抄録
Crypotococcus neoformansは,AIDS発症者や免疫力の低下したガン患者だけでなく健常者にもクリプトコックス症を引き起こす病原性酵母である.クリプトコックス症の治療は一般的にアゾール系抗真菌薬フルコナゾール(FLCZ)などを用いた投薬が中心である.これまでに本菌のFLCZ耐性株の出現が報告されているものの,薬剤耐性メカニズムに関する遺伝的解明はほとんど進んでいない.ところで,パン酵母Saccharomyces cerevisiaeでは,多剤耐性遺伝子(Pleiotropic Drug Resistance:PDR)群の解析が進んでおり,ABCトランスポーター,転写因子,ヒートショックタンパク質などをコードする遺伝子が多剤耐性に関与していることが明らかになっている.これらのうちヒートショックタンパク質(Pdr13p)のアミノ酸配列をもとにC. neoformansのゲノムデータベースについてBlast検索したところ,6個のホモログが見出された.S. cerevisiaeにおいてPDR13は,多剤耐性制御因子のPdr1pの機能を促進するHsp70をコードする.また,PDR13破壊株はオリゴマイシンやシクロヘキシミドなどの薬剤に感受性となるとともに,低温感受性を示す.今回PDR13遺伝子のC. neoformans における6ホモログのうち,翻訳開始点の特定できたCnPDR131,CnPDR132,CnPDR133,CnPDR134,CnPDR136の5個をターゲットとした遺伝子破壊による機能解析を試みた.これらのうちCnPDR131,CnPDR132,CnPDR133については遺伝子破壊株を得ることができたが,その他の2遺伝子については遺伝子破壊株の取得に至らなかった.得られた遺伝子破壊株の性状について検討したところ,CnPDR133破壊株は30℃での生育に遅延が見られ,20℃では生育そのものが認められなかった.また,アンホテリシンB,フルシトシン,フルコナゾール,ミコナゾール,イトラコナゾール,ミカファンギンに対する各遺伝子破壊株の感受性について調べたところ,CnPDR132,CnPDR133遺伝子破壊株がいずれもフロロピリミジン系抗真菌薬フルシトシンに対する感受性が高まっていた.