抄録
発色団部分に負電荷をもつ陰イオン色素, テトラブロモフェノールフタレインエステルカリウム塩(TBPEK) に無機塩を加え, 変化を分光光度法で調べた。
20℃, pH=6.80 において, 13μM のTBPEK水溶液は390nmと590nrnに吸収極大をもち青紫色を呈する。これにCaCl2を 3.5M (mol・dm-3) 程度加えると, 390nmのピークはほとんど減少しないが, 590nmのピークはもとの高さの約1/3にまで減少し, 新たに550nmにピークをもつ幅広い吸収帯が生じ, 赤紫色を呈した。さらにCaCl2濃度を4.7Mにすると, この幅広い吸収帯は, わずかに増加した。以上の変化において溶液は透明であり, 沈殿は認められなかった。スベクトルに等吸収点は見られなかった。他の無機塩でも同様な変色が起き, その効果の順は, NaClO4<LiCl<KCl, NaCl<NH4Cl<MgCl2〓CaCl2であった。
塩濃度を一定としたときのスペクトルの形は, TBPEKの濃度と測定温度に大きく依存したので, TBPE陰イオンの会合体形成が示唆された。アルギニン残基を多量に含む塩基性タンパク質プロタミンを添潴することでも, 非常に似たスペクトル変化が得られた。以上を考え合わせると, TBPE陰イオンの無機塩による変色は, メタクロマジーと結論できる。