抄録
塩化カルシウム-炭酸ナトリウム系の反応で最初に生じる炭酸カルシウムの結晶形を明らかにする目的で,生成物のX線定量を行なった。試料は二原液をできるだけすみやかに,また十分均一に反応させ,生成物をできるだけ迅速に反応液から分離,迅速かつ十分に洗浄後低温で減圧乾燥し,水分の影響をできるだけ防いで貯えた。この試料についてX線定量のほか,電子顕微鏡写真,顕微鏡下の反応の経過の観察結果を加味して考察した。まず,30℃で濃厚二原液を,炭酸ナトリウム過剰のもとに反応させてほぼ純粋と考えられるバテライトの生成に初めて成功し,アラレ石,方解石の純粋試料とともに標準品とした。濃厚原液の反応から最初に生じるものは30℃,60℃ではバテライトであるが,60℃,80℃ではアラレ石がやや安定に存在するようになり,長時間の反応ではバテライトやアラレ石は方解石に転移すること,溶液が希薄になるにつれ転移がはやくなり,30℃では部分的に最初から方解石が生じたり,60℃以上では部分的にアラレ石が生じたりするようになること,無定形の炭酸カルシウムは,かきまぜ操作のためなどで最初から生じているが,その量は少なく,転移の過程で存在量が多いことなどを結論した。