香川大学看護学雑誌
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妊娠初期の精神的健康および生活行動
妊娠初期の精神的健康および生活行動
澁谷 真央真砂 友理芳我 ちより川田 紀美子
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研究報告書・技術報告書 オープンアクセス HTML

2024 年 28 巻 1 号 p. 1-8

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要旨

目的:

妊娠初期の精神的健康および生活行動について明らかにする.

方法:

A市内で母子健康手帳を交付する8施設において,母子健康手帳を取得した妊娠初期の妊婦を対象にアンケート調査を行った.

日本版GHQ精神健康調査票12項目版(GHQ12)は低値群・高値群の2群に分類し,基本的属性,妊娠前の生活行動,及び妊婦自身が改善する必要があると感じている生活行動(改善項目)の各項目についてχ2検定またはFisherの正確確率検定を行った.また,GHQ12の2群において改善項目数の差がみられるかを検討するため,Man-Whitney U検定を行った.さらに体格をBMIにより分類し改善項目数の比較を行うため,Kruskal-Wallis検定及びBonferroniの多重比較検定を行った.

結果:

64名を分析対象とした.改善項目では体重管理が最も多く,次いで運動習慣,規則正しい生活,1日に2回以上主食・主菜・副菜の3つをそろえて食べるが多かった.

妊娠前の生活行動,改善項目,及び改善項目数とGHQ12との関連はみられなかった.GHQ12の2群間を比較した結果,体格(BMIによる分類),妊娠に対する悩み,マイナートラブルの3項目で有意な差がみられた.また,肥満妊婦は普通妊婦と比較して,改善項目数が多かった.さらに,妊娠に対する悩みの自由記載では児の健康に関する内容が最も多く,その他マイナートラブルや家庭生活と仕事の両立,身体的問題等が要因となっていた.

結論:

改善項目及び改善項目数とGHQ12との関連はみられなかった.GHQ12との関連がみられたのは,体格(BMI),妊娠に対する悩み,マイナートラブルであった.助産師は妊娠初期より体格や妊娠に対する悩み,マイナートラブルが精神的健康と関連することを念頭に置き,個人の悩みの解消に向けて一緒に取り組む姿勢を持つことが重要であると考える.

Summary

Purpose:

To clarify the psychological health and lifestyle behaviors of women in early pregnancy.

Method:

A questionnaire survey was conducted among 64 women in early pregnancy who obtained maternal and child health handbooks at eight facilities in Takamatsu City.

The respondents were divided into two groups based on their scores on the Japanese version of the General Health Questionnaire 12-item version (GHQ12). Differences in beliefs about lifestyle behaviors between the two groups were analyzed using χ2 or Fisher's exact tests. The Mann-Whitney U test was performed to examine the difference in the number of items improved between the two groups. Kruskal-Wallis and Bonferroni's multiple comparison tests were performed to compare the number of items indicating improvement with the participants' Body Mass Index (BMI) profile.

Results:

"Weight control" was the most common improvement item, followed by "exercise habit," "regular life," and "eating staple food along with main and side dishes."

A significant relationship was not identified between pre-pregnancy lifestyle behaviors, improvement items, the number of improvement items, and GHQ12 scores. The two GHQ12 groups were significantly different in terms of BMI profile, pregnancy-related concerns, and having a mild health condition. Additionally, pregnant women with obesity had more improvement items compared to those with normal weight. In the free description section, the child&s health was a frequent concern; the other concerns were related to having a mild health condition, work-family life balance, and physical problems.

Conclusion:

The participants' GHQ12 scores were associated with BMI, pregnancy-related concerns, and having a mild health condition. The findings highlight that midwives must consider the pregnant women's concerns, body size, and mild health conditions, which can affect the their psychological health from the early stages of pregnancy, when resolving their individual concerns.

はじめに

日本人女性をめぐる現状にはやせの増加,20から30歳代女性の運動習慣のある割合が低い,30から50歳代女性の習慣的な喫煙・飲酒割合が高い,妊娠中の喫煙・飲酒率が0%に達していない,若年女性ほど主食・主菜・副菜を組み合わせた食事の摂取が少ない等,様々な課題がある(厚生労働省,2021a).令和3年に策定された「妊娠前からはじめる妊産婦のための食生活指針~妊娠前から,健康なからだづくりを~(厚生労働省,2021b)」では,妊娠前からの食習慣を形成することを目指し,食生活を中心とした適切な生活行動の重要性が示されている.しかしその一方で,これらを実施する妊婦自身の精神・心理状態については触れられていない.また,妊婦が妊娠前の生活行動を改善する必要があると感じることと,精神的健康との関連については明らかになっていない.

妊婦の精神的ストレスは,妊娠期・産後のうつ,虐待への予測因子(渡邉,2014),また近年では早産やSmall for Gestational Age(在胎不当過小),低出生体重に関連する改善可能な要因(高畑ら,2020)として報告されている.また妊婦の生活満足度が高いことがストレスを低下させる要因(添田ら,2017)であることや,ローリスク妊婦の85%が妊娠後の生活変化を自覚しており,妊娠後の生活変化が大きいほど対処力は小さくかつ生活満足度は低い(島田ら,1998)という結果が報告されている.

以上より,本研究では,妊娠初期の精神的健康および生活行動について明らかにすることを目的とした.

方法

1. 研究デザイン

無記名自記式のアンケートによる観察横断研究.

2. 調査期間

アンケート用紙,Webアンケート依頼文の配布期間は2022年7月1日から2022年9月30日まで,回収期間は10月14日までとした.

3. サンプルサイズの設定根拠

日本における2021年の出生数が811,604人であり,許容誤差10%,信頼水準95%,回答比率50%で計算すると,必要サンプルサイズは97と計算されるため,100名を目標とした(KP Suresh, S Chandrashekara,2012).アンケート回答率を30%と想定し,100名以上の有効回答を得るために,300名以上にアンケートを配布した.

4. 研究対象者

満18歳以上の妊娠初期(妊娠13週6日まで)の者で,精神疾患の現病歴・既往歴がある者は除外した.

5. 調査方法

A市内で母子健康手帳を交付する8施設の代表者に研究協力依頼を行った.同意を得た後,各施設の研究協力者が,母子健康手帳交付時に配布する各種資料の袋にアンケート一式(調査依頼文,研究説明書,質問紙,回答用封筒)を入れて対象者に配布した.アンケートはWebまたは郵送での回収とした.

6. 調査内容

1) 基本的属性

年齢・分娩回数(初産婦・経産婦)・妊娠週数(分娩予定日より算出)・非妊時BMI・就労・マイナートラブル・妊娠の悩み・妊娠の計画性の有無.

2) 妊娠前の生活行動と,妊婦自身が改善する必要があると感じている生活行動(以下,改善項目)

妊娠前の生活行動については「Breslowの7つの健康習慣」(Bellock N.B,1973Berkman L.F. et al,1983)及び「妊娠前からはじめる妊産婦のための食生活指針~妊娠前から,健康なからだづくりを~」(厚生労働省,2021b)を参考にした8項目を設定した.

また,妊婦自身が改善する必要があると感じている生活行動の項目数(以下,改善項目数)については,上述した8項目に体重管理を加えた9項目を設定し,複数回答可で回答を求めた.

3) 日本版GHQ精神健康調査票12項目版(GHQ12)

GHQ12は,1ヶ月間の非精神性の軽度な精神障害をスクリーニングする尺度で12の質問で構成される.回答は4択で求め,0,0,1,1点で得点化する.臨界点(カットオフ値)は3/4点とされており,合計12点中,高点数ほど精神的健康に問題があるとされる(中川ら,2013).

7. 分析方法

GHQ12得点は臨界点をもとに低値群(0~3点),高値群(4~12点)に分類し,基本的属性,妊娠前の生活行動及び各改善項目についてχ2検定またはFisherの正確確率検定を行った.また,GHQ12の2群において改善項目数の差がみられるかを検討するため,Man-Whitney U検定を行った.さらにGHQとの関連がみられた体格(BMI)による改善項目数の比較を行うため,Kruskal-Wallis検定及びBonferroniの多重比較検定を行った.分析には統計ソフトSPSS for windows ver.26.0を使用した.

8. 倫理的配慮

本研究は,K大学倫理委員会の承認を得た(承認番号:2022-029).アンケート配布時に同封した説明文書にて説明を行った上で,同意が得られる場合のみアンケートの回答へ進むよう依頼した.参加者には任意参加であること,回答途中で参加を中止しても不利益になることはないことを説明した.

結果

Webでの回答40名,郵送での回答33名,計73名の回答を得た.そのうち,精神疾患の現病歴・既往歴がある者や回答が不十分であった者9名を除外し,64名を分析対象とした.

1. 対象の属性(表1

対象者の平均年齢は32.0歳,初妊婦38名(59.4%)であった.また妊娠前の体格(BMI)は平均21.2であり,「18.5未満(やせ)」8名(12.5%),「25.0以上(肥満)」7名(10.9%)であった.マイナートラブル「あり」は55名(85.9%),妊娠に対する悩み「あり」は37名であった.妊娠前の生活行動8項目と回答の選択肢及び回答数については,表1に示す通りである.

表1

基本的属性N=64

平均 (範囲) n
年齢 32.0 (23-45)
分娩回数 0.56 (0-3)
初妊婦 38 59.4
経妊婦 26 40.6
妊娠週数 4週0日~7週6日 6 9.4
8週0日~11週6日 50 78.1
12週0日~13週6日 8 12.5
非妊時BMI 21.2 (16.8-29.4)
18.5未満(やせ) 8 12.5
18.5~25.0未満(ふつう) 49 76.6
25.0以上(肥満) 7 10.9
就労 あり 51 79.7
なし 13 20.3
マイナートラブル あり 55 85.9
なし 9 14.1
妊娠の悩み なし 27 42.2
あり 37 57.8
妊娠の計画性 あり 55 85.9
なし 9 14.1
妊娠前の生活習慣
生活習慣 規則的 49 76.6
不規則 15 23.4
睡眠時間 8時間以上 4 6.3
7~8時間 37 57.8
7時間未満 23 35.9
喫煙習慣 なし 61 95.3
あり 3 4.7
飲酒習慣 なし 39 60.9
あり 25 39.1
運動習慣(週2回以上,1日30分以上) あり 20 31.3
なし 44 68.8
間食・夜食 ほぼ毎日 14 21.9
週に3~4回 28 43.8
ほぼ食べない 22 34.4
1日に2回以上,主食・主菜・副菜をそろえて食べる ほぼ毎日 33 51.6
週に3~4回 26 40.6
ほぼ食べない 5 7.8
朝食摂取 ほぼ毎日 53 82.8
週に3~4回 2 3.1
ほぼ食べない 9 14.1

2. 妊娠後に改善する必要があると感じる生活行動(改善項目)

最も多かった項目は「体重管理」39名(60.9%),次いで「運動習慣(週2回以上,1回30分以上)」35名(54.7%),「規則正しい生活」34名(53.1%),「1日に2回以上,主食・主菜・副菜の3つをそろえて食べる」32名(50.0%)であった.(図1

3. GHQ12得点,および低値群と高値群とで差がみられた項目

GHQ12得点の平均は4.3,低値群33名(52%),高値群31名(48%)であった.低値群・高値群と妊娠前の生活行動及び改善項目についてχ2検定を行った結果,全項目で有意な差はみられなかった.また2群における妊娠後に改善する必要があると感じる生活行動の項目の数(改善項目数)の比較を行うためMann-Whitney U検定を行ったが,有意な差はみられなかった.

GHQ12の2群に有意な差がみられた項目は,体格(BMI)分類,マイナートラブル,妊娠に対する悩みであった(表2).さらに,体格(BMI)分類別に改善項目数の差についてKruskal-Wallis検定を行った結果,有意な差がみられたため,Bonferroniの多重比較検定を行った.その結果,肥満群はふつう群に比べて改善項目数が有意に多かった(表3).

妊娠に対する悩みの自由記載において,回答数が最も多かったのは児の健康に関するものであり,次いでマイナートラブル,家庭生活と仕事の両立,身体的問題であった(表4).

図1

妊娠後の改善する必要があると感じる生活行動 (N=64)

朝食摂取 主食・主菜・副菜 間食・夜食 運動習慣 飲酒習慣 喫煙習慣 睡眠時間 生活習慣 体重管理 改善する必要あり なし

表2

GHQ12 2群比較N=64

BMI分類 p マイナートラブル p 妊娠に対する悩み p*
やせ ふつう 肥満 あり なし あり なし
GHQ12低値群 n=33 6 (18.2) 21 (63.6) 6 (18.2) 0.032 25 (75.8) 8 (24.2) 0.027 14 (42.4) 19 (57.6) 0.01
GHQ12高値群 n=31 2 (6.5) 28 (90.3) 1 (3.2) 30 (96.8) 1 (3.2) 23 (74.2) 8 (25.8)

n(%)

Fisherの直接法

* Pearsonのカイ2乗

表3

BMI分類による変更項目数の比較

変更項目数
18.5未満(やせ) 2.5 (1.5, 3.5)
18.5-25.0未満(ふつう) 3.0 (2.0, 4.0) *0.027
25.0以上(肥満) 6.0 (4.5, 6.0)

中央値 (25%ile, 75%ile)

Kruskal-Wallis p=0.027

* Bonferroni

表4

妊娠に対する悩みの自由記載(複数回答)

分類 回答数 内容
児の健康 14 無事に産まれるかずっと不安
子の先天性異常など
流産の可能性
マイナートラブル 13 つわりで上の子の世話が十分できない
つわりをどこまで我慢して、仕事に行くべきか悩んだ
便秘がひどい
家庭生活と仕事の両立 5 育児しながらの仕事など
出産後の仕事と子育ての両立
通勤電車で1時間半とキツい
身体的問題 5 妊娠高血圧症(前回そうだったので)
肥満
高齢出産
分娩 3 無事に出産できるか
パートナー不在での出産に対する不安
育児 2 母親との子育てに関するギャップが大きそう
パートナー不在での育児に対する不安
金銭面 2 金銭面の不安
コロナ 2 コロナの影響
わからない 1 未知すぎて不安

考察

1. 対象の属性

本研究対象者は全国平均32.2歳(e-Stat政府統計の総合窓口,2022)に等しい年齢であるといえる.また20歳代から40歳代女性の就業状況は70~80%程度(総務省統計局,2022)であり,本研究結果は類似していた.体格(BMI)は,松竹ら(2016)の非妊時BMI平均20.6±2.5,やせ17.9%,普通76.0%,肥満6.1%の報告と比較すると,やせがやや少なく肥満がやや多かった.

中村ら(2018)は,妊娠初期にマイナートラブルがあったのは73.4%と報告しており,本研究の方が高い割合だった.妊娠初期の妊娠に対する悩みは,植村ら(2011)の報告では6.6%であったが,本研究は57.8%と非常に高かった.ただし,先行研究は2008~2009年とやや古いデータであり,悩みの詳細についても書かれていないため,本研究結果と比較することは難しい.妊娠の計画性は,勝俣ら(2018)による計画「あり」87.7%の報告と同程度の割合であった.妊娠前の生活行動は,飲酒習慣を除いて先行研究(西村ら,2008e-Stat政府統計の総合窓口,2020)と同様または適切な生活行動である割合が高かったが,本研究対象者は計画的に妊娠した割合が8割以上と高いことから,妊娠前の生活行動を意識していた者が多くいたのではないかと推測する.

2. 妊娠後に改善する必要があると感じる生活行動(改善項目)とGHQ12との関連

本研究対象者のGHQ12平均得点4.3は,松崎ら(2006)の報告2.3±2.67と比較して高かった.その要因としては,約8割が就労者であったこと,約6割が妊娠の悩みを抱えていたこと,流行するCOVID-19が影響したことが推測される.鈴木ら(2019)は,妊娠中期・後期・産後の時間経過を辿る毎にGHQ12得点が高くなると報告しており,妊娠初期である対象者のGHQ12得点は,今後上昇する可能性がある.そのため,妊娠初期より精神的健康度の把握やストレス軽減に向けた支援に積極的に取り組んでいく必要がある.妊娠初期は妊婦健康診査が4週間毎であり,妊婦と接する機会は限られているため,助産師自身が妊婦健康診査を貴重な機会と捉え,個人の悩みの解消に向けて一緒に取り組むことが重要である.

改善項目としては,体重管理,運動習慣(週2回以上,1回30分以上),規則正しい生活,1日に2回以上主食・主菜・副菜の3つをそろえて食べるに多く着目していることが明らかとなった.また本研究結果は,改善項目及び改善項目数とGHQ12とには関連があるという予想に反していた.その原因としては,本研究対象者のGHQ12が全体的に高かく偏った集団であったこと,妊娠を計画していた者や適切な生活行動であった者が多かったことが影響したのではないかと推測する.

3. GHQ12の2群間で差がみられた項目

GHQ12高値群・低値群との間に差がある項目について検討した結果,体格(BMI)分類,妊娠に対する悩み,マイナートラブルの3項目で有意な差がみられた.

GHQ12高値群は低値群に比べて肥満群とやせ群が有意に少なく,体格(BMI)の正常域を逸脱すること自体が,精神的健康と関連があるわけではないことが示唆された.また,肥満群は普通群と比較し,改善項目数が多かった.松竹ら(2016)は,自分の至適体重増加量を正確に知っている割合は肥満群に多かったと報告しており,肥満群では妊娠中の健康管理や生活改善に向けた意識が高い可能性が示唆された.助産師としては,妊婦自身の意識の高さを活かしながら,妊娠を機に適切な生活行動をとれるよう,支援していくことも重要であると考える.

妊娠に対する最も多い悩みは児の健康であった.二川ら(2021)の研究でも,妊娠初期には妊娠経過が順調か否かに関して最も強い不安を感じていることが示唆されており,胎動の自覚等が乏しい妊娠初期に応じた悩みであると考えられる.また,初妊婦は未知であることへの不安,経妊婦は同胞の育児や前回の妊娠経過に関する悩み等があり,初・経妊婦それぞれの悩みの特徴も明らかとなった.さらにCOVID-19に関する記載内容もあり,流行する感染症が悩みの要因として付加されている現状が明らかとなった.

GHQ12高値群にマイナートラブル「あり」の回答割合が有意に高く,また,自由記載でもマイナートラブルについての記載があった.湯舟(2012a)による研究でも,妊婦のストレス要因として「つわりによる吐き気」「体調が悪いときの家事や育児」が含まれており,メンタルケアを考える上で妊婦の身体的負荷に着目した援助の必要性(湯舟,2012b)が示唆されている.このことから,つわりや便秘等のマイナートラブルの症状そのものや,それに伴う日常行動の制限等が精神的健康に影響する可能性が示された.

研究の限界と今後の課題

本研究はアンケート回収率が低いことと,研究対象者数は64名と少なく目標数に届いていないこと,限られた地域でのデータ収集であることから,結果の一般化においては限界があると考える.

本研究は横断研究であり,改善項目及び改善項目数がGHQ12に影響しているのか,GHQ12の変動が改善項目及び改善項目数に影響しているのか,その因果関係はわからない.また,GHQ12と就労との関連はみていない.加えて,妊娠初期とは言え,すでに受けた保健指導が反映されている可能性や,個人の性格等も影響する可能性がある.今後は,研究対象者数及び対象地域を増やし,縦断研究にて調査する等,妊婦の生活行動に対する考えと精神的健康との関連についてさらに詳しく調査し,検討していくことが課題である.

今回,妊娠に対する悩みにてCOVID-19に関する記載があり,このことが妊娠に対する悩みの増加やGHQ12得点の上昇に影響した可能性が考えられた.また,マイナートラブルの詳細な状況は確認しておらず,マイナートラブルの各症状とGHQ12との関連については明らかにできていない.以上のことから,妊娠に対する悩みの内容やマイナートラブルの各症状との関連や,量的研究では網羅できない部分を質的研究にて検討することも今後の課題である.

現在,母子健康手帳の交付時には保健師より個人面接が実施され,精神的にフォローすべき人についてスクリーニングや対応がなされている.本研究は無記名の調査であるため個人を特定することはできないが,これまで以上に手厚い支援の提供につながるよう,得られた結果は各施設に報告した.

結論

妊娠初期の妊婦自身が改善する必要があると感じている生活行動では体重管理が最も多かった.また妊婦自身が妊娠後に改善する必要があると感じる生活行動の項目,及び改善項目数とGHQ12との関連はみられなかった.

GHQ12との関連がみられたのは体格(BMI),妊娠に対する悩み,マイナートラブルであり,妊娠に対する悩みでは児の健康が最も多かった.助産師は妊娠初期より体格や妊娠に対する悩み,マイナートラブルが精神的健康と関連することを念頭に置き,個人の悩みの解消に向けて一緒に取り組む姿勢を持つことが重要であると考える.

謝辞

本研究にご協力いただきました対象者の皆様,研究実施にご協力いただきました高松市健康福祉局保健所健康づくり推進課母子保健係長難波木綿子氏をはじめ研究実施にご協力いただきました8施設の皆様に心より感謝申し上げる.

利益相反

なお,本論文に関して,開示すべき利益相反関連事項はない.

著者資格

澁谷真央は研究の着想とデザイン,データ収集および分析,真砂友理および芳我ちよりは分析解釈および原稿への示唆,川田紀美子は研究プロセス全体への助言を行い,すべての著者は最終原稿を読み,承諾した.

文献
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© 2024,香川大学医学部看護学科

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