,人気の高さよりもテーマを重視した開発や,それぞれのテーマに応じた販売の見込みが立てられている。クリスマスなど定番のテーマはすでに何度も繰り返されているが,その中でも毎回新しさが検討される。

もちろん,現実のアパレルのようにトレンドやブームが生じるわけではない。現実とは異なり,アイテムは基本的に劣化することはなく,むしろ期間限定で販売された過去のアイテムは希少価値が増していくこともある。利用者の中には,将来価値があることを期待して同じアイテムを複数購入する人もいる。2つ目以降の同じアイテムは他の利用者と交換することができるからである。

アイテムだけではなく,クリエイターはローディング中の待機画面となるスプラッシュも作成する。スプラッシュのデザイナーは,社内で募集をかけ審査されて決まる選抜式である。応募するデザイナーは複数のイラストパターンを最初に提案する。審査後,当選したらイラストの作成に取り掛かる。その手法工程はアイテムと同じように人によってさまざまである。スプラッシュはアニメーションをつけないため,デジタル画ができれば完成となる。

VIII. デザイン力の強化

アイテムのデザインは年を経るごとに進化している。画質の向上はもちろんであり,当初は直線によるドット表示だったアイテムも今ではベジェ曲線が用いられており,滑らかに表示される。画像のレイヤーの数も増え,複雑な表現ができるようになった。衣服を重ねていくと見えなくなる下着のようなアイテムも用意され,それによって特定のアクションができるようになるなど工夫がなされている。これらを実際に制作するためには,デザイナーとエンジニアによる協業が重要になる。ココネ社では,デザイナーが作りたいものを作るという発想のもと,エンジニアによる技術開発も積極的に行われている。

アバターが着用する衣服や,「ポケコロ」の起点となる利用者個々の星,部屋の装飾をするアイテムを制作するデザイナーの人員拡充として,2015年には仙台にオフィスが設置された。この背景の一つには,2011年に起きた東日本大震災の影響がある。当時,東北地方に貢献する何らかの方法がないかと模索した際,仙台にはデザイン系の専門学校も多くあり,彼らの仕事場も提供できるのではないかと考えたのだった。

「ポケコロ」サービスにおいては女性の利用者が約95%と多く,社内のアイテム制作デザイナーもほぼ全てが女性で占められていた(現在は100%)。2016年3月には,関西圏のデザイナーを採用することを目的として,京都オフィスを開設することとなった。その後,2020年になって仙台・京都のオフィスは場所としては閉鎖し,勤務していた社員は引き続き100%リモートワークとして継続雇用している。

デザイナーを集めるという意味では,ココネ社はアバターアイテムの制作を外注に出すことはしていない。フリーキーデザインやポリアンナグラフィックの両社制作のアイテムもリリースしているが,ともに社名をブランドとして掲示して販売している。

デザイナーは社内も社外も自らのペンネームをもっており,誰が作ったのかがわかる販売をしている。各アイテムにはデザイナー名が明記されており,アイテムの詳細を確認するとデザイナー紹介をみることができる。これまでの作品をみられるに,利用者はデザイナーに対して応援メッセージを書くこともできる。先に述べた通り,顧客に届けるアイテムは,ただのデジタルデータではなく,現実のアパレル店舗で販売されるブランドの洋服や家具と同じものであって,顧客自身がファンになって購入するものだからである。誰が作ったのかわかる状態で制作してもらい販売するというシステムは,現在では「coconets」というサービスで,社外のデザイナーにアイテムを提供してもらう際にも取り入れられている。

このcoconetsのサービス開始時は,仙台,京都の地方オフィスも含め,出社して制作をするという働き方がスタンダードだった。そのため,拠点のある都市以外の場所に居住していながらアイテム制作を志すデザイナー志望の人々にとっても,メリットのあるサービスと捉えられていた。coconetsに収められたアイテムのデータは,デザイナー個人が設定したペンネームのようなものをつけて販売されるため,ブランド化し,デザイナー個人としてファンを獲得することもできる。仮想空間において,誰が作ったのかわからないただのデジタルアイテムではなく,特定のデザイナーが作って,利用者がファンになれるアイテムを販売する形態を取っている。

IX. 帰結

以上,本稿ではココネ社が提供するアバターアプリ「ポケコロ」の歴史とともに,アイテム制作や利用者のコミュニケーションについて紹介してきた。今日では,アイテムはアパレルと同様に企画され,開発され,販売されるようになっており,アバターの世界に彩りを与えるとともに,その世界に生きるアバターのコミュニケーションを活性化させている。

ココネ社では,ポケコロをはじめとしたアバターの可能性について,メタバースとして捉えている。メタバースとは,もともとメタ(超)とユニバース(宇宙)とを組み合わせた言葉であり,現実世界を超えたバーチャルを含む超世界を意味している。こうしたメタバースは,インターネットが広まるようになって以降,幾度となく注目されてきた(Ishii & Mizukoshi, 2006)。コロナ禍により,こうしたメタバースへの注目が改めて高まったとともに,着実に進行していくこの世界のメタバース化をみることができるようになっている。

メタバースは,高度な技術によって支えられており,それなくしては実現できない。その一方で,「ポケコロ」の発展が示す通り,人々が仮想空間でやりたいことは,根本的には現実世界とそれほど異なっているわけではない。この時,例えばアバターやアイテムの重要性が改めて注目されることになる。

謝辞

本稿の執筆に際し,ココネ株式会社渡邉辰也氏,調恵介氏から貴重な情報提供をいただきました。お礼申し上げます。

水越 康介(みずこし こうすけ)

神戸大学大学院経営学研究科博士課程後期課程修了,博士(商学)。専門はデジタル・マーケティング,ソーシャル・マーケティングなど。

References
  • Ishii, J., & Mizukoshi, K. (Eds.) (2006). Design of virtual experience: New horizon in internet marketing. Tokyo: Yuhikaku.(石井淳蔵・水越康介(編著)(2006).『仮想経験のデザイン インターネット・マーケティングの新地平』有斐閣)(In Japanese)
  • Nojima, M. (2008). Why do people buy shapeless items?: A business model of virtual worlds. Tokyo: NTT Publishing.(野島美保(2008).『人はなぜ形のないものを買うのか 仮想世界のビジネスモデル』NTT出版)(In Japanese)
  •  Tanaka,  S. (2011). The possibilities of online English learning: The case of Cocone. ARCLE, 6, 34–56.(田中茂範(2011).「オンライン英語学習の可能性「ココネ」を事例にして」『ARCLE』6, 34–56)(In Japanese)
 
© 2022 The Author(s).

本稿はCC BY-NC-ND 4.0 の条件下で利用可能。
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