日本温泉気候物理医学会雑誌
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特別報告
妊婦の温泉浴の安全性の検討
岩永 成晃宮田 昌明早坂 信哉
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2020 年 83 巻 3 号 p. 140-150

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抄録

  平成26年の温泉法の改正によって,温泉入浴の禁忌から妊婦が削除されたが,一般への認知は十分ではない.本邦においては,妊婦の温泉浴の安全性について検証した報告は少なく,日本温泉気候物理医学会として妊婦の温泉浴の安全性について共同研究を行い,その結果を学会から発信するとともに,一般への啓発が必要であると考え,本学会において検討を行った.

  妊娠初期から分娩までの期間,温泉地(別府市,指宿市)に居住する妊産婦へ自記式調査票にて以下の調査を行った.1)年齢(妊娠終了時),2)過去の出産回数,3)温泉入浴の状況:妊娠時期(初期・中期・後期)別に日常的な温泉入浴の有無と利用の頻度,内湯温泉や自宅外の温泉施設の利用の有無,4)妊娠中のトラブルの有無:流産(妊娠12週未満の早期流産は除外),早産,切迫早産,妊娠中毒症・妊娠高血圧症(浮腫,高血圧)等について調査した.

  回収数は1,721例(回収率86%)であり,平均年齢は30.8歳(17~49歳),初妊婦643例(37.6%),経妊婦1,078例(62.4%)であった.年齢と出産回数は,産科的トラブルとは関連なかった.妊娠の初期と中期において,産科的トラブルは,週1回以上の日常的な温泉入浴者と週1回未満の温泉入浴者の間に有意な差を認めなかった.妊娠後期においては,週1回以上の日常的な温泉入浴者は週1回未満の温泉入浴者に比べ,むしろ産科的トラブルが有意に少なかった(20.3% vs 25.9%,p=0.028).また,里帰り妊婦に絞ってみても,妊娠の初期と中期においては,産科的トラブルの頻度は温泉入浴群と非温泉入浴群の間に有意差を認めなかった.一方,妊娠後期においては,温泉入浴群は非温泉入浴群と比較し,産科的トラブルが有意に少なかった(温泉入浴群13.0% vs 非温泉入浴群24.5%,p=0.028).

  日常的に温泉浴をする妊婦において,そうでない妊婦とくらべて,産科的トラブルが増加することはないことが確認できた.温泉の禁忌症から“妊婦”の項目が削除されたことは適正なことであったといえる.

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© 2020 日本温泉気候物理医学会
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