Niigata Iryo Fukushi Gakkaishi
Online ISSN : 2435-9777
Print ISSN : 1346-8774
Classification of Discrimination and Encouragement Among Health Professionals During the COVID-19 Pandemic
Yuko WataraiYoshinobu HasebeFusayo KobayashiNaohiko KinoshitaKenji SuzukiKazuo IshigamiHirotaka ItoToru Takiguchi
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2023 Volume 22 Issue 3 Pages 91-101

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Abstract

背景と目的:本研究は、COVID-19治療病院に勤務する看護職が自ら受けた差別・感謝・激励の実態を明らかにし、危機が再来した場合の危機管理体制の要点を探ることを目的とした。

方法:対象は関東以東の20急性期病院勤務の看護職で、無記名で選択肢形式と自由記載形式の質問がをした。解析は二項ロジスティック回帰分析(bLRA)と自由記載の共起ネットワーク分析(CONA)を行った。

結果及び考察:3,116名を対象とした。bLRAでは30歳代(OR = 2.03、p< 0.05)、呼吸器関連病棟配置(OR = 2.24、p< 0.05)、及びCOVID-19患者の看護経験あり(OR = 1.86、p< 0.05)であり、看護職がこれらの条件にあると2倍前後差別を受け易かった。またCONAでは患者からは感謝・激励が大多数であるが、勤務病棟に関連して医師やスタッフからの心無い差別が多発していた。一方、院外では勤務する病院そのものが社会的スティグマの対象になる違いが見られた。特に、保育所・幼稚園で各種の差別が頻発したが、一方、小中学校では校舎のガラス窓に感謝・激励・檄文が張られる等の真逆な反応が多かった。学校では日頃いじめ対策に関心が高い教育現場の姿勢が反映されていると考えられた。

結論:今回の経験と分析に基づき、危機の再来時には病院内での組織的対応、そして保育所、幼稚園に関連した行政対応が必須である。

Translated Abstract

Background and Purpose: The aim of this study was to explore discrimination among medical professionals in association with the COVID-19 pandemic.

Methods: Participants were nursing professionals working in 20 acute hospitals located in Kanto and various other eastern prefectures in Japan. Participants completed an anonymous survey consisting of questions in both optional and open-ended formats. Statistical analyses included binomial logistic regression analysis (bLRA) and free-description co-occurring network analysis (CONA).

Results and discussion: A total of 3,116 nursing professionals completed the survey. Based on the results from bLRA, participants in their 30s (odds ratio [OR] = 2.03, p<0.05), working in respiratory wards (OR =2.24, p<0.05) and those who had experience in caring for COVID-19 patients (OR=1.86, p<0.05) were approximately twice as susceptible to discrimination compared to participants without these characteristics. Considering the results from CONA, most participants reported that they experienced that patients were grateful. However, contrary to our expectations, several participants also reported to have experienced heartless discrimination from doctors and other staff working at the same hospitals. In contrast, varying situations were reported considering the neighborhoods of the hospitals. While at hospitals themselves, participants reported to have been targets of stigmatized discrimination, and various forms of discrimination were reported to have occurred at nursery schools and kindergartens, frequent signs and letters of gratitude have been provided by elementary and junior high schools. The latter might reflect a different form of awareness at schools, given that measures against bullying in the educational context are taken on a daily basis.

Conclusion: Based on the present analyses, organized responses within hospitals and administrative responses related to nursery schools and kindergartens might be essential in times of crisis.

I はじめに

西暦2020年の初頭、世界は突然パンデミックな新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に見舞われた。ここで注目すべきは、一般の人達だけでなく、医師や看護職(看護師、准看護師、助産師、および保健師)1)等の医療関係者が勤務する診療所や病院も例外なく、多大な影響を受けたのである。そもそも、病院等の医療現場においては重篤で広範囲な感染症が発生したような場合の危機管理の原則を病院安全管理の指針2)として備えている。しかしながら、今回の新型コロナウイルスのパンデミックは、これまでのパンデミック感染症3)-6)と様相が違い、World Health Organization(以下WHO)によれば、中世のペスト流行時に近似するかのような特異な社会的スティグマ現象7)を引き起こしている。すなわち、一般に医療関係者と位置付けられる医師や看護職等がCOVID-19の感染源として見なされ、近寄られるのを警戒され、また職務命令でCOVID-19の患者の看護に専心している職業意識を揶揄するかのような行動もみられた。幸い、2021年後期からはいわゆる三密回避対策、各種の行動制限に加えて複数のワクチンが開発され、国民の接種率が向上してきている。しかし再び未経験の新興感染症が突如人々を襲い、社会的スティグマの悪夢が再来するかもしれない。その時に備えるための様々な対策とインフラ整備は国策として必要ではないだろうか。それと同時に、医療関係者が疎まれる、差別を受けることがなぜ発生し、どのようなメカニズムで所謂社会的スティグマに発展していったかを今回のCOVID-19に関する医療関係者に対する差別から学び取っておく必要がある。

そこで本研究は、COVID-19の患者治療を受け入れている病院に勤務する看護職が自身および親族、同僚が受けたCOVID-19に関連した差別と感謝・激励の実態を明らかにし、同様の危機が再来した場合の社会的スティグマ、すなわちCOVID-19に関連し発生した看護職に対する危機管理体制の要点を探ることを目的とした。

II 方法

1 用語の定義

COVID-19に対する社会的スティグマ(社会的差別)はWHO予防と対処のガイドによれば、「特定の特性と特定の病気を共有する人々への否定的な関連性を指し、人々がレッテルを貼られ、ステレオタイプ化され差別される。病気の人だけでなく、介護者、家族、友人、コミュニティ、病気にかかっていない人までにも悪影響を及ぼす可能性がある一連の行為」としている。なお、特徴のある共通性を持った集団に対する一連の差別現象として捉えられているが、本研究においては取り扱った事象が集団性、個別性が断定されるまでに至っていないケースも多い。また真逆の感謝・激励の反応も捉えられたので、差別、感謝・激励の表現を用い、考察において社会的スティグマとの関連を論じた。

2 参加対象者

1都1道5県(東京都、北海道、千葉県、神奈川県、埼玉県、群馬県、宮城県)に立地する、Aグループ急性期疾患対応20病院(以下、対象20病院)に従事する看護職を対象とした。対象20病院の看護部長宛てに調査依頼文書を送付し、研究参加同意が得られた看護職のみを調査対象とした。

3 質問票

質問票を表1に示す。無記名の条件下で、性別、年齢、勤務経年数、勤務科等の基本情報、COVID-19に関連した差別と感謝・激励の経験に対するLikert尺度と自由記載から構成され、COVID-19に関連した差別を直接受けたり、同僚や家族から見聞したりした情報を収集した。ここで、量的解析は主として勤務先(病院)における差別の実態を調査した。一方、質的解析は病院内の自身に対する差別、および家族(園児、学童、配偶者等)に対する居住地周辺の生活環境下における差別の具体例を収集評価した。

また、自由記載については、「COVID-19陽性者に対応する不安」、「自身が新型COVID-19の感染源になることへの不安」、「家族との接触制限」、「地域・病院外の関係者から偏見・差別」、「家族が受けた差別」、「差別の見聞事例」、「励まし・応援(激励)」等について箇条書きで記載を依頼した。

4 質問票の回収法

本質問票への回答は2つの方法を併用した。1つは各回答者のスマートフォンを使って(各個に配布した調査依頼文に描画した)QRコードを読んで、Google Formを呼び出して質問に回答し提出する方式。もう1つは従来型のA4紙に印刷された質問票に回答する方式である。各病院の看護病棟別で集約後返送を依頼した。配布総数は20病院5,440通(対象者総数)であった。

5 調査期間

2021年6月1日から2021年7月14日を調査期間とした。

6 解析法

1)ソフトウエア

マイクロソフト・エクセル2017を用いてデータファイルを作成し、アドインソフト(エクセル統計4.01)を用いてクロス集計・χ2検定を、更にIBM-SPSS(Ver28.0.1)を用いて設問に対する回答の関連性を確認するための、二項ロジスティック回帰分析8)を行った。

2)欠損値処理

性別、年齢区分、家族形態、自由記載が不明な場合は、データを回答者単位で除去した。そのほかの欠損値は近似値がある場合は近似値を代入し、ない場合は平均値を代入9)した。

3)量的分析:二項ロジスティック回帰分析

二項ロジスティック回帰分析(以下、bLRA)で自らの差別体験の有無を目的変数とし、性別、年齢区分、COVID-19専門科を標榜、もしくは「呼吸器」を名称に含む診療科か否かの区分、家族形態(独居、子どもとの同居の有無)を説明変数とするSPSS(Ver28.0.1)を用いて通法の変数減少法(変数選択基準:Pin = Pout = 0.15)で行った。分析の結果において選択された項目の係数の標準誤差が2以上10)になるときは、線形共線性のためモデルが不安定になるので、その項目を除去して再計算した。

4)自由記載の質的分析:共起ネットワーク分析

勤務先(病院)と居住地の生活環境下におけるCOVID-19に関連した個別の被差別体験を自由記載とし、khcoder-3b06d.exe (日本フリー版:樋口耕一)、テキストマイニング・フリーソフトKH Coder11,12)の共起ネットワーク分析(CONA:co-occurrence-net work analysis) 図を描画し、キーワードの前後の文章をKWICコンコーダンス機能11)で確認する方法等により文脈を解釈した。

ここで病院内、住居近隣、実家(帰省先)等で自身が受けた差別的言動に加えて、子どもの通所、通園する保育所、幼稚園、通学する小中学校、配偶者の勤務先において、家族が受けた差別的言動も自身が受けたこととしてカウントした。加えて、自身の職場の同僚が受けた差別、感謝・激励も加えて解析の対象とした。

共起ネットワーク図は、文章において伴って出現する頻度の高い語、すなわち共起の程度が強い語を線で結んで共起性の程度と相互関係を視覚的に表わした図である。また語の共起性の検証対象とした品詞は、名詞・サ変名詞とし、最小品詞数は20、バブル数は60とした。また年齢階級別、職種、地域別に分けて比較する等の外部変数を用いた分析は未使用とした。差別を直接、間接に受けた人の特徴づける語の共起関係を、CONA図で可視化し、CONA図では出現回数の多い語ほど大きな円(バブル)で描画した。Jaccard係数は2つのキーワードの関係性(共起性)の程度を表す指標の1つである。目安としては「0.1」は共起性がある、「0.2」はやや強い共起性がある、「0.3」以上は強い共起性があるという基準で示されている。

図1に示すCONA図は多数の文から構成され、各文をKWICコンコーダンス機能を用いて文脈を解釈したが、合せて病院内、病棟内、家とその周囲、帰省先、子どもの通う保育所、幼稚園、小中学校、配偶者の勤め先、帰省先等、本研究のテーマである差別と感謝・激励が①どこで、②誰から、③どのような形でされたのかの比率の一覧を作成した。

7 倫理的配慮

なお、本調査は、ヘルシンキ宣言に基づいた研究計画について千葉科学大学の「人を対象とする研究倫理委員会」の承認(No.R0217)を得たのち実施した。調査対象者への説明では、強制ではないこと、無記名であること、知り得た個人情報は調査以外の目的に使用しないこと、得られた内容は個人が特定されないことを明記し、同意が得られた者のみが調査票またはQRコードを介してのGoogle Formによる回答を行った。

III 結果

1 質問票回収率

Aグループ病院20施設5,440通を郵送し、紙媒体1,686人、QRコードを介したGoogle Form 1,660人、総計3,346人(回収率61.5%)であった。

このデータの欠損値処理を行い、回答に基本情報等が空欄等の不備の多い230名を外して3,116人(57.3%)を最終的な解析対象とした。

2 基礎統計量

表2に回答者の各質問に対する回答肢選択頻度を示す。性別は女性2,788名(89.5%)、男性328名(10.5%)、平均年齢女性は34.1±8.80歳、男性は30.20±12.9歳であった。専門職区分は看護師2,760人(88.6%)、准看護師207人(6.6%)、保健師137人(4.4%)、助産師12人(0.4%)であった。看護職としての経験年数は10.35±11.75年であった。同居家族形態としては、独居が1,317人(42.3%)、と最も多く次に夫婦と子1,150人(36.9%)、夫婦のみ260人(8.3%)、母子277人(8.9%)、その他、祖父母と子、父子、両親であった。

新型コロナウイルス陽性者へ対応した場合を想定して、不安あり:2,067人(66.3%)、不安なし:268人(8.6%)、どちらともいえない:781人(25.1%)であった。COVID-19に関する差別は、受けない:2,680人(86.0%)、受けた:171人(5.5%)、直接的にはないが間接的にある:200人(6.4%)、その他:65人(2.1%)であった。

表3に段階式二項ロジスティック回帰分析の結果を示す。12指標のうち5指標がモデルに採用された。このうち3指標が有意で、それらは年齢区分30歳代(p < 0.05, odds = 2.03, 95% CI(信頼限界) : 1.16-3.56)、呼吸器関連病棟配置(p < 0.05, odds = 2.24, 95% CI:1.17-4.28)およびCOVID-19患者の看護経験あり(p < 0.05, odds = 1.86, 95% CI:1.06-3.25)であった。

3 自由記載の共起ネットワーク分析

1) 共起性の類型化

図1にCONA図を示す。図は大小のバブルと共起性の強度を示すJaccard係数を6段階の強度区分線として示す。文脈の内容は鎖線で領域を区切り、差別と感謝・激励およびその両者の3種類の組合せを示している。すなわち、図1右端の判例に示すDP(赤):差別の文脈、DP/GE(黒):差別または感謝・激励が拮抗している文脈、およびGE(青):感謝・激励、の文脈からCONA図を構成している。CONA図は3つの大きな文脈から成り立っている。1つはDP1で示される差別に関連した領域で、構成する病院、コロナ、病棟、感染、スタッフ、看護等のキーワードが文の中でどのような使われ方をしているかについてKWICコンコーダンス機能を用いて文脈を解釈した結果、DP1領域は病院内における差別を示す文脈と考えられた。次に、DP1の左隣に位置するGE1は患者から看護職に向けられた感謝と激励を表す文脈であった。これは、この領域に内包して病院が立地する地域からの感謝の手紙や弁当の差し入れがある反面、病院の看護職を差別する、すなわちWHOが言う社会的スティグマに近い兆候があるため、内包する領域が感謝・激励だけでなく差別意識も発生しているDP/GE1領域があることが示された。また、前述のDP1の右隣りにあるGE2は小学校において窓に感謝と激励のメッセージを示す領域を示している。しかしながら子どもをキーワードとしてDP/GE2領域と繋がっており、こちらは保育所、幼稚園における通所、通園拒否の傾向を内在した二面性の領域だということを示した。その他、右端のDP2は看護職が帰省しようとしたときの実家との軋轢を表している。DP3はいわゆる幼稚園のママ友が差別と連動した行動をしていることが示されている。 またDP4がCOVID-19クラスターの発生を表す文脈で、差別との関連が惹起されている。しかし、DP7はPCR検査、DP6はワクチン接種であるが、文脈をみるといずれも好ましい保健行動であるにも関わらず2021年初夏の時期においては、それをしたことが逆に差別に繋がる経験をしたことがわかる。

2) 差別と感謝·激励はどこで誰から発生したか

表4はCONA図(図1)を構成する文脈KWICコンコーダンス機能を用いて、①どこで、②だれから、③どのような形で、差別、もしくは感謝·激励されたかの一覧表を示す。数値はいずれも回答者3,116名のうちで、何%がそれぞれを経験したかを示している。差別の経験頻度は、保育所関係者から園児が送迎バスに乗せるのを拒否される等の回答者が6.77%で最も高かった。次いで「呼吸器」関連の病棟で勤務している場合に、同僚の看護職から差別的言動を受けた率が4.91%と高かった。3番目は帰省先(実家)から勤務先の病院がコロナ対応をしていることを理由に帰省をさせないという差別が3.75%あった。同じ3%台では保育所、幼稚園の所謂ママ友から勤務病院に関連した差別が3.72%あった。2%台では看護職、医師以外の医療職が勤務病棟に関連した差別言動が2.70%、近隣住民が勤務病院に関連して2.76%、保育所関係者が勤務病院に関連して2.18%、その他の友人が勤務病院に関連して2.34%、自身の家族から2.02%、小中学校から自身の子どもが2.95%差別を受けていた。この他、1%台が5項目あった。一方、感謝·激励は、COVID-19以外の患者から11.42%で最高値であった。次いで、小中学校が窓に感謝や応援の張り紙をする、手紙、Social Networking Service(以下、SNS)でエールを送る、が9.15%であった。近隣住民からの声掛けが2.89%、その他の友人からが2.31%、小中学校関係者からの差し入れが2.50%であった。1%台はCOVID-19以外の患者家族と小中学校からの声掛けであった。

IV 考察

量的分析であるbLRAでは30歳代(OR = 2.03, 95%CI:1.16-3.56)、呼吸器関連病棟配置(OR = 2.24, 95%CI:1.17-4.28)、およびCOVID-19患者の看護経験あり(OR = 1.86, 95%CI:1.06-3.25)であり、これらの条件に合致する看護職がそうでない看護職と比べて差別を受けやすい傾向が有意であった。また質的解析であるCONA図では患者からは感謝・激励が大多数であるが、予想していなかったこととして勤務病棟に関連して医師やスタッフからの心無い差別が多発していた。一方、院外では勤務する診療科との関係ではなく病院そのものが社会的スティグマ的な差別の対象になる違いが見られた。特に、保育所・幼稚園で各種の差別が頻発したが、一方、小中学校では校舎のガラス窓に感謝・激励や檄文が張られる等の真逆な反応が多かった。

1 差別実態の現状

計量分析からは病院勤務の看護職のうち30歳代、呼吸器関連病棟配置、およびCOVID-19患者の看護経験あり、がそれぞれそうでない看護職と比して、オッズ比が2倍前後でCOVID-19に関連した差別受けやすいことに有意の関連を示した。COVID-19患者が搬送される病棟配置の場合、そこに配置される看護職は事の緊急性と重大性から一般的に中核的な年齢の経験豊かな看護師が配置されるはずであろう。こうした自身が感染する可能性がある「危険を伴う看護」といった、当然の配置が院内において他者からの差別的言動を誘発していることが強く示唆された。今回、病院内の職員からの差別は想定していなかったので、計量分析のみではどの職種から差別を受けたのかを確かめることが出来ない。このため計量分析のみの解釈ではなく自由記載の共起ネットワーク分析から関連を読み解くこととした。

2 自由記載の内容から

アンケート調査前の予想とは大きく異なる想定外の結果として、院内差別の多さが挙げられる。特に同僚である、他病棟勤務の看護職からの差別が多い。コロナに対して理解があるはずの同じ職種である看護職員からの差別が多いのは、コロナ病棟からの同病院内感染を過度に恐れているからではないだろうか。もしくは、コロナ禍における院内環境からくる過度のストレスのため、必要以上にコロナ担当看護職に対して、忌避感の現れであると考えられる。

感謝・激励については、患者からの感謝・激励はある程度予測でき、またその予測の範疇内の結果であったが、患者の家族からの感謝・激励が予想以上に多い結果であった。これは、コロナ禍の病院に接する機会があったため、その実態を直視することで、院内の過酷な状況を知り得たためではないだろうか。

学校関係では、幼稚園・保育所関係者からの差別も非常に多いが小中学校ではそれ程多くはない。これは、園児一人一人に目配り気配りが必要な幼稚園・保育所が COVID-19に特に敏感に反応している証左ではないだろうか。ママ友においても同様で、過度に反応している。片や小中学校からは感謝・激励が多い。差別も一定程度あるが幼稚園・保育所よりも少なく、逆に特筆すべきは、窓に激励文といったメッセージ性のある表現で感謝・激励が行われている点である。これは、小中学生になると自我も芽生え、また、小中学校における教育も大きく影響している可能性がある。つまり、小中学生になると社会性や協調性が培われており、同調性や寛容さから、他者への感謝・激励の気持ちや労りといった面が自然発生しているのではないか。また学校側は所謂「いじめ」の問題13)で、差別については敏感になっており、様々な研修や教育を取り入れている。そうした、いわば日頃の教育環境が感謝·激励の紙の窓張り、応援メッセージに繋がった可能性がある。

近隣住民や友人からの差別と感謝・激励はおおよそ同数であったが、この比率は世間一般の反応であると言えるかも知れない。家族からは、想像以上に感謝・激励よりも差別の方が多かった。これは、家庭内にコロナを持ち込まれたくない意識からであろう。また、配偶者にとっては、もしウイルスを家庭に持ち込まれ自身が感染した場合、勤務先に対して迷惑をかけて申し訳ない、欠勤により人事考課に影響を及ぼすかも知れないといった気持ちからくるのかも知れない。

また同様に、帰省先からの差別も想像を遥かに超える多さであった。これは帰省先の高齢者を中心とした親族が自身の健康を守るため、また近隣からの批判を回避する行動結果と言える。そして、家族と帰省先からの感謝・激励が少ないのは意外である。本来は身内である家族や帰省先の親族は良き理解者たるべき存在であるはずだが、この結果からは良き理解者であったとは言えないと思われる。

配偶者の勤務先からの差別が多いのは、社内にコロナ感染者を出したくないためであろうが、過度な対応は差別を助長することになる。配偶者が定期的に検査を受け、恒常的に陰性であることを勤務先に提示し続けることで、差別の漸減が可能ではないだろうか。

本調査結果で注目されるのは病院内と病院外で差別対象が大きく異なる点である。すなわち、病院内において医療関係者は「どの看護師がコロナ関連病棟を担当しているか」をよく知っており、このため集中して同僚看護師や他科の医師から差別言動を誘発していると考えられる。一方、保育所、幼稚園関係者、近隣住民、実家は病院内の言わば「一種の情報処理スクリーニングされた結果の絞り込まれた差別」ではなく、COVID-19を扱う病院に勤務する医療関係者は全て差別対象という視点があると思われる。従ってこの差別はWHOが言う社会的スティグマ状態に近いと思われる。詳しい情報処理がなされていないにもかかわらず、社会的スティグマが発生していくメカニズムについては、Raymondら14)が興味ある解釈をしている。すなわち、COVID-19のパンデミック感染は未知の感染症に対する人々の恐怖と葛藤の流れがヒステリックな主観性(Hysterical subjectivity)を醸成し、意識的に感情的に情報ネットワーク全体に広がる(伝染する)としている。

3 今後の危機管理体制について

COVID-19が与える影響は、人々に恐怖・不安・就労・就学・経済的影響の予測を超え、目に見えない強いストレスを与えている。身体的ストレスはもちろん、社会的に自粛せざるを得ない為、メンタルヘルス解消に重要な対人交流も阻害しストレス解消の機会を奪っている。その中でも日々COVID-19の治療・看護に従事している看護職は、罹患者に直接・間接的に接する機会が多く、更に強いストレス下にあり、感染の恐怖に常におびえながらの激務はそれだけ極めて高いストレスを受けている。このような厳しい労働環境の中で、看護師の健康状態、メンタルヘルスは深刻な状況になっている。またその中でも差別を経験する看護職が多いといわれ、離職まで繋がっているといわれている。朝倉ら15)は、看護職がCOVID-19の影響による仕事上の精神的負担が、COVID-19以前と比較し9割増加していると報告している。更にその9割が家族への感染の不安を感じている16)と言うデータも示している。このことからも医療最前線の看護職の精神的負担や周囲に感染をさせてしまう恐怖、差別に対する中での勤務のストレスは計り知れない。

また、看護職が自身の健康を保つことは、患者・家族に提供されるケアの質保証と述べており、看護職の心身の健康は病院運営上必要不可欠である。看護職は患者の生活場面や多くのケアに関わるため、精神的にも身体的にも感染者扱いされ勤務への負担を多く感じられるという報告16)から無言のプレッシャーを感じながら勤務することが多いと推測される。

本研究の限界と課題としては、地域住民が誰からどのような情報に端を発して病院全体に対して忌避感や差別を感じ、どのようなメカニズムで、いわゆる社会的スティグマを拡大したのかを解明する必要があると考える。また、保育所、幼稚園と小中学校の真逆と思われる反応はなぜ生じたかの更なる研究が必要である。村山17)は偏見、ステレオタイプ、差別の関係を心理学的に解説した中で「社会的な問題として可視化されるのは差別ではあるが、その背景に、ステレオタイプや偏見が存在する」としており、表面的な差別のみに注目するだけでなく心理学的な考察を深める必要がある。

また、コロナ禍の心理社会的影響に関して村山は、今回のコロナ禍をchemical, biological, radiological, nuclear:化学・生物・放射性物質・核(以下CBRN)の一亜系として捉え過去のCBRN事例からの教訓を学ぶことの必要性、重要性を提起している。今回研究テーマとした新興感染症であるコロナ禍における看護職に対する差別、激励について、コロナ禍に特化した差別・偏見だけをクローズアップするだけでなくCBRNの多くの教訓から危機管理対応の一環として位置づける必要があると考えられる。

V 結論

今回のコロナ禍のような、医師と看護職等のチームが一体となるべき臨床場面で発生した意識と行動の乖離は、改善すべき重要な課題である。今回の経験と分析に基づき、COVID-19に近似したパンデミック感染症の再襲来危機に備えて病院内での組織的対応が強化されるべきである。同時に、緊迫したコロナ対応業務遂行に水を差す病院内での差別発生を厳しく監視することを含めた危機管理体制の構築が急務である。この際、これまでの様々なCBRNの教訓を踏まえた体制構築が必要と考えられる。

一方、看護職の病院外での生活の場においては、小中学校関係者の反応は感謝・激励が多かったが、近隣住民、親族、および保育所、幼稚園関係者の反応が拒否的であった。特に保育所、幼稚園に関連した差別が深刻で回避のためには行政対応が必要と考えられた。

謝辞

業務でお忙しい中で調査をご手配いただいたAグループ病院の事務方の皆様、並びに調査回答者としてご協力いただいた看護職の皆様に深く感謝申し上げます。並びに、解析に当って貴重なご指導を頂いた文京学院大学保健医療技術学部教授藤谷克己先生、東京医科歯科大学病院病院長補佐、看護部長淺香えみ子先生に感謝申し上げます。

また、新潟医療福祉大学大学院・医療情報・経営管理学専攻(分野)および拡大院生研究会の皆様に深く感謝申し上げます。

研究助成

本研究は研究助成を受けていない。

利益相反

本研究における利益相反は存在しない。

References
 
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