理論と方法
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論文
集団内差別の発生過程
都筑 一治
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1986 年 1 巻 1 号 p. 131-145

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抄録

 人間集団では、すべての個々人が他者に同じように接するわけではない。ある者は、他者に差別的な行為をとり、ある者は非差別的行為をとるかも知れない。こうした集団内での差別的行為は、時として、特定の個人あるいは少数者に集中することがあることは良く知られている。いわゆる、「いじめ」とか「スケープゴート」はこうした状態につけられた名称である。本論は、集団内においてこの差別的行為の集中が生じるメカニズムを探ることを目的としている。
 この目的のために、ここでは人々が差別的行為をとるか否かが、集団内の他者の差別的・非差別的行為のありかたに依存することを仮定したモデルを用いる。これは、ハンター(1978)の、集団内の他者への情緒的指向のネットワークの変化モデルを簡略化したものである。モデルの定式化ののち、さらにここでは、シミュレーションによって次の2つのタイプの集団の比較を行い、どのような特性を持つ集団で差別的行為の集中が生ずるかに検討を加えた。第1の集団は、集団内の第3者(K)への行為の違いが当該2者(I)(J)の間に差異をもたらす集団、もうひとつは、第3者(K)からの行為の違いが当該2者(I)(J)の間に差異をもたらす集団である。
 シミュレーションの結果は、両集団いずれにも差別的行為の集中がみられることを示している。ただし、被差別集中者が誰になるかは両集団で異なっている。上に述べた第1の集団では、はじめにひとりに対して差別的行為をとっていた者に差別的行為が集中するが、彼が集団内他者への差別的行為を止めれば、差別の集中状態は解消するのに対して、第2の集団では、はじめにひとりから差別されていた者に差別的行為が集中し、さらに、彼の行為の変更によっては差別の集中状態は解消しないという違いが見られ、固定的な差別的行為の集中が、他者からの行為の違いによって対人行為を決定する個々人からなる集団で生ずるのではないかという示唆が得られた。

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© 1986 数理社会学会
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