日本考古学
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伊勢湾地方における台付甕の作り方
弥生時代後期を中心に
村木 誠
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2006 年 13 巻 21 号 p. 55-79

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抄録

本論は,弥生時代後期における伊勢湾地方の台付甕の成形方法について議論するものである。伊勢湾地方では,弥生時代中期に台付甕が誕生して以降,時間的,空間的に種々の台付甕が見られる。その中でも,器種が増加し,分布も拡大する弥生時代後期の各種の台付甕の関係を具体的に明らかにするため,台付甕の,台と胴の接合部,胴下半部を中心とした成形方法を検討した。
伊勢湾地方における弥生時代後期の台付甕の台と胴の接合部には,連続成形と断続成形がある。後者は,弥生時代後期になって高坏などの新器種の波及に伴って西日本からもたらされた成形方法であると思われるが,その中には別々に成形した台と胴を組み合わせる方法(別作り組合せ)と,成形後,乾燥させた台の頂部側面から胴部を積上げるもの(側面積上げ)がある。この二種の成形方法の時間的,空間的な分布を検討し,台付甕の成形方法の時間的変化,地理的差異,成形方法と甕の系統との関係を示した。それに基づき,各種の台付甕の相互関係を具体的に論じた。
さらに,台付甕の成形方法を台付壷,高坏などの他の脚台付土器の成形方法と比較した。脚台付土器の成形方法はすべての器種で共通するのが一般的であるが,台付甕の中には同時期の他の脚台付土器とは成形方法が異なるものがあり,器種毎に製作者が異なる場合がある可能性を指摘した。
本論で取り扱った土器の成形方法は,完成品からはうかがえず,また身体の使い方や土器作りの工程と密接に関係するため,容易には模倣できないという特徴をもつ。そのため,その変化や地域差の要因としては土器製作者の交渉が想定される。しかし,同一地域,同一器形の土器が異なる成形方法によっている事例もあることから,土器製作という行為あるいは土器製作者の社会的な位置付けの議論を行うことなく,この土器製作者の交渉から,地域集団間の関係を議論することには慎重であるべきことを主張した。

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