Japan Marketing Journal
Online ISSN : 2188-1669
Print ISSN : 0389-7265
Special Issue / Invited Peer-Reviewed Article
Effects of Screen Contact with Digital Media on Perceived Control and Psychological Ownership
Soonho KwonHisashi KawamataTakanori Suda
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JOURNAL OPEN ACCESS FULL-TEXT HTML

2023 Volume 42 Issue 3 Pages 51-62

Details
Abstract

コード型モバイル決済サービス(以下,決済サービス)の普及とともに,各社によるポイント還元型のプロモーションが頻繁に行われている。そのため,ポイント獲得を目的とした短期的利用者が増えており,決済サービスの利用定着率の低さが課題となっている。本研究は決済サービス利用時におけるタッチ・インターフェースへの接触に注目し,コントロール感および心理的所有感の向上によって決済サービスの再利用意向を高められるかを検証する。2つの調査を実施した結果,画面への接触回数が増加する金額入力型の決済方法は(vs. 金額非入力型),決済サービスに対するコントロール感を高め,コントロール感の知覚は心理的所有感を高めることが示された。また,画面接触によって知覚された心理的所有感の向上は,決済サービスへの再利用意向を高めることが確認された。

Translated Abstract

With the spread of mobile payment services, reward point systems have been frequently promoted in recent years. Therefore, the number of short-term users who enroll for the purpose of earning reward points is increasing, although the low retention rate of mobile payment services has become an issue. This study examined whether or not perceived control and psychological ownership can enhance the intention to reuse mobile payment services by focusing on touch interface when using payment services. The results of these two studies revealed that payment methods requiring users to manually input the monetary amount, thereby using increased screen contact (as opposed to payment methods not requiring the input of a monetary amount), increased the sense of control over payment services, and that perceived control increased the sense of psychological ownership. In addition, it was confirmed that the improvement in psychological ownership caused by screen contact increases the intention to reuse the mobile payment service.

I. はじめに

近年,政府によるスマートフォンを利用した「コード型のモバイル決済サービス1)」(以下,決済サービス)の普及推進が取り組まれており,決済サービスの利用者は増加傾向にある。一方で,決済手段の利用定着率に注目すると,デビットカードや電子マネーと比較した場合,決済サービスの定着率は低く,その原因としてポイント還元プロモーションを目当てとする利用者の存在が指摘されている(Payments Japan Association, 2022)。また,キャンペーンやポイント還元率によって決済サービスのアプリケーションを2つ以上併用している消費者の存在も報告されており(AirTrip, 2020),プロモーションによる短期的利用やサービスのスイッチングによって顧客の継続的利用が促されにくい状況にある。

そこで本研究では,決済サービスの再利用を促進する要因として,決済サービス利用時における画面接触に注目する。日本における決済サービスの決済方法は,QRコード等を読み取った後,商品の金額を消費者自身が入力する「金額入力型」と,ワンタッチで決済が可能な「金額非入力型」の2つに大別される。先行研究では,タッチ・スクリーン(以下,画面)への接触は提示された製品への心理的所有感を高め(Brasel & Gips, 2014),心理的所有感の向上はサービスに対するロイヤリティの向上(Pino, Nieto-García, & Zhang, 2022)につながることが示されている。また,ある対象が自分のものであると知覚する程度を示す心理的所有感は,貨幣のような取引のための手段にも生起されることが明らかになっている(Sharma, Tully, & Cryder, 2021)。本研究で注目する決済サービスも取引のための手段であることから,決済サービスに対しても「私の決済サービス」という心理的所有感が生起されることが予想される。これらの先行研究を踏まえると,画面への接触回数が多くなる金額入力型は,金額非入力型に比べ,決済サービスに対する心理的所有感をより高め,再利用を促進させる可能性がある。したがって,以下では決済サービス利用時における画面接触の回数が心理的所有感および再利用意向に及ぼす影響について議論する。

II. 理論的背景

1. 心理的所有感とコントロール感

心理的所有感(psychological ownership)とは,対象を「私のもの(it’s mine!)」であると知覚することであり,消費者が対象に所有意識を持つ心理的状態を意味する(Pierce, Kostova, & Dirks, 2003)。心理的所有感は,デジタル製品(Atasoy & Morewedge, 2018)などの無形財,サブスクリプション・サービス(Danckwerts & Kenning, 2019)や公共財(Peck, Kirk, Luangrath, & Shu, 2021),借入金(Sharma et al., 2021)など所有権を持つことができない対象にも生起され,対象への評価や購買意図などを高めることから,マーケティング研究において注目を集めている(Morewedge, Monga, Palmatier, Shu, & Small, 2021)。

また,オンライン小売の拡大により,PCやスマートフォンなどの電子媒体を使用する購買行動が増えていることから,電子媒体のインターフェースへの接触2)(direct or indirect touch)や他人の手の画像や動画による代理接触3)(vicarious touch)など,実店舗において直接製品に触れるような物理的接触(Peck & Shu, 2009)とは異なる,オンライン環境ならではの触覚経験が心理的所有感の知覚に及ぼす影響に注目する研究が増えている。

接触が心理的所有感を高める理由として,コントロール感の影響が指摘されている(Pierce et al., 2003)。コントロール感(perceived control)とは,環境やモノを自分で制御できる範囲に関する主観的な信念や自由に使用できる能力を意味する(Furby, 1978; Skinner, 1996)。コントロール感は対象物を自分の一部として知覚させ,その結果として所有感が発達することから(Furby, 1978),コントロール感の知覚は対象に対する心理的所有感を高めることが確認されている(Bagga, Bendle, & Cotte, 2019)。例えば,製品を持ち上げることや動かすといった直接的な接触はコントロール感を高めるため(Pierce et al., 2003),消費者自身が製品を直接的に触れることができる,すなわち製品を制御することができる状態では,その製品に対して心理的所有感を知覚しやすい。

一方で,ECなどのオンライン環境では製品を直接触る触覚経験を得られないため,コントロール感の知覚を高めることが難しく,オフラインでの購買よりも知覚リスクが高まるという(Liu, Batra, & Wang, 2017)。以上の課題に対して,いかにオンラインでも触覚経験をもってコントロール感を高められるかに注目が集まっており,その手段の一つとして,電子媒体操作時のインターフェースへの接触が心理的所有感を高める可能性が議論されている。そこで,以下では電子媒体操作における接触と心理的所有感に関する研究について概観する。

2. 電子媒体の操作と心理的所有感

オンラインにおける購買には,PCやスマートフォンなどの電子媒体の操作が必要である。操作の際には画面やマウス,タッチ・パットなどのインターフェースに手が触れるが,これらインターフェースへの接触による触覚経験が,PCやスマートフォンに表示された製品への心理的所有感の知覚に影響を及ぼすことが明らかにされている。

Brasel and Gips(2014)は,電子媒体の操作時に指を使って画面に触る「接触の度合いが高いタッチ・インターフェース(high-degree of interface touch)」は,マウスやタッチ・パッドのような「接触の度合いが低いインターフェース(low-degree of interface touch)」よりも,画面に提示されている製品への心理的所有感を高める効果があることを示した。一方で,de Vries, Jager, Tijssen, and Zandstra(2018)はBraselらと同様に画面タッチとマウスを比較した実験を行っているが,心理的所有感の知覚におけるインターフェース操作の主効果は認められなかった。ただし,タッチ・インターフェース条件のみ,画像を360度回転させられるなど消費者が操作できる製品画像は,静止画像に比べて,心理的所有感を高めることが確認され,製品画像に含まれている触覚要素の影響が示唆された。

また,AR(拡張現実)やVR(仮想現実)などの新しいインターフェースを用いた研究も増えてきている。例えば,Brengman, Willems, and van Kerrebroeck(2019)により,ARはタッチ・インターフェースやマウスよりも心理的所有感を高めることが示された。また,Luangrath, Peck, Hedgcock, and Xu(2022)はVR空間において自分の動きに連動する仮想の手を利用した買い物を経験させる実験を行っている(Study6)。実験の結果,仮想の手を利用して製品に接触した場合,仮想の手を利用せず接触した条件に比べて心理的所有感が高まった。

3. 仮説

このように,先行研究では電子媒体の操作に伴うインターフェースへの触覚経験が心理的所有感に及ぼす影響について議論されてきた。一方で,先行研究ではいくつかの検討すべき点も残されている。そこで,本研究では以下3つの視点から先行研究の議論を拡張し,仮説を提示する。

1つ目は,使用される電子媒体の特性に関する議論である。これまでの電子媒体に関する比較研究では,「タッチ・スクリーン vs. マウス」などの操作方法が異なるインターフェースが用いられてきた。しかし,これらインターフェースは接触方法(直接 vs. 間接)によって得られる触覚要素が異なる。例えば,Brasel and Gips(2014)はタブレットの画面とマウス,タッチ・パッド3種類の媒体を比較しているが,画面に手を触れることとマウスを握るのではインターフェースから得られる触覚が異なる。そのため,電子媒体操作に伴う触覚経験と心理的所有感の関係をより厳密に議論するためには,接触方法を統一する必要があると考えられる。したがって,本研究はスマートフォン(タッチ・インターフェース)のみを用いることで,直接画面に指で接触する方法に限定して議論を進める。

2つ目は,心理的所有感知覚における接触回数の効果に関する議論である。本研究で注目する2つの決済方法のうち,商品の金額を消費者自身で入力する金額入力型は,決済ボタンを押すだけの金額非入力型よりも画面への接触回数が多くなる。先行研究では触覚の度合いの相違に注目してきたものの(Brasel & Gips, 2014),インターフェースに接触した回数の相違,すなわち接触の量の効果については議論されていない。画面への接触が心理的所有感を高めるのであれば(Brasel & Gips, 2014),画面への接触回数が多くなるほど,触覚経験の量が増加するため,心理的所有感の知覚効果は強まる可能性がある。また,お金のような決済のための手段に対しても「私のお金」という心理的所有感の知覚の程度が異なることが示されており(Sharma et al., 2021),同様の決済手段である決済サービスに対しても「私の決済サービス」という心理的所有感の知覚が生起されることが予想される。したがって,本研究では画面への接触回数が増える金額入力型の利用は,金額非入力型の利用に比べて,心理的所有感をより強く知覚する可能性について検討する。また,接触回数の影響に注目することは実務的にも意義があると考えられる。事業者が心理的所有感を高めるために,消費者に特定のデバイスやタッチ・インターフェースの使用を促すことは難しい。一方で,画面への接触回数は決済サービスのUIやサービス内容を工夫することで事業者がコントロールできる。仮に接触回数が心理的所有感の向上に効果があるのであれば,実務的な施策によって心理的所有感向上の効果を得ることが期待できるだろう。したがって,本研究は画面への接触回数が増える金額入力型の利用は,金額非入力型の利用に比べて,心理的所有感をより強く知覚させるかを検討する。

3つ目は,インターフェースへの接触と心理的所有感知覚のメカニズムに関する議論である。Brasel and Gips(2014)以降の研究では,マウスとタッチ・インターフェースの比較において心理的所有感の知覚に有意差は見られていない(de Vries et al., 2018; Brengman et al., 2019)。これらの研究はタッチ・インターフェースへの接触を心理的所有感の主効果として捉えているが,Braselらと同様の結果は再現されなかった。Braselらの研究結果とde VreisaらやBrangmanらの研究結果の不一致は,心理的所有感の先行要因であるコントロール感の影響が見落とされている可能性がある。上述の通り,接触が心理的所有感を高めることは,対象を制御できている感覚であるコントロール感との関連で議論がされてきており(Bagga et al., 2019; Furby, 1978),接触を想像させるだけでもコントロール感を高めることが明らかになっている(Peck, Barger, & Webb, 2013)。また,電子媒体の操作による影響を調査した別の研究では,画面タッチはメンタル・シミュレーションを高めることが示された(Shen, Zhang, & Krishna, 2016)。このような知見を踏まえると,タッチ・インターフェースの操作という直接的接触は,対象を自分が制御できている感覚,すなわち心理的所有感の先行要因であるコントロール感を高める効果があると考えられる。そのため,本研究は,決済サービスの利用時に,スマートフォンの画面への接触回数が多くなる金額入力型は,金額非入力型に比べてコントロール感を高め,そしてコントロール感の知覚が心理的所有感を高めるという関係を想定する。したがって,以下の通り,仮説1と2を設定する。

仮説1:画面への接触回数が多い金額入力型の決済方法(vs. 金額非入力型)は,決済サービスに対するコントロール感を高める

仮説2:決済サービスへのコントロール感の知覚は,決済サービスへの心理的所有感を高める

そして,心理的所有感の知覚は,ソーシャルメディアの継続利用意向(Zhao, Chen, & Wang, 2016),ブランドへのエンゲージメント(Kumar & Nayak, 2019),peer to peerサービスプロバイダーに対するロイヤリティ(Pino et al., 2022)を高めることが示されており,心理的所有感の知覚は購買意図や支払意思額だけでなく長期的な関係の形成につながる効果がある。そのため,心理的所有感の向上は,決済サービスの再利用意向につながる可能性があると考えられる。したがって,仮説3を設定した。

仮説3:心理的所有感は,決済サービスへの再利用意向を高める

以上の3つの仮説を検証するため,本研究はシナリオを用いた2つのオンライン調査を実施した。

III. 調査1

調査1はモバイル決済時における画面への接触回数の相違がコントロール感(仮説1)および心理的所有感(仮説2)に及ぼす影響を明らかにする。また,心理的所有感が高まった際の下流効果として,決済サービスの再利用意向(仮説3)に与える影響を検討する。

1. 方法

調査1の参加者はクラウドワークスで募集し(n=437),架空の決済サービスの調査であると説明したうえで,スマートフォンのみで参加することを条件とした。アンケートには2つのアテンションチェック(1.「この質問には「ややそう思う」を選択してください」,2.「本アンケートでご注文いただきましたピザは,いくらでしたか?」)および「回答したインターフェースについての質問」があり,アテンションチェックの不正解回答(n=84)および「スマートフォン」以外の回答(n=156)を分析対象から排除し,最終的な分析対象は197名4)(65% female; Mage=36.11, SDage=8.80)となった。

まず,参加者には,架空の決済サービス「MyPay」の導入にあたっての印象評価に関する調査であると伝えた。そして,「ホームパーティを開催するにあたって,インターネットでピザを注文する」というシナリオを読んでもらい,決済手段は「MyPay」のみであると説明した。その後,金額入力型に割り当てられた参加者(n=103)は,ピザの金額である「2,850円」を回答者自身で入力し,「MyPayで決済する」ボタンを押してもらった。一方で,金額非入力型に割り当てられた参加者(n=94)は,ワンタッチですぐ決済ができると説明し,ピザの説明と画像を提示して「MyPayで決済する」ボタンを押してもらった。

その後,決済サービスに対するコントロール感(α=.87, AVE=.64, CR=.91),心理的所有感(α=.92, AVE=.75, CR=.94),再利用意向を測定した。決済サービスに対するコントロール感は,「思い通りに動かすことができる」,「自分好みの使い方で使用することができる」,「いつでも好きなように使用できる気がした」,「自由に操作することが出来る」の4項目で測定した(Bagga et al., 2019; Peck et al., 2013より一部修正)。また,決済サービスに対する心理的所有感は,「私の物のように感じる」,「所有しているように感じる」,「自分のものにした気分になる」,「個人的に,持ち主であるかのような感じがする」の4項目で測定した(Peck et al., 2013; Shu & Peck, 2011より一部修正)。そして再利用意向は「この決済サービスをまた利用したい」の1項目で測定した。それぞれの測定尺度は7段階リッカート尺度法(1:全くそう思わない~7:とてもそう思う)で回答してもらった。最後に,実際の決済サービスの利用頻度,性別,年齢を測定した。

2. 結果

はじめに,決済サービスの決済方法(金額非入力型=0 vs. 金額入力型=1)がコントロール感に及ぼす影響を確認するためにt検定を実施し,仮説1の検証を行った。その結果,金額入力型の回答者(M=4.73, SD=1.02)は,金額非入力型の回答者(M=4.42, SD=1.06)よりも,決済サービスに対するコントロール感を有意に高く知覚していた(t(195)=2.06, p<.05, Cohen’s d=.294,図1)。また,回答者の普段の決済サービスの利用頻度の影響を確認するため共分散分析を実施した結果,決済方法とコントロール感における決済サービスの利用頻度の有意な影響は見られなかった(F(1,194)=2.63, p>.10)。

図1

調査1・2の分析結果(画面接触とコントロール感覚)

次に,コントロール感が心理的所有感に及ぼす影響とその下流効果を確認するため,2段階の媒介分析を実施した。まず,仮説2の検証のため,決済サービスの決済方法を独立変数,コントロール感を媒介変数,心理的所有感を従属変数とする媒介分析を実施した(PROCESS macro, Model 4, Hayes, 2017)。次に,仮説3の検証のため,コントロール感(M1)・心理的所有感(M2)を媒介変数,決済サービスへの再利用意向を従属変数とするシリアル媒介分析(PROCESS macro, Model 6, Hayes, 2017; 10,000 bootstrap sample)を実施した。まず,媒介分析の結果,コントロール感による間接効果は有意であり(β=.189, 95% CI[.011, .379]),決済時に画面接触回数が多くなる金額入力型の決済方法はコントロール感を高め,その結果として心理的所有感が高まることが示された。次に,シリアル媒介分析の結果,決済サービスの再利用意向におけるコントロール感(M1)および心理的所有感(M2)の間接効果が有意であることが確認された(β=.069, 95% CI[.002, .153],表1)。

表1

調査1・2の媒介分析(SPSS PROCESS macro Model6)の結果

*( )=標準誤差,[ ]=95%の信頼区間。Y:決済サービスの再利用意向。M1:コントロール感。M2:心理的所有感。

3. 考察

調査1の結果,モバイル決済時に接触を多く伴う金額入力型の決済方法は,決済サービスへのコントロール感(仮説1)および心理的所有感(仮説2)を高め,その結果としてサービスへの再利用意向(仮説3)が高まることが示された。これまで,タッチ・インターフェースとマウスといった異なるインターフェース間の触覚経験と心理的所有感の知覚に焦点が当てられてきたが,本調査は同一のインターフェースにおける接触回数の多寡が心理的所有感の知覚に影響を及ぼすことを示した。

一方で,調査1では,1回の取引における接触回数の相違に注目したが,決済サービスは日用品や食品の購入時に利用することが多く,実際の利用場面においては一日に複数回利用することも考えられる。決済サービスを連続して複数回利用する場合,画面への接触回数は1回のみの利用時よりさらに増えるが,このような連続した取引における接触回数の増加が1回のみの取引よりコントロール感の知覚が高めるかは確認できていない。つまり,本研究は接触回数が増える金額入力型の利用がコントロール感および心理的所有感を高めることを想定しているが,一方でその効果が接触回数に比例して強くなるかは明らかになっていない。したがって,調査2では,連続した取引における決済サービスの利用方法の相違がコントロール感および心理的所有感の知覚に及ぼす影響について考察する。

IV. 調査2

調査2の目的は,金額入力型による決済サービス利用がコントロール感と心理的所有感を高める効果が,取引回数の増加によってどのように変化するかを確認することである。そこで調査2では,決済サービスの連続した利用を想定したシナリオを用いた探索的な調査を行う。また,調査1では取引の対象としてピザ(食品カテゴリー)を取り上げたが,電子媒体操作における触覚経験と心理的所有感の関係は製品カテゴリーに影響を受ける可能性があると指摘されている(de Vries et al., 2018)。したがって,調査2では調査1の結果の外的妥当性を確認するため,複数の製品カテゴリーを用いた調査においても同様の結果が再現されるかを検討する。

1. 方法

参加者はYahoo!クラウドソーシングで募集した(n=1,2005))。調査2では,調査の趣旨を読んでもらい,「上の説明文のフォントは好きですか?」という質問に対して「(どちらでもない)を選択してください」との教示文を提示した(IMC; Iseki, Sasaki, & Kitagami, 2022)。また,アンケートの最後には「本アンケートの中で,何回商品の金額を入力したかお答えください」というアテンションチェックを設け,回答者には自分に割り当てられた回数を選択してもらった(「金額入力回数:0回~3回」のうち一つ)。IMCの教示文に違反した回答者およびアテンションチェックの不正解回答を分析対象から排除し(n=436, 36%6)),最終的な分析対象は764名(47% female; Mage=43.94, SDage=11.71)となった。

参加者には,「店舗で『MyPay』を使用して買い物をする場面を想像してください」と指示した後,架空の決済サービスである「MyPay」を用いて,3つの製品(Tシャツ・マグカップ・ボールペン)をそれぞれ1回ずつ,計3回の購買を経験させた。参加者は4つのうち1つのグループにランダムに割り当てられた(G1:金額入力3回/非入力0回,G2:金額入力2回/非入力1回,G3:金額入力1回/非入力2回,G4:金額入力0回/非入力3回)。金額入力と非入力の画面設定は調査1と同じである。その後,調査1と同じ質問項目を用いて「心理的所有感」(α=.94, AVE=.77, CR=.93)および「コントロール感」(α=.90, AVE=.70, CR=.90),「再利用意向」に回答してもらった。

2. 結果

はじめに,決済サービス利用時の金額入力による画面への接触と取引回数が決済サービスへのコントロール感に及ぼす影響を確認するため,独立変数を「ランダムに割り当てられた4つのグループ(G1~G4)」,従属変数を「コントロール感」とする一元配置分散分析を実施した。その結果,グループ間に有意差が見られた(F(3, 760)=3.65, p<.05, η2p=.01,図1)。その後,Bonferroni法による多重比較を実施した結果,「金額入力1回 vs. 0回」(M=4.39, SD=1.20 vs. M=4.03, SD=1.34, p=.08)において10%水準での有意傾向が見られ,「金額入力2回 vs. 0回」(M=4.45, SD=1.17, vs. M=4.03, SD=1.34, p=.02)と「金額入力3回 vs. 0回」(M=4.44, SD=1.30 vs. M=4.03, SD=1.34, p=.01)のグループ間において5%水準で有意差が見られた。しかしながら,金額入力を少なくとも1回以上行ったグループ(G1~G3)の間にはコントロール感の知覚に有意差が見られなかった(ps>.10)。

次に,調査1と同様に,金額入力による取引回数が決済サービスに対する心理的所有感および再利用意向に及ぼす影響を確認するため2段階の媒介分析を実施した(表1)。まず,独立変数は決済方法の条件を金額入力回数によって3つのダミーコードに変換した:D1(0=0回 vs. 1=1回),D2(0=0回 vs. 1=2回),D3(0=0回 vs. 1=3回)。次に,コントロール感を媒介変数,心理的所有感を従属変数とする媒介分析を実施した(PROCESS macro, Model 4, Hayes, 2017)。その結果,金額を入力することはコントロール感の知覚を媒介して心理的所有感を高めることが示された(D1:β=.219, 95% CI[.039, .410], D2:β=.138, 95% CI[.043, .241], D3:β=.083, 95% CI[.026, .144])。続いて,コントロール感(M1)と心理的所有感(M2)を媒介変数,決済サービスの再利用意向を従属変数としたシリアル媒介分析を実施した(PROCESS macro, Model 6, Hayes, 2017)。その結果,金額を入力することはコントロール感と心理的所有感を媒介して,決済サービスへの再利用意向を高めることが確認された(D1:β=.060, 95% CI[.010, .124], D2:β=.039, 95% CI[.010, .077], D3:β=.027, 95% CI[.007, .049])。一方で,金額入力を少なくとも一回以上行った条件においては(D4:0=1回 vs. 1=2回,D5:0=1回 vs. 1=3回,D6:0=2回 vs. 1=3回),いずれの組合せにおいても間接効果は確認されなかった(D4:β=.011, 95% CI[−.031, .059], D5:β=.005, 95% CI[−.017, .028], D6:β=−.001, 95% CI[−.053, .047])。

3. 考察

調査2では,コントロール感および心理的所有感知覚における画面への接触効果が連続する取引の中でどのように変化するかに注目した。調査の結果,金額入力型の決済方法は,金額非入力型よりも,コントロール感と心理的所有感を高めることが示された。一方で,金額入力型を少なくとも1回以上利用したグループ間においてコントロール感および心理的所有感の知覚に有意差が見られなかったことから,接触回数が増えることでコントロール感および心理的所有感が高まるという仮説は部分的支持となった。

この結果は金額入力型から利便性の高い金額非入力型に切り替えるタイミングを示唆している。モバイル決済を採用する理由の一つとして利便性が挙げられていることを考えると(Boden, Maier, & Wilken, 2020),実際の購買場面において消費者の利便性を考慮した場合,金額入力型による利用は1回のみでも効果を得られる可能性がある。

V. おわりに

本研究は,決済サービス利用時において,金額入力型は(vs. 金額非入力型)はサービス利用に関するコントロール感を高め(仮説1),そして決済サービスに対する心理的所有感を高める(仮説2)ことを示した。さらに,心理的所有感による下流効果として,決済サービスの再利用意向を高める(仮説3)ことを確認した(調査1,2)。また,この効果は,金額入力型の利用回数に利用回数に応じて統計的に有意差をもたらすほどに増加するわけではないことが示された(調査2)。

1. 理論的示唆

本研究の結果は,オンラインにおける触覚経験と心理的所有感の研究に示唆をもたらすものと考えられる。1つ目の示唆として,単一のインターフェースを用いた場合の触覚経験が心理的所有感に及ぼす影響を議論したことが挙げられる。これまでの先行研究は,タッチ・インターフェースと非タッチ・インターフェースの操作時における触覚経験の比較を中心に研究が取り組まれてきたが,これらインターフェースは異なる形状を持つため,接触方法の他にもマウスとタッチ・インターフェースはそれぞれの形状から得られる触覚経験も異なってくる。しかし,タッチ・インターフェースへの接触という触覚経験が心理的所有感を高めることを確認するためには,画面への接触以外の触覚要素を統制する必要があると考えられる。以上の課題を踏まえて,本研究はスマートフォンのみを用い,インターフェースの操作方法を統一したことで,画面への接触が心理的所有感を高めるという触覚経験の影響をより厳密に議論することができた。

また,2つ目として,インターフェース操作における接触と心理的所有感の知覚メカニズムに関する議論に示唆を与えた。先行研究においては,画面への接触が直接的に心理的所有感を高めることが想定されてきたが(Brasel & Gips, 2014),近年の研究ではBraselらと競合する結果が報告されている(Brengman et al., 2019; de Vries et al., 2018)。本来,接触が心理的所有感を高めるメカニズムとして接触を通した対象へのコントロール感の獲得が挙げられていることを踏まえると(Pierce et al., 2003),タッチ・インターフェースへの接触はコントロール感の獲得につながるため,その結果として対象への心理的所有感が高まるという関係が想定される。しかし,インターフェースへの接触と心理的所有感を取り上げた先行研究において,コントロール感の影響は議論されているものの(Brasel & Gips, 2014; de Vries et al., 2018),直接的には検証されていなかった。そこで本研究では,先行研究の知見(Pierce et al., 2003)に基づき,心理的所有感の先行要因であるコントロール感を検討した。具体的には,対象への接触がコントロール感の知覚を高めるのであれば,その回数が増えるにつれてコントロール感の知覚が強まり,その結果として心理的所有感が高まるという仮説を設定した。その結果,de Vriesらと同様に心理的所有感における接触の主効果は見られなかったが,接触によるコントロール感の知覚を媒介して心理的所有感が高まる間接効果を確認した7)。本研究は,電子媒体のインターフェースの操作がコントロール感の獲得につながることを示し,オンライン環境における触覚経験と心理的所有感の知覚に関する研究に示唆を与えるものである。

2. 実務的示唆

本研究は,心理的所有感という非価格要因によるサービスの継続的な利用促進の可能性を示すことで,決済サービス事業者に一定の実務的示唆を与えたと考えている。従来の先行研究は,非タッチ・インターフェースとの比較におけるタッチ・インターフェースの効果に注目してきたが,サービス事業者が自社サービスへの心理的所有感を高めるため,消費者にタッチ・インターフェースの電子媒体のみの使用を要求することは困難であろう。一方で,本研究はタッチ・インターフェースにおける接触回数に注目した。決済サービスのように事業者側の設定によって接触回数を増やすことができる場合,消費者の心理的所有感を高めるための施策として本研究の知見を活用することが期待できる。また,調査2の結果から,金額入力型を利用させた後に金額非入力型に切り替えたグループにおいてはコントロール感や心理的所有感が変化しないことが示された。このことから,決済サービスにおける消費者の利便性を考慮した場合,金額入力型の決済方法はサービスの初期利用者や1日の最初の取引のみに用いることで,利便性を考慮しながら再利用意向を高めることができるだろう。

また,スマートフォンのようなタッチ・インターフェースの電子媒体を用いたEC上の取引が増えていることから(Statista, 2020),タッチ・インターフェースの使用が消費者の購買意思決定に及ぼす影響を理解することが課題となっている。その中で,画面接触の回数が心理的所有感を高める効果は,小売文脈に援用できる可能性がある。とりわけ,オンライン小売では棚から商品を手に取るなどの触覚経験が得られないため,製品に関するメンタルシミュレーションが低下し,知覚リスクが高まりやすい(Liu et al., 2017)。このような課題に対して,タッチ・インターフェースへの接触回数を増やすUIの開発やウェブデザインの工夫は,消費者の心理的所有感を高め,その結果として知覚リスクの低減や購買意図の向上につながる可能性がある。

3. 今後の課題

本研究には,いくつかの課題も残されている。1つ目は,調査環境の統制に関する課題である。調査1と2において,調査参加者はスマートフォンやタブレットで回答することを求められ,質問票には回答インターフェースの質問を設けており,タッチ・インターフェース以外の回答は分析対象から排除するなど,単一インターフェース(スマートフォン)を用いて議論を進めた。しかし,単一インターフェースの使い方までは統制ができていない。例えば,タッチ・インターフェースの電子媒体は縦向きと横向きの2つの向きで使用が可能であり,向きによって画面の比率も異なる。先行研究においては,画面の大きさや比率が製品の大きさ知覚に及ぼす影響(Schmidt & Maier, 2019),画面の大きさと購買意図(Kim & Sundar, 2016)やブランド評価(Raptis, Tselios, Kjeldskov, & Skov, 2013)の影響が指摘されており,本研究の結果にも以上の要因が影響している可能性がある。今後は,統制された環境(実験室)で調査を行い,より厳密に議論を進める必要があると考えられる。

2つ目は,本研究の仮説が部分的に支持されたことに関する議論である。仮説1と2に基づくと金額入力型の利用が増えれば画面への接触回数も増えるため,コントロール感および心理的所有感の知覚もより強くなることが予想された。しかし,調査2の結果では金額入力型を少なくとも1回以上利用しているグループ間には有意差が見られなかった。その原因として,調査2の各グループは短時間で決済を連続的に行なったため,決済サービスの利用を重ねるごとにタスクへの関心が低くなっている可能性がある。そのため,タスクへの注意が弱まり,結果としてコントロール感や心理的所有感の知覚に有意な変化がなかったことが考えられる。今後の研究において,決済サービスの連続利用時には一定時間を空けるなど決済方法による触覚経験の相違をより明確に知覚できるような工夫を施す必要があるだろう。

3つ目は,画面接触という触覚経験についての詳細な議論である。本研究は,決済サービスの利用プロセスにおいて,画面への接触回数が多い決済方法を利用した場合,自分がサービスをコントロールできている感覚が高まることを検討した。しかし,この効果を画面への接触回数によるものと仮定するならば,画面への単純接触よっても同様の効果が見られる可能性がある。例えば,決済サービス利用とは無関係な操作をさせた場合にも画面接触が行われることで心理的所有感が高まる可能性がある。本研究においては決済を行うために画面に接触してもらったが,そこで得られたコントロール感が画面に触れること自体によるものか,接触に加えて何らかの作業を行った結果なのかは必ずしも弁別できていない。そのため,画面接触による心理的所有感の向上は,単に「触れること」による効果なのか「何かを操作すること」による効果なのかについてより詳細に議論する必要がある。

4つ目は,タッチ・インターフェースの操作と心理的所有感における直接効果に関する議論である。本研究では画面接触と心理的所有感の直接的関係を想定しない仮説を立てているが,その一方で接触が心理的所有感知覚の主効果として確認されている研究もある(Brasel & Gips, 2014; Peck & Shu, 2009)。今後,接触による心理的所有感知覚に影響を及ぼす調整変数や潜在変数の存在を検討しながら,本研究の結果と先行研究との整合性を議論する必要がある。

謝辞

本研究はJSPS科研費JP21K01770の助成を受けたものである。また,本稿の掲載にあたり,レビュワーから建設的なコメントを頂いた。ここに記して感謝申し上げる。

1)  本研究において,コード型モバイル決済サービスとは,PayPayやLINE Payのように,QRコードやバーコードを読むモバイル決済サービスを意味する。

2)  インターフェースへの接触は,画面に指を触れるタッチ・スクリーンのようなタッチ・インターフェースは直接的接触(direct touch),マウスのような非タッチ・インターフェースへの接触は間接的接触(indirect touch)と定義する(Brasel & Gips, 2014)。

3)  代理接触とは,デジタル環境で消費者が製品と物理的に接触している手を観察すること,あるいはその製品に触れていると想像することと定義されている(Luangrath et al., 2022; Pino et al., 2020)。

4)  サンプルサイズの検定力については,G*POWER(効果量=0.15,有意水準=.05,サンプルサイズ=197,グループの数=2)を用いて事後分析を行った結果,調査1の検定力は57%であった。

5)  調査2のサンプルサイズは,G*POWERを用いて,「調査1の効果量(Cohen’s d=.294),有意確率=.05,検定力=80%(Cohen, 1992)」という基準に基づいて算出された(n=1,096)。

6)  本調査の目的は金額入力と取引回数の影響を確認することにある。そのため,回答者自身が「何回金額を入力したか」を正確に認識していることが調査結果に影響を及ぼすと考えており,不正解回答者を排除した。

7)  調査1と調査2ともに,接触と心理的所有感知覚における直接的な関係は確認されなかった。de Vries et al.(2018)Brengman et al.(2019)のタッチまたは非タッチ・インターフェースの比較研究においても,心理的所有感における接触の主効果が確認されてない。本研究の結果から,接触と心理的所有感の関係は,先行要因のコントロール感の媒介を通してのみ確認される,接触と心理的所有感の直接効果の支持を仮定しない「indirect-only medication(Zhao, Lynch, & Chen, 2010)」の関係にある可能性が示唆される。

權 純鎬(くぉん すんほ)

早稲田大学商学学術院助手。青山学院大学経営学部を卒業後,早稲田大学大学院商学研究科修士課程を修了。現在,同大学大学院商学研究科博士後期課程に在籍。修士(商学)。

専門は,マーケティング・コミュニケーション,消費者行動。

河股 久司(かわまた ひさし)

早稲田大学商学部講師(任期付)。2021年早稲田大学大学院商学研究科博士後期課程単位取得。早稲田大学商学部助手を経て,2021年9月より現職。修士(商学)。専門は消費者行動。

須田 孝徳(すだ たかのり)

早稲田大学商学学術院助手。成蹊大学経済学部を卒業後,早稲田大学大学院商学研究科修士課程を修了。現在,同大学大学院商学研究科博士後期課程に在籍。修士(商学)。専門は,消費者行動,マーケティング。

References
 
© 2023 The Author(s).

本稿はCC BY-NC-ND 4.0 の条件下で利用可能。
https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/deed.ja
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