自然環境科学研究
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サンヨウアオイ集団におけるいろいろな植物型の相対頻度と空間分布
内野 明徳濱村 政夫
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1995 年 8 巻 p. 23-33

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抄録
 サンヨウアオイ(Heterotropa hexaloba F. MAEKAWA)には3変種が知られている.そのうち,狭義のサンヨウアオイ(var. hexaloba)は6内輪真正雄ずいと6外輪仮雄ずいを持つ花(雄ずい組成6-0-0-6)をつけるが,キンチャクアオイ(var.perfecta)は6内輪真正雄ずいと6外輪真正雄ずいを持つ花(雄ずい組成6-6-0-0)をつけるとされている.しかし,著者らの一連の研究によって,内輪雄ずいの数と形態は安定しているのに対して外輪雄ずいの数と形態には大きな変異があり,種内にはさまざまの雄ずい組成を持つ花が存在する.また,これらの花に基づく個体の植物型も多様であることが明らかとなった.これらの植物型は4大別できる.すなわち,サンヨウアオイ型(hexaloba type):すべての花が6-0-0-6組成の個体,キンチャクアオイ型(perfecta type):すべての花が6-6-0-0組成の個体,第三型(third type):すべての花が内輪真正雄ずいだけを持つ(6-0-0-0組成)個体,その他の型(other types)である.これらの植物型の集団ごとの相対頻度は,熊本県内では,県北,県央,天草・県南海岸部に3分化している. しかし一方では,個体ごとの雄ずい組成とそれに基づく植物型は年によって変化することも明らかになっている. したがって,植物型の相対頻度の地域的分化が固定しているものかどうかは不明である.
 本研究では,多様な植物型の個体から構成されている県央の大通峠(Ot)集団とほとんどがキンチャクアオイ型の個体である天草の次郎丸岳(Jr)集団における植物型の相対頻度を3年間継続して調査した.また,両集団ともにマッピング調査を行い,集団内での個体の空間分布の様子を“m-m回帰法”によって分析した.
 Ot集団において3大別されたキンチャクアオイ型,サンヨウアオイ型,その他の型の個体の相対頻度は,1980,1981,1982の3年間では安定していた(x2 = 1.628,0.90 > p > 0.80).また,Jr集団でのキンチャクアオイ型とその他の型の相対頻度も,1980年と1982年とでほぼ一定していた(x2 = 0.165,0.70 > p > 0.50).したがって,植物型の相対頻度の地域間分化は固定していることが明らかとなった.
 Ot集団(1982)でマッピング調査を行った8×9mの範囲内には,69開花個体が生育していた.これらの個体では47植物型が区別でき,さまざまな植物型の個体が調査範囲内に分散して生育していた.Jr集団(1982)では,マッピング調査を行った3×4 mの範囲内に33開花個体が生育しており,12植物型が区別できた.これらの個体のうちの18個体はキンチャクアオイ型であったが,調査範囲内に分散して生育していた.開花個体のこのような分布パターンを解明するために,調査範囲内に生育している個体を生育段階によって,幼個体,花をつけていない無花個体,開花個体に3大別し,それぞれの空間分布様式を“m-m回帰法”によって数理的に分析した.解析の結果,Ot集団では幼個体は集中分布を示し,無花個体,開花個体と生育段階が進むにつれてランダム分布になっていた.この結果,自家受精によって形成された類似の遺伝子型を持つ種子が,発芽から開花に至る発育段階で淘汰されていると考えられる.その結果として,開花個体はランダム分布をし,開花個体ごとに異なる遺伝子型を持つ傾向になると考えられる.Jr集団では無花個体が集中分布を示し,幼個体と開花個体とはランダム分布を示した.幼個体と無花個体の関係は不明である.しかし,開花個体の分布パターンから,この集団でもOt集団と同様の現象が起こっていると推察される.
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© 1995 公益財団法人平岡環境科学研究所

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