日本考古学
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墳丘に現れた価値
福岡市老司古墳を主な事例として
大西 智和
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1996 年 3 巻 3 号 p. 1-19

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抄録

本稿では当時の人々の「もの」の取り扱い方と,それが表す意味に注目した。素材として,福岡市老司古墳の埴輪を用いた。老司古墳からは壺形埴輪や円筒埴輪などが出土しており,壺形埴輪には,単口縁/二重口縁のものがあって,それぞれ,前方部/後円部で主体的に用いられていると報告されている。本稿では,まず,その確定を行うことにした。しかし,出土した壺形埴輪にはそのままでは単口縁/二重口縁の別が不明の破片資料も多いため,それらがいずれであるのかを判別する分析を行った。分析には角度や計測値などの計量的な属性と,形態などの非計量的な属性を用い,それらが単口縁/二重口縁のものとどのような相関関係を示すのかを検討して,判別の指標を導き出した。さらに,判別の有効性を確認するために,多変量解析(数量化分析2類・数量化分析3類)を用いた。
判別した資料も加えて墳丘での出土状況を検討した結果,単口縁は前方部,二重口縁は後円部という使い分けを確定することができた。
老司古墳の埴輪とその用いられ方(二重口縁/単口縁,円筒埴輪/壺形埴輪,埴輪の樹立間隔短い/長い)などについて,精巧さ,丁寧さ,手間暇のかかり具合,流行などの程度を考慮して,その度合いの高い/低いを想定した。また,墳丘各部(後円部/前方部,埋葬施設付近/埋葬施設以外,上部/下部)についても,重要度の高い/低いを想定し,両者の関係を検討したところ,それぞれ高いものどうし低いものどうしが相関することがわかった。次に,他の古墳での事例を検討した。使い分けには多くのバリエーションが認められたが,やはり同様の結果が得られた。これらのことから,墳丘各部に与えられた「価値」が広く認識されており,それが埴輪の使い分けによって表示されたものと考えた。

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