Niigata Iryo Fukushi Gakkaishi
Online ISSN : 2435-9777
Print ISSN : 1346-8774
Difficulties of Teaching Dance Classes in the Educational Field: A Questionnaire Survey for Elementary and Junior High School Teachers
Yuri WakaiFumie YamazakiShigekazu Yoshida
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2021 Volume 21 Issue 2 Pages 67-77

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Abstract

本研究では、表現運動・ダンス授業において教師が直面している困難さを把握し、課題解決に向けた対応策の手がかりとなる資料を得ることを目的とした。調査方法は新潟市内小学校、中学校体育主任を対象とした質問紙調査であり、表現運動・ダンス授業の実態、指導時における困難さ、ダンス授業・講習会等受講経験の効果と要望について尋ねた。その結果、小学校では3つのダンスが偏りなく採択されていた一方で、中学校ではリズム系に偏って種目採択されており、また小中学校の学校種および教師の熟練度を問わずリズム系が重点的に実施されていることが示唆された。指導の困難さにおいては総じて熟練指導者より未熟練指導者の方が困難さを多く抱えており、特に〈授業づくりや指導法に関すること〉の観点に含まれる技能評価の視点と授業の構成方法、児童・生徒に向けた言葉のかけ方等、授業中の子どもとの関わり方に苦手意識を感じていた。一方で熟練指導者は多様で自由かつ独創的な動きや即興的な表現を引き出すことに課題を抱いていることが示唆された。ダンス授業・講習会等受講経験の効果としては、教職に就いて以降の講習会の方が大学時ダンス授業履修経験より指導現場に活かされていると教師は感じており、指導法を学ぶ機会において教師は系統性のある学習課題や授業の単元構成に関する知識および実践方法を求めていることが示唆された。

Translated Abstract

The purpose of this study is to understand the difficulties faced by teachers in dance classes and to obtain materials that can be used as countermeasures to solve the problems. A survey method via a questionnaire was used, targeting elementary and junior high school physical education chiefs in Niigata City. Inquiry about the actual conditions of expression dance lessons, difficulties in teaching, and the effects and requests of attending classes ensued. As a result, three types of dance presented by the national curriculum were selected evenly in elementary school. Rhythmic dance was opted in junior high school and emphasized regardless of the skill level of teachers. Generally, unskilled instructors face hardship in teaching compared with skilled instructors. In particular, from the perspective of <class making and teaching methods>, skill evaluation perspectives, lesson composition methods, and children, I felt that I was subpar at interacting with children during the class, apropos of speaking to students. Contrarily, it established that skilled leaders have a problem eliciting diverse and free creative movements and improvisational expressions. As for attending dance classes, teachers discern that dance instruction classes for teachers are more utilized in the teaching field than taking dance classes at university. Further, there is an opportunity to learn teaching methods. Therefore, it was proposed that teachers should seek knowledge and utilize practical methods for systematic learning tasks and lesson unit composition.

I 緒言

文部科学省から平成29年3月には小学校・中学校の学習指導要領が公示され1), 2)、「主体的・対話的で深い学びの実現」を重視して改訂された。体育における表現運動・ダンスの授業は、何を学んでいるのか、どのように系統立てて学習を進めていけばよいのか、教師や児童・生徒にとってもわかりにくい運動領域であると捉えられてきた。現在では小学校1年生から中学校2年生までの期間は表現運動・ダンスの必修、中学校3年生から高校3年生の期間は選択と位置づけられているため、特に小・中学校における教師は指導熟練度に問わず表現運動・ダンスの指導に取り組む必要があるが、教育現場では表現運動・ダンス授業に対して苦手意識を抱く教師も多く3)、ダンス授業等の指導法が十分理解されずに困惑が続いているのが現状である4)。これまでの調査結果より、教師側のダンス経験の不足や実技能力不足、ダンスに関する知識不足がダンス指導の実施を妨げていることも報告として挙げられており5)、その改善策として講習会への参加を促す提案が多く挙げられていたが、松本6)が「長期的にみれば大学時の履修経験の差はダンス観、指導観、指導能力などに影響を与え、指導実践をおこなわせる原動力になる」と述べているように、教職志望学生が大学時にダンス領域の科目を履修することの意義も示されている。では、教職を目指す学生に対してどのような指導実践力を早い段階から磨く必要があるだろうか。学習指導要領の改訂を受けた現段階における、表現運動・ダンス授業の実態および現職の教師が直面している困難さについて把握すること、並びに児童・生徒と対面している教師が指導法獲得の場に必要性を感じることを捉えることによって、学生および指導経験の浅い教師が身に付けるべき指導力や今後直面する課題を探索的に把握したいと考えた。本研究により課題解決に向けた対応策の手がかりとなる基礎的資料を得ることを目的とする。

II 方法

1 倫理審査

本調査においては、新潟医療福祉大学倫理委員会の承認を得ており(承認番号18058-180710)、関連する利益相反はない。

2 対象者

新潟県新潟市の全小学校109校、全中学校62校の各学校1名(体育主任)を対象とした。新潟市教育委員会の承認のもと各学校へ質問紙を配布し、同意を得られた者のみ調査用紙へ記入した。記入後の調査用紙の回収は郵送法のため、返送用封筒にて郵送を依頼した。回収率は小学校が48.62%(109名中53名)、中学校56.45%(62名中35名)であった。

3 調査期間

質問紙の配布および回収をした本研究の調査期間は2018年4月~7月である。

4 調査項目

1)基本属性

 性別、年齢、教師歴、教職に就いて以降の表現運動・ダンス授業の指導歴を尋ねた。

2)指導法の獲得経験

大学時のダンス授業、および過去に参加した講習会等の受講経験について尋ねた。

3)表現運動・ダンス授業の実態

過去10年以内の表現運動・ダンス授業の指導経験、実施している採択種目および学習内容、教師の表現運動・ダンス授業への意識、児童・生徒の授業へ取り組む姿について選択式にて尋ねた。教師の表現運動・ダンス授業への意識については、授業への積極性を「得意」「やや得意」「どちらともいえない」「やや苦手」「苦手」の5件法で尋ねた。児童・生徒の授業へ取り組む姿については、教師から見た印象によって「積極的」「やや積極的」「どちらともいえない」「やや消極的」「消極的」の5件法で尋ねた。

4)表現運動・ダンス授業に対する困難さ

表現運動・ダンス授業に対する困難さについては、筆者が設定した29項目に対し困難と感じる強さを「非常に困っている」から「全く思わない」までの4件法で尋ねた。この設定した29項目は、寺山3)、山口4)、荻江7)による先行研究を参考に、①児童・生徒に関すること、②教師に関すること、③授業づくりや指導法に関することの3要素によって構成した。具体的には①および②は「心理面」や「身体・技能面」に関する項目内容、③は「単元や領域、教師による児童・生徒の評価、教材準備や選曲」に関する項目内容である(表1)。

5)ダンス授業・講習会等の受講経験とその効果

「ダンス授業・講習会等の受講経験はご自身の指導へどの程度活かされていますか」「ダンス授業・講習会等はどのような点において現在の指導に活かされていますか」という2点の質問文により、大学時に履修したダンス授業および教職に就いて以降における講習会等について、内容とその効果を選択項目によって尋ねた。

6)指導法獲得の場への要望

指導法を学ぶ場である大学時のダンス授業や現職の教師対象の講習会等に求めるもの(要望)等について、自由記述で回答を求めた。

5 用語の定義

各校種によって領域名および内容の名称が異なるため、本研究で用いる用語については文部科学省による指導の手引き8)より参考に以下のように定義する。

1)「ダンス系」領域

小学校の「表現運動系」領域および中学校・高等学校における「ダンス」領域の総称

2)「表現運動系」領域

小学校の「表現リズム遊び」領域(小学校低学年)、「表現運動」領域(小学校中学年・高学年)の総称

3)「表現系」

「ダンス系」領域の主内容に含まれる「表現遊び」(小学校低学年)、「表現」(小学校中学年・高学年)、「創作ダンス」(中学校・高等学校)の総称

4)「リズム系」

「ダンス系」領域の主内容に含まれる「リズム遊び」(小学校低学年)、「リズムダンス」(小学校中学年・高学年)、「現代的なリズムのダンス」(中学校・高等学校)の総称

5)主内容「3つのダンス」

「ダンス系」領域の主内容(種目)である「表現系」、「リズム系」、「フォークダンス」の総称

6 学習指導要領におけるダンス系領域の内容構成および内容の取扱い

ダンス系領域は平成20年に改訂された中学校学習指導要領により、従来から必修であった小学校6年間に加え中学校2年生までは武道とダンスを含め、すべての運動領域が必修となっている。指導内容については先の用語の定義で示した通り、表現系・リズム系・フォークダンスの3つのダンスが示されているが、これらを選択して履修できるようにすることとしているため、内容の取扱いとしては児童・生徒の発達や学年の段階等に応じた学習指導が可能としている。ただし、3つのダンスは特性とねらいが異なるため、必修期間である中学校2年生までには偏りなく履修した上で、第3学年からの選択履修につなげていくことが推奨されている8)表2)。

7 分析方法

選択式項目については単純集計を行い、データの分析にはMicrosoft社のExcelを使用した。校種別や指導経験値別の群間比較には対応のないt検定を実施し、有意水準は両側検定5%および1%未満とした。自由記述項目はKJ法によって分類を行った。

8 本研究の限界

本研究の質問紙調査では、各学校における体育主任への依頼、かつ同意を得て質問紙へ記入、および返送され入手できたデータのみを分析している。従って、本データを新潟市内小学校・中学校の教育現場すべての結果として捉えることはできない。

III 結果と考察

1 対象者の基本属性

質問紙に回答した対象者88名の内訳は、中学校が平均年齢47.9歳、小学校が平均年齢36.7歳であり、性別は本調査全体の中で男性回答者64名、女性回答者は24名であった。教員歴・指導歴は、中学校(n=35)では教員歴10年未満が2名(5.71%)、10年以上が32名(91.43%)、未回答1名(2.86%)であり、ダンス授業指導歴としては10年未満が5名(14.29%)、10年以上が28名(80%)、実施していないと回答した者はおらず、未回答が2名(5.71%)であった。小学校(n=53)では教員歴10年未満が20名(37.74%)、10年以上が33名(62.26%)、表現運動の授業指導歴としては10年未満が25名(47.17%)、10年以上が28名(52.83%)であった。実施していないと回答した者はいなかったことより、「表現運動・ダンス」領域自体の実施は小学校および中学校ともに100%であったことがわかる。ダンス指導経験値とダンス指導に対する意識の関連性をみるため、対象者をダンス指導の熟練別に2群に分けたところ、回答者全体(n=88)のうちダンスの指導経験が10年以上かつ毎年授業を受け持つ条件の調査回答者【熟練指導者A群】は41名(46.59%)、ダンス指導経験が10年未満かつダンス授業を受け持つ年と受け持たない年がある条件の調査回答者【未熟練指導者B群】は18名(20.45%)の割合であった。

2 表現運動・ダンス授業の実態

1)種目の採択率

教育現場の表現運動・ダンス授業で取り上げている種目を複数回答可能として尋ねたところ、小学校教員(n=53)では表現系が全体の88.68%、リズム系が全体の86.79%、フォークダンスが全体の75.47%となり、大きな偏りなく3種目とも取り上げられていることがわかった。小学校低学年・中学年・高学年別の種目採択について調査した先行研究によると、発達段階が上がるにつれて各種目の採択件数は多くなり、種目はほぼ偏りなく実施されているという結果が示されており、本研究による調査は先行研究を支持する結果となった9)。一方で中学校教員(n=35)では、リズム系が最も多く100%、次いで表現系が全体の68.57%、フォークダンスが全体の62.86%という結果となり、リズム系は全ての学校で採択されていることがわかった。また指導経験値別にみると、A群(n=41)はリズム系97.6%、表現系90%、フォークダンス78%、B群(n=18)はリズム系30%、表現系24%、フォークダンス20%という結果となった。

採択種目の中でも、特に教師の意識として重点的に取り組んでいる種目を尋ねたところ、小学校(n=53)では表現系26%、リズム系42%、フォークダンス19%、中学校(n=34)では表現系26%、リズム系63%、フォークダンス9%であり、いずれの校種もリズム系に力を入れていた。またA群(n=37)ではリズム系54%、表現系30%、フォークダンス16%、未回答4名であり、B群(n=16)ではリズム系50%、表現系31.3%、フォークダンス18.8%、未回答2名の結果となり、両群ともにやはりリズム系に力を入れていることが示唆された。

2)各種目における学習内容

(1)表現系

表現系で教師が取り上げている学習内容を複数回答可能として尋ねたところ、A群(n=41)では、題材の特徴や感じをとらえて、変化をつけて即興的に表現(85.37%)、グループで作品づくり・練習(85.37%)、発表・交流・鑑賞会(75.61%)、教師の動きを模倣して動く(65.85%)の順で多く実施されており、B群(n=18)では、題材の特徴や感じをとらえて、変化をつけて即興的に表現(50%)、教師の動きを模倣して動く(38.89%)、グループで作品づくり・練習(33.33%)、個や群などの空間的な変化をつけて表現(27.78%)、音楽やオノマトペを手がかりに表現(16.67%)、発表・交流・鑑賞会(16.67%)の順で多く実施されていることがわかった(図1)。

(2)リズム系

リズム系で教師が取り上げている学習内容を複数回答可能として尋ねたところ、A群(n=41)では、グループで作品づくり、練習(80.49%)、発表・交流・鑑賞会(80.49%)に続いて、教師の動きを模倣して動く(68.29%)、既成の振付を教師や映像から覚えて踊る(63.42%)、リズムに乗って即興的に自由に踊る(41.46%)の順で多く実施されており、B群(n=18)では教師の動きを模倣して動く(55.56%)、既成の振付を教師や映像から覚えて踊る(44.44%)、グループで作品づくり、練習(22.22%)、発表・交流・鑑賞会(16.67%)、リズムに乗って即興的に自由に踊る(11.11%)の順で実施されていた。授業で取り上げているリズムとしては、いずれの群もヒップホップが最も多く実施されA群では65.85%、B群では38.89%の実施率であり、サンバのリズムに関してB群は誰も取り上げていないことがわかった(図2)。

(3)フォークダンス

フォークダンスで教師が取り上げている学習内容を複数回答可能として尋ねたところ、リズム系と同様に総じてB群よりもA群の方が各学習内容の実施率が高いことがわかる。学習内容ごとの実施率を見ると両群ともに外国のフォークダンスがA群(n=41)では68.3%、B群(n=18)では38.89%と最も多く、先行研究同様に日本の民踊よりも外国のフォークダンスが多く実施されていることがわかった9)。〈踊りの由来や文化的背景等を理解し、特徴をとらえる〉に関しても、フォークダンスの種目を実施する中で重要な学習内容であるものの、両群ともに最も低くA群では24.39%、B群では5.56%となっており、今後の課題といえる(図3)。

3)教師の表現運動・ダンス授業に対する意識

教師の授業に対する意識については、回答者全体(n=88)としては16名(18.18%)が「得意」「やや得意」と肯定的に捉え、26名(29.55%)が「どちらともいえない」、46名(52.27%)が「苦手」「やや苦手」と否定的であった。このうち群ごとに見てみると、A群(n=41)は13名(31.71%)が「得意」「やや得意」と肯定的に捉えており、13名(31.71%)が「どちらともいえない」、15名(36.59%)が「苦手」「やや苦手」と否定的に捉えていることがわかった。一方で、B群(n=18)は2名(11.11%)が「得意」「やや得意」と肯定的に捉えており、3名(16.67%)が「どちらともいえない」、13名(72.22%)が「苦手」「やや苦手」と否定的に捉えていた。

4)児童・生徒の授業に取り組む姿

教師からみた表現運動・ダンス授業に取り組む児童・生徒の印象については、A群(n=41)のうち児童・生徒が「積極的」「やや積極的」と実感している教師の割合は31名(75.61%)、「どちらともいえない」は10名(24.30%)、「消極的」「やや消極的」と感じている人はいないことがわかった。B群(n=18)においても児童・生徒が「積極的」「やや積極的」と実感している教師は14名(77.78%)、「どちらともいえない」は3名(16.67%)、「消極的」「やや消極的」は1名(5.56%)となり、教師の目線からは教師の熟練度を問わず「児童・生徒は積極的に表現運動・ダンス授業に取り組んでいる」と実感していることがわかる。

3 表現運動・ダンス授業に対する困難さ

「表現運動・ダンス授業に対する困難さ」29項目について、困難と感じる強さを4件法で尋ねた結果は図4および図5の通りである。

質問項目の要素別の結果を見ると、3要素ともに総じてB群の方がA群よりも高く困難を抱えていた。〈児童・生徒に関すること〉では両群間に5%の有意差が見られ、〈教師に関すること〉では、統計的には有意な差は確認できないものの、相対的にはB群の方が困難さを多く抱えていることが見受けられる。〈授業づくりや指導法に関すること〉は両群間に1%の有意差が見られていた。

続いて要素内における困難さの内訳を詳細に見ていくと、全体的にA群は多くの項目が肯定・否定の境目である2.5値を下回る評価結果であるため、表現運動・ダンスの授業に関して多く難を抱えていないことが窺えるが、4項目「子どもたちから多様な動きを引き出せない」「教師や他者の動きの模倣はできるが、独自の自由な動きはできない」「子どもたちが即興的に動いたり表現することができない」「子どもたちが全身を隅々まで使えない」「教師自身がどのような動きやステップの種類があるのかわからない」に関しては2.5を上回り、指導時に困難さを感じていることがわかる。一方で、B群は22項目において2.5値を上回っており、A群よりも非常に多くの視点で困難を抱えていることがわかる。B群よりもA群の方が困難と感じている項目は「子どもたち同士の人間関係がうまくいかない」「教師自身の体力がもたない」の2項目のみであり、それ以外の項目は全てB群の方が高いことがわかった。なお、図5の横軸に示される数字表記は表1の質問項目と対応している。

全29項目のうち両群の比較において有意差が見られた項目は13項目であり、これらは全てB群の方が困難さを抱えていることがわかった。その内容としては、〈児童・生徒に関すること〉では「子どもたちがリズムに乗れない」(p<0.05)、「教師や他者の動きの模倣はできるが、独自の自由な動きはできない」(p<0.05)の2項目であり、〈教師に関すること〉では「教師自身が定型の踊り(振りが決まっている踊り)しか教えられない」(p<0.01)の1項目のみ有意差が見られた。〈授業づくりに関すること〉では「教師自身がイメージや動きを言葉で伝えることができない」(p<0.05)、「グループ活動時、グループごとに対してどのように声を掛けたらよいのかわからない」(p<0.01)、「授業内容の構成の仕方がわからない」(p<0.01)、「学習の系統性がわからない」(p<0.05)、「場面に応じた適した音楽がわからない」(p<0.05)、「ダンスの授業に時間が割けない」(p<0.01)、「評価の基準がわからない」(p<0.01)、「子どもたちに合ったテーマ(題材)の設定がわからない」(p<0.05)、「オリジナリティを引き出す言葉がけが難しい」(p<0.01)、「『よい動き』のポイントがわからない」(p<0.01)であった。

4 大学時ダンス授業履修経験・講習会等の受講経験とその効果

1)大学時ダンス授業履修経験

(1)履修経験および内容

大学時ダンス授業履修経験に関しては、中学校教員(n=35)では専門科目のダンス履修が19名(54.29%)、一般教養科目のダンス履修が5名(14.29%)、未履修が11名(31.43%)であった。小学校教員(n=53)では専門科目のダンス履修が26名(49.06%)、一般教養科目のダンス履修が11名(20.75%)、未履修が15名(28.3%)、未回答1名(1.89%)であった。経験した内容としては、〈グループ作品創作〉が圧倒的に多く42記述、〈テーマや道具を手がかりにした即興表現〉が20記述、〈教師や仲間の動きの模倣〉〈発表会での披露〉が共に14記述、〈リズムにのって自由に踊る/リズムダンス〉が13記述、〈フォークダンス〉が4記述であり、その他には〈仲間とのかかわり〉〈リズム体操〉〈ダンスの基本動作の体験〉などの記述も見られた。

(2)履修の効果

「大学時のダンス授業はご自身の指導へどの程度活かされていますか。」の質問に対する結果は図6の通りであり、回答者(n=66)で見ると25名(37.88%)が「非常に活かされている」「活かされている」と肯定的に捉え、18名(27.27%)が「どちらともいえない」と回答し、23名(34.85%)が「あまり活かされていない」「活かされていない」と否定的に捉えていることがわかった(無回答22名)。

「大学時のダンス授業はどのような点において現在の指導に活かされていますか」の質問に対する選択項目の結果は、「授業の雰囲気づくり、児童・生徒の動機の高め方」「見本として児童・生徒に見せる実技力」「人前で動きや表現を見せることに対する抵抗感の軽減」等に対して多く効果があると感じていることがわかった(図7)。「その他」の意見としては「純粋にダンスの楽しさを味わえた」「踊る事が好きなのに楽しいと思えなかった」など、踊ることへの楽しさに対する意識も記述されていた。

2)教職に就いて以降の講習会等受講経験

(1)受講経験および内容

教職に就いて以降の講習会等への参加については、中学校教員(n=35)では31名(88.57%)が経験有、3名(8.57%)が経験無、未回答1名(2.86%)であり、小学校教員(n=53)では38名(71.7%)が経験有、13名(24.53%)が経験無、未回答2名(3.77%)と示された。この結果より、大学時にはダンス指導法を学ぶ機会が少なかったものの、教職に就いた後には指導法を学ぶ経験を多く得ていることがわかる。

講習会において体験した内容としては、回答者全員(n=88)の中で表現系を最も多く体験しており65名(73.86%)、リズム系の体験が57名(64.77%)、フォークダンスの体験が22名(25%)となった。本研究の調査では各種内容の具体的な教材までは明らかにできていない。

(2)受講の効果

「講習会等はご自身の指導へどの程度活かされていますか」の質問に対する結果は図8の通りであり、回答者(n=69)で見ると52名(75.36%)が「非常に活かされている」「活かされている」と肯定的に捉え、15名(21.74%)が「どちらともいえない」と回答し、2名(2.90%)が「あまり活かされていない」「活かされていない」と否定的に捉えていることがわかった(未回答者19名)。

「講習会等はどのような点において現在の授業に活かされていますか」の質問に対する選択項目の結果は、大学時ダンス授業履修経験の結果と同様に「授業の雰囲気づくり、児童・生徒の動機の高め方」を筆頭にしていたが、「単元計画や授業構成の組み立て方」「指導言語や児童と臨機応変に関わる指導方法」「見本として児童にみせる実技力」「児童の動きを評価する視点」等、多岐に渡り実践指導に活かされていることがわかった(図9)。「その他」の意見としては、「選曲方法」「活動例」の回答が見られた。

5 指導法獲得の場(大学時ダンス授業・講習会等)への要望

「教育現場においてダンス授業を展開するにあたり、大学での授業、研修会、講習会等でどのような経験が必要と思いますか。」の質問については自由記述回答をKJ法で分類し、表3に示す19の小区分、そして6つの大区分に整理された。6つの区分とは、①系統性のある学習課題と授業単元計画(うち4小区分、計44記述)、②専門的な実技知識と実技力(うち5小区分、計14記述)、③実体験による種目特性の理解(うち2小区分、計15記述)、④具体的な指導方法の工夫(うち5小区分、計11記述)、⑤視聴覚資料および収集方法(うち2小区分、計11記述)、⑥教育現場における実践経験(うち1小区分、計2記述)である。なお、表3に示す記述内容は全ての回答から一部抜粋したものである。

教育現場の教師はこれまでも様々な形で表現運動・ダンスの指導法を学んでいるものの、児童・生徒と関わる具体的な一教材を通した指導方法だけでなく、「導入、なか、終末」といった1時間の授業構成および数時間に及ぶ単元計画の流れを踏まえた授業の流れに関して、多くの記述があげられている点が特徴的であった。また評価方法についての記述も多く、評価の難しさ、児童の多様な動きを評価する手法、段階的評価をする際の曖昧さに関する記述が挙げられるとともに、系統性のある段階的な指導方法についての知識と実践方法を求めている声も見受けられた。加えて、教師(および教員養成学生)自身がダンスに親しみ心を解放する体験をすること、指導法を学ぶだけでなく、自らが児童・生徒の気持ちを共感する経験値を高めることや、ダンスステップの種類やダンス作品のフォーメーションの手法等の専門的知識を得たいと求める記述も挙がっていた。

IV まとめ

学習指導要領の改訂を受けた現段階における、表現運動・ダンス授業の現状を把握するため、新潟市小学校・中学校に勤務する現職の教師を対象に、表現運動・ダンス授業についての実態、指導における困難さ、ダンス授業・講習会等受講経験の効果や要望について質問紙調査を実施した。その結果、小学校では偏りなく3つのダンスとなる表現系・リズム系・フォークダンスが採択されていた一方で、中学校ではリズム系に偏って種目が採択されていることが明らかになり、また小中学校の学校種および教師の熟練度を問わずいずれもリズム系が重点的に実施されていることが示唆された。表現運動・ダンス授業における指導に関しては、総じて未熟練者の方が熟練者よりも多くの項目において困難さを感じており、特に〈授業づくりや指導法に関すること〉の観点より技能評価の視点と授業の構成方法、児童・生徒に向けた言葉のかけ方等、授業中の子どもとの関わり方に苦手意識を感じていた。一方で熟練指導者は、画一的な動きではなく多様で自由かつ独創的な動きを引き出したり即興的な表現に導いたりすることに課題を抱いていることが明らかになった。大学時のダンス授業履修経験および講習会等の受講経験の効果においては、大学時よりも教職に就いて以降の受講経験の方が指導に活かされていることが示唆された。また「系統性のある学習課題や授業単元構成」等についての知識や実践方法が現場から求められていることも明らかになったため、大学時のダンス授業においては学習目標と評価が一体となった指導法を学生に提供するだけでなく、授業全体の流れと展開構成も含めた単元計画の実践にも力を入れていく工夫が必要である。本研究より、教師の熟練度によって表現運動・ダンスの授業へ抱く困難さが異なることが示唆されたが、結果として現れた困難さの視点は手がかりに過ぎず、その背景には心理的要因や地域特性、学校の教育実態が複雑に絡み合っていると考えられる。今回明らかになった表現運動・ダンス授業の困難さを基礎的資料としつつ、今後も継続的に教師が抱く課題と現場に活かされる指導の在り方について研究を重ね、知見を共有していく必要があるであろう。

References
 
© Niigata Society of Health and Welfare
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