日本未病システム学会雑誌
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橋本病130症例の臨床経過の検討
田中 正巳大村 豪
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2005 年 11 巻 2 号 p. 260-264

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抄録

橋本病の臨床経過を検討した。130例 (男性2例, 女性128例) を, 過去の診療録からretrospectiveに解析した。橋本病の診断は, びまん性甲状腺腫の存在と甲状腺自己抗体 (サイロイドテスト, マイクロゾームテスト) 陽性に基づいて行われた。観察期間中に, 130例中44例では機能低下に陥り, その44例中37例では甲状腺ホルモン剤による補充療法が行われた。一方, 残りの86例は機能正常を維持した。130例中13例では, 血清TSH濃度が測定感度以下に低下した。このようにTSHが測定感度以下に抑制される現象を, “TSH suppression”と定義した。13例中12例では, “TSH suppression”は一過性であった。“TSH suppression”後, 8例は甲状腺機能正常に回復した。残りの4例は顕性の機能低下に陥り, 補充療法が開始された。13例中1例では“TSH suppression”が持続し, バセドウ病を発症した。本研究では, 130例の橋本病症例中37例, すなわち, わずか28%の症例でしか補充療法を必要としなかったことが示された。また, “TSH suppression”が10%の橋本病症例で観察され, “TSH suppression”がみられたら, その後TSHが上昇する可能性が高いことが示された。橋本病の経過観察中に“TSH suppression”が観察された場合には, 特に慎重に甲状腺機能を検査する必要がある。そして, 甲状腺機能正常の橋本病は“甲状腺機能異常症未病”としてとらえ, 慎重に経過を追う必要がある。過剰な治療を避けると同時に, 治療が必要な症例を見逃さないことが重要であり, そのためにはTSHの定期的な測定が大切である。

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