日本農村医学会学術総会抄録集
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第55回日本農村医学会学術総会
セッションID: 2G309
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介護老人保健施設でのインフルエンザ感染発症に対するオセルタミビル予防投与の実際
高野 三男戸井田 真弓内山 明子田中 千恵子馬場 浩介西村 博行
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抄録

<緒言>
 インフルエンザ感染症は、高齢者が感染した場合急性呼吸器感染症を発生し肺炎などで重篤化することがあるきわめて予後が悪い疾患である。2005年7月にインフルエンザ感染する恐れのある高齢者や、ハイリスク疾患患者(慢性呼吸器・心疾患患者、腎機能障害患者、糖尿病患者等)、に対しオセルタミビル(以下本剤)の予防投与が認可された。高齢者は基礎代謝や免疫機能が低下しており感染の機会が高い。このため老人保健施設ではインフルエンザ感染には十分に気を付ける必要がある。今回、当院併設の介護老人保健施設(入居者100名)で13名のインフルエンザ感染患者(A型インフルエンザウイルス感染症)が認められ広範囲の伝播が予想されたため、本剤による予防投与を行なった。高齢者に対する本剤の予防投与の効果につき考察を行なった。
<対象患者・経過>
 当院併設の介護老人保健施設は、1階は39床、2階は東西にフロアーが分かれ東棟認知症フロアー(以下東棟)には30床、西棟フロアー(以下西棟)には31床があり合計で100名の収容が可能な施設を備えている。初発患者は1階の患者であった。2月2日、認知症のため一旦は東棟へ転棟したが同日39℃の高熱を発症したため当院内科を受診し、A型インフルエンザ感染症と診断された。このため同患者を隔離し同時に本剤にて治療を行なった。患者が一旦転棟した東棟では3日後の2月5日、新たに2名の患者が同感染症と診断されたため本剤にて治療を行なった。2月6日、さらに東棟で10名の患者に発熱があり同感染症と診断されたため本剤にて治療を行なった。2月7日、このインフルエンザ感染が広範囲に伝播する恐れがあると判断されたため、予防を目的として本人もしくは家族の了解を得て東棟入居者全員に本剤1日1回1カプセル75mgを3日間投与し同時に西棟入居者全員に本剤を同用量で1日の投与を行なった。
<結果・考察>
 本剤投与を始めた2月7日以降、東棟と西棟から新たな患者の発生は見られなかった。新たな感染の発症が見られないことで今回の予防投与がインフルエンザ感染の広がりと感染の防止に功を奏したと推定された。インフルエンザ非感染者に対しては適切な予防投与が感染の拡大を防止することになるため投与時期を逸しないことが重要なポイントとなる。拡大防止の要因としては、1)発症患者の把握と早めの治療 2)本剤の適切な予防投与 3)共同入居者の移動の制限と隔離 4)新たな入居者の受け入れ中止 5)職員による施設内感染防止に向けての努力等が考えられる。今回の予防投与はインフルエンザを発症している患者の共同生活者である高齢者(65歳以上)に行なったが特記すべき副作用は見られず比較的安全性が高いと思われた。また腎機能がCcr>30ml/minの高齢者では本剤の用量調整の必要は無いと言われるが、本剤の半減期が約7-9時間と比較的長く、腎排泄であることを考慮し高齢者の投与後の容態に注意を怠ってはならない。今回の予防投与に関して感染の広がりを考慮に入れ適切な投与時期を見過ごさず、投与対象者への投与量、間隔等に十分注意を払い経過を観察して行くことが重要であると思われた。

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© 2006 一般社団法人 日本農村医学会
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