抄録
胃潰瘍の發生機轉は未だ十分鮮明せられて居ない. Aschoffに依るmechanische Theorie. G. v. Bergmann に依るspasmonogene Theorie 慢性胃炎を基礎として發生すると云ふKonjetznyのEntzündungstheorie其の他特發性血行障礙説 (Virchow)・infektiöstoxische Theorie 等種々ある事は周知の事實にて今更述べる迄もない.
胃潰瘍の症状は, 胃痛・吐血・胃酸過多 (Trias nach Ewald) であつて, 特に胃痛は殆ど必發の症候である.
尚胃潰瘍は蟲様突起炎・膽嚢炎より二次的に發生すると云ふ二次的發生説もある如く, 胃潰瘍患者には上記の二疾患を合併するものが多い爲に, 之等三者を腹部三主徴 (Trio abdominalis) と呼び類症鑑別に必要なものである.
余は最近激烈なる蟲様突起疝痛を主徴とした興味ある胃潰瘍の1例に遭遇したから竝びに之を報告する.