自然環境科学研究
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アジア産トリカブト属植物 (キンポウゲ科) の分類学的研究Ⅴ
中国産のAconitum bulbilliferum HAND.-MAZZ.とブータン産の近縁種について
門田 裕一
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1999 年 12 巻 p. 1-9

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抄録
アジア産トリカブト属植物の分類学的研究の一環として,ブータンにおいて1997年に現地調査を行った.ブータン西部・プナカ地方のコイナ(標高約3,400 m )でツル性の種を見いだした.このトリカブト属植物はツル性であるほか,花梗が無毛で,葉腋にムカゴをつけることが特徴である.ブータン植物誌(1984)ではこの植物をAconitum bulbilliferum HAND.-MAZZ.と同定している.中国植物誌によると,Aconitum bulbilliferumは中国・四川省の特産で,雲南省には知られていない.問題のツル性のトリカブト属植物がAconitum bulbilliferumであるとすれば,中国・四川省とブータンとに分布する著しい隔離分布の例ということになり,このような分布のパターンに興味が持たれた.
 1998年12月から1999年2月まで中国科学院植物研究所(PE,北京)において中国産トリカブト属植物の標本調査を行った.ところが同研究所にはAconitum bulbilliferumの標本は1葉もなく,ブータン産の植物との比較を行うことができなかった.そこでウィーン大学(WU)からタイプ標本を借用して比較検討を行った.その結果,問題のブータン産トリカブト属植物はツル性で,花梗が無毛であり,葉腋にムカゴをつける点で確かにAconitum bulbilliferumによく似ているが,(1)花がより小型であること,(2)小苞が線形あるいは匙形で小型であり,花梗の中部よりも下に位置すること,(3)側萼片の向軸側に長い集粉毛があること,(4)花弁(蜜弁)の距がより短いこと,(5)花弁の唇部は逆により大型であること,(6)葉柄には粗面屈毛に加えて滑面開出毛があること,(7)花が暗赤紫色でむしろ黒色に近いような色をしていることなどの有意な差があり,未記載の分類群と考えられる.ここではブータン産の植物に対して予備的な記載を行った.
 また,Aconitum bulbilliferumのタイプ標本を詳しく検討した結果,花梗は全く無毛というわけではなく,先端部にわずかに粗面屈毛がはえることが分かった.このことはタイプ標本とされた個体(ホロタイプとアイソタイプの2個体)が雑種起源であることを意味していると考えられた.両親種の一方はAconitum bulbilliferum.であり,もう一方の種はツル性で花梗に粗面屈毛が密生し,四川省に普通に分布するAconitum hemsleyanum PRITZ.であろうと推定された.さらに,ネパール産のツル性の種,Aconitum elwesii STAPFのレクトタイプを選定するとともに,Aconitum bulleyanum DIELSも加えて大ヒマラヤ東部に分布するツル性の種類について検索表を付した.
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© 1999 公益財団法人平岡環境科学研究所

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