民族學研究
Online ISSN : 2424-0508
妻を引き抜く方法 : 規約的必然としての「呪術」的因果関係(<特集>呪術再考)
浜本 満
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1997 年 62 巻 3 号 p. 360-373

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抄録

人類学者は, さまざまな実践をまちまちな理由に基づいて「呪術」に分類しているように見える。呪術というカテゴリーがなんらかの統一された研究対象を規定しているとは考えないほうがよいのかもしれない。本論は, 行為とその結果の結び付きについての知識の特殊な性格が, その知識を前提とした慣行を「呪術的」に見せているような場合について検討する。ケニア海岸地方のドゥルマにおいては, 水甕を夫が動かすことが, 妻に死をもたらす行為であるとして禁じられている。ここでの, 水甕を動かすことと妻の死との因果的な結び付きについての知識を構成している諸要素の関係を明らかにすることが本論の具体的な課題である。この知識の内部では, 妻と彼女が所属する屋敷との関係についての「隠喩的」な語り口の内部での必然性と, 水甕を動かすことと土器の壷をめぐるさまざまな慣行とのあいだの相対的有縁性が, 恣意的な規約性によって結び付いている。この種の規約性と因果性の配置は, 呪術と分類されがちな慣行が前提としている知識の特徴のーつである。従来の象徴論的な分析が, この配置についての誤認に基づいたものであることも示される。

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© 1997 日本文化人類学会
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