抄録
Phialocephala fortinii Wang & Wilcox (Hyphomycetes)は、多くの植物種の根に感染するdark septate endophyte(DSE)と呼ばれる内生糸状菌群に属する。DSE感染が宿主植物に及ぼす影響は弱病原性から共生まで論議されているが、現在明らかではない。共生菌であるアーバスキュラー菌根菌や外生菌根菌は宿主へ直接リン酸を渡すことが知られ、この機能に菌糸液胞内に蓄積するポリリン酸が重要な役割を果たしていると考えられている。本研究は、P. fortiniiの細胞内微細構造、特に液胞構造に着目して、その構造とポリリン酸の蓄積を形態的手法により明らかにした。蛍光色素DFFDAを用いて生体菌糸の液胞を染色したところ、菌糸先端には運動性のある管状の液胞が観察され、菌糸先端から離れた部位では球状の液胞が多く観察された。次いで、P. fortiniiの液胞中のポリリン酸の有無を微細構造レベルで調査した。ポリリン酸は化学固定を用いる定法により沈殿することが知られているため、菌糸は急速凍結-凍結置換法で固定・樹脂包埋し、超薄切片とした。ポリリン酸は、大腸菌エクソポリホスファターゼ(PPX)のポリリン酸への親和性を利用した以下の手法により標識した:1)超薄切片のエッチングとブロッキング、2)PPXポリリン酸結合ドメイン(Xpressエピトープを含む)とマウス抗Xpress抗体との複合体による反応、3)金コロイド標識抗マウスIgG抗体による標識反応。試料は電子染色した後、透過型電子顕微鏡で観察を行った。P. fortinii菌糸液胞内に金コロイドの局在が観察され、ポリリン酸の液胞への蓄積が確認された。ポリリン酸は液胞内で分散して存在していた。球状液胞ほど高濃度のポリリン酸が蓄積する傾向にあった。液胞より低量であったが、細胞質においても金コロイドがわずかに観察され、ポリリン酸の液胞以外の局在の可能性が示された。