2025 Volume 2025 Issue 21 Pages 21-
農業分野における脱炭素技術の1つであるバイオ炭の農地施用を促進するため,バイオ炭の原料となる都道府県ごとの未利用バイオマス賦存量データセットを作成した.
To promote the application of biochar to cultivated land, which is one of the decarbonization technologies in agricultural sector, it is created that the datasets of the amount of unused biomass for the biochar by the prefectures.
様々な分野において気候変動対策として,脱炭素技術の推進(内閣官房副長官補室(内政),環境省大臣官房地域政策課 2021)が行われている。農業分野においては(1)持続可能な資材やエネルギーの調達,(2)地域の未利用資源の一層の活用,(3)持続的生産体系への転換,(4)持続可能な加工・流通システムの確立,(5)環境にやさしい持続可能な消費の拡大や食育の推進が挙げられている.(2)の未利用資源の活用はエネルギー資源,堆肥原料をターゲットとしてきたが,有望な気候変動緩和策技術としてバイオ炭の農地施用が取り上げられるようになった.すでに土壌改良資材としてもみ殻燻炭が流通しており,農地へ炭を施用する習慣はあったが,難分解性のバイオ炭を農地へ埋設することによって炭素貯留,大気中への放出を減らすことが可能である.二酸化炭素(CO2)排出削減量をカーボン・クレジットとして扱う取引制度も整備されており,国内では2020年9月にJ-クレジット制度にて「AG-004 バイオ炭の農地施用(2024年3月25日参照.現在はVer.2.0)」として方法論(J-クレジット制度事務局 2020)が登録されている.
本データペーパーでは,積極的なCO2排出削減を目指すバイオ炭の農地施用の普及のため,バイオ炭の原料となる未利用資源量(本データペーパー内では「未利用バイオマス賦存量」と表記)の推計を行った.農地への施用ということを考慮し,有害物質含有の可能性が低い未利用バイオマス16種類について,近年の統計資料を用いて,現在利用されている量を差し引いた利用可能な都道府県別未利用バイオマス賦存量データセットを作成した.農作業の過程で発生する未利用バイオマスについては,都道府県ごとの組織形態別,農業経営組織別のデータセットを作成した.本データセットは,主にバイオ炭を利用した緩和策を実施する際の基礎資料となることを想定している.活用場面としては,政策立案者や事業者が地域の未利用資源活用を策定する際や,農業従事者がバイオ炭の原料調達の可能性を検討する際などが挙げられる.また堆肥,エネルギー資源等の活用にも応用可能と考えられ,研究者が更なる分析や研究に利用することも期待している.
全国47都道府県を対象とした未利用バイオマス賦存量のデータセットを作成した.推計対象としたバイオマスは,表1に示した16種類であり,このうち5種類については組織形態別,農業経営組織別(農林水産省大臣官房統計部経営・構造統計課センサス統計室 2021)に未利用バイオマス賦存量を推計した.
1.都道府県別未利用バイオマス賦存量の推計未利用バイオマス賦存量(datafile_16_unused_biomass.csv)は,1年間に発生,排出される量の推計値を下記に示す概念に基づき求めた.
未利用バイオマス賦存量 = バイオマス賦存量 × 未利用率
未利用バイオマス賦存量,バイオマス賦存量は乾燥重量(DW-t/年)もしくは固形物重量(DS-t/年)とした(表1).
推計は新エネルギー・産業技術総合開発機構(2011)のそれぞれの推計方法に従った.ただし,新エネルギー・産業技術総合開発機構(2011)の推計方法で使用するデータを入手できない場合や未利用バイオマス利用状況が示されたデータを入手できた場合には新エネルギー・産業技術総合開発機構(2011)の推計式に調整を加えた.推計式を補足情報1,推計式に用いたデータを付表1,推計式の係数を付表2にまとめた.
2.都道府県ごとの組織形態別,農業経営組織別未利用バイオマス賦存量の推計都道府県ごとの組織形態別,農業経営組織別未利用バイオマス賦存量(組織形態別 datafile_by_organization_type.csv,農業経営組織別 datafile_by_farm_management_organization.csv)は2020年農林業センサス農林業経営体調査(農林水産省大臣官房統計部経営・構造統計課センサス統計室 2021)の販売目的の作物の類別作付(栽培)面積を利用し,果樹剪定枝,稲作残渣_稲わら,稲作残渣_もみ殻,麦わら,その他の農業残渣の未利用バイオマス賦存量を推計した.推計式を補足情報2,推計式に用いたデータを付表3にまとめた.
3.未利用バイオマス賦存量を表す単位について本データセットでは,バイオマス資源の未利用賦存量を乾燥重量(DW)と乾燥固形物(DS)の2つの単位で表している.乾燥重量(DW)は,特定の乾燥条件下で水分を除去した後の物質の重量を指し,主に固形のバイオマスに使用される.一方,乾燥固形物(DS)は,液状や半固形のサンプル中の水分を除いた固形分の割合を表し,主に汚泥に適用される.これらの単位の違いは,各バイオマス資源の物理的特性と測定方法を反映している.データを利用する際には,この単位の違いに注意が必要である.
本報告のデータは以下3つのデータファイル(csvファイル形式,文字コードUTF-8(BOM付き))から構成される(電子付録「データファイル」中に格納).
datafile_16_unused_biomass.csv:都道府県別未利用バイオマス賦存量(詳しくは表2参照).
datafile_by_organization_type.csv:都道府県ごとの組織形態別未利用バイオマス賦存量(詳しくは表3参照).
datafile_by_farm_management_organization.csv:都道府県ごとの農業経営組織別未利用バイオマス賦存量(詳しくは表4参照).
本研究は,農林水産省委託プロジェクト研究「農林水産分野における炭素吸収源対策技術の開発(農地土壌の炭素貯留能力を向上させるバイオ炭資材等の開発)」JP J008722の補助を受けて行った.
著者は開示すべき利益相反はない.