日本化學會誌
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動物の生長とトリプトファーン及びリジン
近藤 金助
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1933 年 54 巻 12 号 p. 1198-1206

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抄録

(1) ツエーンが食物蛋白として不適當であることを追證し之にトリプトファーン,リジン,ヒスチヂン及びシスチン等を添加した時の効果を實驗した.
(2) ツエーンにトリプトファーンを添加したものを蛋白源とした場合はツエーンだけの場合に比べて稍々まさるのみであつて體重を辛うじて維持し得るに過ぎなかつた.
(3) ツエーンにリジンだけを添加したのではリジンの効果は全く發現しないがツエーンにリジンとトリプトファーンを共々に添加すれば兩アミノ酸の効果が發現して動物の生長は促進した.
(4) トリプトファーンとリジンは動物の生長に對して必須にして効果的であるが此の二者は共存した時にはじめて効果を發現するのであつて從來の研究者に於てトリプトファーンが生長促進作用を有するが如くに報告されて居るのは其の時に用ひた蛋白又はアミノ酸混合物中に存在して居つたリジン(其の他の有効アミノ酸も同じ)との共同作用をトリプトファーン單獨の作用の如くに見誤つた結果である.
(5) ツエーンにトリブトファーンを加へたものに更にシスチン或はヒスチヂンを添加したが添加アミノ酸の効果を認め得なかつた.それは更に一つの必須アミノ酸である所のリジンを缺いて居つたが故に添加された必須アミノ酸の効果が發現出來なかつた爲めである.
(6) 以上と同様に動物の生育に對して必須にして効果的のものは其の役目を果す爲めには他の必須的の養素が少なくとも完全に近いだけ共存して居ることを必要とするのである.之は榮養に關する一つの通則である.
(7) 食物の養素が不完全の爲めに相當長期間發育が停止して居つた動物も食物の缺陥が補充せらるれば再び發育を開始するのである.
(8) アミノ酸混合物の榮養價を試驗するに當つては自然蛋白は一般に相當量の鐵,銅其の他の金屬を含むことを考慮して此等の金屬又はそれとアミノ酸との化合物等を配合すれば既知アミノ酸の混合物を以て完全食物蛋白の代用の役目を果さしめ得るであらうことを暗示した.
以上の實驗をなすに當り林,伊藤,森,浦島の諸氏の助力を得た.記して其の勞を謝する次第である.

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