日本考古学
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弥生時代の鉄剣・鉄刀について
会下 和宏
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2007 年 14 巻 23 号 p. 19-39

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抄録

弥生時代における鉄刀剣は,様々な法量,形態があり,日本列島のなかで時期ごとに偏在性をもって分布している。本稿では,資料が増加した朝鮮半島南部と弥生時代の鉄刀剣とを比較して,生産と流通の様相や墳墓副葬における消費の様相を検討し,その意義を考察した。
まず,日本列島における弥生後期中葉頃~終末期の長茎・細茎の長剣等は舶載品,短剣は日本列島製が含まれている可能性を追認した。また,分布状況では,弥生後期中葉頃~終末期の長茎・細茎の長剣・鉄刀は,本州島日本海側に多く分布し,大型墓壙,ガラス製管玉副葬の分布とも重複する。東日本にも長剣が分布するが,短茎で平面梯形状をなすものが多いという地域性があり,中継地を介した流通過程に消費地側の需要が強く反映されていることが窺えた。
墳墓副葬における消費の様相では,棺内副葬の際は被葬者が成年以上男性の場合が多く,弥生終末期の一部の墳墓では幼小児埋葬にもみられるが,稀有な事例である。また,今後の実証研究が必要であるが,鉄刀剣副葬の基本理念の一つとして,「辟邪」が意識されている可能性を考えた。大型墓壙の埋葬墓には鉄刀剣副葬が多く,内訳をみると,舶載の長剣・大刀等がはいるものがある反面,短剣や切先のみの場合もある。
日本列島・朝鮮半島南部の一部上位階層に副葬される長剣・鉄刀等が,日本海を介して日本列島に流通する背後には,環日本海諸地域をめぐる社会状況の情報や集団相互の「政治」関係等も,製品に付帯していたことを示唆している。
今後の課題の1つは,鉄刀剣以外の石製武器・武器形青銅器等も含めて,近接武器ないし武器形製品が,諸地域においてどのように使用され,その背景にどのような歴史的脈絡や意義があったのか比較検討することである。

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