抄録
Phallus rubrovolvatus (M. Zang, D.G. Ji & X.X. Liu) Kreiselは中国雲南省から記載された菌で,日本では長沢(1990)により鳥取産の子実体に基づきアカダマキヌガサタケの和名を付して原色図が紹介され,その後山口産の子実体写真も紹介された(松本,1995).しかし,これまで日本産標本による詳細な形態記載は欠けており,日本から正式な報告はない.演者らは,北海道,青森,奈良,兵庫,鳥取,宮崎の各地で採集された本菌の標本,およびholotypeを含む中国産標本について子実体の形態を観察し,本菌と形態的に類似するキヌガサタケP. indusiatus Vent.と比較した.キヌガサタケのかさは円錐形で,菌網は基部から傘の縁部付近まで垂れ下がった後に広がるが,本菌のかさは前者より大型の釣鐘形で,菌網は基部直下から広がり,多くはかさの縁部と菌網は癒着する.グレバはキヌガサタケでは糞臭だが,本菌は果実臭である.また,菌蕾はキヌガサタケでは灰白色であるが,本菌は赤褐色を帯びたライラック色で,菌蕾の殻皮はキヌガサタケが膜質で薄くもろいのに対し,本菌では紙質で厚く堅固である.さらに,担子胞子はキヌガサタケは楕円形で3-4×1-2µm,一方,本菌は卵形で3.5-4×2-2.5µmである.以上の点から両者は明らかに別種として区別できる.また,2002年から2006年にかけて兵庫県神戸市において本菌の生息地環境と発生時期を調査した.調査地は標高100~110mのダム湖周辺で,アラカシ・エノキ・アキニレに,ネザサ・メダケ・ハチクが混生する10×10mの湿潤な林地である.子実体発生は面積10m2程度の範囲に毎年ほぼ一定の場所に見られた.子実体発生は6月20日前後に始まり,7月上旬の梅雨の時期が盛期となり,通常8月上旬まで続く.稀に秋季にも発生するが,子実体発生は梅雨と密接な関係があると考えられる.本菌は西日本では広葉樹とタケ類の混生林や竹林に発生する一方,北海道ではトドマツ林,青森では川沿いの砂地で採集されており,日本では多様な環境下に広く分布すると考えられる.