日本化學雜誌
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オボアルブミンの限定分解 プロティナーゼ類によるオボアルブミンの限定的な加水分解反応
佐竹 一夫
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1966 年 87 巻 1 号 p. 1-16,A1

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抄録

枯草菌が菌体外に分泌するプロティナーゼsubtillsinを卵白のタンパク質オボアルブミン(I)に作用させると,Ala-Gly-Val-Asp-Ala-Ala部分だけが優先的に加水分解を受け離脱する。そして残り98%以上のタンパク部分は溶解性,結晶系,安定性など諸性質がまったく異なるプラクアルプミン(II)に移行する。subtilisinにはこれ以外にもトリプシノーゲンやキモトリプシノーゲンなどを活性酵素に変換したり,膵臓のリボヌクレアーゼ分子中のAla20-Ser21結合1個だけを切断する能力もあり,選択かつ限定的な加水分解を触媒する作用のすぐれたプロティナーゼとされてきた。
しかしIIの形成能力をsubtilisinの特性とすることはできない。他の種々のプロティナーゼ類,たとえば植物起源のパパインやプロメラィンあるいは放線菌のPronaseによっても同一条件下で(pH6.3,20℃)IからIIの生成することが見いだされたからである。3種のsubtilisin(長瀬産業のNagarse 2種,Novo Pharmaceutical Co.のもの)を始めこれら諸プロティナーゼによるIの限定的な加水分解反応の様式は使用した酵素の種類には関係なく,その濃度によっていちじるしく影響されることも明らかにならた。すなわち
i)2μg/ml程度のきわめて低濃度の酵素の作用では,1分子中の(GluAlaGlyValAspAla)Ala-Ser結合1箇所が切断されるだけで反応が完全に停止。Ala-Ser切断オボアルプミン(II)の柱状結晶を生成した。
ii)酵素濃度が10μg/mlくらいになると,IIの(GluAlaGlyVal)Asp-AlaAlaOH結合も切断されて脱Ala-Alaオボアルブミン(IV)の菱状結晶となり,ここで反応が停止した。
iii)50μg/ml前後の酵素を使用して始めてIVのGlu-AlaGlyValAspOHも切断され,IIの板状結晶が形成した。ただしNagarseのB型だけはテトラペプチドAla-Gly-Val-Aspではなくて,その一つ手前にあるグルタミン酸をも含めたペンタペプチドを脱離した。
iv)酵素濃度が150μg/ml以上になると,II自身も安定に存在することができず,さらにウンデカペプチドAsp2Thr1Ser1Glu1Gly1Ala1Val1CySH1Leu1Lys1を放出し,別のタンパク質(V)へ移行した。Nagarse Bではこの分解反応型式も異なっていた。
とくに興味のあることは,iiとiiiの中間酵素濃度を用いて反応を行なうとまずAla-Alaの脱離によるIVの形成反応だけが先行し,これが完結しIないし数時間にわたる休止期を経てから始めて第二のテトラペプチドの脱離によるII形成反応が認められた点である。iiiとivの申間酵素濃度のときにもIIの形成が完了後,ある休止期を経て始めてその分解が急に起った。そしてこれら休止期間の長さはほぼ酵素の濃度に逆比例した。
これら限定的な加水分解反応はオボアルブミン分子のC-末端プロリン基から数えて75~85番目付近のアミノ酸基を中心とした部分だけで起り,この付近は化学試薬によっても一番攻撃を受けやすい部分にも相当することが明らかにされた。なぜ上記のような奇妙な休止期を含む逐次的な加水分解反応が起るかという理由は不明であるが,ペプチド結合一つ一つの切断につれて基質タンパク質に順次なんらかのtrans conformationが起っている可能性を示す一つの実例であろうと思われた。

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