本稿では,能登地方の村落社会における「ツラ」という民俗概念を事例にしながら,調査資料をもとに,変貌する村落社会を明らかにする。日本の村落社会と家を対象にした文化人類学的・社会人類学的研究の多くは,民俗概念を一般化することにより,各地域の事例を比較検討する場と提供してきたと言える。しかしながら,時間の流れに即して,変化の過程を捉えようとした研究はいまだ少ない。ここでは,「ツラ」を,世帯を単位とした村落社会の成員権であると概念化し,その変貌の記述を試みる。そして,変化を生み出した要因のひとつに共有地の存在があり,共有地に関する法律と,「ツラ」という民俗概念の慣習の狭間で,村落社会と家の関係が揺れていることを指摘する。本稿での議論は,村落社会の過疎化,崩壊といった問題や,村落社会において近代とはいかなるものであったのかを考えるうえで,大きな手がかりとなることであろう。