Niigata Iryo Fukushi Gakkaishi
Online ISSN : 2435-9777
Print ISSN : 1346-8774
Professionalism for paramedics: from birth to expansion of the workforce
Yutaka Takei
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2023 Volume 22 Issue 3 Pages 49-53

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Abstract

In Japan, the paramedic system is a relatively new medical qualification established in 1991 regarding changes in public awareness of the pre-hospital care system. Pre-hospital care has been provided mainly by fire departments, but the work was not beyond the "delivery service" scope of the emergency medical team. During the establishment of the system, paramedics were defined as individuals who provide emergency medical care to patients with injuries and sickness in pre-hospital settings until they are transported to a hospital and placed under the care of a physician. As pre-hospital care professionals, paramedics provide emergency medical care to patients with cardiopulmonary arrest, such as defibrillation using a semi-automatic defibrillator, airway using a closed esophagus device, and intravenous fluids to secure the venous system, following the specific instructions of a physician. However, regarding the changing needs of the public, the scope of the procedures has been expanded to include adrenaline administration to patients with cardiopulmonary arrest, such as tracheal intubation using an endotracheal tube, fluids transfusion to patients before cardiopulmonary arrest, and glucose solution to patients with hypoglycemic injuries. Additionally to the treatment scope expansion, the professionalism of paramedics has also been required to change recently with the lifting of the ban on performing emergency care in the emergency room after the patient has been admitted to the hospital. The paper outlines the history of the paramedic system in Japan from its inception until its current professional expansion and discusses the professionalism of paramedics.

1 緒言

救急救命士制度は、国民の病院前救護体制に関する意識の変化から1991年に創設された比較的新しい医療資格である。病院前救護は主に消防機関が担っていたが、その業務内容は救急隊による「はこび屋」の域を出なかった。制度発足当初の救急救命士は病院前において傷病者を病院に搬送し医師の管理下に置くまでの間、救急救命処置を実施することを業とするものと定義されていた。病院前救護のプロフェッショナルとして救急救命士は、心肺機能停止傷病者に対して、半自動式除細動器を用いた除細動、食道閉鎖式器具を用いた気道確保、静脈路確保のための輸液という救急救命処置を医師の具体的指示の下、診療の補助行為として実施することができた。しかしこれらも、国民のニーズの変化に対応して、心肺停止傷病者に対するアドレナリン製剤の投与、気管内チューブを用いた気管挿管、さらには心肺機能停止前の傷病者に対する輸液、低血糖傷病者に対するブドウ糖溶液製剤の投与にまで処置範囲が拡大された。また、これら処置範囲の拡大にとどまらず、近年、傷病者を病院に収容した後も救急処置室等でも救急救命処置の実施が可能となり、救急救命士のプロフェッショナリズムにも変化が求められるようになった。本稿では救急救命士制度創設の背景から現在の職域拡大までの歴史を概説するとともに、救急救命士のプロフェッショナリズムについて考察する。

2 救急業務の法的根拠

日本における救急業務は、1933年に神奈川県警察部に所属する横浜市消防署によって初めて開始された。現在の救急業務は主に消防機関が担っているが、1947年に消防部門が警察組織より分離独立し、消防業務が開始されて以来、消防機関が救急業務を担うこととなった。1963年までの消防法第1条において消防業務は、「火災を予防し、警戒し及び鎮圧し、国民の生命、身体及び財産を火災から保護するとともに、火災又は地震等の災害に因る被害を軽減し、もつて安寧秩序を保持し、社会公共の福祉の増進に資することを目的とする」とされており、救急業務は消防業務として規定されていなかった。すなわち救急業務実施の明確な法的根拠がないまま各自治体消防に委ねられていたわけである。1963年に漸く消防法第2条に「災害による事故等による傷病者を医療機関等に搬送する」業務が追記されたことにより、傷病者搬送が消防機関の業務として正式に法制化されたのである。しかし、1986年の消防法改正までの間、疾病による傷病者搬送については法的根拠がないまま各自治体消防に委ねられたままであった。

3 救急隊員が行う応急処置

消防職員が救急車で救急業務を行うためには、135時間の教育課程を修了する必要がある。これは「救急隊員による応急処置等の基準(総務省消防庁告示)」に定められており、これにより救急隊員は、酸素吸入のほか、外出血の止血や骨折に対する固定の実施が可能となった。その後、115時間の追加教育課程を修了することで、聴診器や血圧計による観察、喉頭鏡や鉗子、吸引器を用いた咽頭・声門上部の異物除去等にまで処置範囲が拡大された。しかし、病院前救護体制としては、これらの応急処置だけでは重篤な傷病者に対して、病態の把握や有効な救命処置がなされるには至っていなかった。ゆえに、これまでの救急隊員らは、まさに「はこび屋」と称されることもしばしばであった。

4 救急救命士の誕生

Flora Jean Hymanはアメリカ合衆国出身のロサンゼルスオリンピック銀メダリストのバレーボール選手であった1)。1986年日本リーグの試合中に突然崩れ落ち心肺停止状態になる事故が起きた。この時、周囲にいたスタッフらは、ただ立っているだけで誰も何もしようとはせず、10分以上も後になって漸く担架で搬出された。この状況が全米のテレビでも放送されることとなり、日本人は突然の心肺停止にも何もしないと非難を浴びる結果となった。当時、自動体外式除細動器(以下、AEDという。)は救急隊員にも一般市民にも使用できない医療機器であった。

1989年から1990年までの2年間、我が国の救急医療体制と海外のそれとを紹介したテレビ企画が放送され、我が国の「はこび屋」と海外の高度な医療行為を行う救急隊員との違いが国民に認識される結果となった2)。この国民の認識が救急医療体制の充実を望むニーズに変化し、国会でも取り上げられることとなった。このような背景から、テレビ企画放送終了の翌1991年に、「救急救命士」制度が創設されることとなった。

5 救急救命士による処置範囲

救急救命士制度の創設に際して、米国のパラメディック制度とフランスのSAMU制度の導入が検討された3),4)。パラメディック制度は、一定の医療教育を経た救急隊員が医師に代わって、病院前で気管内挿管や静脈路確保を経由した各種薬剤投与等の医療介入を実施するものであり、SAMU制度は、救急医を中心とした医療スタッフが病院前で医療介入するものである。結局、我が国では米国のパラメディック制度を参考に、救急救命士が医師に代わって医療介入を実施する体制を取り入れることとなった。しかし当時、救急救命士が実施できる医療介入は、半自動式除細動器を用いた除細動、心肺機能停止傷病者に対する食道閉鎖式気道確保器具および乳酸リンゲル液による静脈路確保のための輸液に限定された。しかもこれらの行為を実施するためには、医師による具体的指示が必要であり、半自動式除細動器による除細動においては、除細動可能な波形である心室細動を認めた救急救命士が、医療機関の医師に対して、その心電図波形を伝送し、医師が心室細動を確認したのち、漸く除細動の指示が出されるというものであった。

2002年、故高円宮殿下がスカッシュ練習中に心室細動による心不全で倒れられ、救急隊員によって病院に搬送されたが薨去された5)。当時、一般市民にはAEDの使用が認められていなかった。2004年、一般市民によるAEDの使用が認められたが、この時点で救急隊員によるAEDの使用は認められておらず、救急救命士においても、未だ除細動前に心電図の伝送が必須であるという「ねじれ現象」が続いていた。

2002年、「救急救命士の業務のあり方等に関する検討会中間報告(総務省消防庁・厚生労働省)」が取りまとめられ、救急救命士制度の円滑な運用に向けて、メディカルコントロール体制(以下、MCという。)の一層の充実を図るよう都道府県に周知され(消防救第178号 医政発第0728010号)、これの体制充実を前提に、1)包括的指示下での除細動の早期実施、2)救急医の養成・確保、3)気管挿管の講習実施体制の確保、4)薬剤投与の研究・検証が検討されることとなった。これによって2003年から救急救命士を含む救急隊員の心電図伝送を要しない、医師による包括的指示下でのAEDによる除細動が解禁となり、さらに2004年からは救急救命士による心臓機能停止および呼吸機能停止傷病者に対する気管内チューブを用いた気管挿管が、2006年からは心停止傷病者に対するアドレナリン投与がそれぞれ実施可能となった。

このような中、さらに病院前救護体制を強化し、傷病者の救命率の向上や、後遺症の軽減等を図るため、心肺機能停止前の傷病者に対する救急救命士の処置範囲が検討され、2016年、血糖測定と低血糖発作症例へのブドウ糖溶液の投与、および心肺機能停止前のショック傷病者に対する静脈路確保と輸液の実施が追加されることとなった。

救急救命士制度の効果については、複数の報告がある6)-9)。対応する救急隊に救急救命士が搭乗する割合が多いことは、院外心停止例、特に市民目撃・非除細動不適応例において、生存率改善に影響を与えることが報告されている6)。英国のパラメディック制度を取り入れている地域では救急救命士のさらに上位のCritical Care Paramedic(以下、CCPという。)などの資格があり、我が国の救急救命士の救急救命処置というよりも、医師の治療に近い行為が認められている地域も存在する7)。CCPと医師による救急現場での医療介入効果を検討したシステマティック・レビューでは、両者の介入に差がないことが示されている8)。我が国では救急救命士による気管挿管の適応は気管挿管以外では効果が期待できない例などに限定されているものの、非心原性心停止例における生存率改善に短期ではあるものの効果が示されている9)。我が国の救急救命士制度は、今後も海外のパラメディックによる医療介入の効果などを参考に処置範囲の拡大が検討されるものと推測される。

6 救急医療におけるメディカルコントロール体制

救急医療におけるMCとは、医学的観点から救急救命士を含む救急隊員が行う応急処置等の質を保障することを指す。そのMCの役割として、1)救急隊員が現場から24時間いつでも迅速に救急専門部門の医師等に指示、指導・助言が要請できること、2)実施した応急処置等の医学的判断、処置の適切性について医師による事後検証を行い、その結果を再教育に活用すること、3)救急救命士の資格取得後の再教育として医療機関において定期的に病院実習を行う体制を構築することがあり、かつ医師と救急隊員とが相互に連携を図りながら、体制の整備に努めることが必要であるとされている(「救急救命士の業務のあり方等に関する検討会」報告書)。また「救急業務高度化の推進について(平成13年7月4日付け消防救第204号消防庁救急救助課長通知)」によって、MC体制の構築を積極的に進め、救急隊員の資質を向上し、地域における救命効果の更なる向上を図るよう都道府県単位での協議会設置、MCを担当する救急医療機関の選定、救急救命士を含む救急隊員に対する指示・指導・助言体制の調整、救急隊員の再教育などが都道府県に要請された。すなわち前述の救急隊員らによる包括指示下での除細動、救急救命士による気管挿管と薬剤投与の実施にはMC体制の充実が大前提となるのである。しかしながら、MC体制は都道府県、さらにその下の地域によって格差があることが指摘されおり、日本全国一律の救急医療体制が構築されていないことも課題とされている10)

7 救急救命士の生涯教育

救急救命士としての生涯教育は、2年間で128時間の再教育が推奨されている(「救急救命士の資格を有する救急隊員の再教育について(平成20年12月26日消防救第265号)。この中には病院実習も含まれるが、必須カリキュラムとして統一化されているものはなく、各都道府県のMCに委ねられているのが現状である。2008年に行われた全国消防本部に対する救急隊員の教育に関する実態調査では、応急処置を中心とした再教育に取り組む消防本部が多かった一方、観察能力や重症度・緊急度評価の向上に対する取り組みは少なかったことが明らかとなった。また、この実態調査では救急救命士に対する再教育を行うにあたって、指導的立場を担う救急救命士の育成が必要であるとの認識が示された。これらを踏まえ総務省消防庁は、「指導救命士」の要件を示した。指導救命士の要件としては、救急救命士としての実務経験や救急隊長としての実務経験のほか、学術への関与などが示された。しかしながら、やはり指導救命士の効果的運用についても、各都道府県のMCまたは各消防本部によって異なっており、救急医療体制の格差にも影響していることが懸念される11)

8 救急救命士の職域拡大

救急救命士は、医師の指示の下に救急救命処置を行うことを業とする者をいい、その処置の実施は、救急救命士制度の創設から約30年間、「傷病者が病院等に搬送されるまでの間」に限定されていた。つまり救急救命士がその資格を活かし活躍できる職域としては、病院に搬送されるまでの間を担う消防機関や海上保安庁などに限定されていた。しかし、医師の時間外労働規制が2024年度に施行されることを踏まえ、医師の労働時間を短縮させることを、タスクシフト/シェア推進することの第一義の目的として、救急救命士の活用が提言された。この背景から、2021年10月に救急救命士法が改正され、「傷病者が病院等に到着し入院するまでの間」が追加されたことで、救急救命士の職域が拡大されることとなり、法的には救急救命士が病院内でも医療職として活用されることとなった。しかし前述のとおり救急救命士は、病院前において傷病者搬送を担う消防機関での従事を前提とした医療資格であったため、病院内の医療従事者との医療連携や感染対策等に関する教育が救急救命士養成カリキュラムに含まれておらず、病院内での従事に際しての教育体制構築が課題とされていた。このため医療機関に所属する救急救命士に対する研修については、一般社団法人日本臨床救急医学会及び一般社団法人日本救急医学会が策定した「医療機関に勤務する救急救命士の救急救命処置実施についてのガイドライン」を参考にしながら、各医療機関において実施されることとなった(令和3年9月1日医政局長通知)。「医療機関に勤務する救急救命士の救急救命処置実施についてのガイドライン」では、1)チーム医療に関すること、2)医療安全に関すること、3)院内感染対策に関することについて、病院で従事する救急救命士に対する追加教育項目とされている。

9 結言

1)救急救命士としてのプロフェッショナリズム

我が国を含む世界各国には、六本の柱の中心にアスクレピオスの杖で示したシンボル(Star of Life)をトレードマークとした救急車が存在し、それらが救急救命士のプロフェッショナリズムを表している。六本の柱は救急隊の固有の業務を意味しており、それぞれ1)迅速応答、2)病態把握、3)病院連絡、4)医療処置、5)医療引継、6)市民教育から成るとされている12)。我が国の救急救命士制度は創設から30年以上が経過したが、救急救命士に対する国民のニーズは年々高度化しており、これに対応できるだけの教育体制構築が課題となっている。また救急救命士の処置範囲にとどまらず、職域についても病院前から病院内の処置室にまで拡大している。救急救命士制度が新たに改正された現状では、病院内でのチーム医療、すなわち多職種連携も救急救命士の固有の業務として追加されなければならない。すなわち救急要請を覚知し、迅速に救急現場に駆けつけ、傷病者の病態を適切に把握し、必要な救急救命処置を施し、傷病者の病態に応じた医療機関を選定し、適切な時間内に搬送し、必要な医療情報を医師に申し送りして、さらに病院内の医療従事者らと連携する業務こそが、現在の救急救命士のプロフェッショナリズムといえるのではないか。

2)救急救命士による学問の創造

救急救命士には、救急医療環境の変化や医学の進歩に対応した適切な業務体制を学問体系として創造していくために、救急救命士の業務実績の蓄積から新事実を発見し、それを普遍化、体系化して、より的確な効率的業務を開発していく知識が求められる。これらの過程における科学的アプローチと科学的思考の修得を通じて、救急医療の専門家としてチーム医療が実践できる優れた高度専門職業人の育成が急務であるといえる。

References
 
© 2023 Niigata Society of Health and Welfare

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