日本考古学
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プラント・オパール土器胎土分析からみた中部日本の稲作農耕の開始と遺跡の立地
山梨・新潟の試料を中心として
外山 秀一中山 誠二
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2001 年 8 巻 11 号 p. 27-60

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抄録

山梨と新潟の11遺跡から出土した縄文時代晩期~弥生時代中期初頭の土器76点を整理して資料化し,このうちの55点を対象としてプラント・オパール分析を行った。土器胎土の定性分析と簡易定量分析の結果,8遺跡の14試料からイネの機動細胞プラント・オパールが検出された。このうちの4試料は弥生時代前期前葉に,5試料は前期中葉に並行する浮線文土器に比定される。
また,山梨の宮ノ前遺跡では前期中~後葉の水田址が発掘されている。山梨と新潟では,かかる浮線文土器の段階にイネ資料が増加し水稲作が開始されている。中部日本の稲作の開始と波及を検討する上で,浮線文期は,稲情報の波及や水稲農耕技術の受容という生業の変換期となっており,その重要性が指摘される。当時は,地形や地層,標高などの地形環境に適応した多様な稲作形態であったとみられ,遺跡立地の多様化現象が認められる。
さらに,地形分析に基づいて遺跡の時期的・地形的な動向を検討すると,両地域に遺跡立地の低地化傾向がみられ,弥生時代中期以降において水稲農耕の定着化が進む。
また,山梨ではネザサ節型,新潟ではクマザサ属型のプラント・オパールが多数検出され,両地域間のササ類にみられる植生環境に違いがみられる。さらに,定性分析や簡易定量分析の結果は,胎土の供給源の違いとともに,土器製作時およびそれ以前の植生環境の違いや,植物質の混入または混和材の可能性を示唆している。

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