Niigata Iryo Fukushi Gakkaishi
Online ISSN : 2435-9777
Print ISSN : 1346-8774
Issues in the Care Management Process for Community Life Support ~Based on the Case Study of Multi-Problem Families~
Hiromi Shimizu
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2023 Volume 22 Issue 3 Pages 114-122

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Abstract

本研究の目的は、地域において「多問題家族」に見られる重層化したニーズに対応した包括的なケアマネジメントの具体的展開プロセスを高齢・障害の各領域におけるケア会議とその会議に関わっているケアマネジャーを対象とした調査結果から明らかにすることである。多問題家族事例の支援過程における11のケア会議を対象に参与観察を実施した。またその事例に関わりを持つケアマネジャー7名を対象に半構造化インタビューを実施した。そのデータをM-GTAを用いて質的に分析した。分析テーマを「多問題家族の支援ネットワークにおける支援計画策定プロセス」とし、分析焦点者は「多問題家族の支援に関わるケアマネジャー」とした。分析の結果、21概念と8カテゴリーが抽出された。またコアカテゴリーとして『家族支援チームの中心的役割の必要性』を抽出した。そして、カテゴリーを【 】、サブカテゴリーを[ ]、概念を« »で示している。ケアマネジャーは、多問題家族の支援において『家族支援チームの中心的存在の必要性』と家族全体支援に対する«具体策がみえない»という【ジレンマ】を抱えていることが明らかになった。その結果より、支援計画の策定や中心的役割を担う機関が曖昧なままケアマネジメントプロセスが展開されていることが判明した。これらのことから現状では、多問題家族に見られるような重層化したニーズに対応したケアマネジメントプロセスが包括的・継続的とはいえず、有機的に機能していないことが示唆された。

Translated Abstract

The purpose of this study was to clarify the specific development process of comprehensive care management that responds to the multilayered needs of "multi-problem families" in the community based on the results of a survey of care meetings in the fields of elderly and disability and care managers involved in those meetings. Participant observations were conducted at 11 care meetings in the process of supporting cases of multiproblem families. We also conducted semi-structured interviews with seven care managers involved in the case. The data were qualitatively analyzed using M-GTA. The theme of the analysis was "Support Plan Formulation Process in the Support Network for Multi-Problem Families," and the focus of the analysis was "Care Managers Involved in Support for Multi-Problem Families." As a result of the analysis, 21 concepts and 8 categories were extracted. In addition, as a core category, "the need for a central role in the family support team" was extracted. Then, the category is indicated by【】, the subcategory is [ ], and the concept is indicated by « ». Care managers feel the need for a "central presence in the family support team" in supporting multi-problem families. In addition, it became clear that they felt the "dilemma" of "not being able to see concrete measures" for support for the whole family.

The results show that the care management process is developed with ambiguity in the formulation of support plans and the institutions that play a central role. These results suggest that the care management process that responds to the multi-layered needs of multi-problem families is not comprehensive and continuous, and does not function organically.

I はじめに

介護保険制度におけるケアマネジメント実践現場では、常に「多問題家族」に見られる重層化したニーズを持った利用者が存在し、その支援の困難性については、「困難事例」として地域ケア会議でもっとも多く検討されている1)

これまでの先行研究においても介護保険制度下の「困難事例」の研究は多岐にわたり、具体的アプローチについても模索されてきた2),3),4)

一方「多問題家族」として取り扱った事例研究は、介護保険制度が始まる以前から存在していたが5),6)、近年「多問題家族」という用語が使用されず、「困難事例」として包含されている。しかし、和気は、欧米おける実践と研究において「困難ケース」という用語は一般的ではなく「多問題家族」「ハイリスク家族」が存在し、その中でも「多問題家族」は「困難ケース」の典型例であると述べている6)。さらに、「困難ケース」が支援者側の論理により形成されるとしている6)

これらのことより本稿では、「困難事例」とされているものの中には、対象者が主観的に困難と感じている事例が含まれているのに対し、客観的に問題が重層化している事例(家族)を指す「多問題家族」への支援に着目し研究対象に取り上げることにする。

現在、「多問題家族」に見られるような重層化するニーズに対する支援について、2021年4月社会福祉法改正により重層的支援体制整備事業が創設されたが7)、この事業がどのように機能しているのか具体的にはわかっていない。また、介護保険制度下のケアマネジメントにおいても同様で、具体的な包括的生活支援の手法となり得ていない。

筆者は、2000(平成12)年、介護保険制度が始まった頃より介護保険制度下で介護支援専門員として12年間ケアマネジメントに携わってきた。その経験を踏まえると介護保険制度下では、重層化するニーズに対応したケアマネジメントが実践されているとは言い難い現状があるといえる。

そこで本研究では、地域において「多問題家族」に見られる重層化したニーズに対応した包括的なケアマネジメントの具体的展開プロセスを高齢・障害の各領域におけるケア会議とその会議に関わっているケアマネジャーを対象とした調査結果から明らかにすることを目的とする。

このことは、多様で重層化したニーズを持ち合わせている利用者の地域生活支援を具現化し、今後展開されようとしている地域包括ケアや地域共生社会の実現を推進する一助になると考える。

II 方法

1 調査の方法と分析方法

A県B市において、多問題家族事例の支援過程における11のケア会議を対象に参与観察を実施した。また、その事例に関わりを持つケアマネジャー7名を対象に半構造化インタビューを実施し、収集したデータを修正版グラウンテッド・セオリー・アプローチ(以下、M-GTA)を用いて分析を行った8)。木下(2007)によれば、M-GTAに適する研究はヒューマンサービス等の領域において社会的相互作用があり、研究対象がプロセス的特性を持っている場合であるとされている。本研究では、多問題家族のケアマネジメント実践において計画策定に至るまでにプロセス性があること、多問題家族の支援ネットワーク構築において社会的相互作用が生じている現象があることからM-GTAが適した分析方法として採用した。

その手法を修得するため、都内で開催されるM-GTA研究会に2013年より入会し、公開スーパービジョンに参加して様々な研究例を学んだ。

M-GTAでは、分析テーマと分析焦点者を設定しデータの解釈を行っていく。本研究の分析テーマは「多問題家族の支援ネットワークにおける支援計画策定プロセス」であり、分析焦点者は「多問題家族の支援に関わるケアマネジャー」である。

分析は、この2点に照らして、次の手順で行った。まずは、関連があると思われるデータの関連箇所に着目し、それを一つの具体例(ヴァリエーション)とし、他の類似具体例も説明できると考えられる説明概念を生成した。そして、分析ワークシートを作成し、概念名、定義、具体例などを記入した。分析ワークシートは個々の生成された概念ごとに作成している。また、同時に他の具体例をデータから探しヴァリエーション欄に追加記入していった。具体例が複数出てこない場合は、その概念は有効でないと判断した。生成した概念の具体例について類似例だけではなく対極例がないかデータをみていき、比較検討を行った。次に生成した概念間の関係性について検討しながらカテゴリーも生成し、カテゴリー相互の関係から分析結果をまとめ、ストーリーラインと結果図を作成した。(図1

2 調査対象者と分析データ

本研究の調査対象の概要については表1表2のとおりである。

また、インタビューガイドについては表3のとおりである。調査期間は、2013年4月18日~2018年10月25日である。

3 倫理的配慮

本研究は、新潟医療福祉大学の倫理委員会の承認(承認番号:17389-130308)を得て行った。

協力者には、研究目的に対する理解を求めると共に、協力への自由意志や不参加による不利益をこうむらないこと、プライバシーの保護、得られたデータは研究目的以外に使用しないことなどを明記した「研究協力のお願い」を読み上げ、同意の意志確認をし、参加の同意が得られた調査協力者とは同意書を取り交わした。

4 用語の定義

本稿において用いる用語については、次の意味において用いることとする。

1)ケアマネジャー

介護支援専門員(介護)あるいは相談支援専門員(障害)の資格を持ち各制度上においてケアプラン作成や相談支援を行う者

2)支援ネットワーク(家族支援チーム)

多問題家族支援に関わる多分野多職種の支援の輪(つながり)

3)支援チーム

制度上のケアマネジャーが中心となりケアプラン上に位置づけた個別支援の輪(つながり)

III 結果

得られたデータを分析した結果、21概念と8カテゴリーが抽出された。またコアカテゴリーとして『家族支援チームの中心的役割の必要性』を抽出した。

1 カテゴリーごとの説明

以下、カテゴリーを【 】、サブカテゴリーを[ ]、概念を« »で示し、カテゴリーごとに説明する。なお概念が導き出されたデータの具体例を太字で示し、わかりにくい方言等は文脈を壊さない程度に読みやすいように補足した。

1)【問題に直面する】

多問題家族の支援に関わるケアマネジャーは、その家族の構成員一人を支援するところから始まっているが、その家族にも問題があることがわかり«個別支援ではないことの困難さ»を感じていた。

具体例:家族関係の中で問題が起きている、単体でも問題を抱えているけど家族として一緒に過ごす過程で問題が生じてくる。本人だけだったら支援が入ればうまくいくだろうけど、家族の問題の影響で問題が大きくなり、関わる人も増えて問題も複雑になっています。

2)【ケア会議に向けての働きかけ】

家族の問題を認識しながらも担当の家族構成員の支援を継続していくが、その過程の中で«支援中に表出する問題がタイミング»としてケア会議開催を考えるようになる。

具体例:支援している中で問題が生じたときがひとつタイミングで、何か状況を変えなければならないと思い、ケア会議をお願いします。

多問題家族のケア会議開催するにあたっては、問題が重層化していることが多く関係者も多岐にわたる。会議内容は、参加者の構成に大きく影響を受けるため、ケア会議参加者に「誰を選ぶか」は特に重要な課題である。ケアマネジャーは人選において«メンバー選定の悩み»を抱えていた。

具体例:例えば民生委員だとか、地域の人をときいきなり呼ぶのはね、支援の方向性も曖昧なのにと思ってしまう。会議の開き方もコアなメンバーと地域の合わせ方っていうのは、配慮が必要ですね。メンバー構成、選出、どうしようか、いろんな人が関われば関わるほど悩みますね。

そして、ケアマネジャーは、どの立ち位置でケア会議を進めていけばよいか苦悩する。家族を対象にしたケア会議では対象が複数あり、主として働きかける機関が曖昧な状況である。ケアマネジャーは、ケースや会議ごとに«参加者だったり主催者だったり»を担うことになる。

具体例:行政の関りがあれば行政にお願いすることもありますが、行政の関りがないものだと例えば介護保険の方が関わっていれば介護保険のケアマネさんになりますかね。地域包括さんは地域全体をみていて、そこから障害のケアマネに開催してもらえませんかと要請がある場合もあります。

また、関係者が多岐にわたるためケア会議がスムーズに行われるよう«ケア会議における合理的工夫»が行われている場合もあった。

具体例:ケア会議の場になって、今までの、前回の会議の後から、こういう流れで、こういうことがありました、ああいうことがありましたという報告で時間が過ぎてしまうと時間が足りなくなる。ある程度情報を共有した状態で、会議を開催できるように考えています。

3)【家族の多面的理解と問題の把握】

多問題家族のケア会議では、家族構成員それぞれの支援ネットワーク(チーム)の参加や今後形成される支援ネットワーク(チーム)が参加している。その参加者間で家族を多面的に理解し、その問題を把握するために[多分野からみる家族のアセスメント]や[支援チームによるモニタリング]により多岐にわたる情報の共有がなされている。その情報量が多いため共有にかける時間は、会議中の大部分を占めていた。

具体例:金銭管理については、あまりできないという状況でして、例えば携帯電話の支払いとか、振り込み、コンビニとかの振り込みができないから助けてくれって電話かかってきました。5000円って千円札何枚って聞いてもわからない感じで、できる範囲は少ないですね。欲しいものは衝動的に買ってしまうので、ハムスターなども飼っちゃだめだって言っても、欲しいから買ってしまいます。

具体例:食事の摂取量が、いつもは10割だったものが5割程度になってまして、体重もそれまで、48キロ台だったものが、4月に入り45キロくらいになって食事の摂取量と体重の減少が気になります。

高齢者分野と障害者分野のケアマネジャー2人の関りがあるケースでは、«ふたつのケアプランのすり合わせ»が必要となり、そこでは«相互に影響しあうモニタリング»が展開されていた。

具体例:障害ケアマネ「7時からYさん訪問介護が入って、そのあと続けてお母さんの訪問介護が入りますね。」居宅ケアマネ:「そうですね。8時から8時40分です。その朝のYさんの訪問介護に続けてですよね。それとあと、木・金・日ですね。お母さんがデイサービスに行かずに自宅で過ごすときのお昼に1時間入っています。11時半ぐらいから1時間ほどです。」

障害ケアマネ:じゃ、どうでしょう。空いている時間帯は問題ないでしょうか。」

4)【家族全体支援を見立てる】

家族の多面的理解と問題の把握を行った上で、ケア会議では[多分野からみる見立て]と[支援チームによる見立て]を通して今後の課題は何かについて話し合われていた。

具体例:Hさんはどのレベルまで在宅ですか。へんな聞き方ですね。というのは、家族が施設に入れてくれと言ってきたときは、Hさんの排せつ介助が必要になったときでした。お手洗いに自分でいけなくなったとき、家族に介護力が、あるのかなという心配があって、そろそろ施設入所を検討する時期なのかなと思います。

5)【家族全体支援の方針】

見立てから支援の方針がケア会議参加者全員に共有されるまで[家族全体支援の方向性の検討]が«家族のパワーバランスによる見通し»や«家族全体からみる支援の模索»、«必要な支援の提案»により行われていた。会議の中での模索や検討を踏まえて参加者がそれぞれ理解していく。しかし明確に【家族全体支援の方針】が示されることはなく参加者の理解の程度に委ねられていた。

具体例:家庭で誰かが一人欠ければ、どこかにひずみが絶対来るんです。今、3人で一緒にいて、ちょうどバランスがとれてると思うので、お母さんが入所して2人になると大丈夫かなという気がします。お父さんが入院すると、Tさんがまたパニックになるし、だからお父さんとお母さんが今の状態を維持できるようにしてかないと、Tさんがほんとにパニックになる気がします。

具体例:ほんとにHさんが自立できるようにヘルパーさんを派遣するとか、デイケアに行くとか、いい案があれば教えて欲しいなと思います。

6)【ジレンマ】

ケアマネジャーは、ケア会議で話し合われた支援の方針は理解しているが、そこにたどり着くまでの«具体策がみえない»ことにジレンマを感じていた。

具体例:最終ゴールはこうすればいいってわかっているんだけど、そこに導くまでの、時間の長さとか、そこまで誰が、どう持っていくかっていうところまで、細かいことを詰めずに、どう支援していくかも、詰め切れないケア会議だとね。方向性はそれでいいと思うんですけど、じゃあ、そこに行くまでにあたって、どういうことを詰めてかなきゃいけないのかっていうことが見えないままで終わってしまうとどうかなって思います。

7)【個別支援への移行】

ケアマネジャーは、ケア会議を経て家族の中の構成員の一人である担当の支援に戻っていく。ケアマネジャーは、家族全体の支援方針を基本として、制度上の立ち位置による«個別支援による具体策»を展開する。また、支援の定着化により«安定とともに個別支援中心に»移行していく。

具体例:本人さんの自立に向けて、金銭管理の方法をまあ、とっていきたいなと思っているのですが、具体的にはヘルパーさんをつけて、まあ、自立に向けて、支援していけばいいかなという考えです。

具体例:K家は私がケア会議を開催しましたが、支援が落ち着いてきたら個別のケアマネジメントが中心で、ある程度まとまってきたんですよ。

8)【多分野との連携による支援の広がり】

多問題家族の支援過程では、«多数の支援者によるチーム形成»が展開されている。これにより個別で支援している状況では困難だったことへもアプローチできるようになったと捉えている

具体例:専門的なところが関わっていただくことで支援の幅が広がるというか、見方も変わってきます。医療的なケアとも十分に連携がとれるので、広がりがでますね。また自分たちでわからない情報とかも得られ、支援も受けられるようになるので、そういった意味では幅が広がる気がします。

2 結果図とストーリーライン

得られたデータを分析した結果を、図2「多問題家族の支援ネットワークにおける支援計画策定プロセス」として作成した。次にその概念の関係性をストーリーラインとして説明する。結果図とストーリーラインにおいてコアカテゴリーは『 』、カテゴリーは【 】、概念は« »で示す。

多問題家族の支援ネットワークにおける支援計画策定プロセスの中核となるのは、ケア会議を通して導かれる【家族全体支援の方針】を決定するプロセスであった。それは多分野からなる支援者が共有する【家族の多面的理解と問題の把握】【家族全体支援を見立てる】を経て決定される。

しかし、多問題家族を支援している一員であるケアマネジャーは、ケア会議での話し合いの中で«具体策がみえない»という【ジレンマ】を抱え、『家族支援チームの中心的存在の必要性』を感じていた。加えて誰が、その役割を担えばよいかについて明確な答えを持っていなかった。そして家族全体支援の«具体策がみえない»ままケアマネジャーの立ち位置である制度上において【個別支援への移行】がなされ、支援の定着化がみられると、«安定により個別支援中心に移行»していく。

多問題家族支援チームの一員であるケアマネジャーは、利用者を内包する家族の【問題に直面する】を受け«個別支援ではないことの困難さ»を感じ«支援中に表出する問題がタイミング»として必要な支援者に対し【ケア会議に向けての働きかけ】を行う。働きかけを行う上で、ケアマネジャーが«参加者だったり主催者だったり»するため、どの立ち位置にいるかは«メンバー選定の悩み»とともに会議内容に影響を与えるため重要である。«参加者だったり主催者だったり»は、中心的役割の曖昧さも示唆していた。

ケア会議を開催することにより【多分野との連携による支援の広がり】を得るが、«多数の支援者によるチーム形成»となるため、まとめ役としての『家族支援チームの中心的存在の必要性』は重要であると認識されていた。またケア会議において【家族全体支援の方針】は決定されるが、家族全体支援の計画である«具体策がみえない»まま、ケアマネジャーが位置する制度上の支援により«個別支援による具体策»が展開されていることがわかった。

IV 考察

1 多問題家族にみるケアマネジメントプロセスの現状と課題

1)多問題家族の支援計画の策定

本研究から多問題家族のケアマネジメントプロセスにおいて、家族全体を視野に入れた支援計画策定が明確にされないまま多問題家族の構成員それぞれに対する個別支援が展開されていることが明らかとなった。

これはつまり、ケアマネジメントプロセスにおけるケア会議が有効に機能していないことを表している。

野中9),10)によれば、ケア会議の展開過程は5段階あるとし、①事例の概要把握、②事例の全体像把握、③アセスメント、④支援の目標設定、⑤支援計画の策定である。

本研究において、参与観察したケア会議は先述したとおりであるが、その多くの事例で方向性や方針は確認できるが、野中のいう④支援の目標設定、⑤支援計画の策定がされないまま終了していた。

ケアマネジメントプロセスにおいて計画の策定は支援ネットワークの活動を統合する11)意味を含んでおり支援ネットワークが有機的に機能するために最も重要であることから、ケア会議の運営について十分に検討する必要があるといえよう。

最近では、伊藤ら12)がケア会議における計画策定の実際を紹介しているが、ケアマネジメント実践領域においては発展段階にあり、今後の課題といえる。

2)多問題家族支援チームにおけるリーダーシップ

ケア会議開催に際して、多問題家族のような重層化したニーズに対応するため多分野にまたがる支援ネットワーク(チーム)が形成されるが、本研究からそのチームを率いる、あるいはまとめる役割である中心的存在が曖昧であることが明らかとなった。そのためケアマネジャーらの多くは、中心的存在の必要性を認識していた。制度上の個別支援においては、この役割はケアマネジャーの役割とされる。しかし多分野にまたがる支援ネットワーク(チーム)では、ケアマネジャーはネットワーク構成員のひとりであることが多く中心的存在になり得ていないことが明らかとなった。中心的存在の必要性については、和気6)が「いかなる機関が困難ケースへの対応にリーダーシップをとるにしても、困難ケースによる責任所在の明確化を図った上で、その機関のリーダーシップによる協働体制の構築が必要」と指摘している。

多問題家族のような重層化したニーズに対応するため多分野にまたがる支援ネットワーク(チーム)を形成するにあたっては、中心的存在の明確化を図り、その責任において情報が集約されモニタリングや評価等のケアマネジメントプロセスが実践できるよう検討する必要があると考える。

2 重層化するニーズに対応するケアマネジメント

以上のことより、重層化するニーズに対応するケアマネジメントの実践において、多分野にわたる支援ネットワーク(チーム)を形成しても断片的な連携では不十分であるといえよう。責任の所在を明らかにし、支援計画を策定した上で実践される継続的に包括的なケアマネジメントが有効である。小松5)は欧米における「多問題家族」への先駆的実践としてアメリカの家族中心プロジェクトやイギリスのFSU(Family Service Units)の活動を紹介しているが、その中で家族全体を視野に入れた包括的アプローチの重要性について示唆している。

ケアマネジメントの手法は元来、包括的・継続的な手法である11)。それを踏まえた上で、重層化するニーズに対応するケアマネジメントのシステムを実践的に構築していくことが課題である。

3 現象特性

今回の研究で対象にした現象の特性を簡明にケアマネジャーらに説明する上で活用できる「現象特性」は次のようにまとめられた。

「多問題家族のケアマネジメントにおける現象は一つの集合体と集合体を『まとめて率いる』といううごきとして捉えることができる。それは異なる楽器のチームとチームを統合し演奏するオーケストラのようだといえる。」

V 結論

本研究では、地域において「多問題家族」に見られる重層化したニーズに対応した包括的なケアマネジメントの具体的展開プロセスを明らかにしようとしたものである。その結果、次の2点が明らかとなった。1点目は、家族全体を視野に入れた支援計画策定が明確にされないまま支援が行われていることであり、2点目は、多問題家族全体の支援チームをまとめる役割である中心的存在が曖昧なままケアマネジメントプロセスが展開されていることである。これらのことから現状では、多問題家族に見られるような重層化したニーズに対応したケアマネジメントプロセスが包括的・継続的とはいえず、有機的に機能していないことが示唆された。

本研究から得られた結果は、一地域で行われた多問題家族のケア会議やそれに関わるケアマネジャーという限られたフィールドから得られたデータに基づいている。また支援計画策定プロセスに焦点を当てているため、その他モニタリングや評価等のケアマネジメントプロセスに至るまでは言及していない。重層化するニーズに対応するケアマネジメントプロセスの具体的展開を実践可能なものとするには、さらなる事例の検証や調査を行い、リーダーシップを担う機関の選定方法や支援目標を表示した家族全体の支援内容がわかる支援計画書の作成方法について検討を重ねる必要がある。これらについては、今後の研究課題としたい。

利益相反

本研究では、特定の企業、団体、個人等に利益相反はない。

References
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  • 9)  野中猛・高室成幸・上原久:ケア会議の技術,中央法規,第2版,36-107,東京,2007.
  • 10)  野中猛:ケア会議で学ぶ精神保健ケアマネジメント,中央法規,141-147,東京,2011.
  • 11)  デイビットP.マスクリー 野中猛・加藤裕子監訳:ケースマネジメント入門,中央法規,3-19,1994.
  • 12)  伊藤健次・土谷幸己・竹端寛:「困難事例」を解きほぐす,現代書館,145-184,東京,2021.
 
© 2023 Niigata Society of Health and Welfare

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