日本農村医学会学術総会抄録集
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第55回日本農村医学会学術総会
セッションID: 2G304
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一般演題
高度耐性菌の院内感染対策
大榮 薫尾崎 隆男舟橋 恵二山田 祥之佐々 治紀伊藤 雄二森下 憲一加藤 幸男
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抄録

<緒言> 当院における耐性菌サーベイランスは、院内感染対策に問題となりうる薬剤耐性菌の感染発生動向を調査し、その対策を打ち立てることを目的としている。薬剤耐性菌の代表であるMRSA (Methicillin-resistant Staphylococcus aureus:メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)以外にも、近年問題となっているESBL(Extended-spectrum β-lactamase)産生菌やMDRP(Multidrug-resistant Pseudomonas aeruginosa:多剤耐性緑膿菌)のサーベイランスを実践した。院内感染を防止させるための対策と実際の対応事例を紹介する。
<方法>
 (1)院内感染対策上問題となりうる耐性菌検出後のフローチャートの作成。
 (2)耐性菌サーベイランスの実践。
 (3)感染症隔離予防策マニュアル(隔離予防策のためのCDCガイドライン準拠)の実践。
 (4)入院における平成17年10月から平成18年4月までの対応事例。
<結果>
(1)院内感染対策上問題となりうる耐性菌の定義を確認、また、発生からその対策までをフローチャートとしてまとめた。ポイントとしては、院内感染対策委員会(Infection Control Committee:ICC)に報告されることによる早期対策の実現にある。ほとんどの症例において、ESBL等の耐性菌検出報告から数時間で感染症状の把握、並びにより強力な抗菌薬療法の開始、または経過観察など治療方針が決定されていた。
(2)耐性菌の検出において、通常はカルテに添付される細菌検査報告書を確認する必要がある。その場合、主治医が院内感染対策上問題となりうる耐性菌と判断するまでに時間を要する場合も少なくない。当院ではESBL、MDRPなどが検出された場合、主治医・ICC事務局・各病棟師長に細菌検査室より第一報が電話連絡される。ICC事務局の初動により、カルテ記載内容を確認し、その情報を基にICCの医師によるフォローアップを始める。主治医との協議、及び連携によって感染症状の有無の判断、また抗菌薬療法が適切であるか等方針決定されるが、治療に於いては、ICC作成の抗菌薬療法ガイドラインは十分に活用されていた。
(3)前記のように主治医や病棟師長ばかりでなく、ICCより、感染症隔離予防策マニュアル(隔離予防策のためのCDCガイドライン準拠)の実践を関係スタッフに啓発した。
(4)ESBLの報告件数は18件、そのうち感染症状が無しと判断されたケースは4件、検体提出日より適切な抗菌薬療法の実践は5件、より強力な抗菌薬療法を必要となったケースは9件であった。またMDRPの報告は4件あり、その全てはmetallo-β-lactamaseを産生しないと判断された。感染症状が無しと判断されたケースは1件、全ての抗生剤の中止による薬剤感受性の改善は2件、残る1件は原疾患および肺炎の悪化により約1月後に死亡したケースであった。
<まとめ> ICCによる耐性菌サーベイランスで高度耐性菌が検出された際、その対策は全て当日の内に確立された。その治療に於いて、ICC作成の抗菌薬療法ガイドラインは十分に活用されていた。また、検出される菌の感受性パターンの相違から、高度耐性菌の院内伝播は発生していないと判断された。院内感染防止のため、さらなる対策を講じていく所存である。

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© 2006 一般社団法人 日本農村医学会
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