Japan Marketing Review
Online ISSN : 2435-0443
Peer-reviewed Article
Analysis of Organizational Factors Promoting Data Utilization in Large Japanese Corporations
Kazuo Yagura
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2025 Volume 6 Issue 1 Pages 39-44

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Abstract

本研究の目的は,日本の大企業において,データ活用で成果を生み出すにはどのような活動が必要になるか明らかにすることである。Gupta and George(2016)を代表とする大規模データ分析におけるリソース(Big Data Analytics Capabilities)に関する研究領域の中で,企業内を「データ活用組織」「経営層・企業」「事業担当」の3つの主要な組織に分類をして,それぞれの活動がデータ活用の成果にどの程度寄与するか,仮説モデルを構築して検証を行った。結果として,データ活用で成果を出すにはデータ活用組織における,データや分析システム,データ活用人材・スキルは必要であるものの,直接効果としては不十分であった。しかし,①経営層・企業によるデータ活用への意識や理解,企業変革に前向きな文化などが媒介効果として必要であり,②事業担当によるデータ活用への意識や理解,データ活用組織との連携なども媒介効果として必要であることが示された。特に,②と比べて①の重要性が高いことも示された。

Translated Abstract

The objective of this study is to identify the activities required to achieve effective outcomes in data utilization within large Japanese corporations. Building upon research on Big Data Analytics Capabilities, as represented by Gupta and George (2016), we categorized corporate structure into three primary organizational segments: “Data Utilization Organization,” “Executive/Corporate Level,” and “Business Units.” A hypothesis model was developed to examine how the activities of each segment contribute to data utilization outcomes. The results indicate that while data resources, analytical systems, and skilled personnel within the Data Utilization Organization are essential for achieving data utilization outcomes, they are not sufficient as direct effects alone. Two key mediating factors were identified: (1) executive awareness and understanding of data utilization, along with a corporate culture that supports organizational transformation; and (2) business unit awareness and understanding of data utilization, as well as collaboration with the Data Utilization Organization. Importantly, (1) was shown to have a greater impact than (2).

I. 背景と目的

1. 問題意識

Davenport and Patil(2012)は,「データサイエンティストが21世紀で最もセクシーな職業である」とHarvard Business Reviewでビッグデータを特集し,データサイエンティストの存在を広く世に知らしめた。近年,データを戦略的に活用し,経営活動を行うことは企業の成長に必要不可欠であり,膨大なデータの収集・分析と,それを戦略的に活用する能力は,企業の競争優位において重要な役割を果たす。Brynjolfsson et al.(2011)は,データを基にした意思決定をする企業は,通常の投資やITの利用を行う企業と比較をして,生産性や業績が5~6%高いと述べている。

しかし,IMD(2023)によると,日本のデジタル競争力は64ヵ国中32位,特に「ビッグデータやデータ分析の活用」の項目は64位であり,諸外国と比べて遅れをとっている。また,MIC(2020)によると,各企業少しずつデータ活用の取り組みは進んでいるものの,高度な活用を行っている企業は一部にとどまっている。

2. 先行研究

Gupta and George(2016)は,Big Data Analytics Capability(以下,BDAC)を生み出すリソースは,データ・技術・十分な投資や適切な時間などの有形資産,データ駆動型文化や組織学習の強度といった無形資産,経営的・技術的なビッグデータスキルの人的資産の3つが必要であると述べている。

Kane et al.(2015)は,DXはテクノロジー自体ではなく,戦略的アプローチと組織文化の変革が重要であると指摘している。デジタル変革は技術よりも戦略と組織文化の統合が重要であり,それがビジネス成長と革新の鍵であると述べている。

Tatsumoto(2023)は,DXに関する困難は,技術的な困難というよりも,組織的な困難が多く,DX推進に対して組織マネジメントの観点からのアプローチが強く望まれることを指摘している。

3. 研究目的

これまでのBDAC研究,特にデータ活用の成果指標(意思決定の質向上や業績向上)に与える影響は,Capabilityの要素が有形資産,無形資産,人的資産に分類され,データやシステム,分析者のスキルなど「データ活用組織の活動」に焦点が当てられている。

しかし,日本の大企業におけるデータ活用推進では,「データ活用組織の活動」や「技術」に関する点と比べて,DXの課題で語られるように,企業全体の組織マネジメントや文化に関する課題が大きいと考えられる。特に,トップダウン型の経営層の活動や企業全体の文化,ボトムアップ型のデータ活用組織と事業担当者の連携などがデータ活用の成果に影響を与えるという仮説が立てられる。

そのため,本研究では以下のResearch Questionを設定する。

RQ:日本の大企業において,データ活用で成果を生み出すにはどのような活動が必要になるか。

SRQ1:データ活用組織の活動は,データ活用の成果にどの程度寄与するか。

SRQ2:経営層のデータ活用に対する意欲や理解,企業全体の変革意識などは,データ活用の成果にどの程度寄与するか。

SRQ3:事業担当のデータ活用に関する意欲や理解,事業担当との信頼関係や連携などは,データ活用の成果にどの程度寄与するか。

II. 分析

1. 仮説モデル

「データ活用組織」「経営層・企業」「事業担当」の3つの主要な組織に分類をして,それぞれがデータ活用の成果にどの程度寄与するか示す。また,データ活用の成果が意思決定の向上に寄与するか,意思決定の向上が業績の向上に寄与するか明らかにする。本研究では,仮説モデル(図1)を作成して検証を進める。仮説モデルは表1に記載の6つの構成概念とし,仮説一覧を表2に示す。Gupta and George(2016)は,データ活用に関する有形資産,無形資産,人的資産の3つの要素が企業業績に貢献すると述べている。Li et al.(2022)は,BDACを利用することにより,意思決定の向上に寄与すると述べている。これらより,仮説1,仮説4,仮説5が立てられる。Lee et al.(2016)は,企業のIT能力が,優れた企業業績に貢献しており,戦略レベルの敏捷性はIT能力と企業業績の関係性を媒介し,運用レベルの敏捷性はIT能力と企業業績の関係性を媒介すると述べている。つまり,企業のIT能力をデータ活用組織のBDAC,戦略レベルを経営層・企業,運用レベルを事業担当と考えると,仮説2,仮説3が立てられる。

図1

仮説モデル

出典:筆者作成

表1

構成概念

出典:筆者作成

表2

仮説一覧

出典:筆者作成

2. 調査概要

本調査は,2023年12月2日~2023年12月13日の期間で,Web上にてアンケートを実施した。調査対象者は,日系企業で従業員数500名以上かつ自社のデータ活用業務に携わっている方とする。自社のデータ活用推進を担っている部門,事業側などデータ活用推進以外の部門として自社のデータ活用業務に携わっている方の両方を対象としている。分析会社やコンサルティング会社など,クライアント企業のデータ活用業務に携わっている方は調査対象外とした。対象者自身のデータ活用業務内容や利用しているデータについて自由記述設問として回答内容を確認し,調査対象者ではないと見られる不正回答は分析対象から除外する。1社1回答という制限は設けていない。

3. 測定尺度

各構成概念の測定項目(質問項目)は全39問で構成しており,「データ活用の成果」以外の36個の設問については,5段階のリッカート型尺度を用いて測定した。「データ活用の成果」は,Davenport and Harris(2008)を参考にし,順序尺度や複数選択可能な設問としている。また,一部を反転設問とした。「データ活用組織のBDAC」と「経営層・企業のBDAC」の一部設問をGupta and George(2016)を元に作成した。「事業担当のBDAC」は本研究の独自設問とした。「意思決定の向上」は,Li et al.(2022)の研究で使用している質問項目を用いた。「業績の向上」は,Aydiner et al.(2019)の研究で使用している質問項目を用いた。

4. 基本統計量

トラップ設問などを考慮した不正回答除外後の有効回答数は110件であった。欠損値は発生していない。探索的因子分析(回転なし)によってコモン・メソッド・バイアスは問題にならないことが確認できた。信頼できる尺度であることを確認するためにクロンバックα係数が0.6以上であることを確認した結果,業績向上のみαが0.6を下回った。天井効果およびフロア効果の疑いについて確認した結果,データ活用組織のBDACの2項目がフロア効果に該当した。αが低い業績2項目とフロア効果該当2項目を削除した結果(グレーアウトした項目),いずれの構成概念も信頼性係数0.6以上となった。結果を表3に示す。

表3

構成概念と質問項目

出典:筆者作成

回答者属性の傾向を確認した結果,回答者の68%はご自身がデータ活用を推進する立場であり,32%は事業担当としてデータ活用に携わっている方であった。所属企業の従業員数や売上高,業種,役職などに大きな偏りはなかった。データ活用を取り組み始めた時期について,直近3年以内が34%,直近3年超5年以内が35%,直近5年以上が24%,わからないが7%の回答であった。中央値は直近4年以内である。

5. 検証方法

共分散構造分析を用いて仮説検証を行った。モデルの適合度指標はRMSEAを使用する。Toyoda(2007)によると,RMSEAに関しては0.05よりも小さければ良い適合を,0.1よりも大きければ悪い適合を表すとしているため,本研究ではRMSEAが0.1未満であることをモデルの適合基準とする。基本統計量や信頼性指標検証のためIBM SPSS Statistics 29,共分散構造分析を行うためIBM SPSS Amos 29の分析ソフトウェアを使用した。

6. 分析結果

モデル適合度は,GFI=0.662,AGFI=0.613,CFI=0.698,RMSEA=0.093,AIC=1225.134であった。RMSEAは,0.093となり0.1を下回り,必ずしもデータに対して当てはまりの良いモデルとは言えないものの,モデルの適合を確認することができた。

2にモデルの結果,表4に仮説検証結果を示す。

図2

モデル結果

出典:筆者作成

表4

仮説検証結果

出典:筆者作成

III. 総括

1. Research Questionへの回答

データ活用組織の活動単体ではデータ活用の成果に直接寄与するとは言えなかった。しかし,経営層・企業全体の活動や事業担当の活動を媒介した上でデータ活用の成果に寄与することがわかった。特に事業担当の活動と比較して,経営層や企業全体の活動の方がより重要性が高いことがわかった。また,データ活用の成果は企業の意思決定の向上や業績向上にも寄与することが示された。つまり,データ活用組織の活動のみでは,データ活用の成果に寄与せず,経営層の理解や発信などトップダウンでの活動とデータ活用組織と現場部門の理解や連携が必要であることが示された。また,データ活用の成果が向上することにより意思決定の質向上に寄与し,その結果,業績の向上にも寄与することが示された。

2. 理論的意義と実務的示唆

理論的意義として,データ活用の成果を高めるためには,技術観点だけでなく,経営層や事業担当の活動が重要であることが明らかになった。特に,データの量や質,データ分析基盤と技術に加え,トップダウンとボトムアップの組織活動(特にトップダウン)が重要であることを示した。これはBDACの研究領域に新たな視点を提供するものである。

実務的示唆として,データ活用の成果を創出するために,日本の大企業が取り組むべき活動を提示する。

1点目は,ボトムアップ型で,現場とデータ活用組織で相互理解を深め,信頼関係の構築を図ることである。部門間の垣根を超え,データ活用組織は現場のビジネス理解を深め,現場担当はデータ活用に興味を持つような取り組みが必要である。部門間には,経験値,形式知,利害関係など様々なギャップが存在する。少しでもギャップの解消ができると,ビジネス効果の高いデータ活用事例の創出や施策実行が可能となる。そのために,相互の人材交換制度やバウンダリー・スパナーとして両部門の橋渡し役などが有効であると考える。

2点目は,トップダウン型で,経営層によるリーダーシップの発揮である。ボトムアップ型では一定の事例や成果創出は可能であるが,大きな成果創出は難しい。そのため,経営層が正しくデータ活用の意義や方針を理解し,既存業務の変革や新しいことに取り組む文化醸成が必要になる。あるいは,データ活用組織が主導しトップダウン型が上手く機能するようなマネジメント向け研修の実施なども考えられる。

3. 今後の課題

今回は,データ活用組織が立ち上がった後のデータ活用推進を想定しているため,仮説2ではデータ活用組織のBDACが経営層のBDACに影響を与え,データ活用成果に結びつく媒介効果を示している。しかし,最初期において,経営層の戦略や実行がない場合はデータ活用組織が立ち上がらないため,経営層のBDACがデータ活用組織のBDACに影響を与えることも考えられる。今後は,データ活用の推進度合いなどの時間軸に応じた仮説モデルの検討など更なる深堀が求められる。

本研究を通じて,データ活用推進活動は技術観点のテーマだけに閉じず,経営層・現場含め,各企業特性に応じてどのように組織や文化を変革に導けるか考えることが大切になると考える。

謝辞

本研究の執筆にあたり,多大なるご指導賜った早稲田大学大学院 経営管理研究科 及川直彦 客員教授には,心より感謝申し上げます。

References
 
© 2025 The Author(s).

本稿はCC BY-NC-ND 4.0 の条件下で利用可能。
https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/deed.ja
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