Niigata Iryo Fukushi Gakkaishi
Online ISSN : 2435-9777
Print ISSN : 1346-8774
Factors that enable end-of-life home care for older adults in doctorless districts of designated heavy snowfall areas -A narrative analysis of families with experience in providing such care-
Utako KoyamaKazumi WakasaKazuko WatanabeNaoko WadaYuko Uda
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2021 Volume 21 Issue 2 Pages 9-18

Details
Abstract

【目的】豪雪地帯・無医地区において地域の支え合いによる高齢者を在宅で看取るケアシステムの構築に向けた示唆を得るために、在宅で高齢者を看取った介護者の語りから在宅看取りを可能にする条件を明らかにする。

【方法】A県立C病院の在宅看取りに同意、同病院の訪問診療・訪問看護を受け、高齢者を看取った介護者13人に在宅看取りを可能にした条件について半構造化面接を実施し、質的帰納的分析方法にて分析した。

【結果】看取り家族の視点から在宅看取りを可能にした条件は、療養者では、①本人の在宅死希望、②苦痛のない療養生活、介護者・家族では、①家で看取ってあげたいという思い、②在宅での看取りを引き受ける覚悟、③主観的介護負担感の少なさ、フォーマルサポートのうち、訪問診療・訪問看護24時間体制では、①いつでも支えてくれる医師・訪問看護師の存在、②看取りに向けた支援、フォーマルサポートの切れ目のない支援体制では、①多機関連携による在宅看取りの支援、インフォーマルサポートでは、①さりげなく支えてくれる地縁者・血縁者の存在、②療養者に寄り添ってくれる地縁者・血縁者の存在であった。

【考察】在宅看取りを可能にした条件は、療養者のQOLの向上・穏やかな死および家族の介護負担感の少なさや看取り後の満足度・達成感有に繋がる等家族のQOLの向上に繋がると考える。

Translated Abstract

Objective:To clarify factors that enable end-of-life home care for older adults, and establish systems to provide such care with community residents participating or mutually supporting in heavy snowfall areas, we performed a narrative analysis of main caregivers with experience in providing end-of-life home care for their families.

Methods:We con-ducted semi-structured interviews with 13 family caregivers who pro-vided end-of-life home care for older adults using home-visit medical/nursing services of a prefectural hospital after consenting to its end-of-life home care policy, and qualitatively and inductively analyzed the obtained data to clarify factors that enabled such care.

Results:From the perspective of these families, the following factors enabled end-of-life home care: care-receiver-related: 1) the desire to die at home and 2) painless home care; and caregiver/family-related: 1) a firm intention to provide end-of-life care for the care-receiver, 2) readiness to be in charge of such care, and 3) lower subjective caregiving burden. Regarding formal support, 24-hour home-visit medical/nursing services with: 1) doctors/visiting nurses who provide support at all times and 2) mental preparedness for end-of-life care; and seamless formal support systems based on: 1) end-of-life home care support through multi-institutional collaboration were identified. As for informal support, 1) the presence of other community residents/blood relatives who provide support in an informal manner; and 2) the presence of other community residents/blood relatives who are empathetic to the care-receiver were identified.

Discussion:Factors that enable end-of-life home care may also promote the QOL of families by reducing their caregiving burden and increasing their satisfaction/sense of accomplishment after end-of-life care, in addition to promoting the QOL of care-receivers and peaceful deaths.

I はじめに

少子高齢化が全国より早く進行しているA県は、全県が豪雪地帯に指定され、その約6割が特別豪雪地帯に指定1)、また約5割弱の市町村が過疎地域に指定されている2)。特別豪雪地帯・無医地区かつ過疎地域(以下、「豪雪地帯」とする)では、医療資源の不足、介護・福祉サービスの不足、過疎化が深刻な問題となっている。

看取りについては、2017年度の調査では、一般国民の69.2%が自宅死を希望していた3)。しかし2016年の自宅死亡割合は、全国平均13.0%4)、A県は10.4%、B町を管轄するF保健所は9.5%5)であり、F保健所管内は全国およびA県より低い。林は、在宅看取りを困難にしている理由は、看取りが病院化した1970年代後半以降家族を家で看取る経験知や技術は途絶え、家族形態の急速な変容もあって、現在の家族介護力は極めて低い6)としている。また、在宅看取りの阻害要因のうち家族における問題では①インフォームドコンセントが不充分で家族が充分に経過・病状・予後の理解をしていないこと、②家族の死を感情的に受け入れることができず、その結果として、死にゆく人をみていかなければならない苦悩、不安、焦燥を抱くこと、③本人と家族、あるいは家族内における意見の不一致の問題等が挙げられている7)。一般国民が最期を迎える場所を考える上で重要視することは、①介護してくれる家族に負担がかからないこと、②体や心の苦痛なく過ごせること等が挙げられている3)

B町の高齢者の看取りのニーズは単身高齢者が1日でも長く在宅療養を希望し、在宅療養が限界になったら病院または施設入所を希望、それ以外の高齢者は在宅看取りを希望していた。高齢者が在宅看取りを希望していても、そのことを家族と話し合い、家族に伝えた者はほとんどおらず、最期を迎える場の決定は本人以外の者であった8)

先行研究では、在宅看取りを可能にする条件としては、①本人が在宅看取りを希望していること、②疼痛などの症状がコントロールされていること、③家族やその他の介護力があり、物理的な療養環境が整っていること、④訪問診療と訪問看護による24時間体制の支援が受けられること9), 10)としている。また、宮田らは、医療資源、介護・福祉サービスの不足および家族介護力も低下している山村過疎地域における在宅での看取りは、地域ぐるみの高齢者の生活支援の必要性を示唆している11)。高齢化が進行した豪雪地帯において、医療資源や介護・福祉サービスの不足および家族介護力の低下する状況の中で、在宅で高齢者を看取るには、家族全体を視野に入れ、医療・保健・福祉領域の専門家と住民との協働による支援が必要である。高齢者本人が最期を迎える場を自己決定し、支援できるケアシステムの構築が課題となっている。

近年、地域包括ケアシステムの視点からの研究は、蓄積されつつあるが、在宅看取りに関する研究では、チームで支える看護に関する研究12)、病診連携に関する研究13)、意思決定支援に関する研究14)および死因に関する研究15), 16)などである。これらは、専門職の視点でとらえた研究であり、家族の視点から在宅看取りを可能にする条件に関する研究は見当たらない。また地域の支え合いの視点からの研究は介護予防に関する研究17), 18)等はあるが在宅看取りに関する研究は見当たらない。高齢者を在宅で看取るケアシステムを構築するには、家族の視点から在宅看取りを可能にする条件を明らかにすることが不可欠であると考える。

本研究の目的は、豪雪地帯において地域の支え合いによる高齢者を在宅で看取るケアシステムの構築に向けた示唆を得るために、在宅で看取った介護者の語りから在宅看取りを可能にする条件を明らかにすることである。

用語の定義

本研究で用いる用語の定義は以下のとおりである。

1.特別豪雪地帯とは:豪雪地帯対策特別措置法第2条2項の規定に準ずる。国土の約2割は特別豪雪地帯、15道県・201市町村(2020年4月1日現在)である。

2.無医地区とは:へき地保健医療対策等実要綱に準ずる。全国で601地区、無医地区人口128,392人(2019年10月31日現在)である。

3.過疎地域とは:過疎地域自立促進特別措置法の規定に準ずる。全国では817市町村(2017年4月1日現在)である。

II 方法

1 研究デザイン

豪雪地帯で高齢者を在宅で看取った家族から在宅看取りを可能にした条件を、質問紙では把握できない具体的な内容を把握するため、質的デザインとし、聞き取りによる半構造化面接調査を行った。

2 対象

対象はA県B町に在住し、A県立C病院の在宅看取りに同意し、同病院の訪問診療および訪問看護を受け、在宅で看取った介護者で死別後2年から5年未満の者とする。これは悲嘆から回復し精神的に落ち着きを取り戻す時期で、かつ記憶の保持を配慮したためである19)。ただし、2年以内でもC病院の訪問看護師により死別を受け入れ経験を語ることが可能と判断され、本人の同意が得られた介護者も対象とした。

3.対象地域の概要

B町は全域が特別豪雪地帯かつ過疎地域に指定されており、毎年250人程度の人口減少がみられる山村地域である。また、A県内で最も多くの無医地区を抱えている。面積953.9km2(A県内市町村で3番目に広い)、人口10,996人(4,482世帯)、全世帯のうち65歳以上の単身世帯が19.2%、65歳以上の夫婦のみ世帯が15.9%、高齢化率が47.3%とA県平均31.3%より高くA県内で最も高い(平成29年10月1日現在)5)。介護認定率は22.7%とA県平均18.7%より高い(平成29年度)5)。町内の医療機関は、A県立C病院1か所(へき地医療拠点病院、在宅療養支援病院)、B町立診療所3か所(うち1か所委託)、民間診療所1か所である。民間診療所を除いては、訪問診療を実施している。訪問看護はA県立C病院が24時間対応とB町立訪問看護ステーション1か所である。訪問介護は24時間対応のサービス提供事業者がB町内にはない。B町内全戸にTV電話が設置されている8)

4 研究協力者

対象の中からC病院の訪問看護師が研究の趣旨を対象者に説明し内諾が得られた者の紹介を得た。後日研究者が文書と口頭にて研究協力を依頼し、書面にて同意が得られた者とした。

5 データ収集方法

データ収集方法は、インタビューガイドを用いた半構造化面接とした。面接時に研究協力者の同意を得てICレコーダーに録音し、録音内容は逐語録を作成してデータとした。面接時間は、40分から1時間程度とした。インタビューは訪問先の個室にて、研究者と研究協力者が1対1で行った。

データ収集期間は、2019年3月から2019年7月であった。面接内容は、(1)属性(年齢・性別・職業・家族構成・主観的健康、在宅介護前後の介護者および家族の就業形態の変化等)、(2)在宅看取りの理由、(3)家族の協力、(4)近隣からの支援、(5)看取りを可能にした条件(6)サービス利用内容等を聞き取りした。面接内容で不明瞭な部分についは、随時、焦点化や確認のための質問を行った。

6 データ分析方法

分析は質的帰納的分析方法を参考に、以下の手順で行った。

(1)逐語録から在宅看取りを可能にした条件に関する記述を文脈ごとに抽出し、記述内容を読み取りながら要約しコードとした。(2)コードから共通した意味のものをまとめ、サブカテゴリを生成した。(3)さらに類似性のあるサブカテゴリをまとめ、上位概念となるカテゴリを生成した。(4)分析の妥当性を確保するため、上記プロセスを研究者間で検討した。

7 倫理的配慮

研究協力者には、本研究の趣旨、目的、方法、倫理的配慮等について文書と口頭で説明した後、文書により同意を得た。倫理的配慮は、研究協力者(以下、「介護者」とする)に対する負担のないこと、調査に対する参加・拒否・中断の自由、データの厳格な管理、個人の匿名性とプライバシーの保護について保証した。所属大学の倫理委員会の承認を得た(承認番号18146-190208、平成31年2月8日)。

III 結果

1 介護者の属性

介護者の属性については表1の通り。介護者は同意が得られた13人であった。介護者は看取り時の平均年齢が63.2歳、性別では男性4人、女性9人、療養者との続柄では、夫3人、父母6人、義父母4人であった。療養者を除く家族人員数では1人が2世帯、2人が6世帯、3人以上が5世帯であった。療養者を除く家族人員数1人の2世帯を除いては、介護に協力する家族が存在していた。

また、在宅介護開始の前後で介護者・家族の就労形態が変化した者は6人(介護者5人、家族1人)で、介護のため退職等が4人、常勤からパート勤務に変更が2人(うち1人は家族)であった。退職等4人のうち2人は長年県外で就労していたが、独居実母の介護のため、姉妹で話し合い、退職し介護に専念した。介護期間は、3か月未満4人、3か月~6月未満3人、6か月~1年未満1人、1年~2年未満2人、2年以上3年未満1人、5年以上7年未満2人で、6か月未満が約半数であった。介護者の主観的健康感は、良好10人、普通2人、虚弱1人であった。介護保険サービス利用は、全員がベッド一式および訪問診療・訪問看護を利用し、その他に5人が毎日サービスを利用、7人が週に1~3回利用、1人が利用無であった。介護者の介護負担感は、最高齢の者を除いては無、満足感・達成感は全員有と述べていた。

2 在宅看取りの理由

在宅看取りの理由は、①療養者が在宅死を希望し、家族も療養者の希望を叶えてやりたいが10人、②療養者が在宅死を希望し、自営業なので自宅で看る方が都合よいが1人、③経済的に施設入所困難が2人であった。

3 在宅看取りを可能にした条件

在宅看取りを可能にした条件は表2の通り。介護者からみた在宅看取りを可能にした条件は、10のカテゴリと26のサブカテゴリで構成された。以下、【 】はカテゴリを、〔 〕はサブカテゴリを、< >はコードを示す。

1)療養者

療養者の条件は、【本人の在宅死希望】【苦痛のない療養生活】が生成された。

(1)本人の在宅死希望

<余命6カ月と言われ本人は在宅死を希望した><ホスピスへの入院を勧められたが本人は入院しないと言った><転院の話が出た時に本人が家に帰りたいと言った>ことから〔本人の選択〕により【本人の在宅死希望】が生成された。

(2)苦痛のない療養生活

<本人は痛みを訴えなかった><医師は本人の状況に合わせてパッチの量を調整してくれた><本人は介護ベッドを利用したら痛みがとれ楽になったと言った>ことから〔疼痛のコントロール〕により【苦痛のない療養生活】が生成された。

2)介護者・家族

介護者・家族の条件は、【家で看取ってあげたいという思い】【在宅での看取りを引き受ける覚悟】【主観的介護負担感の少なさ】が生成された。

(1)家で看取ってあげたいという思い

<家族、兄弟とみんなで話し合い本人の意向を尊重して在宅看取りを決めた><本人の希望を聞いてみんなで相談して在宅看取りを決めた>ことから〔療養者の希望の尊重〕が、<今までよくしてもらったので最後の希望を叶えてやりたい>から〔療養者への恩返し〕が、<本人の最後の希望を叶えてやりたい>から〔療養者への愛情〕が、<実家の嫁が母を看取ってくれたので自分も姑を看取ることができると思った>のは、〔身近にいた看取り経験者の存在〕であった。これらから【家で看取ってあげたいという思い】が生成された。

(2)在宅での看取りを引き受ける覚悟

<義父は義母の介護を家族がするものだと言いサービス利用を嫌がった><義姉が本人や自分たち家族によくしてくれるので本人を粗末にできないと思った>ことから〔社会規範からくるしきたり〕であった。介護者は、<以前から本人に施設に入れるお金がないので自分が世話をすると伝えていた><施設入所費を捻出できないので仕事をやめて世話をすることにした>ことから〔経済面を考慮した選択〕であった。これらから【在宅での看取りを引き受ける覚悟】をしていた。

(3)主観的介護負担感の少なさ

介護者は、<家族みんなが協力してくれたので気持ち的にも楽だった><孫も食事介助などよく面倒をみてくれた><家族全員がおむつ交換できたので負担には思わなかった>ことから〔同居家族の協力〕を得ていた。また、介護者は、<嫁が保健師で介護の方法を教えてくれたので心強かった><嫁が介護関連の経験があり介護保険サービスの利用手続きを担当してくれた>ことから〔頼りになる家族内専門職〕が、<姉は受診に同行し叔母は最期の夜ずっとついていてくれた><親族が休日に介護を交替してくれた><町外に住む姉が泊まり込みで一緒に看取ってくれた><最後の1週間は町外に住む長男夫婦が来ておむつ替えを手伝ってくれた>ことから〔別居家族の理解・協力〕を得ていた。介護者は、<70歳前だったので看取れたのではないかと思う><あの時は体力があったので看取れた>ことから〔介護者の年齢・体力〕が関連していた。<退職金があったので、経済的な心配をしないでサービスが使えた><介護保険サービスを多く利用し介護負担感はなかった>ことから〔介護保険サービスの利用〕による介護負担感無であった。これらのことから【主観的介護負担感の少なさ】が生成された。

3)フォーマルサポート

フォーマルサポートは、訪問診療・訪問看護24時間体制と切れ目のない支援体制に区分した。訪問診療・訪問看護24時間体制は、【いつでも支えてくれる医師・看護師の存在】【看取りに向けた支援】が生成された。切れ目のない支援体制は、【多機関連携による在宅看取りの支援】が生成された。

(1)訪問診療・訪問看護24時間体制

①いつでも支えてくれる医師・看護師の存在

<医師は本人の具合が悪くなり家族が電話すればすぐ訪問診療すると言ってくれた><亡くなった早朝に連絡し医師・看護師が対応してくれた><訪問看護師は何か心配なことがあったらいつでも、何でも言ってくださいと言った><夜中でも訪問看護師に電話で相談できた><日曜日に訪問看護師に電話することもよくあった>ことから〔いつでも医師や訪問看護師に繋がる〕であった。<介護保険サービスよりも訪問診療・訪問看護の方が支えになった><訪問看護がなかったら1人では看取りはできなかった><医師や看護師は常に本人にとってベストの方法を探してくれた><医師や看護師に質問すると具体的に教えてくれた>ことから〔家族の拠り所〕となっていた。<治す治療法はなかったが医師は本人・家族に心をかけてくれた><医師は家族がつらくなるようなことは言わなかった>ことから〔医師の家族への気遣い〕が見られた。これらのことから【いつでも支えてくれる医師・訪問看護師の存在】が生成された。

②看取りに向けた支援

<医師は病状を事細かく書いて丁寧に説明してくれた><医師は写真を見せながら病状を説明してくれた><医師は検査数値の説明をしてくれた>ことから〔正しい病状理解〕に繋がった。<医師は家族に看取りの経過を具体的に説明してくれた><医師に余命あと3日位と言われ覚悟して世話をした><医師に会わせたい人がいたら会わせるようにと言われた><急変したら訪問看護に連絡するように言われた><看護師に亡くなった時は救急車を呼ばないでくださいと言われた>ことから〔看取りのプロセス・対応の理解〕を深めた。これらのことから【看取りに向けた支援】が生成された。

(2)切れ目のない支援体制

①多機関連携による在宅看取りの支援

<町外の病院からA県立C病院へ転院したが病院間の連絡がよくとれていた><看取りに向けてB町立診療所長からA県立C病院に転院を勧められた><B町立訪問看護ステーション看護師とA県立C病院訪問看護師間の連絡がよくとれていた><A県立C病院が在宅看取りのチームを組んでくれた>自宅で介護を始めるにあたって<包括支援センターに介護の相談をしたら介護サービスの説明とケアマネジャーに繋いでくれた>これらから〔関係機関の連携による支援〕が行われていた。<退院までに介護保険の手続きが終わる等対応が早い><退院直後から介護保険サービスを利用できた><ケアマネジャーが介護保険サービスの調整をしてくれた>ことから〔退院即日から利用できる介護保険サービス〕であった。これらのことから【多機関連携による在宅看取りの支援】が生成された。

4)インフォーマルサポート(地域の支え合い)

地域の支え合いでは、【さりげなく支えてくれる地縁者・血縁者の存在】【療養者に寄り添ってくれる地縁者・血縁者の存在】が生成された。

(1)さりげなく支えてくれる地縁者・血縁者の存在

研究対象地域は、日常的に集落内の交流が密な地域である8)。看取りに際しては、<近所の人に余命等も伝え屋外の仕事を頼んだ><近所の人が気を利かせてごみ出しをしてくれた><予想外の出来事で近所の人におむつ替えを手伝ってもらった><近所の親戚に付き添いを頼んだ>ことから〔困り事を助けてくれる近隣者〕が、<集落内の共同作業に各世帯2人出るところを介護があるので1人でいいと言われた>ことから〔介護家族を理解してくれる近隣者〕が、<近所の人が話を聞いてほしい時に聞いてくれた><近所の人がお茶飲みに誘ってくれた>ことから 〔話しを聞いてくれる近隣者〕 が、<「家で看てすごいね」と言われてうれしかった>ことから〔介護者を称賛してくれる近隣者〕であった。これらのことから【さりげなく支えてくれる地縁者・血縁者の存在】が生成された。

(2)療養者に寄り添ってくれる地縁者・血縁者の存在

<本人は近所の人が来てくれて嬉しそうだった>長年の付き合いから〔療養者と近隣者は気心の知れた間柄〕であった。また、<近所の人が話し相手になってくれた><近所の人が本人の顔を見に来て力づけてくれた><近所の人が本人を特別扱いせず普通に接してくれた>ことから〔普段着の見舞〕であった。これらから【療養者に寄り添ってくれる地縁者・血縁者の存在】が生成された。

これらから高齢者の在宅看取りを可能にした当事者・関係者の関連が図1の通り生成された。

IV 考察

高齢者の在宅看取りを可能にした当事者・関係者の関連について、家族、フォーマルサポート、インフォーマルサポートの視点から考察する。

1 家族

療養者の在宅死希望の意思表示は、家族が家で看取ってあげたいという思いや在宅での看取りを引き受ける覚悟に影響を及ぼし、本人の希望を尊重した看取りに繋がると考える。荒木らは、療養者が家族に終末期の希望を伝えておくこと、家族と話し合っておくことが重要であるとしている20)。現在厚生労働省では、人生会議と銘打って事前の話し合いやACP(Advance Care Planning)の作成を推進している21)。また、地域包括ケアの理念に尊厳の保持として、本人の看取りの場の選択があるとしている22)。療養者が看取りの場を家族に意思表示することは、人間の尊厳の保持であるといえる。

療養者が在宅死希望を家族に意思表示する前提として、疼痛コントロールによる苦痛のない療養生活ができることである。苦痛のない療養生活は療養者の安楽と家族の安心に繋がり、在宅看取りを可能にする。和田らは、要介護者の苦痛症状からの解放がなければ、介護者の悔いのない在宅介護・看取りにつながらないとしている23)。本研究では療養者の苦痛の訴えはなく、介護者全員が満足感・達成感有と答えている。

本人の意思表示後の家族の話し合いでは、本人の在宅死希望を尊重し家で看取ってあげたいという思いの共有、家族で在宅での看取りを引き受ける覚悟、家族の協力および介護保険サービス利用等の合意形成の機会となる24)。日本の介護は家族の義務と責任という伝統的な価値観があり、その伝統的な価値観が在宅介護を受け入れる基盤となっている25)。本研究においても、義父から義母の介護は家族がするものだと言われ、介護離職し看取った介護者もおり、伝統的な社会規範によるしきたりはまだ一部に残っていると考える。山村は家で看取ってあげたいという思いや在宅での看取りを引き受ける覚悟のうち社会規範からくるしきたりは、家族として共に生活する時間経過の中で培われた感情である26)としている。

また、家族の話し合いで、家族の協力や介護保険サービスの利用についても合意形成され、その結果介護者の主観的介護負担感の少なさに関連し、看取り後の満足感・達成感に影響を及ぼすと考える。

2 フォーマルサポート

1)訪問診療・訪問看護24時間体制

療養者・家族は、必要時いつでも医師・訪問看護師に繋がり、訪問診療や訪問看護を受けられる。重要なことは自宅療養していても必要時いつでも医師・訪問看護師に繋がることであり、そのことが看取り家族の拠り所になっている。また、医師・訪問看護師は療養者への病状説明・苦痛の緩和や家族への病状説明、看取りのプロセスの説明、相談対応、看護方法の指導等によりいつでも支えてくれる存在であり、家族の看取りに向けた支援をしている。

対象地域は、豪雪地帯のため訪問診療・訪問看護24時間体制があっても、豪雪時には夜間除雪を行わないため、陸の孤島となり、緊急時であっても訪問診療・訪問看護を実施できない地域である8)。本調査が夏季であったことおよび冬期間の死亡者が4人いたが豪雪地帯に暮らす人々は長年厳しい自然環境を受け入れて生活していることからか、豪雪時の不安を話す者はいなかった。しかし、豪雪時に臨死期を迎える可能性がある場合には、事前に看取りについて家族指導を充分行うとともに、全戸設置のTV電話による遠隔診療の実施に向けた体制整備が必要と考える。

2)多機関連携による在宅看取りの支援

豪雪地帯の在宅看取りでは、限られたサービス資源を効果的に活用し支援するために、関係機関の連携による切れ目のない支援体制の構築が求められている。在宅看取りを希望する者には、入院中からケアマネジャーが病院関係者と連携し、退院即日から介護保険サービスが利用できるように調整している。対象地域は人口規模が小さく、医療・福祉関係者は顔の見える関係で、連携を取りやすい状況にある。また、ケアマネジャーや地域包括支援センターの職員も療養者および家族の状況を詳細に把握していることから、個々にあった支援計画を作成しタイムリーに提供できる。このことはB町の強みである。今後はICTの活用によりさらに連携が強化すると考える。本研究では、訪問診療と訪問看護を担当する医師・看護師は同一病院に所属することから、情報共有や連携は取りやすく両者間の連携上の課題は見られなかった。

3 インフォーマルサポート

対象地域は、近隣との交流が密な地域で、相互の見守り、除雪の助け合い、家族の代行、野菜のお裾分け等、日常的に支え合い生活している。また、以前は集落内での結婚も多く、現在も血縁者が集落内で生活していることが多い8)

地域の支え合いでは、家族の個別ニーズに対応し、さりげなく支えてくれる地縁者・血縁者の存在である。家族の困りごとを助けてくれる近隣者、家族を理解してくれる近隣者、話を聴いてくれる近隣者の存在は、介護者の主観的介護負担感の少なさに関連すると考える。また、近隣者からの称賛や、本人の希望をかなえてやれたことが在宅看取りの満足度・達成感に関連すると考える。看取り家族への地縁者・血縁者のさりげない支援は、日ごろの支え合いの延長で行われている。療養者と近隣者は長年の交流から気心の知れた間柄である。普段着で見舞、特別扱いせず今まで通りに接するなど、療養者に寄り添ってくれる近隣者の存在は、療養者のQOLの向上、穏やかな死に関連する。一方近隣者は療養者を見舞い・寄り添うことで、自分自身の生・死について考える機会になると考える。療養者への普段着の見舞は、よそ行きの病院への見舞と異なり、日ごろの交流の延長として行われている。

以上のことより看取り家族の視点から高齢者の在宅看取りを可能にした条件が明らかになった。今後の課題は、関係機関と住民の協働により看取り家族の視点を踏まえ、地域の支え合いによる高齢者を在宅で看取るケアシステムを構築することである。

4 本研究の限界

介護者は、研究の趣旨を理解し同意が得られた者であることから、概ね適切なデータが得られたと考える。しかし、A県立C病院の看取りの同意の下、訪問診療・訪問看護を受けて在宅で高齢者を看取った家族は、まだ人数も限られており、調査結果は在宅で看取った家族の考えを全て反映しているとは言い難い。今後在宅看取り家族を対象に質問紙調査等の実施について、検討する必要がある。

V 結論

豪雪地帯・無医地区において、看取り家族の視点から在宅看取りを可能にする条件は、以下のとおりである。療養者では、①本人の在宅死希望、②苦痛のない療養生活、介護者・家族では、①家で看取ってあげたいという思い、②在宅での看取りを引き受ける覚悟、③主観的介護負担感の少なさ、フォーマルサポートの訪問診療・訪問看護24時間体制では、①いつでも支えてくれる医師・訪問看護師の存在、②看取りに向けた支援、フォーマルサポートの切れ目のない支援体制では、①多機関連携による在宅看取りの支援、インフォーマルサポートでは、①さりげなく支えてくれる地縁者・血縁者の存在、②療養者に寄り添ってくれる地縁者・血縁者の存在である。

本研究結果から豪雪地帯・無医地区において、地域の支え合いによる高齢者を在宅で看取るケアシステムの構築に必要な示唆を得ることができた。

謝辞

本研究にご協力いただいたA県立C病院の関係職員様、研究協力者様に深く感謝申し上げます。

利益相反

本論文内容に関連する利益相反事項は無い。本研究はJSPJ科研費17K12600の助成を受けて実施した。本研究の一部は、第8回日本公衆衛生看護学会(2020年)においてポスター発表した。

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  • 8)  小山歌子,稲垣千文,宇田優子:特別豪雪地帯・無医地区の高齢者の介護・看取りのニーズ,新潟医療福祉学会誌,19(2):40-48,2019.
  • 9)  浅見洋,中村順子,伊藤智子ら:ルーラルエリアにおける住民の死生観と終末期療養希望の変容─秋田・島根の中山間地域における経時的調査入り─,石川看護雑誌,13:33-42,2016.
  • 10)  竹生礼子:日本における1990年以降の在宅死と病院死に関連する要因の文献検討,日本地域看護学会誌,11(1):87-92,2008.
  • 11)  宮田延子,安江悦子,橋本廣子ら:山村過疎地域における高齢者の看取りと医療福祉サービス,岐阜医療科学大学紀要,1:131-140,2007.
  • 12)  吉村由紀恵:【地域で生きることをチームで支える看護】地域の人々に支えられたA氏の在宅看取り,北海道金狼者医療協会看護雑誌:看護と介護,46:10-11,2020.
  • 13)  谷山佳弘,中野志仁,古林法大ら:病診連携にて在宅看取りを行った高齢PD患者の一例,大阪CAPD研究会会誌,1:28-31,2018.
  • 14)  駒井多恵,春木敦子,泉山由美子:ターミナルケアを支える家族への意思決定支援─在宅看取りを支援した訪問看護の事例─,共済医報,69(1):52-55,2020.
  • 15)  谷口雄大,渡邊多永子,翠川晴彦ら:全国市区町村別に見た自宅死に占める害委員死の割合,厚生の指標,67(3):13-16,2020.
  • 16)  柴田健彦,八鍬直,清治邦夫:北村山における見取りシンポにおける『人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン』と「ICT(情報通信機器)をもち多死亡診断書」に関する実態調査,山形県医師会学術雑誌,56:122-134,2019.
  • 17)  加藤美樹,渡邉英弘,後藤文彦:多職種での関りにより生活機能の改善につながった慢性疼痛を有した事例,愛知作業療法,7:21-26,2019.
  • 18)  地域在住高齢者における個人レベルのソーシャル・キャピタル身体活動との関連,体力科学,67(2):177-185,2018.
  • 19)  平賀睦:遺族の心の整理を促すための訪問看護師による効果的な遺族訪問方法の検討─実施時期に焦点を当てて─,日本赤十字豊田看護大学紀要,17:29-35,2017.
  • 20)  荒木晴美,新鞍真理子,炭谷靖子:介護者が自宅で看取りを希望することに関連する要因の検討,富山大学看護学会誌,7(2):51-56,2008.
  • 21)  人生の最終段階における医療の普及・啓発の在り方に関する検討会:人生の最終段階における医療に関する意識調査報告書,平成30(2018)年3月.
  • 22)  地域包括ケア研究会:地域包括ケアシステム構築に向けた制度及びサービスのあり方に関する研究事業報告書,平成28(2016)年3月.
  • 23)  和田幸子,谷口理恵,橋本陽子ら:看取りまでの介護者の思いと在宅介護で望む支援,人間看護学研究,14:1-8,2016.
  • 24)  古瀬みどり:終末期がん療養者の家族の心の揺らぎに寄り添う訪問看護師のケア,家族看護学研究,19(2):90-100,2014.
  • 25)  須佐公子:高齢者の在宅死を看取った家族の体験の意味の分析と看護者の役割の検討,勇美記念財団2002年度在宅医療助成報告書,平成16年2月.
  • 26)  山村江美子,長澤久美子,蒔田寛子ら:終末期在宅がん療養者を看取る決心をした家族への訪問看護師による家族看護実践,せいれい看護学会誌,4(l):1-5,2013.
 
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