論文ID: 2356
国内外を脅かしたCOVID-19のパンデミックを機に,医師だけでなく,看護師,理学療法士,作業療法士等のコメディカルをはじめとする医療従事者に対して,非常に多くの社会的注目が集まることとなった.日本温泉気候物理医学会学術委員会では,このパンデミックにおかれた医療従事者の実態を,本学会の視点から,後世に記録する必要があると考えた.具体的には,医療従事者のCOVID-19に関連する患者対応やその業務内容が,温泉利用をはじめとする行動制限や主観的健康感,主観的負担感にどのような変化を与えたかの経時的な実態の把握を試みるものである.温泉療法医会の支援により,全国の医療機関や介護施設で勤務する医療職,介護職等を対象に研究協力を呼びかけた結果,N=754のデータを得ることができた.このデータを使って,統計解析を行った結果,業務上のCOVID-19患者の対応がある医療従事者らが,非対応の一般群に比べて,温泉旅行などの行動制限を強く受けていただけでなく,「気分」の低下,「身体的負担感」の増大を感じていたことが明らかになった.また,医師,看護師をはじめとする医療職と,介護福祉士をはじめとする介護職や,事務作業を行う一般職と群間比較を行ったところ,医療職が最も温泉旅行などの行動制限を受けており,他の職種に比べて「不安感」,「緊張感」,「ストレス感」,「身体的負担感」,「精神的負担感」を強く感じていたことがわかった.さらに,病院や診療所などの医療機関と,特別養護老人ホームなどの介護施設,一般施設といった勤務施設別に比較したところ,医療施設で勤務する者の方が,「緊張感」や「ストレス感」,「身体的負担感」,「精神的負担感」を強く感じていたことが示された.以上のことから,COVID-19影響下で,全ての人に全体的に様々な負担や影響がある中,特に医療機関で勤務するCOVID-19患者に対応してきた医療職が,精神的な閉塞感から,健康感の低下,心身の負担感の増加を感じている実状が明確に示された.