Niigata Iryo Fukushi Gakkaishi
Online ISSN : 2435-9777
Print ISSN : 1346-8774
Difference of learning effectiveness between face-to-face and online Interprofessional Education (IPE) Seminars II
Sayuri Ito Hirotaka ItoYumiko MatsuiNoriaki MurataYutaka Fujii
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2024 Volume 24 Issue 2 Pages 1-8

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Abstract

COVID-19の流行に直面し、新潟医療福祉大学ではIPEを対面開催からオンライン開催へと切り替えた。そこで今回、Readiness for interprofessional learning(RIPLS)日本語版の19項目の質問紙を用いて、開講方式の変更による学習効果への影響を検証した。

質問紙の結果を分析した結果、授業前・授業後の学生の認識に有意な変化がみられた質問項目の数は、対面授業時とオンライン授業時の間で比較したところ,有意水準5%で有意な差を認めなかった。一方で授業前・授業後の間に有意差を認めなかった質問項目からは、自己の専攻内での実践的問題解決能力の学習を重視する傾向や、コ・メディカルを医師のサポート役と位置づけ専門職の独立性に否定的な傾向が認められた。

因子分析の結果では、専門性を超えて協力し、各自の専門性から外れる問題に焦点を当てるといった因子は抽出されなかった。そこでオンライン時には、専門外の問題点や解決策発見に対する協同学習の効果を評価する2つ質問を新たに設けたところ、授業後に学生の認識の有意な上昇を認めた。

以上の結果から、RIPLS日本語版では学習効果の評価が不十分な可能性が示唆された。今後も対面・オンラインそれぞれの長所を考慮しながら、同じ質問を継続実施して評価尺度の改善を図る必要がある。

Translated Abstract

The COVID-19 pandemic forced Niigata University of Health and Welfare to switch from face-to-face seminars to online seminars for their interprofessional education (IPE) courses. This paper aims to evaluate the impact of this change in course format on learning effectiveness, and to discuss problems noted with the course evaluation. The Japanese version of the Readiness for Interprofessional Learning (RIPLS), a 19-item questionnaire assessing readiness for interprofessional education, was used to measure the above impact. Comparing the year of face-to-face seminars with the year of online seminars, we found no significant difference in the number of items that showed a significant change in student evaluations between pre- and post-seminar. However, items that showed no significant pre/post difference - whether face-to-face or online - tended to emphasize practical problem-solving skills within students’ own majors and a negative view of students’ own professional independence, positioning them in a co-medical supporting role for physicians. Factor analysis did not reveal any factors such as collaboration across specialties or focus on issues outside of students’ own specialties. Therefore, in the year of the online seminars, we added two new questions to evaluate the effect of cooperative learning on problem-solving beyond students’ own specialties and found a significant increase after the seminars. These findings suggest that the Japanese version of RIPLS may be insufficient for evaluating IPE, and that we need to continue asking the same questions and improve the scale, considering the merits of both face-to-face and online seminars.

I はじめに

多職種専門職連携教育(Interprofessional Education; IPE)とは、「効果的な連携を実現し、健康アウトカムを改善するために、複数の専門職種の人々が互いに学習し合うこと」と定義されている1)。IPEは1980年代から2000年代にイギリスで生じた、医療福祉専門職間の連携不足を原因とする医療事故や虐待事件をきっかけに注目され、現在では世界の多くの医療福祉系大学のカリキュラムに導入されている1)

本邦で本格的にIPEが実施されたのは、文部科学省による平成21年度「大学教育充実のための戦略的大学連携支援プログラム」の一環として実施された「QOL向上を目指す専門職間連携教育用モジュール中心型カリキュラムの共同開発と実践」においてであり、この事業では新潟医療福祉大学をはじめ計5つの大学が参加した2)。学生たちはチームに分かれて教材事例(モジュール)に取り組み、各専門分野から意見や提案を交換し合い、総合的な支援策立案と検証にあたった2), 3)

事業自体は2012年に終了したが、その後も新潟医療福祉大学では学部4年間を通したIPEに取り組んできている。特に4年次にはIPE教育の集大成として、5日間の集中講義「連携総合ゼミ」を毎年実施しており、保健・医療・福祉・スポーツ・医療ITなど計14学科の学生および海外を含む他大学の学生が参加している。各学生は、これまでに自身の専攻内で習得した専門知識や技術を駆使するだけでなく、チームメイトの専門性を互いに理解し協働しながら、対象者のニーズを適切に把握し支援策を探っていく姿勢が求められる。「連携総合ゼミ」で実施することは、いわば病院・施設内のチームアプローチを疑似的に経験する機会となっている。

参加者には毎年、履修前と後の2回、参加者アンケートが実施されている。その目的は、1)協働学習に対する履修前・後の学生認識を比較し、連携総合ゼミの学習効果を確認すること、2)連携教育に関する評価ツールの妥当性ついて検討することである。アンケートは、多職種連携教育の準備状況を評価する19項目の質問紙Readiness for interprofessional learning(RIPLS)であり4)、日本語版でも一定の信頼性が確認されているものである5)

これまでの連携総合ゼミは一貫して対面で実施されてきたが、COVID-19の蔓延により2020年度から授業の開講形式がオンラインになった。そこで今回、対面開催の時(2019年度)に実施したアンケート結果と、オンライン開催による実施方法が定まった時(2021年度)に実施したアンケート結果を比較することで、開講形式の変更による学習効果への影響を検証するとともに、効果検証の課題について考察した。

II 方法

2019年度の連携総合ゼミ参加者106人および2021年度の参加者106人を対象とした。学部教育としての効果を測定するため、本学以外の学生および大学院生は対象から除外した。2019年度はゼミの初日と最終日に同一内容のアンケート用紙を配布し、その場で回収した。2021年度は初日と最終日にそれぞれGoogle Formを用いてアンケートを実施し回答を収集した。アンケート回答とともに学籍番号を収集した(学習効果の事前・事後の比較を行うため)。ただし、アンケートの個票は集計担当者が管理し、ゼミ担当教員は、学籍番号と紐付いた個票データを確認できないようにすることで、回答の無記名性を得るように努めた。また、回答は任意であった。

アンケートの各質問項目の評価はRIPLS日本語版に従い、5段階リッカート尺度「まったくそう思わない(1)」「そう思わない(2)」「どちらとも言えない(3)」「そう思う(4)」「強くそう思う(5)」で行った。分析では各項目の事前・事後の差分に対しWilcoxonの符号付順位検定を実施し、Bonferroni法による補正を行った。さらに最小二乗法による因子分析を行い、因子回転には直接Oblimin法を用いた。

一連の解析にはIBM SPSS Statistics 21を使用した。なお一連の統計解析の有意水準は,0.05に設定した。

本研究は、研究責任者の所属機関である新潟医療福祉大学の倫理審査委員会の承認を得て(承認番号19166-231016)、調査への同意はオプトアウト形式を採用し、研究対象者が拒否する十分な機会を保障することによって倫理性を担保した(オプトアウト期間:2023年11月14日~2023年12月15日)。

III 結果

1 2019年度(対面開催)の分析

有効回答は、96人分(90.6%)であった。

1)事前・事後の比較(表1

表1に各質問項目の評価点の事前・事後の平均値および差分、有意水準を示す。Wilcoxonの符号付順位検定の結果、19項目中17項目で事前・事後間に有意差があった。有意な変化を認めなかった項目は2つあり、「12. 実践的な問題解決能力は、それぞれの専攻の中だけで学べるわけではない」「17. 看護職や他のコ・メディカルの主役割・機能は、医師のサポートをすることである」が該当した。後者の項目は19項目中唯一、事後で学生の認識が低下していた。

2)因子分析(表2

表2に,因子分析の結果を示す.サンプルサイズの妥当性をKaiser-Meyer-Olkinの標本妥当性により検証したところ測度は0.766であり、許容レベルであった。また、Bartlettの球面性検定ではp<0.001であり、因子分析を行う価値があると判断した。カイザーガットマン基準により4つの因子が抽出された。因子の相関性の検証では、因子2と因子3の間の相関は-0.563と中程度の相関を認めたが、因子間のそれ以外の組み合わせでは弱い相関か、ほとんど相関を認めない結果となった。

第1因子は5つの質問、「10. 他専攻の学生と合同学習をすることは、時間の無駄である」「11. ヘルスケアを学ぶ学生には、他専攻との合同学習は必要ない」「18. 他専攻との合同学習では自己の(目指す)専門職の役割が理解できない」「12. 実践的問題解決能力は、自己の専攻の中でこそ学習することができる」「19.自分の専攻では、他の専攻の学生よりもっと多くの知識やスキルを習得しなければならないと思う」が該当した。協同学習に対するネガティブな反応と考えられたため、「不安・懐疑」と命名した。第2因子には7つの質問「1. 他専攻の学生と共に協同学習することは、将来有能なヘルスケアチームのメンバーになるために役に立つだろう」「2. ヘルスケアを学ぶ学生が患者/クライエントの問題解決のために協同して学ぶことは、患者/クライエントに役立つ結果につなげられるだろう」「3. 他専攻の学生との協同学習は、将来の実践で種々の問題を理解する能力を高めるだろう」「4. 卒業前に他専攻の学生と共に学ぶことは、資格取得後の相互関係性を向上させるだろう」「7. 合同学習で小グループでの課題学習をするには、学生はお互いに信頼、尊重することが必要である」「8. チームワークのスキルは、ヘルスケアを学ぶ学生にとって必須である」「5. コミュニケーションスキルは、他専攻の学生と合同で学習することにより向上するだろう」は、他専攻の学生とのコミュニケーションに関する反応と考えられ、「他専攻の学生とのコミュニケーション志向」と命名した。第3因子は、「15. 他専攻の学生との合同学習は、患者/クライエントの問題をより明確にするのに役に立つだろう」「16. 卒業前に他専攻の学生と共に学ぶことは、よりよいチームワーカーになるために役に立つだろう」「14. 私は、他専攻の学生と合同で小グループによる課題学習の機会を積極的に受け入れられる」「13. 他専攻の学生との合同学習は、患者・クライエントや他の専門職との意思疎通のために役に立つだろう」「9. 他専攻との合同学習は、自己の(専門職の持つ)限界を理解するのに役立つだろう」の5項目が該当し、将来の専門職同士としての関わりについての反応と考えられ、「専門職によるチームアプローチ」と命名した。第4因子には2つの質問「6. 他専攻との合同学習は、他の専門職のことについて肯定的に考えるのに役立つだろう」「17. 看護職や他のコ・メディカルの役割・機能は、主に医師のサポートをすることである」が該当し、「医師のもとでの専門性の発揮」と命名した。因子で19項目の全分散を説明する割合は58.38%であった。今回の因子分析では、第3因子のようにIPEが各学生の専門性を発揮できたことを示す因子はあったものの、各自の専門性から外れる問題に焦点を当てたり解決策を見出したりすることを示す因子は抽出されなかった。

2 2021年度(オンライン開催)の分析

1)質問項目の変更

2019年度の因子分析の結果を受け、連携教育の効果をさらに高める方策を検討するために(考察参照)、2021年度は新たな質問項目を付け加えた:「ゼミでの活動状況」(自分の専門性を活かす機会があったかなど)に関する2つの質問「20-1. チームで課題にアプローチすることで、それぞれの専門性から個別にアプローチするだけでは気づけない「問題点」が見つかる場合がある」「20-2. チームで課題にアプローチすることで、それぞれの専門性から個別にアプローチするだけでは出てこない「解決策」が見つかる場合がある」。

また、2019年度は協同学習による「患者・クライエント」と「他の専門職」との意思疎通への効果について一つの質問(13)で尋ねていたが、ダブルバーレルの設問であり不適切と考えられるため、2021年度はそれぞれ独立した質問(13-1, 13-2)を設けた。

一方で、項目「4. 卒業前に他専攻の学生と共に学ぶことは、資格取得後の相互関係性を向上させるだろう」は、新潟医療福祉大学では資格取得を目指さない学科の学生も参加することから、これも不適切な質問と考え除外した。さらに別の項目「14. 私は、他専攻の学生と合同で小グループによる課題学習の機会を積極的に受け入れられる」は、協同学習に対する学生個々人の評価を求める内容となっており一般的な認識を問う他の質問とは異質なことから、これも不適切質問として除外した。同様に「19. 自分の専攻では、他の専攻の学生よりもっと多くの知識やスキルを習得しなければならないと思う」の質問も、学生個々人の評価を求める文言となっていたが、こちらは質問項目からは除外せず「19-1. 他専攻との協同学習によって、自己の(目指す)専門職の役割が深く理解できるようになる」と表現を変更して実施した。以上、計20項目で分析した。

有効回答は、77名分(72.6%)であった。

2)事前・事後の比較

Wilcoxonの符号付順位検定の結果、事前・事後間で有意差を認めた項目は、20項目中17項目であった。2019年度と共通した15項目中では12項目で有意差が見られた。有意差を認めなかった3項目のうち2項目は、2019年度でも有意な変化が見られなかった項目だった:「12. 実践的問題解決能力は、自己の専攻の中でこそ学習することができる」と「17. 看護職や他のコ・メディカルの役割・機能は、主に医師のサポートをすることである」。残る1項目は、2021年度のみ有意差がみられなかった質問だった:「9. 他専攻との合同学習は、自己の(専門職の持つ)限界を理解するのに役立つだろう」。

2021年度に新たに加えた「問題点」と「解決策」の効果についての2項目の質問(20-1, 20-2)は両方とも、Wilcoxonの符号付順位検定にて事後に有意に上昇した。2021年度に2つに分けた「患者・クライエント」と「他の専門職」に関する質問(13-1, 13-2)も、ともに事後で有意な上昇が示された。質問内容を変更して行った自分の専攻での知識やスキルの習得に関する質問も、事後で有意に上昇した。

3)2019年度・2021年度の比較

両年で質問内容が共通している15項目に対し、事前と事後それぞれについて両年の差をMann-Whitneyの検定で比較した。事前の比較では有意差を認めなかった項目は5つあった:「3. 他専攻の学生との協同学習は、将来の実践で種々の問題を理解する能力を高めるだろう」「9. 他専攻との合同学習は、自己の(専門職の持つ)限界を理解するのに役立つだろう」「16. 卒業前に他専攻の学生と共に学ぶことは、よりよいチームワーカーになるために役に立つだろう」「17. 看護職や他のコ・メディカルの役割・機能は、主に医師のサポートをすることである」「18. 他専攻との合同学習では自己の(目指す)専門職の役割が理解できない」。事後の比較で有意差を認めなかった項目は6つあった:「7. 合同学習で小グループでの課題学習をするには、学生はお互いに信頼、尊重することが必要である」「8. チームワークのスキルは、ヘルスケアを学ぶ学生にとって必須である」「15. 他専攻の学生との合同学習は、患者/クライエントの問題をより明確にするのに役に立つだろう」「16. 卒業前に他専攻の学生と共に学ぶことは、よりよいチームワーカーになるために役に立つだろう」「17. 看護職や他のコ・メディカルの役割・機能は、主に医師のサポートをすることである」「18. 他専攻との合同学習では自己の(目指す)専門職の役割が理解できない」。

IV 考察

本研究は、IPEを実施する授業「連携総合ゼミ」の、授業形式の違いによる学習効果への影響を検証したものである。分析の結果、対面授業時では17/19項目で、オンライン授業時では17/20項目で事前・事後の間に有意差が認められた。オンライン開催時に事前・事後間で有意差な変化を認めなかった3項目のうち2項目は、対面開催時でも有意差を認めなかった項目であった。以上の結果から、オンラインであっても対面と同等の学習効果を得られたと言える。

オンラインによるグループ学習では、時間や場所の制約を受けにくいことやオンラインツールによる情報共有のしやすさがメリットとして指摘されており、授業時間以外の学習時間が増加したとの報告もなされている6), 7)。本研究の自由回答でも同様の意見に加え、簡単にオンライン会議を立ち上げられるので会議に参加しやすかったとの意見も見られた。これらの利点は、多くの学生にとって連携教育を取り組みやすくさせ、高い学習効果につながったと推測される。

2021年に新たに設けた質問からは、チームアプローチによる問題点や解決策の発見、専門職の役割の理解に対する学習効果が伺える結果となった。一方で事前・事後間に有意差を認めなかった項目からは、自己の専攻内での実践的問題解決能力の学習を重視する傾向や、コ・メディカルを医師のサポート役と位置づけ専門職の独立性に否定的な傾向が認められた。

協同学習の効果を高めるにはどのような方策があるだろうか。一例としてオンライン開催時に著者が担当したグループの取り組みを紹介する。我々のグループに割り当てられた教材事例の内容は、骨折で入院した脳性麻痺患者の自宅復帰に関するものであった。この事例では他のグループと異なり、事例の対象者本人とweb会議で直接会話をすることが可能であり、学生は対象者との対話を通して情報取集をした。場所や時間の制約が少ないため対象者と頻回にコンタクトでき、必要に応じて追加の情報収集をしたり、収集した情報から問題点や支援策の内容を迅速に修正したりすることも可能だった。対象者の成育歴を直接聞いたり、在宅介護を受ける様子を見学したりすることもできた。学生たちは徐々に自分の専門性へのこだわりを捨て、ケアマネジャーの立場に近い、総合的・多角的な視点を持つことができるようになっていった。最終的には他職種の提案した支援策にも積極的に意見ができるようになった。さらに対象者との長時間におよぶ対話を通して、対象者が自宅復帰を望むのは、脳卒中で入院した母親と二人そろって退院し、母親とともに主体的な意思決定ができる生活を望んでいるためであること、対象者は行政書士の資格を持っているが重度訪問介護制度を利用しているため就労ができないことを知った。学生たちは、自宅復帰を可能にする支援策を考えるだけでは対象者の理解は表面的なものに留まり、対象者本人のニーズやその背景にある生活状況や社会制度まで理解することが真の支援につながることを学ぶことができた。

教材となる事例を、文字情報のように一方通行の情報として提示されると、どうしても現実感を持って取り組みにくくなり、各々の専門性の枠内での関わりとなりやすい。しかし我々のグループのようにオンラインで対象者と双方向にやりとりをすると、医師の指示やそれぞれの専門性の枠内だけで判断していては見えてこない、対象者の生活実態や価値観が明らかになるため、対象者の人物像が明確に浮かびあがってくる。学生側もチーム医療の中の一職種としてではなく一個人として対象者に対峙しながら支援策を模索するようになる。結果、専門性の枠を超えた柔軟な検討や多職種間での活発な意見交換が実現しやすくなる。資料による事例検討を深めるよりも実際に対象者と対面することが、事例の持つリアリティを体感するのに有効との報告があり8)、我々のグループのようにオンライン上で対象者と会話するのはその代替となりうるだろう。心身の状況やプライバシーの観点から対象者と直接やりとりするのが難しい場合は、対象者の関係者とオンラインで会話するのも一案だろう。

コ・メディカル職を、医師のサポート役や医師の支配下として位置づける傾向は、学生に限らず現場の医療職にとっても根強く残る意識である。医療チームが患者のニーズに対応するには、チーム医療のどの職種でもリーダーシップを発揮すべきであるが9)、医師以外の職種ではリーダーシップの意識が低いことが指摘されている10)。最近では、一部の対象者において看護師や理学療法士がリーダーシップを示す例が報告されているため11), 12)、今後事例教材などでそのような例を取り上げて学生の意識変容を図っていく必要があるだろう。

IPEカリキュラムの世界的な広がりは、そもそも職種間の連携不足が発端となっており、IPEでは各々の専門性を発揮するだけでなく、各自の専門性を超えて互いに協力することが求められている。しかし対面開催時の因子分析では、第3因子のようにIPEによって各学生の専門性が発揮できたことを示す因子はあったものの、各自の専門性から外れる問題に焦点を当てたり解決策を見出したりすることを示す因子は抽出されなかった。先行研究の因子分析5)でも、「チームワークとコラボレーション」「IPEの機会」「職業の独自性」の3つの因子に分類されており、専門性を超えた協働学習に関する因子は抽出されていない。また、「職業の独自性」の内的一貫性が他の2つの因子に比べ低いことが指摘されている5), 13)。以上からRIPLSは、各職業の独自性や専門性を超えた連携を評価するには,不十分な尺度となっている可能性がある。

我々が2021年度に新たに設けた、連携教育の効果をさらに高める方策を検討する新たな2つの質問では、いずれの質問でも事後で学生の認識が有意に上昇したことから、専門性を超えた学習への効果を評価するという目的は達成できたと言える。しかし我々の分析は単年度の結果を用いているため、今後も同じ質問を継続して実施し、評価結果を検証して質問項目の改善を重ねていく必要があるだろう。

最後に本研究の限界について述べる。本研究で分析したアンケート結果は、あくまでゼミ直後の学生による主観的な評価にすぎない点が挙げられる。また、参加者数が極端に少ない学科があり、学科ごとの傾向を分析することができなかった。今後は教員側が発表スライドの内容を対象に学習効果の評価を行うことや、参加者数を増やして学科間の差を検証することが必要だろう。近年は信頼性・妥当性を検証した他のIPE評価尺度も複数提案されているため14)-16)、既存の評価尺度と並行実施し、評価尺度間の相関を検証することも重要であろう。

COVID-19の流行は衰退の兆しを見せ、授業形式は徐々に対面に戻りつつある。しかしオンラインのゼミには上述したような多数の利点があるため、今後全面的に対面開催となっても、部分的にオンラインの形式を取り入れていくことが望ましいだろう。今後医療現場でも益々活動頻度が上がるICTツールの活用を実践する機会としてゼミを位置付けることも可能だろう。そしてRIPLSをはじめとする評価尺度でIPEの学習効果を評価し、授業の質を維持していくことが不可欠と考えられる。

V 結論

授業形式の違いがIPE教育の学習効果へ及ぼす影響について検証した。効果検証にはRIPLS日本語版の19項目の質問紙を用いた。

質問紙の結果を分析した結果、対面授業時とオンライン授業時で明確な差は認めなかった。一方で授業前・授業後の間に有意差を認めなかった質問項目からは、自己の専攻内での実践的問題解決能力の学習を重視する傾向や、コ・メディカルを医師のサポート役と位置づけ専門職の独立性に否定的な傾向が認められた。

因子分析の結果では、専門性を超えて協力し、各自の専門性から外れる問題に焦点を当てるといった因子は抽出されなかった。専門外の問題点や解決策発見に対する協同学習の効果を評価する新たな質問では、授業後に学生の認識の有意な上昇を認めた。

以上の結果から、RIPLS日本語版では評価が不十分な可能性が示唆された。今後も対面・オンラインそれぞれの長所を考慮しながら、同じ質問を継続実施して評価尺度の改善を図る必要がある。

謝辞

我々のグループの事例対象者としてご協力いただいた齋藤直希様に感謝申し上げます。

利益相反

本論文に関して、開示すべき利益相反関連事項はない。

References
 
© 2024 Niigata Society of Health and Welfare

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