日本化学会誌(化学と工業化学)
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硫酸ドデシルナトリウムミセルに溶解したゲラニオール-ゲラニルアセテー卜二成分系香料溶液の蒸気成分
赤星 亮一堀家 静子野田 信三
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1985 年 1985 巻 5 号 p. 943-948

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抄録

ゲラニオール-ゲラニルアセテート二成分系溶液を硫酸ドデシルナトリウム(SDS)ミセルに溶解し,これら分散系試料の電気伝導度と浸透圧を灘定して複合ミセル形成の機構をしらべ,試料中のミセル数,ミセルを構成する各成分の分子数を算出した。また,窒素ガスSweep法により捕集した分散系試料の蒸気を定量分析してその蒸気成分,蒸気分圧を求めた。さらに各成分の揮発度およびゲラニルアセテートのゲラニオールに対する比揮発度を算出した。二成分系溶液をSDSミセルに加えるとゲラニオールはミセルのパリセード層と親油基層に,またゲラニルアセテートはミセル親油基層のみに溶解する。ゲラニオールの溶解によって生ずる複合ミセルの数は,ゲラニオール分子がミセルのパリセード層を満たすまで増加する。一方,複合ミセルの数が増加するとその親油基層に溶解するゲラニルアセテートの量も増大するが,ゲラニオールが複合ミセルの親油基層に溶解しはじめるとゲラニルアセテートの溶解度は急激に低下することが判明した。種々の組成のゲラニオール-ゲラニルアセテート二成分系溶液をつくり,これら成分の揮発度をしらべてみると両者はほぼ等しい。しかしながら,この二成分系溶液をSDS分散系に溶解するとゲラニルアセテートのゲラニオールに対する比揮発度はいちじるしく増大し,その香りの強さが高められる。これはパリセード層中ではゲラニオール分子がSDS分子によって束縛され,また親油基層中ではゲラニオール分子が会合してその蒸気分圧が低下するためと考えられる。ミセルに溶解した二成分系の蒸気成分もまた元の調合香料のものと異なり香気の性質が変化する。多成分系調合香料をせっけんや洗剤などのミセルに溶解した場合,分散系からの香りはオリジナルブレンドのものといちじるしく異なる。このためせっけんや洗剤の付香は調香家にとって大変困難なことであった。本研究では,可溶化の機構と蒸気成分の関係をしらべ,オリジナルブレンドの香気と可溶化香料の香気の差異を明らかにした。

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