1980 年 1980 巻 4 号 p. 625-638
さきに行なった針葉樹エゾマツの蒸解と同じ条件で広葉樹ダケカバのSO2-MgSO4二成分法およびMgベースサルファイト法蒸解を行ない,脱リグニン,スルホン化,脱炭水化物という三つの蒸解反応を速度論的に解析して,両蒸解法の差異や蒸解反応同志の相互関係について検討した。
各蒸解反応はすべて反応物の一次反応として解析された。二成分法における反応は,いずれも速度の点から速い反応と遅い反応とにわけられた。分離された脱リグニン両反応は,反応期間が対応するそれぞれのスルホン化とほぼ等遠度で進行するが,それぞれの脱炭水化物部分の反応とも期間だけでなく速度の点でもよく一致していた。一方,Mgベース法の脱リグニン,スルホン化では初期より後期の速度が速かった。この結果はエゾマツ蒸解におけるリグニンの反応パターンと類似しているので,全体の過程を初期と後期にわけて別々に取り扱った。後期の脱リグニンはスルホン化速産に支配されるが,初期には二成分法と同様に,脱炭水化物反応との拘わり合いは深いと考えられる。両法の脱リグニン速度を比較すると,初期には二成分法の方が速いが後期では逆にMgベース法の方が速かった。こうした速度の差異は,脱炭水化物の速度の差や脱炭水化物との拘わり合いの問題として説明される。脱炭水化物反応が脱リグニン速度を規制する役目をもつことは,この反応が木材細胞壁の細孔構造の発達を促し,それに関連してリグニンの反応性の向上にも貢献していることを暗示する。
カバの蒸解結果とエゾマツのそれとを比較すると,いくつか興味ある差異が見られ,それについても議論した。
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