抄録
<緒言>抗菌薬の服用により、下部消化管に存在する腸内細菌叢のバランスが崩れ、下痢や軟便といった消化器症状が出現することはよく知られている。これら症状の改善を目的に多剤耐性乳酸菌製剤(以下本製剤という。)が併用されるが、新規に開発された抗菌薬に対する耐性については添付文書に記載されていないものも多く、また臨床効果を得るためには抗菌薬に対しどの程度の耐性を有していればよいかなどは明らかではない。そこで、本研究では、各種乳酸菌製剤の抗菌薬感受性の測定と、臨床でのアンケート調査により有用性を検討した。
<方法>
1.抗菌感受性の測定
ビオフェルミン、ビオフェルミンR、ラックビー、ラックビーR、レベニンS、の5種の乳酸菌製剤から分離・同定された菌種に対し、19種類の抗菌薬について微量液体希釈法(日本化学療法学会)に基づいて行った。
2.臨床での有用性評価
2004年6月から12月までに当病院小児科において、抗菌薬;セフジニル(セフゾン)、セフテラム(トミロン)、エリスロマイシン(エリスロシン)が単独投与された患児と本製剤(ビオフェルミンR)が併用された患児を対象に、抗菌薬の服用期間中の排便回数および便の性状などを消化器症状の指標として427名の患児の保護者にアンケートを依頼した。
<結果>
1.抗菌感受性の測定
ビオフェルミン、レベニンS、ビオフェルミンRからは好気性菌であるEnterococcus faeciumが、ラックビー、ラックビーRおよびレベニンSからは嫌気性菌であるBifidobacteriumが分離・同定された。各分離菌株に対するMIC値より、本製剤から分離された菌株については、ペニシリン系の2種、セフェム系の3種、ビアペネム、メロペネム、マクロライド系の3種、アルベカシンに対して耐性を有しており、それら抗菌薬投与時の消化器症状の予防に効果を発揮するものと推察された。しかし、プルリフロキサシン、ガチフロキサシン、テリスロマイシン、ミノサイクリン、ホスホマイシン、テイコプラニンおよびバンコマイシン、リネゾリドに対しては耐性を示さなかった。
2.臨床での有用性評価
抗菌薬単独群143名(平均年齢:4.5才)、本製剤併用群84名(平均年齢:5.0才)、合計227名からアンケートの回答が得られたが、本研究では抗菌薬単独群と本製剤併用群で消化器症状に有意な差がなく、併用による改善効果が認められなかった。
<考察>本製剤による消化器症状の改善効果が認められなかったことは、抗菌薬の服用期間が平均4.5日と短かったこと、アンケートといった調査方法上の問題などが結果に影響を与えた可能性が考えられた。また、本製剤は消化器症状が現れやすいといわれるβラクタム系抗菌薬、エリスロマイシンなどには耐性が認められたが、キノロン系およびグリコペプチド系抗菌薬などには耐性が確認されなかった。しかしながらこれらの抗菌薬と乳酸菌製剤の併用は臨床現場ではしばしばみられることから、無意味な併用が行われないよう臨床現場に情報発信していかなければならないと考えられた。