日本化学会誌(化学と工業化学)
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フロンティア分子軌道法による無触媒重合の開始機構
井本 稔酒井 章吾大内 辰郎
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1984 年 1984 巻 5 号 p. 769-773

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抄録

水溶性高分子は水相で疎水領域(HA)を形成し,そのなかでビニルモノマーをラジカル重合させる。それは"無触媒重合"と呼ばれる。その開始機構は一方のモノマーから他方のこεソマーへH・が移動する反応である。それはスピントラッピング法で立証された。H・移動を分子軌道洗で支持するために,水溶性高分子の模型としてギ酸イオン,酢酸イオン,ジメチルエーテルの三者をとり,それらとビニルモノマーの代表としてのアクリロニトリル(AN)との錯体を想定した。ab initio HF(STO-3Gまたは4-31G基幹関数)法によりANおよび想定3錯体の最適構造を求め,さらにそれぞれのMOの固有値や各AOの係数などを算出した。ANのMOは,ANが上掲の塩基と錯体を形成することによってつねに上昇した, フロンティァMO法によってH・移動の遷移状態における摂動エネルギーを計算した。H・は錯体を形成したANから遊離のANの方に移行することがわかった。摂動エネルギーΔEは,作用エネルギーΔβを-3eVと仮定すると,AN/AN,HCOO:…AN/AN,CH3COO:…AN/AN,(CH3)2O:…ANIANの順に0.003,0.030,0.029,0.029eVであった。このことからAN/AN系ではラジカル開始は起こり得ないが,Lewis塩基性高分子…AN/AN系では起こり得る可能性があるものと結論できる。

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