Niigata Iryo Fukushi Gakkaishi
Online ISSN : 2435-9777
Print ISSN : 1346-8774
Research on “collaboration ability” of care workers-Focusing on the difficulty of collaboration-
Shigeru Matsunaga
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2021 Volume 21 Issue 2 Pages 51-56

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Abstract

【目的】協働するちからに課題を持つ介護福祉職の特徴について検討することを目的とする。

【方法】3か所の特別養護老人ホームに勤務する介護福祉職6名を対象にインタビューを実施した。インタビューデータは、質的分析方法であるSCAT (Steps for Coding and Theorization)を採用し分析を行った。

【結果】協働するちからに課題をもつ介護福祉職の特徴に関する15の構成概念を生成した。また、介護現場で協働に関して課題を持つ介護福祉職の特徴として、①自己中心的な行動を取る、②コミュニケーションを拒否する、③プラスの業務をこなせない、④本音が話せないという特徴が示唆された。

【考察・結論】自己中心的な行動を取る、コミュニケーションを拒否する、プラスの業務をこなせない、本音が話せないという4つの特徴が他の介護福祉職との人間関係を悪化させる要因となり、介護福祉職同士の協働を困難にさせることが示唆された。

Translated Abstract

Purpose:The purpose of this study was to examine the current situation and issues of care workers regarding the collaborative ability of care workers.

Method:Interviews were conducted with 6 care workers working at 3 different nursing home for the elderly. The Interview data were analyzed by using SCAT (Steps for Coding and Theorization), which is a qualitative analysis method.

Results:We generated fifteen constructs. It was suggested that the characteristics of care workers who have issues on collaboration are (1) taking self-centered actions, (2) refusing communication, (3) not being able to perform additional tasks, and (4) not being able to speak their true intentions.

Discussion / Conclusion:It was suggested that the four characteristics are factors that human relations with other care workers and make it difficult for care workers to collaborate with each other.

I はじめに

特別養護老人ホーム(以下、施設)では、多数の介護福祉職がチームを組み、切れ目なく継続した利用者の介護にあたっている。

介護福祉の特徴として、複数の介護福祉職がチームを組んで支援していくということがあげられる1)。つまり、介護福祉職間における協働が求められている。しかし、先行研究からは施設における協働に関した課題が報告されており、その一つが人間関係の悪化である。そして、人間関係の悪化は介護福祉職の職務のモチベーションの低下2)と、それによる介護サービスの質に影響する。蘇珍伊らは、介護福祉職の有能観は職場内の人間関係と有意に関連していることを説明し、人間関係が日々行う介護サービスの原動力であり、よって、人間関係の悪化は介護福祉職の職務のモチベーションに影響を与えていることを示唆している3)

また、職場の人間関係を背景とする協働の課題について、先行研究では、以下のとおり報告されている。

たとえば、人間関係を悪化させる背景として、視野が狭く機転をきかせることができない、他者への配慮ができないことで、信頼関係が構築できない介護福祉職の存在が示唆されている4)

また、介護福祉職のチームに対する無関心さが人間関係の悪化につながる具体的な事項として、介護福祉職の「仕事への無責任な態度」「職員の判断で行われるケア」「役割意識の欠如」を挙げ、これらが要因となり、人間関係が希薄となることも示唆されている5)。これらの先行研究からは、人間関係に関する課題が協働の課題背景にあることが示唆されている。

そして、介護福祉職間の人間関係を悪化させる背景として、先行研究では、介護福祉職個人の人間関係に関する知識やスキル、認識などの行動特性、つまりコンピテンシーが影響していることが示唆されている。

OECD(経済協力開発機構)は、コンピテンシーは知識や技能だけではなく、意思や意欲、態度といった「情動的」な側面にも支えられているとし、それを社会情動的能力と提唱した6), 7)。OECDの定義によると、社会情動的能力とは「(a)一貫した思考・感情・行動のパターンに発現し、(b)学校教育またはインフォーマルな学習によって発達させることができ、(c)個人の一生を通じて社会・経済的成果に重要な影響を与えるような個人の能力」と定義され、目標を達成する力、他者と協働する力、情動を制御する力を含むとされる。

以上の先行研究を基に、本研究では、介護福祉職の社会情動的能力に含まれる「協働するちから」に注目し、施設における協働に関する課題のひとつとして、介護福祉職間の人間関係の悪化が存在し、その要因として、介護福祉職の協働するちからが背景にあると仮説を立てた。そのうえで、社会情動的能力に含まれる協働するちからに課題を持つ介護福祉職の特徴について検討していくことを目的とした。

II 目的

協働するちからに課題を持つ介護福祉職の特徴について検討することを目的とする。

III 方法

1 対象者と方法

対象者は、3か所の特別養護老人ホームに勤務する介護福祉職6名とし、「協働することが困難と思われる介護に従事する同僚」についてインタビューを行った。対象者は、筆者と面識がある施設管理者の施設に勤務する介護福祉職とし、施設管理者に研究の目的等を伝えたうえで、研究協力者として適任と思われる介護福祉職を推薦してもらい、対象者を選定するという手順の機縁法を用いた。

機縁法を採用した理由は、インタビューにおいて、より具体的な語りのデータの取得には、研究目的に沿った対象者の選定が必要であると判断したからである。

そのうえで、本研究の目的や方法を説明し、協力の得られた6名にインタビュー調査を実施した。調査対象者の属性は表1のとおりである。

性別では男性2名、女性4名、年齢別では50歳代が1名、20歳代が5名であった。取得資格はすべてが介護福祉士を保有していた。介護福祉職としての勤務年数(前職場も含む)の平均は6年であった。

インタビューは半構造化面接にて実施した。インタビューの質問項目は以下のとおりである。調査実施期間は令和1年6月~令和1年9月の間で実施した。

インタビュー項目

①「介護福祉職同士のチーム内において、他の介護福祉職と一緒に働くことが困難と思う介護職員は存在しますか」

②「具体的な状況を教えてください」

③「そのことで現場ではどのような不利益が生じていますか」

2 分析方法

ICレコーダに録音したデータを逐語録として作成した。その後、質的分析方法であるSCAT(Steps for Coding and Theorization、以下SCAT)を用いて分析を行った。SCATは、4段階のコーディング(①データのなかの着目すべき語句 ②それを言いかえるためのデータ外の語句 ③それを説明するための語句 ④そこから浮き上がるテーマ・構成概念)を行ったうえでストーリーラインの記述、理論記述により新たな知見や理論を導き出す分析手法である8)

SCATを採用した理由として、2点あげる。1点目は、分析の過程が明示的に残るため、自分の分析の妥当性確認のためのリフレクションを分析者に迫る機能を有しているためである。2点目は、小規模のデータにも適用できるためである。

手順としては、①データの中の着目すべき語句、②それを言いかえるためのデータ外の語句③それを説明するための語句、④そこから浮き上がるテーマ・構成概念の検討をした。その後、ストーリーラインの記述、理論記述を行った。

3 用語の定義

OECDとSpencer. L Mらの定義を参考にして、本研究では、協働するちからを「人間関係を形成・維持し業務を遂行するために、特定の環境・状況と相互作用しながら、その場の環境・状況にふさわしい行動ができるちから」と定義した9)

4 倫理的配慮

日本社会事業大学倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号18-1101)。また、インタビューのデータは対象者ごとにIDを振り分けて記述データと別にして保管すること、また、インタビュー調査の対象者の識別ができないよう、対象者に符号もしくは番号を付与するとともに、分析結果を掲載する際には、場所や記述の対象となる者が特定できるような記述をそのまま掲載しない旨を説明した。

その他に、インタビュー協力者はいつでも同意撤回ができる旨も説明した。

IV 結果

まず、協働するちからに課題を持つ介護福祉職の特徴に関する15の構成概念を生成した(表2)(表3)。次に構成概念を基にストーリーラインの記述、理論記述を行った。

結果、協働に関して課題を持つ介護福祉職の特徴として、①自己中心的な行動を取る、②コミュニケーションを拒否する、③(自身の役割・担当以外の間接業務への関心・気づき・対応といった)プラスの業務をこなせない、④本音が話せないという事項があげられた。

V 考察

まず、以下のとおり、ストーリラインを記述した。

1 ストーリーライン(下線は構成概念を示す)

協働が困難な介護福祉職の特徴は、相手の立場に立てない介護福祉職である。介護福祉職が助けを必要とする際も、自分の業務、他人の業務と他者を助けることへの割り切りを行い、積極的な手助けは行わない。また、それに対する罪悪感を感じない。たとえ、助けたとしても、自分の業務以上の余計な仕事をしたという態度が見られ、相手にとっては精神的に負担となるフォローとなっている。

次に、業務中に相手の立場に立てない言動が見られない介護福祉職も協働において困難性が生じる。声かけの有無が関係悪化の要因になる認識の欠如である。そして、業務においても、自身の世界観・価値観を疑わない自分の思い通りにする自分の思いに叶わない介護は拒否自己中心的な行動など、人と合わせる努力がないため、連携のためのコミュニケーションが困難となる。

また、情報伝達の有無が業務の支障となる認識の欠如、行動の結果が読めない、間接的業務を怠る、段取りが組めないため他者へしわ寄せがくるなど、一緒に仕事をする介護福祉職が業務の穴埋めの負担を行うことになり、他者の業務負担を増やしてしまう介護福祉職も協働に困難性が生じる。

また、愚痴などを話せない、感情を吐露できないといったことで、心理的共有が困難による仲間意識の喪失となり協働が困難となる。

2 理論記述

次に理論記述を行った。

・協働が困難と感じる介護福祉職の特徴は、自己中心的な行動をとる介護福祉職である。

・協働が困難と感じる介護福祉職の特徴は、コミュニケーションを拒否する介護福祉職である。

・協働が困難と感じる介護福祉職の特徴は、自身の役割・担当以外の間接業務への関心・気づき・対応というプラスの業務をこなせない介護福祉職である。

・協働が困難と感じる介護福祉職の特徴は、本音が話せない介護福祉職である。

3 理論記述からの考察

次に、4つの理論記述を取りあげて考察していくこととする。

1)自己中心的な行動をとる介護福祉職

相手の立場に立てない介護福祉職とは、自身の業務と他者の業務を明確に線引きしており、他の介護福祉職のフォローをしない。この介護福祉職は、業務の線引きという形で割り切っており、特に割り切ることへの罪悪感を感じることはなく、自己中心的な行動とも考えていない。

2)コミュニケーションを拒否する介護福祉職

介護福祉職は、相手の立場に立った言動の有無が協働に影響を与えると考える。つまり、相手の立場に立った言動がみられない介護福祉職とは協働をしづらいと考えている。

ここでの相手の立場に立った言動とは、挨拶やねぎらいの言葉かけである。

また、介護福祉職は、一緒に働くうえで、報告・相談・連絡を行わないなどの自身を認めてもらえていないと思われる言動に遭遇することで、不信感や怒りなどが生じることとなり、結果、協働が困難であるという考えに至ることが示唆される。

3)プラスの業務をこなせない介護福祉職

インタビューの中で介護福祉職が、協働が困難な介護福祉職の特徴として挙げたもので最も多かったのが、プラスの業務をこなせない介護福祉職の存在であった。

プラスの業務がこなせないとは、自身の役割・担当以外の間接業務への関心・気づき・対応がないことを指している。

ここでの間接業務とは、「フロアーのごみを捨てる」や「食器等の洗い・片づけ」、「オムツ等の物品の補充」、「居室等の整理整頓」などである。これらの業務への関心・気づき・対応が無いと毎回、特定の介護福祉職にしわ寄せがくることになる。結果、負担感から相手に対して不満、苛立ち、不信感が生じることになる。

また、プラスの業務がこなせない介護福祉職は、自分が置かれている状況の文脈を解釈し、見通しを立てて段取りを組み立てて行動していくことを苦手としていることが示唆される。そのことでも、他の介護福祉職に業務のしわ寄せがきてしまうことになる。そのため、介護福祉職は、このような介護福祉職との協働も難しいと考えることが示唆される。

4)本音が話せない介護福祉職

介護福祉職は、業務上の愚痴を言い合ったりしながら無意識的に精神的な負担の軽減・バランスの調整を行うことが考えられる。ここで取り上げる愚痴とは、大変だった業務を他者に伝えることが目的であり、次の業務に向かうためのガス抜きである。さらに言えば、介護福祉職同士、同じ利用者、業務、場の空間を共有しているコミュニティの仲間という確認を目的としたツールとしての機能である10)

インタビューにあるように、愚痴が言えない、本音で語れない相手は、真の仲間という意識が生まれにくく、距離感が生じる。よって、協働の際もぎくしゃくとしたものになることが考えられる。

以上、協働するちからに課題を持つ介護福祉職について考察してきた。そして、協働に課題を持つ介護福祉職の特徴として、①自己中心的な行動をとる、②コミュニケーションを拒否する、③プラスの業務をこなせない④本音が話せないという特徴が明らかとなった。

VI 結論

協働するちからに課題を持つ介護福祉職は、①自己中心的な行動をとる、②コミュニケーションを拒否する、③プラスの業務をこなせない④本音が話せないという特徴が明らかとなった。

そして、これらの特徴が他介護福祉職との人間関係を悪化させる要因となり、結果、介護福祉職間の協働を困難にさせていることが考えられる。

研究の限界

本研究は、機縁法を用いて3か所の特別養護老人ホームで介護に従事する介護福祉職6名を対象にしたが対象施設、対象者が限られているため、本研究結果は普遍化できるものではない。

利益相反

本研究に関して、関連する利益相反はない。

References
  • 1)  古川和稔:介護職員のストレス,日本労働研究雑誌,57:26-34,2015.
  • 2)  谷口敏代:介護職の仕事継続動機と関連要因,介護福祉,17(1):55-65,2010.
  • 3)  蘇珍伊・岡田進一・白澤政和:特別養護老人ホームにおける介護職員の仕事の有能感に関連する要因 利用者との関係と職場内の人間関係に焦点をあてて,社会福祉学,47(4):124-135,2007.
  • 4)  山口麻衣・山口生史,介護施設におけるケアワーカー間の協働─組織内ケアチームに着目した分析,ルーテル学院研究紀要,43:35-48,2009.
  • 5)  坂田佳美:介護はチームワークの下で実践されているのか─介護老人福祉施設における介護の実態から─,国際医療福祉大学 博士論文:32-45,2016.
  • 6)  遠藤利彦:非認知的(社会情緒的)能力の発達と科学的検討手法についての研究に関する調査報告書, 国立教育政策研究所,8,東京,2017.
  • 7)  経済協力開発機構(OECD)(著),無藤隆・秋田喜代美 (監修):社会情動的スキル─学びに向かう力,明石書店,第1版,52,東京,2018.
  • 8)  大谷尚:SCAT: Steps for Coding and Theorization─明示的手続きで着手しやすく小規模データに適用可能な質的データ分析手法─,感性工学,10(3):155-160,2011.
  • 9)  Spencer, L. M., and Spencer, S. M,梅津祐良・成田攻・横山哲夫訳:コンピテンシー・マネジメントの展開,生産性出版,東京,2001.
  • 10)  植村勝彦:コミュニティ心理学入門,ナカニシヤ出版,初版,161-182,東京,2007.
 
© Niigata Society of Health and Welfare
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