工業化学雑誌
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γ-酸化第二鉄粉末の物理化学的特性
渡辺 昭太郎
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1969 年 72 巻 7 号 p. 1461-1468

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抄録

水酸化第一鉄コロイド溶液を空気酸化して得られるレピドクロサイト (γ-FeOOH) を, 加熱脱水して生成したγ-酸化第二鉄 (A) は, 磁性塗料中で良好な分散性を示す。この原因を明らかにするために, 一般に磁気録音テープに使用されている型のγ-酸化第二鉄 (B) と対比しながら, 粉末試料の物理化学的特性を検討した。
試料の物理化学的特性は, 電子顕微鏡, 化学分析および分光分析, 密度, X線回折, 磁気特性, 比表面積, 壇酸中での溶解速度, ニトロセルロースの吸着, 磁性塗料中における沈降特性および磁性塗布層の表面状態の点から検討し, つぎの結果を得た。
1) AはBに比し単一粒子の焼結の度合が少ない形骸粒子で, かつ密度が小さくX線回折図はブロードで (311) の回折図から求めた結晶子の大きさは約10mμ である。この半価幅は加熱脱水温度の上昇とともにやや小さくなるが, Bのようなシャープネスが得られない中にα-酸化第二鉄に転移する。結晶性と関係ある磁気特性は, σ1000, σr, σHc とも小さいが角型比 σr1000は大きい。
2) 比表面積は空気透過法と BET 法とで差があり, とくにAで差が大きいのは, 形骸粒子中の単一粒子の存在によるものと考えられる。試料表面層の塩酸溶液中での溶解速度の温度依存性から求めた溶解の活性化エネルギーは, Aの場合 18.7kcal/mol, Bの場合 21.0kcal/mol で, Aの方が幾分表面の化学的親和性が大きいことを示唆している。AおよびBの単位表面積あたりの溶解速度定数の比は, 20℃ の場合 3.7 であり, 同じく単位表面積あたりの二トロセルロースの吸着量の比は 6.8 となり, 両者の表面の化学的親和性に著しい差があることが推測される。
3) Aは磁性塗料中で分轍性が良好であり, かつその磁性塗布層の表面状態は塗布方式および磁性塗料の粘度によらず良好である。
4) Aの良好な分散性の原因は, その粒子形態および表面の化学的親和性によるものと推測される。

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