抄録
光合成器官の反応中心における光電荷分離は,配位結合で構造タンパク質中に固定され一つの機能あたり1~2個ずつ存在する特別なクロロフィル(Chl)類の分子によって駆動される。分子種の同定を含め,その詳細の解明はいまだ緒についたばかりである。系IIの反応中心で重要な役割を演ずる2分子のフェオフィチン(Pheo)aが最近まで直接確認できていなかったことは,従来の分析方法の不備を物語っている。また一般にChl類は,置換基や立体化学のわずかな変化によって,分子間相互作用その他の物性をいちじるしく変える。このため,生体外でChl類をあつかう諸研究においても,すぐれた分離分析手段の確立が緊急の課題であった。
著者らはこのような観点でまずChl類の分析手法を検討し,感度と分解能が高く,操作中の分子変性もないHPLC条件を確立した。これを用いて各種植物試料の色素組成を計測した結果,Pheoaよりも微量のChla誘導体が系I反応中心のごく近傍に存在することを初めて見いだした。また,Chl類の分子変性(エピマー化,フェオフィチン化,アロマー化,塩素置換)を定量的に把握する上でこのHPLCがきわめて有用であることを確認した。さらに,分子変性の有無に十分配慮しつつChlaの中心金属を一連に変えた化合物を合成して,その物性のいくつかを比較検討した。