理論と方法
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特集 社会学におけるパネルデータ分析の展開
一般成人男性における心理社会的職場特性と精神健康との関係におけるsense of coherenceの媒介効果
JLPS調査データによる3時点cross-lagged modelを用いた検討
戸ケ里 泰典
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2012 年 27 巻 1 号 p. 41-62

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抄録

 心理社会的な職場特性が労働者の心身の健康に及ぼす影響に関する研究は職業性ストレス研究領域において多く行われている.しかしながら個人のストレス対処力が職場環境により左右され,それを介して健康状態に至るメカニズムについては十分な検討は行われていない.そこで,心理社会的職場特性とストレス対処力sense of coherence(SOC),ならびに精神健康との因果関係について縦断データを用いて検討することを目的とした.調査データは東京大学社会科学研究所が実施するJapanese Life course Panel Survey (JLPS)の第1波から第5波の調査時点においていずれも働いていると回答した男性1006名を分析対象とした.分析にあたってはベースライン(2007年,Time1),第3波(2009年,Time2),第5波(2011年,Time3)の3時点のデータを利用し,年齢,学歴,経済的状況,配偶者の有無,過去にケガや病気のため長期療養をした経験の有無,2007年以降に転職をしたかどうかの各々の要因を傾向スコアを用いて調整した構造方程式モデリングによるcross-lagged modelを用いて分析を行った.分析の結果,心理社会的職場特性はストレス対処力SOCを媒介し精神健康度に影響する間接効果のみを有するモデルが採択され(χ2/df=3.866,CFI=0.903,RMSEA=0.055),三者の因果連関が明らかになった.このことは成人労働者における精神健康を考える上で,ストレス対処力SOCの重要性がより明確に位置づけられたといえる.また,SOC自体が心理社会的職場環境により左右されるというAntonovskyの仮説を支持する結果が得られた.

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© 2012 数理社会学会
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