日本考古学
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考古学における社会論への一視座
中園聡氏の批判に応えて
澤下 孝信
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1995 年 2 巻 2 号 p. 181-189

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抄録
土器を素材にして文化や社会の動態にアプローチする研究が,近年続々と発表されている。それも,外来系土器と在地系土器の関係というレベルの議論ではなく,土器製作に関する情報の伝達という視点から,土器がもつ属性によって伝播のあり方が一様でないことが指摘されている。これを行為者側からみると,土器製作者が属性もしくは要素に関わる情報を主体的に選択していることになる。このような取捨選択を,中園聡は,P.Bourdieuのハビトゥス(habitus)とモーターハビット(motor-habits)の概念を中心に説明しようとしている。
モーターハビットについては1920年代にF.ボアズが文化的に形成された身体の動きを指す用語として使用しているが,近年では,無意識的で,学習されることも共有されることもなく,しかもほとんど変化しない習慣的な身体の動きとされ,文化的にパターン化された身体の動きには"モーターバビット・パターン"という術語が用いられている。したがって,モーターハビットは個人の行為に際しての癖と関連づけて理解し,個人を越えた集団の癖はモーターハビット・パターン(=ボアズ流のモーターハビット)として理解すべきであろう。
また,ハビトゥスの原義では,無意識的行為はともかく,意識的・自覚的行為との関係が明確ではない。しかも,この概念は,結果的に行為者に現状維持を指向させるものであるから,社会や文化の動態の説明概念としては不十分である。
この点において,行為者の実践的意識(=暗黙知)と言説的意識という意識の階層性を基礎としたA.ギデンズ(Giddens)の構造化理論の方が文化や社会の動態の概念化により有効であると考えられる。
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