Niigata Iryo Fukushi Gakkaishi
Online ISSN : 2435-9777
Print ISSN : 1346-8774
Current state and issues in the knowledge of the non-elderly generation regarding long-term nursing care 20 years from the enactment of long-term care insurance
Fusayo KobayashiNaohiko KinoshitaYuko WataraiNana TanikawaTomoko YamadaLuong Thi Hai YenYuko UdaJunichi SibayamaToru Takiguchi
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2023 Volume 22 Issue 3 Pages 78-90

Details
Abstract

わが国の介護保険制度は2000年に一気に家族介護を社会化へと舵を切った。今回、概ね四半世紀経過した現状で、性別、年齢階級別に必要な知識がどの程度定着しているかを検証し、介護保険制度の質の向上に寄与する情報を得ることを目的とした。

研究デザインは断面調査で、Web調査会社の全国モニターシステムを利用して総計1,008人の無記名のアンケート調査を行った。調査内容は基本情報と18の知識度確認質問および自由記載とした。量的解析はロジスティックス回帰分析、および分散分析を行った。質的解析はKH Coderの共起ネットワーク分析(CONA)で介護保険の運用に係わる各種意見の文脈を明らかにした。この結果、年代ならびに親との同居の場合のスコアが高度に有意で高く、自治体広報、インターネット(IN)の利用がスコアを上げていた。また20歳代、50歳代、60-64歳で女性のスコアが有意に高かった。情報媒体は性別、年齢階級別に主因と交互作用が大きく異なり、特に50歳代、60-64歳では、女性がINや書籍から情報収集していることが示された。CONAでは情報媒体の重要性と介護保険の仕組みの周知を訴える文脈が強く表れた。加えて、政令指定都市の広報由来と他の資料由来の質問との比較では前者の正答率が高く高度に有意なことから、自治体広報内容の充実拡大が介護保険の知識度の改善に有効と判断された。

Translated Abstract

In 2000, Japan's long-term care insurance system (LTCIS) switched the emphasis from family care to social care. This study verifies the extent to which the necessary knowledge has been established by gender and age group in the past quarter of a century and to obtain information that will contribute to improving the quality of the LTCIS.

This study is a cross-sectional survey, with an anonymous questionnaire conducted on a total of 1,008 people using the national monitoring system of a web research company. The survey comprised basic information, 18 questions to check the level of knowledge and open-response questions. Logistic regression analysis and analysis of variance were used for quantitative analysis. The qualitative analysis was conducted using KH Coder co-occurrence network analysis (CONA) to clarify the context of various opinions regarding the operation of long-term care insurance. Consequently, scores for age and cohabitation with parents were significantly high, and the use of local government public relations and the Internet (IN) increased the scores. Scores were significantly higher for women in their 20s, 50s, and ages 60-64. Main causes and interaction with information media differed significantly by gender and age group, with women collecting information from IN and books, especially among those in their 50s and ages 60-64. The CONA analysis strongly emphasized the importance of information media and the context of awareness of the LTCIS. Furthermore, a comparison of questions derived from public relations of ordinance-designated cities and questions derived from other sources showed that the former had a higher percentage of correct answers and was highly significant, indicating that enhancing and expanding the content of local government public relations is effective in improving the level of knowledge of the LTCIS.

Ⅰ はじめに

1 背景

西暦2000年にわが国の介護保険制度1)が制定され概ね四半世紀が経過した。この間高齢化は急速に進み、要介護・要支援認定者数2)は2000年の218万人から増え続けて2020年には約3倍の669万人に達した。高齢化の進展に伴う要介護高齢者の増加、核家族化の進行などのため、老人福祉・老人医療制度の改変に次ぐ改変による対応が限界になったことを受けて介護保険制度が2000年に制定3)された。それまでの高齢者福祉は、自助と公助のみで個人や家族が施設入所などを行政窓口に申請し、老人福祉法に基づく市町村の担当者がサービス内容を決定し、福祉財源から対応する公助による「措置」で対応されていた。しかし、新たに介護に国家が関与する保険システムを導入することによって財源に自助と共助を加えることとなった。加えて利用者もしくは家族が自らサービスを選んで「契約」する社会保険制度へと転換3)された。しかしながら、高齢者介護が社会化されてほぼ四半世紀経過した現在までに、社会保険の維持と改善の必須要件とされる自己責任と自助努力、さらに共助を国民は正しく認識しているかの検証は十分にされていない。

2 研究の意義

介護保険が施行されて四半世紀になろうとする現在、介護保険をどの層が支えるかに関して、我が国の介護保険制度の特徴である第2号被保険者(40-64歳)およびそれ以前の世代の介護保険に対する知識がどのように醸成され変化してきたのかを確認しておく必要がある。すなわち、介護保険施行直前は介護保険が高齢者の介護を父系的と認識する世相から、双系的、つまり夫の両親のみならず妻の両親も介護対象として認識する世相4)へ変化してきた時期であった。そうした中で介護保険施行により、一気に介護の社会化へと舵を切った。

「介護地獄」と呼ばれるほど過重な介護負担から家族介護者を開放し、介護サービスを社会化し、その副次的効果として、これまで主な家族介護の担い手であった女性の社会進出の推進が期待された。事実、女性の社会進出のインセンティブ効果5)が発揮されている。しかしながら、所謂「養老伝説」 6),7)にみられる古くからの自発的な高齢者に対する介護は変化がみられるのか、さらにはより高尚な高齢者介護のリテラシーが育っているかの検証は不十分である。今回、特に高齢者介護に対する情報リテラシー8)が若年世代、中年、および第2号被保険者(40-64歳)の男女でどのように育ち定着しているかを検証し、不足している情報とその提供方法等を明らかにすることで、今後の介護保険制度の維持と質の向上に繋げる情報を整理することを本研究の目的とした。

Ⅱ 方法

1 研究デザイン

研究デザインは断面調査とし、複数のLikert尺度等からなる質問肢および自由記載から構成される無記名のアンケート調査を行った。

2 研究対象者と選定方法

Web調査会社(株)メルリンクス社の層化無作為抽出質問票(アンケート)専用サイトの全国モニターから18歳から64歳までを性別、年齢階級別に総務省の全国10地域9)から層化無作為抽出した。その結果、調査に同意した各年齢階層84名ずつ12区分総計1,008人が対象となった。

3 調査期間と方法

2021年7月22日から24日の3日間を調査期間とし、上記調査会社の全国モニターを介したインターネットを用いたWebアンケート調査を実施した。

4 調査項目

調査項目は基本属性、介護保険に関する知識度確認の18の質問、介護保険制度の周知・改善方法に関する質問からなる。これらの項目と選択肢表1を、表2、および表3に示す。

介護保険に関する知識度の確認は、厚生労働省の介護保険ガイドブック10)に基づき20指定都市が作成しているホームページ(HP)からわが国の介護保険制度の特徴を端的に表すキーワードを抽出して18個の質問を作成した。18問相互の介護保険における意味合いの強さは同等と仮定して100点満点に換算してスコアとした。

なお、回答に際しては「独自に判断しインターネット検索等をしないで回答するよう指示」した。また回答が間違っていてもWeb調査会社が独自に設定しているモニターを対象としたポイントが減算されるなどのペナルティーは発生しない旨周知した。

5 分析方法

1)基本属性

基本属性の基礎統計量についてカテゴリー頻度を算出した。

2)介護保険制度の情報知識度を決める要因分析(二項ロジスティック回帰分析)

目的変数を正答率50%未満:0、50%以上:1として、38の説明変数を用いて、段階式二項ロジスティック回帰分析(Pin=Pout=0.15)とした。統計ソフトはBellCurve社のExcel統計 (version 3.20)を使用した。

3)介護保険制度の周知・改善方法に関する質問

介護保険制度に関する自由記載のうち、介護保険制度の周知と改善に関する記載を KH Coder11),12)のテキストマイニング機能の一つである共起ネットワーク分析(CONA:co-occurrence network analysis) 図を作成し質的分析した。

ここで、CONA図は各キーワードの繋がりの方向と強さから文脈を想定し、潜在的な意識や行動を顕在化する質的分析の手法である。

4)共起ネットワークの文脈が示す介護保険制度周知方法として学校教育を挙げた回答者の特性

CONAのKWICコンコーダンス機能(キーワードを含む文をリストアップする機能)を用いて、介護保険制度を正しく効率よく周知する方法として「学校で教える」ことに言及した回答者のスコアに関連する特性を表5に示す。

分析法は、スコアを目的変数とし、A:性、B:年齢区分(6階級)、C:学校で教える周知が必要、の3つを主因としA、B、Cの主因の組み合わせによる全交互作用について、3元配置分散分析法(ANOVA、 stata14.2) を実施した。

5)介護保険制度の情報収集媒体に関する質問

性別年齢階級別の情報収集媒体によるスコアの違いを検定した。具体的には、18歳から64歳までの6段階の年齢各層における情報収集媒体の違いとスコアとの関連の性差について、多元配置分析(mdANOVA)を行い、自治体広報(表中略語:PR)、テレビ(TV)新聞(NP)、インターネット(IN)および書籍(B)、それぞれの主効果と19の全ての交互作用(interaction)の組合せ(2組10種:PR×TV,TV×NP他、3組6種:PR×TV×NP他、4組2種:PR×TV×NP×IN、5組1種:PR×TV×NP×IN×B)の有意性を検証した。また男女間の情報収集媒体の種類の違いを説明するために、親と同居している、身内に高齢者がいる、もしくは介護経験がある、のいずれかの場合に情報媒体の利用はどう変化するかを年齢階級6区分間で構成比率の差を検証した。分析ソフトはいずれもstata-14-213)用いた。また年齢階級別のスコアの平均値を求め、その分布の正規性をエクセル統計で検証し非正規の場合はノンパラメトリック検定であるWilcoxsonの順位和検定(Wil-ranksum)14),15)stata-14-2で行った。

6)介護保険制度の知識度を確認する18の質問のHP掲載との関連

全国20政令指定都市で公開している介護保険に関するHPの全てに掲載されたテーマ(キーワード)を利用した質問5問といずれの政令指定都市のHPにも引用されていないテーマ(キーワード)5問の正答率を2×2表として統計RのFisherの正確確率法で検定した。

6 研究における倫理的配慮について

研究対象者に対する倫理的・社会的配慮については、国際看護師協会(International Council of Nurses,ICN)の看護師の倫理綱領、看護研究のための倫理指針を遵守して研究計画を立て、新潟医療福祉大学倫理委員会の審査を受け、承認(承認番号18652-210625)を受けた。

Ⅲ 結果

1 基本属性項目のカテゴリー頻度

対象は、男女それぞれ84人ずつ、18歳から64歳までの6階級総計1,008人であった。 基本属性項目のカテゴリー頻度(%)は表1に示す。

2 介護保険制度に関する基本的な知識度を確認する質問と回答

表2に結果を示す。対象者1,008人のスコアの平均値は25.0、標準偏差(SD)は11.0、最小値0.0、最大値88.9であった。正答率の高い上位3位の質問は、問5:介護認定の申請先47.2、次に問17:介護保険料の納付年齢40.3、3番目が問13:居宅介護支援員の役割38.7であった。一方、正答率の低い下位3位は、問9:居宅介護サービス計画立案費負担割合4.1%、問12:介護保険給付の財源9.3%、問4:介護保険制度の見直し年14.2%の順であった。

一般的であると思われた高齢者の年齢の定義の正答者が男女とも20%しかないことからも介護保険に対する基本的知識が不足していることが示された。

3 介護保険制度に関する関連情報認知度に関連する要因分析結果(二項ロジスティック回帰分析)

表4に二項ロジスティック解析の結果を示す。スコアと正の相関が高度に有意の指標は年代(p<0.001)、親との同居(p<0.001)、自治体広報(p<0.001)、IN(p<0.001)および知人(p<0.01)であった。

一方、スコアと負の相関性が高度に有意の指標は、情報提供者なし(p<0.01)、不明(p<0.01)であった。

4 KH Coderを用いた介護保険制度の周知および改善方法に関する記載のテキストマイニング(自由記載の質的分析)

図1に介護保険制度の周知・改善方法に関する自由記載の質的分析結果をCONA図として示す。図において品詞を囲む円(バブル)の大きさは各品詞の出現頻度を示し、バブルとバブルを結ぶ太さの異なる6種類の線は各品詞間の共起性の強さであるJaccard係数16)を0.14から0.44の範囲で示す。

介護保険制度の周知・改善方法に関する出現頻度の高い品詞=大きなバブルは、介護、TV、広告、INおよび保険であった。

周知・改善方法についての自由記載は、周知方法の記載がない者は、男性54.0%、女性58.7%、改善方法の自由記載がない者は、男性65.1%、女性71.0%と半数以上に記載がないことは、介護保険制度が十分に認知、理解されていないと考える。

CONA図は各キーワードの繋がりの方向と強さから文脈を想定し、潜在的な意識や行動を顕在化する質的分析の手法である。

これらから観察すると介護保険制度の周知方法は TVに関連した文脈は、特集を組む、朝ドラにする、再現ドラマをつくる、情報番組で知らせる、わかりやすく印象の強いCMを流す、ニュースで知らせるという様々な方法があると解釈された。

TVに次いで一般的な情報媒体であるINに関連した文脈では、若者に向けてSNS、You Tube、LINE、twitter、メール、例えばこれらの媒体を用いて若者に人気のあるインフルエンサーなどを使って配信する方法が示された。

広告に関連した文脈は、電車の中吊り、IN、チラシ、わかりやすいパンフレットを作成して配布、郵送する、ポスターを病院に貼るが挙がった。

学校に関連しては自治体が義務教育や学校の授業に取り入れる、教えると解釈された。

介護保険制度の改善についての文脈は 負担を減らす、自己負担を増やす、議員定数、政治家、政治家の給料を減らす、の文脈が確認できた。

給料に関連しては、介護士、介護施設の職員の給料を上げるという文脈であるが、一方、国会議員については給料を減らすのが介護保険制度の改善に繋がるという意見の文脈が確認できた。

人に関連した文脈は、介護にあたる人の給料を上げる、一方、現役並みの収入のある人は自己負担を高くする、また多くの人が介護を安心して受けられるようにするのが必要との文脈が挙がった。地域に関連して、地域の回覧版、地域住民への声掛けや繋がり、介護者の待遇、改善が挙がった。

5 共起ネットワークの文脈が示す介護保険制度周知方法として学校教育を挙げた回答者の特性

共起ネットワークのKWICコンコーダンスを用いて、介護保険制度を正確に効率よく周知する方法として「学校で教える」ことを言及した回答者のスコアに関連する特性の分析結果を表5に示す。

A:性、B:年齢区分(6階級)、C:学校で教えることが必要の3つ主因とスコアとの関係は、A(p<0.001)、B(p<0.01)はいずれも高度に有意、Cも有意(p<0.05)であった。すなわち、性別では女性が、年代が上がるに従い線形にスコアの平均値が上昇した。しかしながら、学校で介護保険制度について教えることに言及した群はそうでない群よりもスコアの平均が有意に低いことが示された。

交互作用項では、主因AとCの組合せ(A×C)だけが有意(P<0.05)であり、 女性がこの種の学校教育が必要と言及した率が高かった。

なお、本分析は分析方法2)に示す二項ロジスティック回帰分析の説明変数と合体した分析を行わなかった。その理由はLikert尺度等のカテゴリーを選択する質問においては回答者にYes/No選択を判断させる。一方、自由記載方式では任意に言及しておりYes/Noを判断させているのではなく、説明変数の質が異なるので合体した分析は行わず、補完分析と位置付けた。

6 介護保険情報媒体の性別年齢区分別比較―多元配置分散分析(md-ANOVA)による主効果および交互作用効果―

介護保険制度の周知および改善方法に関する自由記載のテキストマイニングの結果、CONA図から出現頻度の高いバブルと共起性の強い品詞間の関係を明らかにした。この結果、周知・改善方法として、介護保険関連情報収集源として頻出した、PR、TV、IN、NPについて、性別と年代別の知識度との関連を明らかにするためにmd-ANOVAを行った。

表6にmd-ANOVAによる解析結果を示す。モデル自体の有意性は男性では60-64歳群以外の5階層にあり、特に40-49歳群は高度に有意(p<0.001)、女性では30-39歳、50-59歳および60-64歳群で、特に30-39歳群と60-64歳群で高度に有意(p<0.001)であった。主因および交互作用の項目ごとの有意性では男性が介護保険第2号被保険者になる40歳を含む40-49歳群のPRからの情報入手が高度に有意(p<0.001)であるのを筆頭に18-19歳群でTV、20-29歳でIN、60-64歳群でPRがそれぞれ有意(p<0.05)であった。二項目の有意な交互作用は18-19歳群が最も多く4種類みられた。50-59歳群が2種類、20-29歳群が1種類であった。3項目以上の交互作用は全年齢群で有意の組合せはなかった。一方、女性では介護保険第2号被保険者になる40歳を含む40-49歳群のPRからの情報入手が高度に有意(p<0.001)であることを筆頭に18-19歳群でTV、20-29歳でIN、60-64歳群でPRがそれぞれ有意(p<0.05)であった。二項目の有意な交互作用は18-19歳群が最も多く3項目、50-59歳群が2項目、20-29歳群が1項目であった。3項目以上の交互作用は全年齢群で有意の組合せはなかった。また親と同居している、身内に高齢者がいる、もしくは介護経験があるの、いずれかの場合に該当するか否かと年齢階級6区分間で構成比率の差はいずれの年齢階級においても有意差はなかった。年齢階級別、性別のスコアの分布はいずれも非正規分布であり、平均値は20-29歳の男性が17.08点、女性が23.31点と高く、Wil-ranksumテストで高度に有意(p<0.01)であった。同様に50-59歳群、60-64歳群においてもWil-ranksumテストで女性のスコアが有意(p<0.05)に高い値を示した。

年齢階層別スコアの回帰直線について、男女別に傾きの差の検定を行ったが、有意差はなかった。

7 テーマの解説が全て指定都市HPに掲載されているか否かが正答率に与える影響

全政令指定都市の介護保険関連HPに記載のテーマ(キーワード)と全く記載が無い場合の差を2×2表として表7に示す。掲載ありの問題群で正答率が30.06%と21.75%であり、その差はFisherの正確確率法で高度に有意(p<0.001)であった。このことから政令指定都市等が行っているHPでの広報は介護保険の知識度に効果があることが示された。

Ⅳ 考察

介護保険制度に関する基本的な知識を問う質問の正答率は低く正確な情報への理解が浸透していないことが明らかになった。2020年の段階で介護保険制度の施行から20年経過しているが、本調査のような一般の第2号被保険者を対象とした介護保険制度に関する知識を確認した調査は見当たらない。よって年毎に理解が深まってきているのか、または無関心度が高くなってきているのかは判定できない。しかしながら、濱野ら17)が看護職者に行った介護保険に関する知識の研究では、介護保険の申請手続き方法、申請場所、申請者についての正答率は7割を超えている。また、松井18)は48歳及び49歳の男女を対象とし、介護保険に対する認識度を調査した結果のそれぞれの正答率は、介護保険制度の実施主体:52.69%、利用者年齢:46.24%、保険料の支払い開始年齢:65.59%と知識や認知度の低さを明らかにした。本調査では、介護保険制度の実施主体:26.8%、利用年齢:35.0%、支払い開始年齢:40.25%という低い正答率であった。行政が住民に対して介護保険の認知度を調査したものは、愛知県岡崎市の「介護保険等実態調査」19)がある。若年者(要介護認定を受けていない 40~64歳)は、介護保険制度の認定申請が必要であることについて7割弱の人が「知っている」と回答した。これに比しても低値である。

いずれの調査も本調査と異なり、看護職の介護保険に関する知識や限定された対象の介護保険の認識度の調査であることが正答率が異なる最大の理由と考えられる。さらに先行研究では問題数が数問以内と少ない等の特徴がある。従って、本調査は一般を対象とした全国対象の性別年齢階級別で1,000人規模の調査結果であるので、正答率に関しては日本の現在の非高齢者層の実態を示すという意味で国民の現状との関連で信頼性が高いと考えられる。

表6の介護保険制度の情報収集媒体の性別、年齢階級別の比較において20-29歳群、50-59歳群および60-64歳群の3群においていずれも男性より女性のスコアが高かったことの背景要因は同一ではないと考える。このうち、20-29歳群においては、この時期に介護に関する知識を扱う専門学校、短期大学、大学で医療、看護、福祉系の学部や学科に修学している女性の比率が高いことと関連があるのではないかと考えられる。

厚生労働省の令和2年の調査20)によると、看護、福祉系の職種に就業している女性の割合は保健師:90.4%、看護師:86.6%、准看護師:85.1%で圧倒的に女性が多い。また福祉職については、令和2年度社会福祉士・介護福祉士・精神保健福祉士就労状況調査結果21)によると、女性の割合は社会福祉士:68.4%:介護福祉士:81.3%、精神保健福祉士71.5%と同様に女性が多い。また介護について学ぶ家政学についても女性が多い。従って、20歳代で男性と比べて女性の得点が高度に有意に高いことは看護、介護に関係する知識を女性が学習し易い教育環境にあることが関係していると考えられた。なお、表5に示したCONA図の主要な文脈の分析においてスコアの低い回答者は学校教育の場が介護保険の知識を周知する場所として望ましいという意見が強い傾向があり、介護保険を周知する主要な場の問題はクローズアップされる必要が示された。

一方、同じく表6において40-49歳群では男女間のスコア差は有意ではない。男性は介護保険法の第2号被保険者になる40歳を含む40-49歳群ではPRからの情報入手が高度に有意であるが女性では有意ではない。このことは男性の場合、この年齢層で会社等に勤務する比率が高く介護保険の第2号被保険者になって給与等から介護保険料が医療保険料と同じ方式で引き落としが開始されることの一時的な印象の強さが影響していると考えられた。しかし、介護保険は医療保険と異なり65歳になるまで直接の介護サービスは受けられない。この点が医療保険とは大きく異なり介護サービスを受けることができる年齢に達するまで四半世紀を要す。この間給料からの介護保険料の天引きが続けられる。女性に比して給料から天引きされる職種での勤務率の高い男性の長年の天引きのみの状態は介護保険に対する関心度を下げる可能性がある。医療保険の場合は、日常的ではないが40歳からの25年間を比較すれば頻回に保険証を用いて医療機関を受診することが希でない。このため保険料として支払うお金と医療機関で支払う自己負担との関係を繰り返して意識する機会がある。しかし介護保険証は65歳からでないと発行されないため、意識し続けることが薄れていくと考えられる。

一方、女性の場合、50-59歳群および60-64歳群においてスコアが男性より有意に高く情報源はPRでなくINもしくはBから関連情報を入手している特徴を示している。介護対象の高齢の親を持つ可能性は男女間で差がないことから、50-59歳群および60-64歳群の女性のハイスコアは家庭における介護の必要性の環境が男女間で違うことではなく、介護への意識が男女間に未だ差があることを反映していると考えられる。

50歳代女性は全般的に介護に対する意識や知識度が高くなっていることは、岡崎市の「介護保険等実態調査」でも示されており2014年の同居の主な介護者の男女差は男性35.0%、女性65.0%と女性が介護を担っている割合が高い22)。また土岐ら23)は介護負担における性差に関して、女性は親世代を介護した後に配偶者を介護し、その結果50歳から70歳代の長い期間を介護と関わっている場合が多いとしている。この男女差は本研究結果においても「介護保険施行から20年経過してもいまだ介護の主体的な担い手は女性」であることを示している。2020年版男女共同参画白書の性別役割分担意識の変化(男女別)24)によると、「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」という考え方について賛同意見は、1979年:女性70.1%、男性75.6%であったが、40年経過した2019年においては女性31.1%、男性39.4%と減少している。しかし同白書は依然として家事・育児・介護は女性の仕事であるとの考えが残っていると指摘している。介護保険は介護対象と担い手を父系、双系体制から一気に社会化させた4)功績が大きい。しかし女性にすれば良き娘、良き妻、良き嫁となるために、老親の介護を人に委ねずに自ら抱え込んでまでしなければならないという呪縛25)、や育児と介護のダブルケア26)から逃れられずにいるケースもあるのではないかと考える。こうした女性特有の介護に関わる呪縛や育児と介護とのダブルケアの負担過重を和らげるためにも介護保険制度を保険の根幹である自助、共助および公助の役割を正しく理解して、活用することが求められる。介護保険制度が親の介護が視野に入る40歳からを第2号被保険者と設定したことで、介護保険制度が施行されて20年、軽重の差はあるが家族に対する高齢者介護の負担が軽減し、その恩恵を受けてきたと考えられるが、その複雑な(強制的)共助、公助システムは少子高齢化が今後益々拡大する近未来において現状のまま維持することが難しくなると想定される。これまでも保険料を負担する層を拡大する「制度の普遍化」、第2号被保険者の対象年齢を引き下げること、第1号被保険者の年齢を引き上げることについて検討が続けられてきた27)が、本研究で今回で明らかになった一般国民の介護保険に対する知識度では円滑な先を見据えた制度改革がおぼつかなくなる危険性があると考える。2020年の時点で合計特殊出生率(TFR)の値が1.30、OECD加盟38カ国の2020年の比較で35位28)であり、かつ世界一の高齢化に伴い介護保険料を支払う生産人口は減少の一途を辿ると予想されている。こうした中で介護保険を維持していくためには共助、公助の負担の意味の重要性と違いを国民が認識しているということに裏打ちされた上で国民の負担を図るべきである。本調査において一般市民がINのHPなどの自治体広報を介護保険情報提供媒体とする可能性が高いことが示されたことを受けて、自治体広報の強化が具体策の第一歩として重要と考える。

核家族化が進んだ現代社会においては若年者が高齢者を身近に理解する機会が極めて少ない。このため伝統的養老精神や介護の精神を醸成する機会と手段が確保できていないと考えられる。また、今後更なる高齢化の進展により、介護保険制度維持のために第2号被保険者の年齢引き下げが検討されていることにより、若年者の介護保険制度への理解の醸成は必須と考えられる。

CONAの結果、周知方法の要点は、INなどITの利用、義務教育で教えることであった。周知方法に関する文脈は、TVで特集を組む、朝ドラにする、再現ドラマをつくる、有名キャスターの情報番組で知らせるなど具体的な記載であり、いずれもわかりやすさと印象深い周知方法が重要と考えられていることが示された。 またINに関連した文脈では、若者に向けてSNS、You Tube、LINE、twitter、メール、若者に人気のあるインフルエンサーなどを使って配信する方法が示された。一方、高齢者はINの利用をしないのでIN以外の周知方法を望む文脈もあった。これらのことから、その時代の対象に合わせた周知方法を吟味し、具体的に提供することが求められる。

ここで情報伝達媒体は表7に示すように明らかに知識度に寄与している広報(HP)の充実が効果的と考えられるが現状においては多くの質問において正答率が低い結果であったことからHP利用率の向上とともに理解しやすい内容への工夫も合わせて必要と考えられた。

東村8)は地域包括ケアシステムを例としたリテラシー教育について、国や自治体が受益者である国民に説明責任を十分に果たしていないと指摘している。介護保険制度施行前は介護は行政が行う老人を対象とする「措置」の一環であった。しかし介護保険においては利用者やその家族が介護サービスを選んで行政に申請する「契約」へと変わった。しかし、そのためには介護保険制度に対する基本的な知識が不可欠であることは言うまでもない。この意味から介護サービスは介護支援専門員(ケアマネジャー)の独占業務ではなく、利用者が独自でサービス計画を策定して行政に申請することも出来る仕組みになっている。また医療保険と異なり、療養担当規則によってサービス範囲を厳しく画一化するのではなく、料金を追加すればサービス回数や方法を変更することが出来る仕組みである。また2号被保険者が受けることが出来る16種類の特定疾病29)これらのことを含めて、今後はさらに時代に合わせたわかりやすい周知方法を、継続して発信していく必要があると考える。

CONA図における周知方法の要点であるINやITの利用と義務教育で教える、のうち、学校で教える方法はカテゴリー質問では捉えられなかった。しかし、約1割の回答者が介護保険のさらなる周知には学校で教える必要があると判断していることが示された。ここで、学校教育の必要性を言及した群は言及しなかった群に比べてスコアが有意に低いことから、介護保険に関する知識が不足している回答者はその理由を学校教育で習わなかった、学校で習わないと関連情報が入ってこないと考えている可能性が示された。現行の学習指導要領の高齢者の理解に関する項目は、高齢者の身体機能、介護方法(車椅子の操作等)であるが介護保険制度を初めとする高齢者福祉の制度に関する項目はない。今後のさらなる高齢化に対応して学校で正確な情報を教えることは極めて重要と考える。

CONAの文脈が示す介護保険に関する改善方法の要点は、介護職の待遇改善、介護保険負担の軽減、自宅や小規模の施設で介護の在り方、安楽死の容認、であった。このうち、自宅や小規模の施設での介護と安楽死の容認は少数意見であるがCONAの特徴をよく表している。すなわち選択肢から選んで回答する質問方式ではなく、自由記載方式で文脈を重視して、質問する側の意識に希薄な意見や概念を顕在化して出てきたため、少数ながら老後の生き方に関する意見や思いを顕在化できた。このうちすでに小規模の介護施設として、小規模多機能型居宅介護30),31)など住み慣れた地域で在宅生活を支援する事業が行われているので、この情報が伝わっていない可能性がある。安楽死については、特に臨終の際の痛みや恐怖に関する不安32)から想起すると考えられるが、延命治療を施さずに自然な最期を迎える尊厳死33)を支援する在宅の看取りも行われている。これらを周知して国民の理解を促進すると共に、小規模な施設などより自宅に近い介護環境を増やす必要がある。併せて介護状態にならない、健康寿命の延伸にかかる対策を進める必要がある。

量的調査であるスコアの低さと質的調査における周知・改善方法についての自由記載の回答が無いものが男女とも5~7割に達するということをシナジー的解釈すると、わが国の非高齢者世代は性別、年齢区分別に違いがみられるものの、総じて「介護保険に関心が低く、知識も不十分」と考えられ介護情報のリテラシーを形成するには程遠い状態と考えられた。しかしながら、例えば50代、60代の女性がINや書籍で介護保険関連の情報を独自入手していることから介護の主体を意識した場合はリテラシーが上がることを示しており、このことを他の年代の男女について適用するためには、介護保険制度に関する情報リテラシーの向上を図る必要がある。その方策として、INなどITの利用や簡潔でわかりやすい自治体広報をすること、また家族介護の意識を醸成するためには義務教育で介護保険制度について教える必要がある。本調査において判明したことは介護保険に関する情報リテラシーの醸成の重要性であり、介護保険によって特に女性の高負担が減少した半面、リテラシーの要素である関連の知識の集積がはかられていないという問題点である。この情報リテラシーが育成されないと近未来の少子高齢化が最大になったときに、国民意識の薄弱さが元で介護保険制度が必要な機能を発揮できなくなる恐れがある。これを回避するために、特にINを通じた自治体広報で様々な角度からわかりやすい介護保険情報を提供することが重要である。

本調査では、介護保険に対する知識度が性別と年齢区分で異なること、第2号被保険者となる40歳代を除いて多くの年代で女性の介護保険に対する知識度が高いことが判明した。しかしながら、全体的に知識度が高く介護保険に対する情報リテラシーが確立しているとは言い難い。介護保険制度は情報リテラシーの向上にどう係わるべきか、その改善案を探る研究が今後の課題である。

Ⅴ 結論

介護保険制度施行から20年経過した時点で国民の介護保険に対する基本的知識を質問形式と自由記載方式(テキストマイニング)で確認した。

その結果、全体として正確な知識を有している人が非常にすくないことが判明し、介護保険制度による介護の社会化の長所が若人(特に女性)の社会進出を後押ししている反面、関心が育っていかない負の側面が影響していることが考えられた。40歳から始まる第2号被保険者は保険料徴収のみであることから、特に勤務者が多い男性の介護保険に対する関心を削いでいる可能性がある。一方、50歳以降64歳までの女性は、男性に比して高頻度でインターネットと書籍から自己学習していることが明らかになったが自身に親等の介護の主体となることが影響していると思われる。この問題は「介護は女性の仕事」という呪縛感が存在していることを示唆している。

政令指定都市の広報に記載されていることは知識として吸収されやすいことが示され、情報提供媒体の種類と方法の改善が重要である。介護保険に関する非高齢者の介護保険情報リテラシーの醸成が急務である。

謝辞

本研究を実施するにあたり、ご協力を頂きました調査対象の皆様に深謝いたします。また、研究遂行の過程で貴重な示唆をいただきました大学院医療情報・経営管理学専攻(分野)拡大院生研究会の皆様に感謝申し上げます。

利益相反

本研究において,利益相反に該当する事項はない。

References
 
© 2023 Niigata Society of Health and Welfare

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https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/deed.ja
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