抄録
剖検や経食道心エコー図検査 (TEE) で大動脈における動脈硬化病変と虚血性脳血管障害との関連性が指摘されて以来, TEEが大動脈における動脈硬化病変の評価に利用されている.しかし, TEEは侵襲的検査法であり, 全ての患者で探触子が挿入できるわけではない.さらに, 上行大動脈の遠位側は気管の走行によりTEEによる評価が困難である.そこで, 筆者らは右鎖骨上窩からBモード法で大動脈における動脈硬化の評価を試み, その所見をTEEと比較した.
右鎖骨上窩からのBモード検査には7.5MHzの周波数を有するlinear型の探触子を, TEEには5-7MHzの可変周波数を有するmultiplane探触子を用いた.お互いの検査所見を知らない異なる検者が20症例で二つの検査を行い, 上行大動脈と大動脈弓部をそれぞれ近位部と遠位部に分けて, 各部位における単純動脈硬化病変 (4mm未満) と複合動脈硬化病変 (4mmを越える) の有無を調べた.
近位上行大動脈ではTEEで8個の単純動脈硬化病変を検出したが, 右鎖骨上窩からのBモード検査ではいずれも検出できなかった.遠位上行大動脈では1つの複合動脈硬化病変が両検査でみられ, 右鎖骨上窩からのBモード検査は単純と複合動脈硬化病変をさらに1ずつ検出した.近位大動脈弓部では両検査で6つの複合動脈硬化病変と5つの単純動脈硬化病変がみられ, さらにTEEはもう1つの複合動脈硬化病変を検出した.遠位大動脈弓部ではTEEが2ずつの単純と複合動脈硬化病変を見いだし, 右鎖骨上窩からのBモード検査が3つの複合動脈硬化病変を見いだした.
以上の結果から, TEEは近位上行大動脈の評価に, 右鎖骨上窩からのBモード検査は遠位上行大動脈の評価に優れており, 右鎖骨上窩からのBモード検査は上行大動脈と大動脈弓部の評価におけるTEEの所見を補う検査法といえるであろうと結論している.