Niigata Iryo Fukushi Gakkaishi
Online ISSN : 2435-9777
Print ISSN : 1346-8774
Analysis of the relationship between physical conditions and attitude (recognitions and behaviors) on health foods use
Riko MinagawaNaohiko KinoshitaYukiko KudoRiho MaetaFusayo KobayashiYuko WataraiTran Thi Thanh HuyenLuong Thi Hai YenAsuka NamizukaChizu OsabeNamiki OboshiShiori EndoSaki KoizumiMai SatoMayu SuzukiNagisa NiinoKazuo IshigamiToru Takiguchi
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2023 Volume 22 Issue 3 Pages 54-70

Details
Abstract

いわゆる健康食品は一般的には「健康に何らかの良い効果が期待できる食品全般」を指す。内閣府消費者委員会は「健康食品」を摂っている人の割合は、国民の4〜6割程度としている。本研究では、各種身体状況(肥満、高血圧、糖尿病、各種アレルギー体質等)の違いによる健康食品利用attitude(認識と行動)の違いの比較を目的とした。方法は、健康食品を利用している40-60歳代の男性、女性各150人の計300人を対象とし、質問票は性別や年齢等の個人特性および健康食品に対する15種の独立した質問とそれらを構成する総計122の回答肢で構成される。これらを因子分析で総合特性値を求め、各健康状態を目的変数として二項ロジスティック回帰分析を行った。結果は、性別、年齢、主治医の係わり等の交絡因子の調整下で健康食品に対する28のattitude(認識と行動)が抽出された。このうち15因子が1つ以上の身体状況と有意の関係があり、オッズ比は大半が1.5前後(逆数変換した場合を含む)であった。身体状況の違いで各因子の係わり、および主治医の係わりが異なり健康食品に関するattitude(認識と行動)は身体状況の違いによって異なることが示された。利用者の性別、年齢、身体状況の違いにより健康食品の利用に対するattitude(認識と行動)が異なることを踏まえて今後の利用指針が決められるべきと考えられた。

Translated Abstract

So-called health foods generally refer to "general foods that can be expected to have some positive favorable effects on health". According to the Consumer Affairs Agency about 40 to 60% of the population consume "health foods". This study aimed to compare the differences between various physical conditions (hypertension, diabetes, etc.) and health food utilization attitude (recognitions and behaviors、hereafter: HFU-attitude) . The subjects were 150 men and 150 women, (in their 40s to 60s) using health foods. The questionnaire was neutral for personal characteristics such as gender and age. Factor analyses and binomial logistic regression analyses were performed. As a result, 28 attitudes (recognitions and behaviors) to health foods were extracted under the control of confounding factors such as gender, age and involvement of supports by physicians. Of these, 15 factors were significantly related to one or more physical conditions, and most of the odds ratios were around 1.5 (including those after reciprocal transformation) . It was shown that the involvement of each factor and the supports by physician differed depending on the physical condition, and the attitude (recognitions and behaviors) regarding health food differed depending on the difference in the physical condition. Based on the fact that users’ attitudes (recognitions and behaviors) to the use of health foods differ depending on their gender, age, and physical condition, it was thought that future usage guidelines should be determined.

I 研究の背景と目的

いわゆる健康食品は日本においては薬品とは異なり医療機器等の品質・有効性及び安全性の確保等に関する法律のように分類、製法、使用に関する安全性と効果を担保する厳格な法的規制が無く、食品衛生法の一般食品の範疇に属し、一般的には「健康に何らかの良い効果が期待できる食品全般」1)を指す。しかるに近年、食品が持つ健康増進(改善)機能が着目され、健康増進法に基づいて消費者庁が認可した特定保健用食品(以下、特保)1)や食品メーカーが消費者庁に届け出て販売している保健機能食品1)等が出現し、一般用医薬品、特に第3類および医薬部外品2)との広告内容や利用環境の違いが狭まってきている。こうした状況を受け、著者らは先に健康食品の利用とヘルスリテラシーの係わりの検証を目的に質問票調査(以下、前報)3)を行った。前報ではWHOのヘルスリテラシーの定義4)である「健康の維持増進のために情報にアクセスし、理解、活用する動機や能力を決定する認知力、社会的スキル」とそれを数量化したNutbeamらの①機能的、②伝達的(相互作用的)、および③批判的の3つの下位尺度5)と健康食品利用状況との関連を分析し、男性は②と③の下位尺度の交互作用が有意であるのに対し、女性は①と②の交互作用が有意であるという性差が最も大きな違いであること等を報告した。

日本人の健康食品利用状況に関して内閣府消費者委員会の2012年の「健康食品の利用に関する実態調査」報告書6)では、健康食品を摂っている人の割合は、各種の調査結果を総合して見積ると国民の4~6割程度としている。また、利用目的として、①健康の増進(43.2%)、②疲労回復(35.0%)、③特定の栄養素の補給(39.9%)、④体調の維持·病気の予防(50.3%)、⑤病状の改善(11.4%)、⑥美容(15.4%)、⑦ダイエット(14.0%)、⑧老化予防(14.5%)、⑨その他(1.2%)と多岐にわたっていた。

ヘルスリテラシーと健康食品との関係に焦点を当てて健康食品を利用している群と利用していない群を比較した前報3)と対象を健康食品利用者のみに変えて交絡因子7)、すなわち結果をポジティブ、あるいはネガティブに歪める背景因子の調整を行うことを重視した。具体的には、参加者の性別、年齢等の個人特性が異なることで各種身体状況(肥満、高血圧、糖尿病、各種アレルギー体質等)が影響を受けることを統計的に均等にした上で、前述の内閣府の健康食品利用目的の健康に不安を持つ者と有病者の健康食品利用状況に注目し健康食品利用attitude(認識と行動)の違いを比較分析することを目的とした。

ここで、健康食品利用attitude(認識と行動)であるが、「健康食品」の定義は前報3)と同じく健康食品を「健康の保持増進に資する食品として販売・利用される食品」とし、サプリメントを「健康食品のうち、錠剤型、カプセル型、または粉状のもの」とした。その上で健康食品利用attitude(認識と行動)は、国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所の「健康食品」の安全性・有効性情報8)によると「自身にあった健康食品とその使用頻度はヘルスリテラシー4)の知識と意識が不可欠である」とされている。しかしながらattitudeが「何に対するどのような姿勢と行動であるか」は健康食品のattitudeをテーマとした先行研究9),10)でも示されていない。そこで、健康食品に対するattitudeを確認するという点で先行研究と本研究はスタートラインにあると判断した。すなわち調査項目の策定に当たっては単なる食品の好みとか、日常的な習慣だからという理由を超えて、自身の健康に資するに値すると判断し、継続利用(頻回利用)に至った知識とそれに裏打ちされた行動と想定し、合わせて健康食品利用に関する安全性の基本概念8)および利用のattitudeの多様性に着目した先行研究9),10)の調査項目を参考に作成した。

II 方法

1 対象者とデータ収集方法

Web 調査会社(株式会社メルリンクス)の層化無作為抽出質問票(アンケート)専用サイト(いーこえモニター:http://www.e-koe.net)に登録されたアンケート・モニター7万人(提携先のパネルも含めると80万人)の中で調査に同意した上で回答し、サンプル条件(全国区、40-60歳代の男女、利用者と非利用者)をクリアした登録者から健康食品利用有について、男女別、10歳階別の層化無作為抽出した。対象者の内訳は男女別にそれぞれ 40代、50代、60代について各50人の計300人とした。抽出の方法は、登録しているアンケート・モニターに健康食品利用の有無を分ける事前調査を行い(回収5,000人)、そのうち研究に同意したモニター(3,016人[利用者2117人、非利用者899人])に本調査アンケートを送信した。

データ収集にはWeb調査会社(株式会社メルリンクス)を用いた。

2 調査期間

2019年5月13日から同月16日を調査期間とした。

3 調査項目

基本属性や健康食品に関する項目から構成され、本研究で用いた質問項目は表1に示す。

4 分析方法

分析にはBellCurve社のエクセル統計(V3.22)を用いた。

1)クロンバックのα

表1に示す質問票の78項目を用いて回答の信頼性(内部一貫性)を評価するためクロンバックのαを算出した。

2)因子分析

表1の問10「健康食品に抱くイメージ」(名義尺度10個)、 問12「健康食品利用の目的」(同12個)、問13「健康食品に対して重視すること」(同6個)、問14「健康食品購入時参考にする情報」(同15個)、問15「健康食品購入場所」(同11個)、問16「健康食品購入時情報収集先」(同11個)を構成する複数の名義尺度をそれぞれダミー変数化(0、1)した。次に6つの設問ごとに主成分分析を行い、次いで解釈を容易にする目的で直交回転(Varimax法)により6種類の因子分析を行った。

3) 二項ロジスティック回帰分析

質問票の問8、問9の各種身体状況(有病状況)をそれぞれ目的変数とした。ここで、問8の12件の名義尺度と順序尺度(Likert尺度)が混在した近接した内容のカテゴリーを統合化した。すなわち、「肥満といわれている」、「やや肥満といわれている」を「肥満あり」に統合し、「糖尿病があり、現在治療中である(薬や注射を使っている)」「治療はしていないが境界型糖尿病といわれている」を「糖尿病あり」にした。同様に、高血圧、脂質異常症、コレステロール、その他治療中の病気のカテゴリーを内容の近接性でそれぞれ統合化した。ここで、問9の「アトピー性皮膚炎がある」、「喘息がある」、「花粉症・アレルギー性鼻炎がある」、「食物のアレルギーがある」、「薬のアレルギーがある」および「その他」を統合して新たに「アレルギー体質あり」とした。ここで頻度が高い「花粉症・アレルギー性鼻炎がある」は別建ての変数「花粉症・アレルギー性鼻炎あり」としても扱った。こうして統合化された各カテゴリーをそれぞれダミー変数化(0:なし、1:あり)した。また、目的変数である問11は「健康食品の日常的利用」の観点から「ほぼ毎日利用している」を1、それ以外を0とするダミー変数とした。表1の問8の12の設問を近接性で統合し、新たに健康食品の日常的利用の指標を設定した結果、目的変数となる各種身体状況総数は8つとなった。説明変数は、問1:性別、問2:年齢、問4:婚姻状況(既婚を1とする二分尺度)、問5:学歴(大学卒以上を1、それ以外を0)、問6:職業については次の①~⑥の6職種とし、1:該当、0:非該当とした。[①無職、②専業主婦(主夫)、③自営業、④公務員、⑤会社員{会社経営・役員、会社員(事務系)、会社員(技術系)、会社員(その他)をひとまとめ}、⑥パート・アルバイト]、問21:主治医への報告、および前述の方法2)の6種類の因子分析で得られた28因子を用いた。二項ロジスティック回帰分析は変数増減法を用い、変数選択基準は通法 (Pin=Pout=0.15)11)とした。

5 倫理的配慮

本研究は新潟医療福祉大学倫理委員会の承認(2019年4月12日、承認番号18156‐190412)を得た。対象者に対しては本研究の参加理解・協力の文章をインターネットのアンケート画面に掲載し、研究参加に同意した者だけがその後のアンケートに進める方法で行った。

III 結果

表2に各種身体状況の年代別性別対象者数を示す。

表3で分析に使用した78項目の内部一貫性は通法12),13)で項目数を調整した結果、最終過程で20項目となり本調査項目のクロンバックのαは0.7023であった。回答の信頼性(reliability)がacceptableとされる基準14)を満たした。

表4-1、表4-2表1の質問票問10、問12、問13、問14、問15、問16を構成するカテゴリー(名義尺度)を用いた6種類のVarimax回転による因子分析結果一覧を示す。因子の特性の判断には因子負荷量(=相関係数)の絶対値が0.4以上の項目から判断した。各因子分析において設問番号順にFac1-Fac6とし固有値>1.0の条件を満たすそれぞれ複数の因子分析から得られた総計28因子を抽出した。各因子は因子負荷量の正負の値から各因子の特性を判断し各因子分析表下端に示す。

表4-1、表4-2の因子分析表1:健康食品に抱くイメージに関して3つの因子が抽出された。そのうちF1-1は「効果が期待できない」、「高額である」、および「行き過ぎた宣伝・広告が目立つ」という3項目の因子負荷量(因子と各項目の単相関係数)が正の値で0.61~0.76と高く(以下、高因子負荷量)、因子の性質(以下、因子名)を「健康食品に対する負のイメージに関する因子(効果、価格、宣伝)」とした。F1-2は同様の判断で「食品だから安心」「病気の予防に効果がある」および「病状の改善に効果がある」の3項目が正の高因子負荷量(0.51~0.77)であるので、因子名を「健康食品に対する期待と利便性に関する因子」とした。F1-3は「簡単に栄養補給が出来て便利」、「美容にも効果を期待できる」および「美容やダイエットに効果がある」という正の高因子負荷量(0.56~0.75)であることから、因子名を「健康食品の副次効果に関する因子(栄養補給、美容)」とした。

因子分析表2:健康食品利用の目的に関して6つの因子が得られた。前述と同様の解釈でF2-1は「病気の予防」および「利用目的総数」という正の高因子負荷量であることから、因子名を「利用目的の総数と病気予防に関する因子」とした。F2-2は「老化予防」「栄養補給」および「疲労回復」が正負混合の高因子負荷量であることから、因子名を「利用目的が期待に関する因子(老化予防、栄養補給、疲労回復)」とした。F2-3は「健康維持」および「食事の代用」が正負混合の高因子負荷量であるので、因子名を「利用目的が利便性に関する因子(健康維持、食事の代用)」とした。F2-4は「体質改善」および「病気の治療」が負の高因子負荷量であるので、因子名を「利用目的が健康増進に関する因子(体質改善、病気の治療)」とした。F2-5は「美容」および「ダイエット」という正の高因子負荷量から、因子名を「利用目的が副次効果に関する因子(美容、ダイエット)」とした。F2-6は「特定の栄養素の補給」という負の高因子負荷量であることから、因子名を「利用目的が栄養補給に関する因子」とした。

因子分析表3:健康食品に対して重視することに関して3つの因子が抽出された。F3-1は「価格」、「安全性」および「選択時の重視項目数」という正の高因子負荷量から、因子名を「選択時の重視項目数および重視項目類型1(価格、安全性)に関する因子」とした。F3-2は「効きめ・有効性」および「味や飲みやすさ」という正負混合の高因子負荷量から、因子名を「選択時の重視項目類型2(効きめ、味、飲みやすさ)に関する因子」とした。F3-3は「美容効果」という正の高因子負荷量から、因子名を「選択時の重視項目類型3(美容)に関する因子」とした。

因子分析表4:健康食品購入時参考にする情報に関して7つの因子が抽出された。F4-1は「製造者名・販売者名」、「原材料名」および「製品のブランド名」という正負混合の高因子負荷量から、因子名を「購入時参考情報項目類型1(製造者名、原材料名、ブランド名)に関する因子」とした。F4-2は「含有成分名・含有成分量」「特にない」という正負混合の高因子負荷量から、「購入時参考情報項目類型2(含有成分名、特にない)に関する因子」とした。F4-3は「原材料の原産国」「機能性(効果・効能)」という正負混合の高因子負荷量から、因子名を「購入時参考情報項目類型3(原材料の原産国、機能性)に関する因子」とした。F4-4は「医師・学者・学会等の推薦」および「行政機関による安全性等の情報」という負の高因子負荷量から、因子名を「購入時参考情報項目類型4(専門家、行政機関)に関する因子」とした。F4-5は「製造した国」「ランキングや口コミ情報」および「含まれる成分が無添加・天然由来」という正負混合の高因子負荷量から、因子名を「購入時参考情報項目類型5(製造国、ランキング、含有成分無添加)に関する因子」とした。F4-6は「キャンペーン情報・割引情報」という負の高因子負荷量から、因子名を「購入時参考情報項目類型6(キャンペーン情報)に関する因子」とした。F4-7は「業界団体の認証マーク」という正の高因子負荷量から、因子名を「購入時参考情報項目類型7(業界団体の認証マーク)に関する因子」とした。

因子分析表5:健康食品購入場所に関して5つの因子が抽出された。F5-1は「購入先数」、「薬局・ドラッグストア」および「スーパー・コンビニエンスストア」という負の高因子負荷量から、因子名を「購入先数および購入場所項目類型1(薬局、スーパー)に関する因子」とした。F5-2は「テレビショッピング」、「新聞・雑誌などの通信販売」、および「専門カタログの通信販売」という正の高因子負荷量から、因子名を「購入場所項目類型2(テレビショッピング、新聞・専門カタログの通信販売)に関する因子」とした。F5-3は「訪問販売」「インターネットの通信販売」という正負の高因子負荷量から、因子名を「購入場所項目類型3(訪問販売、インターネット通販)に関する因子」とした。F5-4は「デパート・百貨店・専門店の店頭」「病院・クリニック」という負の高因子負荷量から、因子名を「購入場所項目類型4(デパート、病院)に関する因子」とした。F5-5は「スポーツジム・エステサロン」という負の高因子負荷量から、因子名を「購入場所項目類型5(スポーツジム・エステサロン)に関する因子」とした。

因子分析表6:健康食品購入時情報収集先に関して4つの因子が抽出された。F6-1は「家族」および「友人・知人」という負の高因子負荷量から、因子名を「情報収集先項目類型1(家族、友人・知人)に関する因子」とした。F6-2は「訪問販売員」、「チラシ・ダイレクトメール・折り込み広告・フリーペーパー」および「インターネット」という正負の高因子負荷量から、因子名を「情報収集先項目類型2(訪問販売員、チラシ、インターネット)に関する因子」とした。F6-3は「専門家(医師、薬剤師など)」、「テレビやラジオの番組やコマーシャル」「行政機関」という正負の高因子負荷量から、因子名を「情報収集先項目類型3(専門家、テレビコマーシャル、行政機関)に関する因子」とした。F6-4は「購入店舗」という負の高因子負荷量から、因子名を「情報収集先項目類型4(購入店舗)に関する因子」とした。

表5は8つの身体状況と個人特性、主治医との関係、健康食品利用attitude(認識と行動)との二項ロジスティック回帰分析結果である。

表6は二項ロジスティック回帰分析の結果を一覧にしたものである。表側の最初の11項目が交絡因子候補項目であり、回答者基本情報である性別、年齢、婚姻状況、学歴、職種という個人特性および主治医への報告·相談から構成される。これらは後述の健康食品に対する各種attitude(認識と行動)の評価に際して交絡因子7)として作用する可能性があるため、その調整のためが主目的である。表6においてii)因子は、表4の因子分析結果の28個の因子の特性(再掲)である。次に表頭は8種類の身体状況(疾病、体質)を示している。表中の上向き、下向きの矢印は表頭の8項目を目的変数とする変数増減法による二項ロジスティック回帰係数の有意性を示す。有意性基準を脚注に示す。更に、有意性を示す矢印の右脇の数値は表5の8つの二項ロジスティック回帰分析結果に示す有意項目のオッズ比である。なお、オッズ比の95%信頼区間(95%CI)は表5に記載されており表6には書き入れていないが矢印が示す有意性がp<0.05の場合、オッズ比の95%CI は1を跨がない関係にある。

1 肥満の有無と関連する被験者特性および健康食品に対するattitude(認識と行動)

肥満の有無と有意な関連 (p<0.05)が交絡因子候補項目で2項目、因子で5項目見られた。交絡因子候補項目では既婚者(OR:2.34、p<0.05)と会社員(OR:2.09、p<0.05)の肥満である頻度が高い傾向であった。交絡因子となる既婚と会社員の項目を調整したattitude(認識と行動)因子は健康食品の効果、価格、宣伝の仕方に対する負のイメージを強く持っているFac1-1:attitudeが有意(OR:1.42、p<0.05)であった。また健康食品の利用目的が副次効果(美容、ダイエット)を期待するFac2-5:attitudeが高い傾向が有意(OR:1.49、p<0.05)であった。一方、健康食品選択時に美容を重視するFac3-3:attitudeは低い傾向が有意(OR:0.63、 p<0.05)であった。合わせて健康食品購入時に専門家、関連行政機関からの情報を参考にするFac4-4:attitudeが低い傾向が有意(OR:0.69、p<0.05)であった。更に健康食品購入先数および購入場所として薬局、スーパー等を考慮するFac5-1:attitudeが低い傾向が有意(OR:0.68、 p<0.05)であった。

2 糖尿病の有無と関連する被験者特性および健康食品に対するattitude(認識と行動)

糖尿病の有無と有意な関連は交絡因子候補項目の2項目、因子で1項目見られた。交絡因子候補項目では健康食品を利用している人が女性だと糖尿病有病者比率が低い傾向が高度に有意(OR:0.08、p<0.001)であった。一方、糖尿病として回答している人は通院·加療している医療機関で主治医に報告·相談する頻度が高く、高度に有意(OR:5.76、p<0.01)であった。

なお、糖尿病患者が主治医に報告·相談する行為は患者が選択した健康食品によっては主治医から抑制がかかる場合も、反対に推奨される場合も出てくると考えられる。そうした場合、方法の項で述べたように健康食品の選択と利用の結果を変更させる背景因子(交絡因子)になる場合があると考えられる。またattitude(認識と行動)因子との関係では糖尿病の人は健康食品が健康維持に寄与し代用食品にもなる利便性を重視するFac2-3:attitude 頻度が高いことが有意(OR:1.63、 p<0.05)であった。

3 高血圧の有無と関連する被験者特性および健康食品に対するattitude(認識と行動)

高血圧の有無と有意な関連は交絡因子候補項目で4項目、因子で3項目見られた。交絡因子候補項目では健康食品を利用している人が女性だと高血圧者比率が低いのが高度に有意(OR:0.25、p<0.001)であった。この場合、逆の見方をすれば健康食品を利用している女性に比して男性は高血圧であることのオッズ比が(OR:4.00、95%CI:1.89-9.01)であることと同義である。加齢は高血圧要因となる傾向が高度に有意(p<0.001)であり比較する単位を1歳ではなく10歳刻みでみたオッズ比は (OR: 2.75、95%CI:1.72-4.39)であった。職業ではパート·アルバイトに就いている人は高血圧である傾向が有意(OR:3.04、p<0.05)であった。また、通院·加療している医療機関で主治医に報告·相談している人の比率が高いことが高度に有意(OR:5.30、p<0.001)であった。attitude(認識と行動)因子との関係は健康食品の効果、価格、宣伝の仕方に対する負のイメージを強く持っているFac1-1:attitudeが有意(OR:1.46、p<0.05)であった。高血圧の人は健康食品の利用目的が健康増進(体質改善、病気の治療)であるFac2-4:attitudeが低い傾向が有意(OR:0.68、p<0.05)であった。また、健康食品情報収集先として専門家、テレビコマーシャル、行政機関を参考にするFac6-3:attitudeが高い傾向が有意(OR:1.57、p<0.05)であった。

4 脂質異常の有無と関連する被験者特性および健康食品に対するattitude(認識と行動)

脂質異常の有無と有意な関連は因子で2項目見られた。健康食品の利用目的総数に関するFac2-1:attitudeが強いと、すなわち健康食品利用をする目的が多目的の人は脂質異常を示す傾向が高度に有意(OR:1.61、p<0.001)であった。なお、健康食品の利用目的総数との関連が有意な身体状況は脂質異常者のみであった。また、健康食品の利用目的を栄養補給とするFac2-6:attitudeが低い傾向が有意(OR:0.73、 p<0.05)であった。

5 アレルギー体質の有無と関連する被験者特性および健康食品に対するattitude(認識と行動)

アレルギー体質の有無と有意な関連は交絡因子候補項目で1項目、因子で3項目見られた。交絡因子候補項目では、通院・加療している医療機関で主治医に報告・相談している人の比率が高いことが有意(OR:2.40、p<0.05)であった。attitude(認識と行動)因子との関係は健康食品の効果、価格、宣伝の仕方に対する負のイメージを強く持っているFac1-1:attitudeが有意(OR:1.34、p<0.05)であった。また、アレルギー体質の人は健康食品の利用目的が栄養補給であるFac2-6:attitudeの高い傾向が有意(OR:1.31、p<0.05)であった。合わせて健康食品情報収集先として専門家、テレビコマーシャル、行政機関を参考にするFac6-3:attitudeが高い傾向が有意(OR:1.50、p<0.05)であった。

6 花粉症・アレルギー性鼻炎の有無と関連する被験者特性および健康食品に対するattitude(認識と行動)

花粉症・アレルギー性鼻炎の有無と有意な関連は因子で2項目見られた。花粉症・アレルギー性鼻炎の人は健康食品の利用目的が栄養補給であるFac2-6:attitudeが高い傾向が有意(OR:1.41、p<0.05)であった。また、健康食品情報収集先として専門家、テレビコマーシャル、行政機関を参考にするFac6-3:attitudeが高い傾向が有意(OR:1.51、p<0.05)であった。

7 健康食品の日常的利用の有無と関連する被験者特性および健康食品に対するattitude(認識と行動)

健康食品を「ほぼ毎日利用している」で区分した健康食品の日常的利用の有無と有意な関連は因子で5項目見られた。健康食品選択時重視項目数と価格、安全性および美容を重視するFac3-1(OR:1.48、p<0.01)とFac3-3: attitude(OR:1.46、p<0.01)が高度に有意であった。合わせて健康食品の栄養補給、美容等の副次効果を期待するFac1-3:attitudeが高い傾向が有意(OR:1.32、p<0.05)であった。更に健康食品購入先数および購入場所として薬局やスーパー、デパートや病院等を考慮するFac5-1: attitude(OR:1.38、p<0.05)またはFac5-4:attitude(OR: 1.31、 p<0.05)が高い傾向が有意であった。総じて健康食品の日常的利用度が高い人は健康食品に対するattitude(認識と行動)様式が多岐にわたることが示された。

8 その他治療中の病気の有無と関連する被験者特性および健康食品に対するattitude(認識と行動)

その他治療中の病気の有無と有意な関連は交絡因子候補項目で2項目、因子で6項目見られた。交絡因子候補項目では通院・加療している医療機関で主治医に報告・相談している人の比率が高いことが高度に有意(OR:16.57、p<0.001)であった。オッズ比16.57は本項目に関するオッズ比中の最大値であった。職業では無職の人はその他治療中の病気である傾向が高度に有意(OR:3.67、p<0.01)であった。attitude(認識と行動)因子との関係は健康食品選択時重視項目数と価格、安全性を重視するFac3-1:attitudeが高い傾向が高度に有意(OR:2.54、p<0.001)であった。一方で、健康食品情報収集先として専門家、テレビコマーシャル、行政機関を参考にするFac6-3:attitudeが低い傾向が高度に有意(OR:0.61、p<0.01)であった。その他治療中の病気の人は健康食品の栄養補給、美容等の副次効果を期待する、あるいは栄養補給が利用目的であるFac1-3:attitude(OR:0.60、p<0.05)またはFac2-6:attitude(OR:0.67、p<0.05)および健康食品購入時に原材料の原産国、機能性更にキャンペーン情報を参考にするFac4-3:attitude(OR:0.66、 p<0.05)またはFac4-6:attitudeが低い傾向がそれぞれ有意(OR:0.64、p<0.05)であった。

全体的な傾向は、身体状況の違いによって健康食品利用者は性別、年齢、主治医との関係等の交絡因子を調整しないと健康食品の利用attitude(認識と行動)の違いの解釈に偏りが生じる場合があることが示された。

なお、オッズ比が1以下の場合はカテゴリー内の0,1を逆に付けた場合のオッズ比になる関係で、オッズ比0.68の逆値は1.47となる。

IV 考察

本研究では健康食品を利用している成人を対象として、各種身体状況(肥満、高血圧、糖尿病、各種アレルギー体質等)と健康食品利用attitude(認識と行動)との関連の違いを個人特性(性別、年齢、学歴等)の交絡因子を調整(結果に対する見掛け上の過剰、過少の影響)して比較分析することを目的とした。

蔵本ら15)の一般社会人を対象とした調査では健康食品を利用している理由は男性が4割強、女性の6割弱が「健康維持」を挙げ、次いで約3割の男性、約2割の女性が「体調·体質改善」を挙げている。また健康食品のイメージは男性の約6割、女性の約4割が「健康によい食品」、男性の約2割、女性の約3割が「栄養素補完食品」としている。一方、同研究15)で注目すべきは男性、女性の約1割から2割が「医薬品では治らない症状をなおす、または体調を整える」と回答していることである。こうした国民の認識下にあって、インターネットでなされている“病気と健康食品”に関する多数(2020年5月22日の時点でGoogle検索約46万件ヒット)の関連製品や解説書の広告とは双方向的に連動して健康食品と疾病予防または改善効果に関するattitude(認識と行動)の醸成に寄与していると考えられる。問題は形成されるattitude(認識と行動)が健康に寄与しているかどうかという点である。

この点について、Syah Aら16)は農業大学の学生を対象としたアンケート調査で、男女とも健康食品の選択に関して各人の価値観との関連はみられないが各人のattitudeはより好ましい健康食品を選択することに正の相関性があるとしている。また本邦においては、新聞広告として掲載された健康雑誌に出現する食品類と疾患を調査した高橋17)によると「やせる、肥満の解消、ダイエット」の出現頻度が最も高く、次いで「血圧」、「糖尿病」であり、いずれも効能、効果表現が非常に多く、時に扇情的であるとしている。また白神18)は健康食品の広告の問題点の調査を通して消費者が利用する健康食品についての情報のほとんどは企業による広告であり、科学性と被害実態について厳しく管理する必要性を強調している。

超高齢社会を迎えている現在、生活習慣病対策等によって毎年1兆円超ずつ増大する一方の国民医療費の抑制が国家的な課題である。内閣府19) は「健康度の改善は一人当たりの医療費の抑制につながる可能性」を指摘しているが、健康食品の更なる研究開発と普及が従来の第一次予防、第二次予防20)を補完する手段と認定されるにはa)疾病予防、改善効果と安全性が確立されること、およびb)国民の特に慢性疾患の第一次予防、第二次予防手段として受け入れられ定着することが重要と考えられる。本研究は現時点におけるa)ではなくb)の視点から各種疾患罹患状況別に調査したものである。

1 本研究における二項ロジスティック回帰モデルの特性

本研究で採用した統計モデルは下記のy=α+β+γ+εで構成されている。

y:疾患(身体状況)の有無=α:交絡因子(個人特性:性別、年齢、婚姻状況、学歴、職業、主治医からのサポート、サジェスチョン)+β:健康食品に対するattitude(認識と行動)因子+γ:医療の効果+ε:誤差(個人差)

このうち、αはβの重さを見掛け上過剰、または過少に歪める可能性がある交絡因子7)であり、交絡因子となる場合はそれ自身もyの要因である。一方βは一般的にyの疾患(身体状況)の原因となる因子ではなく特定の疾患を持つ回答者が健康食品利用に対して持っている固有のattitude(認識と行動)である。例えば、y:高血圧の場合、αのうちの年齢はyと正の相関関係があるため、二項ロジスティック回帰モデルで解析しないとβに属する因子の重みの軽重判定を歪める交絡因子となる。また、γは各身体状況が発生したとき医療機関を受診し、各種診断の結果から医師から保健指導を受け、加療され、投薬等を受けることによりyの疾患(身体状況)が大きく影響を受ける。しかし、本調査の対象は調査時点において入院加療してはおらず、また慢性疾患の場合、改善するが治癒までは至らない場合が多いため、γの影響は各身体状況の無、治癒または疾患あり、を決める決定的な要因には至っておらず、γの影響は相対的に小さくαとβの影響を顕在化しやすいモデルである。

二項ロジスティック回帰分析の手法を用いて交絡因子を調整すると糖尿病と高血圧に関しては性別が強い交絡因子となり、高血圧に関しては年齢区分が強い交絡因子になっている。一方、「主治医への報告」のオッズ比が糖尿病:5.76、高血圧:5.30、アレルギー体質:2.40、およびその他治療中の病気:16.57と高く有意な身体状況が4つあることが注目され、健康食品の利用に際して、主治医と相談する必要性があると判断されていることがわかる。性別、年齢区分は背景要因として疾患の発生率には関係していても健康食品の利用とは直接の切っ掛けではないと考えられるのに対して、「主治医への報告」は健康食品の利用の是非を主治医に相談する頻度が高い身体状況(糖尿病、高血圧、アレルギー体質、その他治療中の病気)とそうでない身体状況があることがまずもって本調査の目的に対する回答の一つである。また、28のattitude因子(認識と行動)と8項目の身体状況の関連のオッズ比はいずれか1つ以上有意の因子は28のうち15であり、1未満のオッズ比を逆数とした場合を含めて有意性があるものの大半は、オッズ比は1.5前後である特徴がある。この理由のひとつとして、因子分析による因子得点の分布は正規分布的な形状になることが多く、因子得点1単位で評価するオッズ比は小さくなりやすいと考えられる。従って例えば1sd(標準偏差)とか単位を変えて計算すればオッズ比は見掛け上大きくなる。以下、身体状況ごとの傾向を考察する。

2 肥満

肥満傾向がある健康食品利用者の傾向は、美容やダイエットに関心があり、専門家や行政機関の情報を参考にする傾向が低く、購入場所は薬局やスーパーが選択的には選んではいない傾向が見られた。肥満が多くの疾病のリスク要因であることが周知されているとしても、肥満というだけの理由で病院や薬局に行くことは考えにくいので、結果として入手出来る質の高い情報の量が少なく健康に対するattitude(認識と行動)とヘルスリテラシー形成がしづらいのではないかと考察された。それでも会社員や既婚者においては肥満傾向である人の健康食品利用度が高い傾向が有意であることから、運動、休養等が十分に取れないとの認識があって何らかの健康維持·改善効果を期待して、いわばお守りとして健康食品を利用しているものと考えられる。なお、高橋17)によれば肥満は健康食品生産企業の広告において最も高頻度で宣伝されており、利用者にとって身近な健康問題である裏返しであると考えられる。

3 糖尿病

糖尿病を患う健康食品利用者は男性で頻度が高く、主治医からの情報収集も多く、糖尿病という基礎疾患を意識したattitude(認識と行動)が形成され健康維持が主目的で健康食品を利用していることが示唆された。向井ら21)によれば、クリニックに通院中の糖尿病患者全体の約4割で食品や飲料等に関連する何らかの代替療法(代替・補完療法)の実践経験があり、また医師や薬剤師に相談せずに自己判断で行っている例が多いと報告している。糖尿病患者全体では、代替療法を使用する動機としては、「糖尿病の改善のため」と治療の改善の直接的なツールとして使用しているとの回答が約3割であり健康食品の意識的利用率が高いことを示している。一方、本研究結果は医師に相談をする比率が高いという逆の結果であったが向井ら21)の調査は一定の薬理的効果を国家的に認められた「特定保健用食品(特保)」が対象であり、機能性表示食品、その他を含んだ本調査との場合と利用者に意識が異なることが考えられた。また岩尾ら22)は、糖尿病患者が健康食品が年齢や性別に関わらずに多用されていることを医療従事者は念頭に置いた上で、健康食品が疾患や治療に対して及ぼす影響について、適切な情報を収集・構築そして提供していく必要があると結論付けている。この点について太田ら23)は健康食品のうち、特にサプリメントや栄養補助食品と言われる種類の利用が広がっていることを注視しこれらに対する教育の必要性を強調している。一方で、玉川24)は糖尿病患者の健康食品(サプリメント)摂取状況に関する総説において薬剤は臨床疫学で最も厳しいRCT法試験(無作為化比較試験)20)によって効果と安全性を確認しているが、同じく国(消費者庁)が認定して食品へのマーク表示を認めている特定保健用食品の安全性と効果はRCT法を用いていないこと等に強い疑念を表明している。しかしながら、本研究結果は健康食品を常用する目的は糖尿病治療ではなく、何らかの健康維持作用を発揮する補完食品として健康食品を利用しているという特徴が示された。

4 高血圧

健康食品利用者は、加齢的に高血圧者比率が高くなる傾向が高度に有意であるが健康食品利用、非利用に関係なく血圧は加齢的に上昇傾向があるので、年齢を二項ロジスティック回帰モデルの説明変数にしているのは考察1のモデルの性質で言及しているように主として交絡因子の調整7)のためである。また、健康食品利用者においては主治医からの情報収集が多い人や、男性に高血圧者が多い傾向が高度に有意であった。また、パート・アルバイトが高血圧である傾向が有意であった。高血圧者は健康増進目的の利用は低い傾向にあり、健康食品に対して負のイメージを持っている傾向にあるが、健康食品に対する情報収集先は、専門家やテレビコマーシャル、行政機関を参考にする傾向が高く、高血圧症は早急に改善が見込まれる疾患ではなく、薬等を継続的に摂取する必要がある。この原因は不明だが高血圧対策を謳う極めて多種多数の健康食品が専門的な判断が(特保認定食品を除けば)公的に十分になされないまま百家争鳴状態で巷に溢れており、加えて短期間の摂取では血圧改善効果は発現せず、利用者が判断できないことも負のイメージを持つ一因と考えられ、それ故に主治医、専門機関の情報提供者としての果たすべき役割は大きいと考察された。

5 脂質異常

脂質異常症の人は健康食品の利用目的が多岐にわたり、自身の健康の問題点を健康食品で改善したいという傾向が見られたと考えられる。専門学会のガイドライン25)によれば、脂質異常は冠動脈疾患、動脈硬化性疾患のリスク要因であるだけでなくADL低下、認知症との関連等様々な疾患のリスク要因として問題視され、対策として食事療法と運動療法が基本とされている。本研究結果では健康食品の利用目的総数が有意な身体状況は脂質異常者のみであった。ここで多様な全身疾患に対する対策の両輪の一つである食事療法は多種多様な食品を多様な方法で摂取する必要がある。しかし、これは日常的にはかなり困難であると捉えられており、この対策を補完する必要性に迫られることが背景にあるのではないかと考察された。

6 アレルギー体質

アレルギー体質である健康食品利用者は、情報収集先として専門家やテレビコマーシャル、行政機関を参考にする傾向が高く、利用目的として栄養補給を重視していた。主治医からの情報収集が多い一方で、健康食品に負のイメージを強く持つ傾向も強かった。日本アレルギー学会26)によると、アレルギー疾患の治療の基本は、①原因となるアレルゲンを回避すること、②症状軽減のための薬物療法、③アレルギー性炎症反応の抑制のための長期的な薬物療法、④病気を理解し、治療を継続することの重要性とその治療を維持することが大切であるという患者教育の実施としている。多岐にわたり日常的には一筋縄ではいかないことを示唆している。小池ら27)は、クロレラで起こった健康被害を取り上げ、アレルギー機序が確認された症例、患者背景として過去にアトピー性皮膚炎などのアレルギー歴を持っていた症例に多かったとしている。このことは、一般的にクロレラが「アトピーに効く」として売られている商品があるため、アトピー治療目的での利用による健康被害が考えられ、アトピーの治療目的にクロレラを摂取している人には注意が必要であるとしている。田中28)は、アレルギー疾患に対するCAM(Complementary and alternative medicine)に関心が高まり、その作用機序や質の高い臨床試験による有効性および安全性を評価する研究を紹介している。現状では、エビデンスが不十分であるため、喘息、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎などのアレルギー疾患に対する予防や治療のための推奨できる行為はないとしている。食物アレルギーがある人は、情報収集に専門家や行政機関を重視し、主治医への報告も積極的である。このことは裏を返せば食べてはいけないものが多種多様あることを改めて自覚させられるであろう。このため健康食品に対して慎重な姿勢、あるいは積極的な姿勢の狭間で何に頼ったらいいかの迷いを深める悪循環を惹起することが懸念される。一方でアレルゲンとなる米、小麦、大豆、牛乳等について食品工業企業とアレルギー研究者がタイアップしてアレルゲン低減製品、代替製品の開発29)も以前から続けられておりその成果が待たれるところである。

7 花粉症・アレルギー性鼻炎

花粉症・アレルギー性鼻炎を患う健康食品利用者は、利用目的が栄養補給であることと、情報収集先が専門家やテレビコマーシャル、行政機関を参考にする傾向が高く有意であった。アレルギー体質と同様に、田中28)は現状では、エビデンスが不十分であるため、喘息、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎などのアレルギー疾患に対する予防や治療のための推奨できる健康食品選択に関連した有益な行為はないとしている。その一方で花粉症・アレルギー性鼻炎の人は、専門家や行政機関など正確な情報を得ようとする傾向が強いと考えられる。こうしたことから、アレルギー疾患者に対する健康食品のattitude(認識と行動)形成には誤った方向にいかないよう専門家の直接、間接の情報提供と注意喚起が必要と考えられた。

8 健康食品の日常的利用

健康食品を毎日利用している人は健康食品選択時の重視項目が多岐にわたっていた。特に価格や安全性、美容を重視する傾向が見られた。購入場所についても、薬局やスーパー、デパートや病院が有意であった。千葉ら30)の調査では、利用目的を全体でみた場合、「健康維持(33.8%)」が最も多く、次いで「美容・ダイエット(16.2%)」「身体に良さそう(12.3%)」であったとしている。毎日健康食品を利用している人は、利用する健康食品の健康維持、改善効果、美容効果を期待すると同時に特に安全性を重視しているattitude(認識と行動)が強いと判断される。

9 その他治療中の病気

その他治療中の病気を患う健康食品利用者は主治医からの情報収集が多く、選択時の重視項目が多岐にわたり、その中でも特に価格や安全性を重視する傾向が高度に有意であった。その一方で栄養補給を重視する傾向は低かった。今回の調査では詳細な疾患の情報が得られなかったが、病気に悪影響を及ぼさないように主治医への報告や健康食品の安全性を求めていると考えられる。

10 先行研究と本研究の視点の総括

本研究の特徴は8種類の身体状況別に健康食品の摂り方の違いすなわちattitude(認識と行動)に焦点を合わせた点である。先行研究で身体状況を幅広く捉えた研究は少なく、医療機関、薬局において訪れた患者を対象にした、すなわち疾患がある程度絞られた対象者である場合が多い。朝比奈ら31)は、健康食品について医師に相談するとの回答は20%前後に留まったとしている。さらに、多くの患者は医療従事者から尋ねられなければ健康食品の使用について自ら申告しないとしている。千葉ら30)は85.2%が特保の利用を医師・薬剤師に伝えていないとしている。本研究では主治医への報告・相談をすることが積極的な人が多く、先行研究と異なる結果であった。また本間ら32)は、患者は「病気の予防」や「病気の改善」よりはむしろ「健康維持」や「栄養補給」を目的として健康食品を摂取している場合が多かったとしている。疾患によっては食生活に配慮しなければならず、健康食品を利用する際も注意が必要であるとされる。総じて先行研究と本研究の特徴の違いは、先行研究が特定の少数の疾患、あるいは健康食品のうち特保だけに対象を絞った場合や逆に健康食品全般を対象とした国民の意識調査をしているのに対し、一般的な国民病的な多数の疾患と状態下にある場合とない場合で、健康食品に対するどのようなattitude(認識と行動)の違いがあるかを明らかにした点である。

本研究において、8つの身体状況のうち糖尿病、高血圧、アレルギー体質、その他治療中の病気において健康食品の利用に関して「主治医への報告」の頻度が有意に高く、特定の疾患に関して利用者が医師に健康食品の利用の妥当性等を確認していることが示された。また性別、年齢等の交絡因子の調整下で健康食品に対する28のattitude(認識と行動)が抽出された。このうち約半数の15因子が1つ以上の身体状況と有意の関係があり、オッズ比は1.5前後(逆数変換した場合を含む)であった。栄養補給を目的、情報収集先(専門家、テレビコマーシャル、行政機関)、健康食品への負のイメージに関する3因子が3種類以上の身体状況に共通して関連がみられた。しかし係わりの方向性は一定でなく、またその他の12因子の係わりの違い、並びに主治医へ相談するか否かの違いを含め健康食品に関するattitude(認識と行動)は身体状況の違いによって異なることが示された。

今回の調査対象者は非入院患者であるが入院患者の健康食品の利用管理について薬剤師の先行研究33),34)がある。病院勤務の薬剤師がいわば服薬管理の延長的視点で患者が利用している健康食品の安全性と有効性を調査する試み33)がされており、安達ら34)は薬学的視点から患者の健康食品利用に対する判断基準と指導内容フローを作成し運用している。基礎疾患等がある人が健康食品利用する際の安全性と有用性を管理する最も効果的な方法であるが非入院患者への適用は難しいが主治医を介しての適用には可能性がある。

幸い入院患者については関連する薬剤師がいわば服薬管理の延長的視点で患者が利用している健康食品の安全性と有効性を調査、管理する試み33),34)がされており、これが非入院患者に対しても広がることが期待される。その方策の一つが国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所の運営する健康食品の安全性·有効性情報サイト(HFNet)35)である。このサイトは国内外から収集した健康食品情報を日本語訳し編集して国民に提供している。

V 結論

本研究において、8つの身体状況のうち糖尿病、高血圧、アレルギー体質、その他治療中の病気において利用者は医師に健康食品の利用に関する相談をしていることが示された。また、性別、年齢等の交絡因子の調整下で健康食品に対する28のattitude(認識と行動)が抽出された。このうち約半数の15因子が1つ以上の身体状況と有意の関係があり、オッズ比は1.5前後(逆数変換した場合を含む)であった。栄養補給を目的、情報収集先(専門家、テレビコマーシャル、行政機関)、健康食品への負のイメージに関する3因子が3種類以上の身体状況に共通して関連がみられた。しかし係わりの方向性は一定でなく、またその他の12因子の係わりの違い、並びに主治医へ相談するか否かの違いを含め健康食品に関するattitude(認識と行動)は身体状況の違いによって異なることが示された。

本研究から利用者の性別、年齢、身体状況の違いにより健康食品の利用に対するattitude(認識と行動)が異なることを踏まえて今後の利用指針が決められるべきと考えられた。

謝辞

本稿を終えるにあたり、終始熱心にご指導いただいた拡大院生研究会の先生方並びに院生各位に心より感謝申し上げます。

利益相反

本研究において、利益相反に該当する事項はない。

References
 
© 2023 Niigata Society of Health and Welfare

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