民族學研究
Online ISSN : 2424-0508
妖術と身体 : ケニア海岸部における翻訳領域(<特集>民族医療の再検討)
慶田 勝彦
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2002 年 67 巻 3 号 p. 289-308

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抄録

本稿では、ケニア海岸部のミジケンダ・グループにおいて流通している妖術の言説を中心に、近年リバイバル化している妖術研究のコンテクストの下で民族医療を再検討する。現在、妖術として言及される行為の一部は民族医療的な知識や技術として医療化されている。しかしながら、妖術は宗教や信仰として医療からは拒絶されたものとして登場し、次には近代医療とは異なる現地固有の医療として発見され、そして、近代医療と相互に入れ替わることができる医療の可能性としてロマン化されるに至り、さらにそのロマン化は近代医療と民族医療を、しばしば不均衡な差異を保留したままで、同等のものとして併置しようとしている。私は、このような植民地的想像力に対して、妖術と呼ばれてきた社会文化的な想像力が応答している領域を妖術の翻訳領域と規定し、その翻訳のプロセスに焦点をあてる。特に、妖術の翻訳領域においては、薬や医療的行為を媒介とした身体への接触とその結果身体に生じる変化が重要な位置を占める。ここでは、宣教医療と土着の身体、人類学者の医療的身体、土着の近代医療者の身体、そして妖術として主題化される現地の身体に関する医療的な接触と身体変化ついて多角的に言及する。さらに、妖術として主題化される身体は、法的な身体と医療的な身体とに分化しているようにみえる理由について、身体を中心化する言説タイプの差異に着目して検討することになるが、結論として、妖術は基本的には呪薬を媒介とした身体接触とその結果生じる身体変化を個人間の異なる対決の構図へと絡みとりながら、その構図自体をも生成させている現在進行中の強力な社会文化的想像力であることを示す。

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© 2002 日本文化人類学会
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