日本菌学会大会講演要旨集
日本菌学会第51回大会
セッションID: E6
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第3会場
長野県菅平産の卵菌類
*稲葉 重樹原山 重明
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抄録

長野県にある筑波大学菅平高原実験センターから分離された卵菌類について報告する.2006年6月と9月にセンター内の夏緑樹林,アカマツ林,ススキ草原,拠水林,および樹木園で土壌試料を,また同センター内の渓流と池の周囲で水および砂泥試料を,計23試料採取した.実験室に持ち帰った試料は,水試料の場合はそのまま,土壌・砂泥試料の場合は滅菌蒸留水を加えた後にアサの種子,クロマツ花粉,ヘビの抜け殻,タマネギの皮,およびセミの翅を釣り餌として加え,培養開始後1ヶ月まで定期的に観察して腐生性卵菌類の定着を待った.卵菌類の定着が観察された釣り餌の内,マツ花粉については0.02%クロラムフェニコールを添加したPYG寒天平板(ペプトン1.25 g,酵母抽出液1.25 g,グルコース3 g,寒天12 g,蒸留水1 l)および1/4希釈YpSs寒天平板(酵母抽出液1 g,可溶性デンプン3.75 g,K2HPO4 0.25 g,MgSO4・7H2O 0.125 g,寒天15 g,蒸留水1 l)上に塗布し,花粉粒より生じた菌体を分離した.花粉以外の釣り餌については,釣り餌から生じた菌体の一部をコーンミール寒天平板に移植することによって分離株を得た.純粋培養菌株77株を形態形質に基づいて同定した結果,ミズカビ目としてAchlya属,Aphanomyces属,Dictyuchus属,Pythiopsis属,Saprolegnia属,Scoliolegnia属,Thraustotheca属の7属16種,フシミズカビ目としてApodachlyella属とCornumyces属の各1種,およびフハイカビ目としてPythium属8種とMyzocytiopsis属1種が確認された.これらの内,Myzocytiopsis属の1種は未記載種と考えられる.また,ミズカビ目の1種Saprolegnia terrestrisに卵菌類寄生性のOlpidiopsis saprolegniae var. saprolegniae(フクロカビモドキ目)の感染が認められ,宿主との二員培養による分離株を得た.この他,生殖器官を形成しないため形態形質に基づく同定が行えなかった糸状卵菌類1株についてミトコンドリアcox2遺伝子,18Sおよび28SリボソームRNA遺伝子の部分塩基配列を解析したところ,既知の卵菌類の配列データと大きく異なり,目レベルで新規な分類群である可能性が示唆された.以上の結果から,菅平高原実験センターには多様な卵菌類が生息していることが明らかとなった.

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© 2007 日本菌学会
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